心臓手術後の看護

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』より転載。
今回は心臓手術後の看護について解説します。

 

柳生阿希
新東京病院看護部

心臓手術の合併症

心臓手術は既往歴やもともとの心機能だけでなく、術式、麻酔方法、人工心肺使用の有無などの多くの要因が複雑に絡み合い、さまざまな合併症が出現します。そのため、患者さんのそばにいる看護師が合併症に関する知識をもち、術前情報を含めて合併症が出現するリスクを理解し、予防することが重要です。

 

合併症は早期発見し、術後ケアを行っていくことが大切です。ここでは術後に発生しやすい合併症と観察項目、ケアを挙げます。

低心拍出量症候群(LOS)

低心拍出量症候群(LOS)は、心臓手術後の循環管理の要になる合併症です。LOSは、心臓手術後に心拍出量を規定する4つの因子(心拍数、前負荷、後負荷、心収縮力)が障害され、心拍出量低下によって身体の酸素消費量と供給量のバランスが崩れてしまった結果、出現します。LOSが出現すると臓器の血流量が不足し、多臓器不全を引き起こす可能性があります。

 

原因としては高い手術侵襲(手術手技、心筋保護の方法、人工心肺の使用の有無、手術時間、大動脈遮断の有無などからその程度を把握する)、手術による心筋傷害、周術期心筋梗塞、術後出血不整脈血圧の変動などが挙げられます。

 

LOSでは、末梢循環障害の症状がみられるため、スワンガンツカテーテル中心静脈圧(CVP)のモニタリングを終了した後でも、末梢冷感、血圧の低下、尿量の減少、活気がない、食欲がない、いつも関心をもつことに興味を示さないなどの症状がないか観察を継続します(表1)。術前のADLや食事摂取量、趣味などを把握して看護にあたることで、「何かいつもと違う」という患者さんの変化を早期発見できます。

 

表1心拍出量症候群(LOS)の観察ポイントと看護ケア・対応

低心拍出量症候群(LOS)の観察ポイントと看護ケア・対応

★1 不整脈

 

術後出血

術後出血は一般的には数時間で減少しますが、約1~3%で再開胸が必要になる1といわれています。施設によって基準が違いますが、ドレーンからの出血量が100~200mL/時以上排出されると、再開胸の検討が必要になります(表2)。

 

出血を起こす原因としては、手術中の止血操作、人工心肺の使用、血圧上昇、ヘパリンの使用、回収血輸血によるACT延長などが挙げられます。

 

出血を起こしやすいタイミングとしては、血圧が上昇しやすい麻酔覚醒時、吸引や抜管、不穏での体動時、歩行開始時です。そのほかに、抗凝固薬の投与開始時、ペーシングリード抜去時などがあります。

 

術後出血が出現すると、循環血液量が低下し、LOSを発症することや、ドレナージが妨げられることで心タンポナーデや縦隔血腫を引き起こします。

 

表2術後出血の観察ポイントと看護ケア・対応

術後出血の観察ポイントと看護ケア・対応

★1 心タンポナーデ

 

周術期心筋梗塞(PMI)

周術期心筋梗塞(perioperative myocardial infarction;PMI)は、術中・術後に出現する心筋梗塞のことをいいます。PMIや心筋虚血が出現すると、低心拍出量症候群(LOS)重症不整脈が出現する可能性があります(表3)。PMIの合併症が多い術式は冠動脈バイパス術ですが、その他の術式でも出現する可能性があります。

 

原因としては、術中や術後の低血圧、術中の不十分な心筋保護、不完全なグラフト吻合、大動脈遮断や人工心肺の使用による空気塞栓や微小塞栓、低体温などが挙げられます。

 

表3周術期心筋梗塞(PMI)の観察ポイントと看護ケア・対応

周術期心筋梗塞(PMI)の観察ポイントと看護ケア・対応

 

不整脈

心臓手術後はさまざまな要因により、多様な不整脈が出現します(表4)。術後に最も多く出現する不整脈は心房細動です。冠動脈バイパス術後で30%以上、心臓弁膜症術後で40%前後も出現するといわれています2。そのほかに、心室頻拍や心室細動は術後1~3%の割合で出現するといわれています3

 

術式によっては刺激伝導系周囲に手術操作が及ぶことがあり、徐脈性不整脈(洞性徐脈や房室ブロックなど)が出現する可能性もあります。

 

不整脈の原因としては、手術侵襲、痛みや発熱などによる交感神経亢進状態、低酸素血症、循環血液量の低下、電解質異常、酸塩基平衡異常、肺動脈カテーテルなどの機械的刺激、低体温などが挙げられます。

 

表4不整脈の観察ポイントと看護ケア・対応

不整脈の観察ポイントと看護ケア・対応

腎機能不全

急性腎不全は、手術後の体液管理を困難にさせる合併症です(表5)。心臓と腎臓の関係性は深く、心臓手術は外科手術のなかでも急性腎障害(AKI)の出現が高く、発症すると死亡率が高くなるといわれています。

 

腎障害は原因部位によって腎前性、腎性、腎後性に分けられます。手術後に人工心肺を使用している場合、血液希釈をする影響で手術直後は利尿が亢進されますが、ほとんどの場合で術後12時間以内に乏尿が起こります。血清クレアチニン値は術後4日目ごろに重症化しやすく、その後は回復する場合が多いといわれています。

 

腎機能障害の原因としては循環血液量の不足、心拍出量の減少、抗菌薬や造影剤などの腎毒性薬剤の投与、低体温などが挙げられます。

 

表5腎機能障害の観察ポイントと看護ケア・対応

腎機能障害の観察ポイントと看護ケア・対応

 

中枢神経障害

心臓手術後の中枢神経障害は脳卒中認知機能障害脳症(せん妄、けいれん、昏睡)に分類されます(表6)。患者さんのADL、QOLを低下させるだけでなく死亡率も高くなる合併症です。

 

脳卒中のほとんどは脳梗塞で、発症率は術式によって異なります。手術中の梗塞の原因は、人工心肺や大動脈遮断による塞栓と脳血流量の低下です。手術後の脳梗塞の原因としては全身性炎症反応(SIRS)や術後の凝固能の亢進、心房細動による心内血栓が挙げられます。

 

認知機能障害は手術後に新たに発症した認知機能の低下のことで、心臓手術後は発症するリスクが高いといわれています。術後に認知機能が低下する原因は、はっきり解明されていませんが、早期に発症するものは全身麻酔や人工心肺などの影響といわれています。また、ICU退室まで続く長期の認知機能障害は、低血圧や低酸素血症、低血糖血糖の変動、高炎症状態、せん妄など、複合的な要因で発症すると考えられています。

 

脳症のなかでもせん妄は、心臓手術後の発生率が47%という報告4もある、頻度の高い合併症です。術後のせん妄は多臓器不全の1つとして考えられていて、さまざまな要因が複雑に絡み合って発症します。

 

心臓手術は術式によって循環停止を行うため脳自体への血流不全を起こしやすくなります。また、気管内チューブや各種ドレーン、カテーテルなど挿入物も多いことも要因に挙げられます。

 

表6中枢神経障害の観察ポイントと看護ケア・対応

中枢神経障害の観察ポイントと看護ケア・対応

★1 せん妄の管理

 

呼吸機能障害

心臓手術後はほとんどの場合、人工呼吸器管理を行いますが、その多くは、12時間以内の抜管が可能です。しかし、人工呼吸器管理が長期化すると呼吸器合併症のリスクがさらに高まります(表7)。

 

術後の呼吸機能障害の原因としては、全身麻酔や筋弛緩薬、麻薬による呼吸中枢の抑制、胸骨正中切開による胸壁の分割、ドレーン挿入、術中後体位による下側肺障害、人工心肺の使用、血管透過性の低下などによる無気肺や肺水腫、肺炎気胸、胸水貯留などが起こることで、酸素化や換気の維持ができなくなることが挙げられます。

 

表7呼吸機能障害の観察ポイントと看護ケア・対応

呼吸機能障害の観察ポイントと看護ケア・対応

★1 人工呼吸器関連肺炎(VAP)の管理

 

感染症、血糖異常

心臓手術は人工心肺の影響で免疫能が低下するだけでなく、さまざまなカテーテル類が留置され、ドレーン類も挿入されることから、感染を引き起こす要因が多くあります(表8)。

 

手術後に起こる感染症としては、創感染、縦隔炎、血流感染、尿路感染、人工呼吸器関連肺炎、人工弁・人工血管感染があります。原因としては、術後出血、胸骨の動揺、不適切なカテーテル管理などが挙げられます。

 

血糖は手術の侵襲に対する生体反応で、一時的に高くなります。糖尿病の既往歴がある場合、高血糖状態が助長されます。血糖値の上昇によって免疫能が低下し、創傷治癒遅延や創感染などのリスクが高まります。

 

表8感染症、血糖異常の観察ポイントと看護ケア・対応

感染症、血糖異常の観察ポイントと看護ケア・対応

 


文献

  • 1)Bojar RM. Manual of Perioperative Care in Adult Cardiac Surgery,5th ed. NewYork:Wiley-Blackwell;2011:347-381.
  • 2)塩塚潤二:術後心房細動.内野滋彦他編:特集術後管理.INTENSIVIST 2012(; 4)2:263.
  • 3)天野篤監訳:心臓手術の周術期管理.メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2008:401.
  • 4)Chang YL,Tsai YF,Lin PJ,et al. Prevalence and risk factors for postoperative delirium in acardiovascular intensive care unit. Am J Crit Care 2008;17(6):567-575.
  • 5)井上真一郎,内富庸介:せん妄の要因と予防.臨床精神医学 2013;42(3):289-297.
  • 6)山中源治,小泉雅子編:徹底ガイド 心臓血管外科 術後管理・ケア(ハンディ版).総合医学社,東京,2016.
  • 7)天野篤監訳:心臓手術の周術期管理.メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2008.
  • 8)田端実,讃井將満責任編集:特集心臓血管外科後編.INTENSIVIST 2016;8(1).
  • 9)聖路加国際病院循環器疾患ケアグループ編:かみくだいて教える心臓血管外科マニュアル上巻術前・術後編.日総研出版,東京,2009.
  • 10)聖路加国際病院心血管センター編:心臓血管外科ケアマニュアル 改訂版.日総研出版,東京,2016.
  • 11) 前田浩企画編集:特集心臓血管外科手術の術後ケア~術後に発生しやすい合併症とその対応~.Heart2014;4(8).
  • 12)道又元裕編集顧問:心臓血管外科の術前・術後管理~厳選ポイント15.重症集中ケア8・9月号 2017;16(3).
  • 13)国立循環器病研究センター心臓血管部門編:新 心臓血管外科管理ハンドブック改訂第2版.南江堂,東京,2016.
  • 14)藤澤美智子,武居哲洋:譫妄の発症メカニズム:危険因子,予防法.林淑朗,讃井將満任編集:特集疼痛・興奮・譫妄,INTENSIVIST 2014;6(1):65-72.
  • 15)古賀雄二,若松弘也:ICU せん妄の評価と対策:ABCDE バンドルと医原性リスク管理.特集ICU/CCUで遭遇する精神的問題を考える,ICUとCCU 2012;36(3):167-179.
  • 16)日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会:日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン.日本集中治療医学会雑誌 2014;21(5):539-579.(2019.09.01アクセス)
  • 17)藤井大輔,山田亨,櫻本秀明:重症疾患後の認知機能 ICU退室後の認知機能障害の実際. ICNR 2016;3(3):60-66.

 


本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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