狭心症、心筋梗塞に関するQ&A

 

 

『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』より転載。

 

今回は「狭心症と心筋梗塞」に関するQ&Aです。

 

山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長

 

〈目次〉

 

狭心症、心筋梗塞ってどんな病気?

狭心症memo1)と心筋梗塞は、心臓虚血状態になることで正常に収縮できなくなり、血行動態の障害が生じる疾患です。しかし、狭心症と心筋梗塞では病態が異なります(図1)。

 

図1狭心症と心筋梗塞

狭心症と心筋梗塞

 

身体の各組織は、血液によって酸素と栄養が供給されています。心臓の場合は冠動脈という血管が走行し、心筋に酸素と栄養を供給しています。

 

狭心症は、冠動脈がアテローム(粥状硬化巣)により狭窄(きょうさく)、あるいは攣縮(れんしゅく)するために、心筋が一過性の虚血状態になり、心臓が正常に収縮できなくなります。一方、心筋梗塞は、冠動脈が血栓により閉塞するために心筋が壊死し、心臓が正常に収縮できなくなります。

 

狭心症の場合は虚血状態が一過性であるため、心筋はダメージを受けてももとに戻ります。ところが、心筋梗塞の場合は心筋が壊死し、もとには戻りません。しかし、ゆっくりと閉塞した場合は側副血行路ができて血液が供給されるため、心筋は壊死しません。

 

memo1狭心症の分類

【発症の誘因による分類】

 

労作狭心症 労作(運動)によって胸痛発作が起こる
安静狭心症 安静時でも胸痛発作が起こる。労作狭心症より進行していることが多い。

 

【臨床経過による分類】

 

安定狭心症 発症から1か月以上経過しており、一定の労作で胸痛発作が起こる。
不安定狭心症 発症から1か月以内の経過であったり、または突然胸痛発作が起きる、急に胸痛発作の頻度が高くなる、痛みの程度が強く持続時間が長い症状の狭心症。
放置すると心筋梗塞に移行することがある。急性冠症候群の原因となる。

 

冠動脈が狭窄したり閉塞するのはなぜ?

冠動脈の狭窄・閉塞・攣縮の背景には、動脈硬化があります(図2)。

 

図2冠動脈の狭窄・閉塞、攣縮

冠動脈の狭窄・閉塞、攣縮

 

(細川美由紀、小林加代子監:循環器系—心筋への酸素・栄養供給機能。実習に生かすアセスメントのコツ5、ナーシングカレッジ、10(9):65、2006より改変)

 

動脈硬化というのは、動脈の内腔にコレステロールなどが付着し、その上に血液凝固成分などがついてアテローム(粥腫/じゅくしゅ)が形成された結果、内腔が狭くなって動脈壁が柔軟性を失った状態です。

 

動脈硬化の状態では冠動脈は狭窄の程度ですが、アテロームが破裂すると、それを修復するために血小板や血液凝固システムが働いて血栓が形成され、完全に閉塞します。また、動脈硬化を起こすと血管壁の平滑筋が敏感になり、寒冷刺激やストレスによって攣縮を起こします。

 

memo2急性冠症候群

血栓が形成されて、冠動脈が急に閉塞されて心筋が虚血状態になる疾患。不安定狭心症、心筋梗塞、その結果として生じる心臓突然死の原因となる。

 

狭心症、心筋梗塞ではどんな症状が出現するの?

狭心症、心筋梗塞どちらの場合も、おもな症状は胸痛です。心筋が虚血状態になると、心筋細胞の変性・壊死によって発痛物質が増加し、交感神経が刺激されて痛みが発生するのです。

 

狭心症の場合は少しは血流があるため、酸素の需要に見合うように安静にしたり、冠血管拡張薬のニトログリセリン(硝酸薬)を服用すると胸痛は治まります。

 

心筋梗塞の場合は、狭心症に比べて痛みの程度が強く、持続時間も長くなり、安静にしたりニトログリセリンを服用しても胸痛は治まりません。

 

狭心症、心筋梗塞で起こる胸痛と他の病気で起こる胸痛との違いは?

肋間神経痛などでも胸痛が起こりますが、冠動脈の狭窄・閉塞による胸痛は、圧迫されるような痛み、肩のほうへの放散痛、絞扼感などの特徴があります。また、狭心症のほとんどの場合は、心臓に負荷がかかったとき(階段の上り下りなど)に起こります。冠動脈の攣縮による胸痛は、心臓の負荷とは関係なく、寒冷刺激やストレスによって起こります。

 

狭心症、心筋梗塞の特徴的な検査所見は?

心電図の波形の異常、CK、AST(GOT)、LDHなどの血清逸脱酵素の異常、冠動脈造影検査による狭窄・閉塞が認められます。

 

狭心症、心筋梗塞の心電図はどんな異常波形になるの?

心臓は自動的に刺激(活動電位)を発生させ、その刺激が心臓全体に伝わって収縮します。活動電位を体表面からとらえたものが心電図で、P波、Q波、S波、T波の波形で表しています。

 

労作時に発作が起こる労作狭心症ではST部分が下降、安静時でも発作が起こる安静狭心症ではST部分が上昇するのが特徴です(図3)。ST部分が下降していると、虚血状態は心内膜のみですが、ST部分が上昇していると、心外膜まで虚血が及んでいたり心筋が壊死しています。心筋の虚血は、心内膜から起こり、それが心外膜にまで及んで壊死に至ります。

 

心筋梗塞では、胸痛発作の直後にSTが上昇し、心筋の壊死部分で異常Q波が出現します。心筋が壊死していると、刺激が伝わっても収縮せずにそのまま通り過ぎるため、異常Q波が出現します。

 

図3狭心症、心筋梗塞の心電図

狭心症、心筋梗塞の心電図

 

memo3負荷心電図、ホルター心電図

狭心症発作を起こしたときに、すぐに心電図を記録することは難しいため、負荷心電図やホルター心電図を記録する。負荷心電図は、トレッドミルや自転車エルゴメータを使って運動をし、狭心症を誘発して記録した心電図である。ホルター心電図は、小型心電計を装着し、24時間記録した心電図である。とくに、夜間に発作のあるときに有用である。

 

狭心症、心筋梗塞ではどの血清逸脱酵素が異常になるの?

クレアチニンキナーゼCK、CKの心筋型アイソザイム(CK-MB、memo4)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼAST(GOT)〕、乳酸脱水素酵素LDHです。これらの酵素の値が上昇していれば、心筋梗塞が疑われます。CK、ASTは心筋に多く分布する酵素で、心筋の障害によって血中に放出されます。

 

memo4アイソザイム

タンパク質の一次構造は異なるが同じ反応を触媒する、2種類以上の酵素分子種が存在する酵素のこと。

 

冠動脈造影検査ってどんな検査?

おもに大腿の動脈からカテーテルを挿入して冠動脈に到達させ、造影剤を注入して、冠動脈の狭窄や閉塞の状態を調べる検査です。心臓カテーテル検査ともいいます。

 

狭心症にはどんな治療を行うの?

状態に応じて、薬物療法や経皮冠動脈血管形成術(percutaneous transluminal coronary angioplasty : PTCA)、大動脈冠動脈バイパス移植術(aortocoronary bypass grafting : ACBG)などが行われます。

 

狭心症の薬物療法には、おもに硝酸薬、β遮断薬(memo5)、カルシウム拮抗薬、抗血小板薬が使用されます。

 

硝酸薬(ニトログリセリンなど)は、冠動脈と末梢血管を拡張させる働きがあります。ニトログリセリン舌下錠は吸収が早く、舌の下へ入れると数分で胸痛が治まります。

 

β遮断薬は、心筋の収縮力を低下させることと、心拍数を減少させることで、心筋の酸素消費量を減少させます。

 

カルシウム拮抗薬は、全身の動脈と冠動脈を拡張させることによって、心筋への酸素供給量を増加させます。抗血小板薬は、血小板の血管壁への粘着や凝集を抑制し、血栓の形成を予防します。

 

memo5β遮断薬

交感神経の受容体には、α受容体とβ受容体がある。心臓にはβ1が、血管の平滑筋にはα1とβ2 が多く存在している。β遮断薬は、β受容体に結合し、ノルアドレナリンの結合を妨げ心臓の心拍数と収縮力が減少し、血圧は下降させる。

 

β遮断薬には、
β1とβ2 受容体のどちらも遮断するもの
β1受容体を選択的に遮断するもの
α遮断作用を併せもつもの
などがある。降圧薬、抗不整脈薬などに用いられる。

 

PTCAは、大腿動脈などから、先端にバルーンが付いたカテーテルを挿入して狭窄している冠動脈まで到達させ、バルーンを膨らませて血管を拡張させる治療法です。再び狭窄しないように、ステントを留置することもあります(図4)。

 

ACBGは、手術によって、狭窄している部位を迂回させるバイパス血管を植え込み、血液を供給する治療法です。

 

図4経皮冠動脈血管形成術(PTCA)と大動脈冠動脈バイパス移植術(ACBG)

経皮冠動脈血管形成術(PTCA)と大動脈冠動脈バイパス移植術(ACBG)

 

 

心筋梗塞にはどんな治療を行うの?

急性心筋梗塞の場合、発症後ただちにCCU(冠動脈疾患集中治療室)に収容し、専門的な治療を実施することが大切です。CCUでは、緊急処置を行って胸痛の鎮静をはかり、同時に酸素吸入や薬物療法を行います。

 

心筋梗塞の急性期に使用されるおもな薬物は、硝酸薬、β遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、抗血小板薬です。

 

硝酸薬は、心筋の仕事量の減少と胸痛の鎮静を目的に使用されます。β遮断薬は虚血を防ぎ、死亡や合併症の併発を抑制します。ACE阻害薬は、血管拡張作用と利尿作用によって心筋の仕事量を減少させます。抗血小板薬は、再梗塞を減少させると考えられています。

 

その後、閉塞した冠動脈の血流を回復させる再灌流(かんりゅう)療法を実施します。再灌流療法には、血栓溶解薬(組織プラスミノゲン活性化因子:t-PA、ウロキナーゼなど)の投与、PTCA、ACBGなどがあります。

 

狭心症と心筋梗塞の看護のポイントは?

心筋梗塞は、心筋の壊死によって心臓のポンプ機能が低下するために、急性心不全や心原性ショックを合併する恐れがあります。また、心筋細胞も破壊されるために刺激伝導に異常が生じ、致死的な不整脈に移行する危険性もあります。

 

急性心不全、心原性ショック、不整脈は心筋梗塞の3大合併症で、発症1時間前後から出現する危険性があり、出現した場合は高い死亡率となります。そのため、心筋梗塞の急性期は、全身状態の観察を十分に行い、合併症を早期発見し、早期対処することが看護のポイントになります。医師の指示に基づいて、薬物療法や輸液の管理をすることも重要です。

 

慢性期には、生活指導を行うことが大切です。

 

狭心症および心筋梗塞の患者は、心機能に見合った活動が必要です。医師から、運動許容量の指示が出ますから、それに基づいて、心臓リハビリテーションを指導します。また、冠危険因子(心疾患の危険因子)である高脂血症、高血圧糖尿病(予備軍を含む)、肥満、喫煙、運動不足、ストレスなどを取り除く指導も必要です。

 

コラム『ショックとは?』

ショックとは、全身への血液循環が急速に障害され、身体の各臓器、組織、細胞に必要な血液を供給できなくなり、各機能が障害された状態をいう。顔面蒼白(pallor)、血管虚脱(prostration)、冷汗(perspiration)、脈拍触知不能(pulselessness)、呼吸不全(pulmonary insufficiency)が、ショックのおもな症状で、頭文字をとってショックの5Pと呼ばれている。

 

ショックは、①心臓のポンプ機能、②前負荷(循環血液量)、③後負荷(末梢血管抵抗)のいずれかの障害、あるいは組み合わせによって起こる。

 

ショックの病態から、①心原性ショック、②循環血液量減少性ショック、③血管性ショック、の3つに分類されます。

 

①心原性ショックは、心臓のポンプ機能が障害されることにより起こる。

 

②循環血液量減少性ショックは、出血や体液の喪失によって起こる。

 

③血管性ショックはアナフィラキシー敗血症(エンドトキシン)、神経性、薬剤性などによって起こる。

 

ショックは、すみやかに処置を行わなければ死に至る重篤な状態です。

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』 (監修)山田 幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版

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