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2015年11月15日

ST-Tを見る|心疾患の心電図(4)

心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、心疾患の心電図の4回目です。

〈前回の内容〉

QRS波の幅と軸を見る|心疾患の心電図(3)

 

〈目次〉

 

はじめに

P波、QRS波、その関連が不整脈を読み解くカギであったように、ST-Tは、心室筋の状態を読み解くカギです。

100人いれば100とおりの顔があるように、同じ疾患、病態でも同じ心電図所見が見られるわけではありません。これから勉強するのはあくまでも一般的な所見であり、必ず書いてあるとおりの心電図変化が見られるわけではないことを理解しましょう。

 

ST上昇

ST部分の上昇を見たら、胸部症状の有無を必ず確認しましょう。

急性心筋梗塞、異型狭心症:冠動脈の閉塞によるST上昇

強い胸痛があれば、まず急性心筋梗塞を考慮して緊急対応しましょう。血流低下による組織の壊死(細胞の障害)を梗塞といいます。

もし、胸痛がはっきりしなくても、ST上昇があって、血圧低下や上昇、頻脈や徐脈、意識障害などバイタルサインに異常が見られた場合は、急性心筋梗塞と考えて対応しましょう。

心室筋に冠動脈からの血液供給がなくなると、その部位を反映する誘導でST上昇が見られます。冠動脈の血流がなくなるのは、動脈硬化の破は綻たんで血栓閉塞する急性心筋梗塞と、冠動脈の攣縮(痙攣:スパスム)で血流がなくなってしまう異型狭心症です。

障害された冠動脈の灌流領域を反映する誘導のみに限局したST上昇と、時間経過とともに同じ誘導に異常Q波が見られます(図1)。他の誘導はST低下が見られます(対側変化:reciprocal change)。

図1T上昇の心電図(急性心筋梗塞)

T上昇の心電図(急性心筋梗塞)

 

異型狭心症は、攣縮による冠動脈閉塞なので、亜硝酸剤(ニトログリセリン)や血管拡張薬で症状、ST上昇は改善しますが、急性心筋梗塞は動脈硬化を背景にした血栓閉塞なので亜硝酸剤では改善しません。

 

タコツボ型心筋症

胸痛があって、心筋梗塞に似たST上昇もバイタルサインの異常もありながら、冠動脈が正常な場合はタコツボ型心筋症です。V~VのST上昇と陰性T波が見られます(図2)。

図2タコツボ型心筋症

タコツボ型心筋症

 

左室が、収縮時にまさにタコツボのような形を呈するのでこの名がつきました。心身のストレスを契機に、左室の主に心尖部心筋が障害される疾患です。

 

急性心膜炎

胸部症状があって(通常はそれほど強い胸痛ではありません)、aVR、Vを除く全誘導でST上昇があれば、急性心膜炎を疑ってください(図3)。心臓を囲んでいる心外膜の炎症です。

図3急性心膜炎

急性心膜炎

 

心室瘤

胸部症状がなく、バイタルサインも不変で、心電図上、心筋梗塞様のST上昇は心室瘤です。心筋梗塞後に、多くは左室心尖部にコブ状の突出をきたし、それを反映して主にV~VでST上昇が見られます(図4)。固定された状態なので、急性心筋梗塞のような経時的な心電図変化は見られません。

図4心室瘤

心室瘤

 

左室肥大

左室肥大でもV、V2でST上昇が見られる場合がありますが、胸痛はありません。

以下の4つは、J波が見られる状況です。J波はQRS波終末でST接合部の小さな陽性の波(ノッチ)で、心室筋の再分極に関連して出現します。もともと低体温時の心電図所見として発見され、オズボーン波(Osborn wave)ともいいます。J波に引き続いてST上昇が見られる場合があり、以下の4種類は心電図変化だけでは判別が難しい場合があり、背景の病態や症状の有無、家族歴などから総合的に鑑別します。

 

早期再分極

病的な意味がなく、J波(ノッチ)とともにST上昇が見られる場合は、早期再分極といいます(図5)。若年、男性に多い所見です。

図5早期再分極の心電図

早期再分極の心電図

 

ブルガダ症候群

ブルガダ症候群(Brugada’s syndrome)は、右脚ブロック型のQRS波形と右胸部誘導(V~V)のJ波とST上昇を特徴とする心電図所見で、基礎心疾患がないにもかかわらず、心室細動(VF)を発症する特発性心室細動をきたす症候群です(図6)。再分極の異常が原因といわれています。

図6ブルガダ症候群

ブルガダ症候群

 

中高年男性に多く、兄弟の突然死など家族歴があることが多く、ストレスや自律神経によってST-Tが変化するという特徴があります。平常では症状はなく、失神や突然死をきたす危険がある症候群です。

健常人でも同様の心電図異常を起こすことがあり、家族歴や症状がない場合は、ブルガダ様心電図異常といいます。

 

低体温、心臓冷却時

低体温では、心臓伝導系に異常をきたし、徐脈、QRS幅延長などとともに、ST接合部のノッチ(J波またはオズボーン波)とST上昇を認めることがあります(図7)。脳障害の治療時の低体温療法や、心臓手術の際の心臓冷却に伴って見られることがあります。

図7ノッチ

ノッチ

 

二次性ST-T変化に伴うST上昇

幅の広いQRS波にST上昇が見られる場合は、脱分極が正常でないために、再分極の変化をきたす二次性ST-T変化の一所見です(図8)。

図8二次性ST-T変化

二次性ST-T変化

 

左脚ブロック、WPW症候群、心室ペーシングでみられ、S波の深い誘導で見られます。ちなみにR波の大きい誘導では、二次性ST-T変化としてST低下と陰性T波が見られます。心室性期外収縮など心室起源のQRS波も同様に二次性ST-T変化をきたします。

 

まとめ

  • 胸部症状がある、バイタルサインが不良
  • 急性心筋梗塞:限局した誘導のST上昇、胸痛強い。冠動脈硬化の破綻。血栓
  • 異型狭心症:限局した誘導のST上昇、胸痛強い。冠動脈スパスム、ニトログリセリンで改善
  • タコツボ型心筋症:V~VのST上昇と陰性T波、心尖部の異常運動、冠動脈正常
  • 急性心膜炎:aVR、Vを除く広範なST上昇、胸痛は軽度なことが多い
  • 胸部症状がない、バイタルサイン安定
  • 心室瘤:壁運動異常を反映した限局した誘導のST上昇、V~Vに多い
  • 左室肥大:V~V2のST上昇、V~Vでの高いR波とST低下・陰性T波
  • 以下はJ波が見られ、鑑別は症状の有無、家族歴、低体温時の出現など
  • 早期再分極:正常亜型、V~VのJ波とST上昇
  • ブルガダ症候群:右脚ブロック、V~VのJ波とST上昇。心室細動の危険
  • 低体温:心臓冷却に伴うV~VのJ波(オズボーン波)とST上昇
  • 幅広QRS波に見られるST上昇(再分極の変化=二次性ST-T変化)
  • 左脚ブロック、WPW症候群、心室ペーシング(S波の深い誘導で見られる)、心室起源の幅広QRS波(PVC、促進型心室調律など)

 

ST低下、T波の平低化・陰性化

ST低下、T波の変化は、ST上昇以上にさまざまな疾患、病態で見られます。ST-T変化だけから疾患を特定することはムリですから、随伴症状や血行動態、他の検査所見から総合的に判断して対応する必要があります。

以下は代表的な疾患、病態に関しての解説です。

 

心筋虚血

“虚血”とは、組織に動脈血が不足する状態です。

図9を見てください。

図9心筋虚血とST変化

心筋虚血とST変化

 

冠動脈というのは心室の外側(心外膜側)を通っていて、外側から内側(心内膜側)へ血管を伸ばして心筋を栄養しています。したがって、血流が減ると、まず心内膜側の心筋から虚血を生じます。

内膜側だけの虚血は、心電図ではSTの低下として現れます(図10)。

図10ST低下の形態

ST低下の形態

 

さらに虚血が強くなれば、外膜側まで虚血が及んで内側から外側まで筋肉全体が虚血になります。これを貫壁性虚血といい、心電図ではSTの上昇として現れます。この原則で、冠動脈血流が低下すれば心電図ではST低下、閉塞ではST上昇になるわけです。

狭心症は冠動脈の狭窄によって、狭窄部下流領域の血流が不足してST低下が現れます。通常、狭心症は発作が治まるとST変化は回復しますが、冠動脈の血流が極端に悪くなると、心室筋の内膜側だけが梗塞になってしまうことがあります。これを心内膜下梗塞といい、持続的なST低下を特徴とします。

 

①急性心筋梗塞、異型狭心症(心室筋に血流がない場合、冠動脈閉塞時:貫壁性虚血)の対側変化

冠動脈が完全に閉塞すると、その灌流領域を反映する誘導にST上昇と異常Q波が見られることは勉強しましたね。ST上昇と異常Q波を認める誘導以外の誘導では、対側変化(reciprocal change)でST低下と陰性T波が見られます。この場合、あくまでもST上昇が大切な所見で、対側変化のST低下はST上昇に付随する所見です。

 

②狭心症、心内膜下梗塞(心室筋に血流がある場合、冠動脈狭窄時:内膜側虚血)

狭心症は、冠動脈の狭窄による物理的な血流低下が狭窄部下流の灌流領域に及び、心電図上ST低下、ときに陰性T波として現れます。貫壁性虚血と違うのは、ST低下が見られる誘導が、虚血部位を反映しない点です。

どの領域での内膜側虚血があっても、多くはⅡ誘導、Ⅲ誘導、aVF、V、VでST低下が見られることが多いのです。原因が動脈硬化による固定した狭窄の場合は、運動時など心室筋に血液が不足した場合に胸痛とともにST低下、陰性T波を見ることが多く、発作が改善すればSTT変化は改善します。血管のスパスムによる血流低下も、発作時のみST-T変化が見られます。

虚血の持続によって内膜側が梗塞となり、不可逆性に心筋が障害されると、ST低下は回復しません。また程度によって冠性T波という深い陰性T波が見られます。

これは陰性T波の底の部分を中心に左右対称型の陰性T波で、肥大に伴うストレイン型、二次性ST-T変化に見られる、T波の最下点の谷が右寄りのST低下とは異なった形態です。

 

心室肥大

QRS波の高さを見る|心疾患の心電図(2)で勉強しました。左室肥大では、V~Vの左側胸部誘導で高いR波とともに、ストレイン型のST低下と陰性T波が見られます。右室肥大では、同様の変化がV~Vの右胸部誘導で見られます。

 

心筋症

冠動脈疾患や高血圧、代謝性疾患、薬剤など原因となる病態や疾患がなく、心筋自体に異常をきたす疾患群を心筋症といいます。

大きく分けると、心室筋の肥大をきたす肥大型心筋症、心室筋の収縮低下と心拡大を呈する拡張型心筋症があり、他に心室筋の拡張が悪くなる拘束型心筋症、一過性に左室心尖部が障害されるタコツボ型心筋症図2参照)があります。

肥大型心筋症は、左室肥大と同じ変化が見られますが、程度によって深い陰性T波(巨大陰性T波:後述)が見られることがあります。とくに心尖部に強い肥大をきたす心尖部肥大型心筋症で多く見られます。

タコツボ型心筋症では、右胸部誘導(V~V)でのST上昇とともに、左胸部誘導(V~V)でST低下、陰性T波(ときに巨大陰性T波)を見ることがあります。

その他の心筋症でも、さまざまな程度のST低下、T波の平低化、陰性化が見られます。

 

心筋炎、心筋変性疾患、その他の原因による心室筋障害

心筋炎は多くはウイルスによる心室筋の炎症で、急性発症します。その他、心サルコイドーシスや心アミロイドーシス、膠原病、腎不全、代謝性疾患などに伴う心室筋障害は、さまざまな程度のST-T変化が見られます。

各疾患に特異的な変化はありませんが、心筋障害を反映してST-T変化が生じているということは理解しておきましょう。

***

以上は、心室筋自体に障害をきたし、ST低下、T波の平低化、陰性化をきたす場合ですが、心臓を取り巻く環境によっても心電図変化が生じる場合があります。

***

低カリウム血症

血清カリウム値が低下すると、ST低下、T波の平低化、陰性化とともにU波が出現します(図11)。

図11低カリウム血症の心電図

低カリウム血症の心電図

 

ジギタリス効果

ジギタリス製剤は、心拍コントロール、強心剤として投与されますが、ST-T変化を含め、心電図変化をきたす薬剤です。

PQ間隔延長、QT間隔短縮とともに、ST-T変化が特徴的で、ST低下と陰性T波が見られます。典型的にはP波から連なるような、下に凸の緩やかなST低下と陰性T波が見られ、盆状のST低下と称されています(図10参照)。

 

脳血管障害

クモ膜下出血をはじめ、脳血管障害に伴って心電図異常を認める場合があります。

ST低下、T波の平低化、陰性化ばかりでなく、QT間隔延長などさまざまな所見が出現します。ときに巨大陰性T波を認めることもあります(図12)。

図12巨大陰性T波

巨大陰性T波

 

巨大陰性T波とは、1.0mV(10mm)以上の深い陰性T波のことです。多くは谷の部分を中心に左右対称型で、QT間隔の延長を伴っています。心筋虚血、左室肥大(とくに心尖部肥大型心筋症)、タコツボ型心筋症、拡張型心筋症のほか脳血管障害で見られることがあります。

 

二次性ST-T変化

幅の広いQRS波は、心室の伝導ルートが正常でなく、そのため再分極も正常な順序で行われないため、再分極を反映するST-T部分に変化を生じます。これを、脱分極が正常に行われながら、再分極(つまりST-T)に異常をきたす一次性ST-T変化に対して、二次性ST-T変化といいます。

S波の深い誘導ではST上昇として、R波の高い誘導ではST低下と陰性T波となります。脚ブロック、WPW症候群、心室ペーシングのほか心室起源の幅広QRS波(PVCも含む)では二次性ST-T変化が見られます。

 

非特異的ST-T異常

ST低下、T波の平低化、陰性化があって、原因を調べてもとくに異常がない場合は非特異的ST-T異常といいます。心拍数や自律神経、体位などに関連する場合もありますが、正常亜型といえます。

***

繰り返しになりますが、ST-Tは心室筋の状態を反映しますが、その変化は疾患と一対一で対応するわけではなく、さまざまなバリエーションがあります。

ST-Tが正常の条件を満たしていれば、心室筋は正常といってほぼ間違いはありませんが、ST-Tになんらかの異常がある場合は、正常亜型も含めてさまざまな疾患や病態を考慮し、年齢、性別、家族歴、症状、既往歴、経過、他の検査所見などすべてを勘案して正確な診断を得る必要があります。

 

まとめ

  • ST低下、T波の平低化、陰性化を認めた場合
  • 幅広QRS波なら二次性ST-T変化のため評価ができない
  • 幅の狭いQRS波であれば、心疾患として虚血、肥大、心筋症のほかさまざまな心室筋の障害を考慮する
  • 心疾患がはっきりしない場合、心臓を取り巻く環境(電解質、薬剤、脳血管障害など)による変化を考慮する
  • 原因が明らかでない場合を非特異的ST-T異常という

 

T波の増高

正常心電図ではあえて触れませんでしたが、T波は1.2mV(12mm)以下または、R波の1/2以下という基準があります(図13)。この基準を超えている場合、病態としては、急性心筋梗塞の超急性期、高カリウム血症の2つを考慮しましょう。

図13T波の基準

T波の基準

 

急性心筋梗塞の超急性期

急性心筋梗塞自体が急性の疾患ですが、そのさらに早期、“超”急性期では、STが上昇する前にT波が尖って、高くなってきます。特徴としては、発症から数分から数十分で見られ、もちろん胸痛を伴います。

そして、ここが重要なところですが、時間経過とともに、STが上昇し、冠性T波や異常Q波といった通常の急性心筋梗塞の心電図変化になります。

 

高カリウム血症

血中のカリウム濃度が上昇すると、幅の狭い鋭く高いT波が出現しテント状T波と称されています(図14)。

図14テント状T波

テント状T波

 

QT間隔は短縮します。その他に、P波の消失、PQ間隔延長、QRS波の幅延長に加えて、徐脈、心室細動など、程度によっては生命にかかわる不整脈をきたします。

 

非特異的T波の増高

原因のはっきりしない、無症状のT波は正常のバリエーションですから、非特異的と考えましょう。

 

まとめ

  • 胸痛を伴っていれば、超急性期の心筋梗塞におけるT波の増高
  • 高カリウム血症ではテント状のT波の増高
  • 原因が特定できない健康体なら非特異的T波の増高

 

〈次回〉

U波を見る|心疾患の心電図(5)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

[出典]『ナースのためのアクティブ心電図』(著者)田中喜美夫/2014年3月刊行

ナースのためのアクティブ心電図

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