食欲不振に関するQ&A

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「食欲不振」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

食欲不振の患者からの訴え

  • 「おなかが減りません」
  • 「食べてもおいしくありません」

 

〈食欲不振に関連する症状〉

食欲不振に関連する症状

 

〈目次〉

 

食欲不振って何ですか?

食べたいという欲求が低下した、またはなくなった状態を、食欲不振といいます。

 

食欲をコントロールしているのはどこ?

食欲は、視床下部にある摂食中枢と満腹中枢によって調節されています。摂食中枢が刺激を受けると、「食べたい」という意欲が起こります。満腹中枢が刺激を受けると、「おなかがいっぱい」と感じ、食欲が低下します。

 

これらの中枢をコントロールしているものの1つが、血糖値です。

 

血糖値が下がると、脂肪組織に蓄えられていた脂肪が分解されて血液中に脂肪酸が増えます。すると、それが摂食中枢を刺激して食欲が起こります。また、の中が空っぽになると、自律神経である内臓神経から摂食中枢に信号が伝わり、食欲が湧きます(図1)。

 

図1食欲のメカニズム

食欲のメカニズム

 

しかし、食欲のメカニズムについては、まだ解明されていないことがたくさんあります。

 

例えば、おなかいっぱいごはんを食べた後でも、ケーキや嗜好(しこう)品は食べられます。「目が食べたがっている」「おいしかったという記憶が食欲を湧かせる」といったことは、誰もが経験があると思います。

 

食欲低下の原因は?

食欲低下の原因は、大きく分けて3つ考えられます。

 

1つは、内臓に何らかの異常がある場合です(内臓性食欲不振)。

 

また、精神的な原因や、食欲を司る摂食中枢や満腹中枢に異常がある場合にも、食欲不振になります(中枢性食欲不振)。

 

さらに、ビタミンやホルモンなどの身体に必要な栄養素や物質が欠乏している場合にも、食欲不振になります(欠乏性食欲不振)。

 

どうして内臓に異常があると食欲不振になるの?

胃をはじめとして消化管に異常があると、消化酵素の働きが鈍って食物がうまく消化されず、腸管内に停滞します。便秘や腹部膨満がある場合にも、蠕動運動の低下によって食物が腸管内に停滞しています。その結果、消化管が膨満すると、これが迷走神経を介して満腹中枢を刺激し、食欲の低下が起こります。感染性胃腸炎では、嘔吐や嘔気が食欲を低下させます。

 

また、心不全(特に右心不全)では、消化管のうっ血が粘膜の浮腫を引き起こすために、食欲不振を招くといわれています。

 

肝臓腎臓の疾患でも、食欲不振になります。肝疾患では解毒作用の低下によって血液中に有害物質が増え、それが食欲を低下させると考えられます。腎疾患の際の食欲低下は、濾過機能の低下による老廃物の蓄積、再吸収の障害による電解質代謝などの障害の結果であるとされています。

 

このほか、口内炎、歯痛、舌苔(ぜったい)などの口の中の異常は、味覚の障害や不快感を介して摂食中枢を抑制します。

 

鎮痛薬、抗生物質、抗癌剤、ジキタリスなどの薬剤の副作用でも、食欲不振になります。これは、薬剤が視床下部を刺激し、消化管の粘膜を傷害するためです。

 

精神的な原因で食欲不振になるのはどうして?

食欲は、生理的な欲求の1つです。うつになると、何もする気が起きず、その延長線上で食欲も湧かないことがあります。また、精神疾患があると、「食物に毒が入っている」などの妄想を抱いて食欲が低下する場合があります。仕事や物事に熱中して興奮状態(テンションが高い状態)が続いている時には、交感神経が緊張しているので消化機能が低下し、食欲が起きないこともあります。

 

夏の暑さで食欲が落ちるのは、食べると代謝によって熱が発生するため、食べる量を減らして熱の産生を抑えようとしていると考えることができます。反対に秋から冬には、食欲が湧きますね。これは、食べることによって身体を暖め、断熱効果のある皮下脂肪を蓄えようとするためだと考えられます(図2)。

 

図2季節による食欲の変化

季節による食欲の変化

 

血管疾患や脳腫瘍などによる頭蓋内圧の亢進は、摂食中枢を抑制して食欲不振を起こすと考えられています。

 

風邪をひいて発熱すると食欲が落ちるのは、発熱物質が摂食中枢を抑制するためだと考えられています。

 

ビタミンやホルモンが不足するとどうして食欲不振になるの?

ビタミン類は、いろいろな酵素の働きに必要で、その欠乏は酵素の働きの障害、すなわち代謝機能の低下をもたらします。

 

なかでも、糖代謝に必要なビタミンB1が欠乏すると、末梢神経系、循環器系とともに、消化管の機能が障害されることが知られています。その結果、食欲が低下するのです。ビタミンB1の欠乏は、昔は脚気(かっけ)として恐れられていました(用語解説参照)。

 

また、内分泌疾患によっても、食欲不振をきたします。内分泌器官が産生するホルモンは、身体の機能が正しく働き、恒常性を保つために不可欠なものです。従って、内分泌疾患によってホルモンが不足すると、消化機能が低下し、症状として食欲不振がみられることがあります。

 

主な疾患としては、下垂体前葉ホルモン全般が不足するシモンズ病やシーハン症候群、甲状腺の機能が低下して基礎代謝が低下する粘液水腫、糖代謝や電解質代謝に関係する副腎皮質ホルモンが不足するアジソン病があげられます。

 

用語解説脚気(かっけ)

脚気は、ビタミンB1の欠乏で起こる病気で、特に神経系、循環器系、消化器系に症状が現れます。症状としては、血圧の低下、食欲不振、吐き気や便秘、手足のしびれやむくみがみられます。

 

脚気になると、膝蓋腱(しつがいけん)反射(ハンマーで膝をたたいた時に下腿が上がる反射)がなくなるので、診断によく使われます。進行すると、痛みや感覚の消失のために歩行困難をきたしたり、心肥大によって突然の呼吸困難に襲われることもあります。

 

日本人の主食である米は、玄米の状態ではビタミンB1が豊富に含まれていますが、精米すると失われてしまいます。そのため、精米が主食で副食をあまり取らないような状況ではしばしばビタミンB1が不足し、原因がわかるまではとても恐れられていました。

 

栄養状態の改善によって今ではほとんどなくなりましたが、その一方で、最近は一人暮らしの若者の間で、外食やインスタント食品による栄養の偏りが脚気に似た症状を起こすケースが、増えているそうです。

 

食欲不振はどうやってアセスメントするの?

食事量と食事内容を聞き、どのくらい食欲不振が続いているのか、どのくらい食事が取れているのかを把握します。

 

「ムカムカする」、「口の中がしみる」、「味がしない」、「だるい」といったように、食欲不振の訴えの表現は様々です。しかし、例えば「むかむかする」という場合は胃の疾患が疑われるというように、原因疾患の推測につながるヒントが潜んでいることがあります。できるだけ具体的な訴えを引き出せるように工夫します。

 

食欲不振以外の症状もチェックしましょう。発熱や消化器症状(胃痛、下痢、嘔吐、便秘など)の有無を確認します。心不全や腎疾患では、浮腫を伴います。肝疾患では、浮腫腹水黄疸を伴うことがあります。また、食欲不振を起こさせる精神的な原因が背後にないかどうかも確認しましょう。

 

食欲不振が続くと、栄養状態の悪化につながります。体重や総タンパク量やアルブミン量、A/G比などの検査データ、身体所見から栄養状態をアセスメントし、日常生活への影響が出ていないかどうかにも注意しましょう。

 

食欲不振のケアは?

食欲不振の原因に応じたケアを行います。栄養状態が悪く、口からの摂取が期待できない時には、経腸経管栄養を行う場合もあります。舌苔がある時は口腔ケアを、便秘に対しては排便を促すケアを行います。

 

食事については、嗜好(しこう)や食感を考えたメニューにする、盛りつけを工夫する、香辛料を使う、食事の環境を整えるなど、食欲をそそるような工夫についてアドバイスするといいでしょう。しかし、中にはかぜの発熱時や感染性胃腸炎の時の食欲低下のように、食欲低下は一過性でも無理に食事をとらせることが、かえって患者の負担になったり回復を遅らせる場合もあります。

 

また、「食べなくては身体に悪いですよ」といった患者を焦らせるような言動は慎み、少量でも摂取できたら、それを評価してあげることを忘れないでください。

 

コラム『インスリノーマ おなかの減る腫瘍』

食欲不振は様々な疾患でみられる重要な症状ですが、逆に食欲の亢進が問題になることはないのでしょうか。

 

インスリノーマとは、インスリンを産生する膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から発生する腫瘍で、腫瘍細胞もインスリンを産生します。

 

生理的な状態では、血糖値が下がると、フィードバック調整によってインスリンの分泌が抑えられます。しかし、腫瘍の場合にはフィードバックが働かず、腫瘍細胞がインスリンを分泌し続けてインスリン過剰になります。

 

すると、血液中のブドウ糖がどんどん細胞内に取り込まれ、食べても食べても血糖値が上がらず、従って摂食中枢への刺激が持続して食欲が亢進します。場合によっては、低血糖による意識障害を起こすこともあります。

 

食物をおいしく食べられることは健康の印ですが、インスリノーマのような病気もあることを、心に留めておいてくださいね。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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