浮腫(ふしゅ)に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「浮腫」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

浮腫のある患者からの訴え

  • むくみが取れません

 

〈目次〉

 

浮腫って何ですか?

お酒を飲み過ぎた翌朝、顔がむくんで腫れぼったい、一日中立ちっぱなしだったので夕方になって脚がむくんだ……。

 

いずれも、むくみの原因は「水分」です。水分を過剰に摂取すれば、行き場を失った水分が体内に溜まりますし、立ち続けていれば下肢の静脈血がうっ滞して血管内の水分が漏れ出し、脚がむくむわけです。

 

ただ、これらは一時的な現象で、時間が経てば大抵は解消されます。身体には、水分を調節する仕組みが備わっていて、例えば「水分を摂取したら、その分だけ尿や汗として体外に出す」というように、いつも体内にある水分、つまり体液の量や組成が一定に保たれるようになっています。

 

ところが、この仕組みのどこかに障害が起こると、結果として身体に水分が滞留した状態になります。この状態を、「浮腫」といいます。

 

〈浮腫に関連する症状〉

<関連する症状>

 

身体のどこに水分が溜まるの?

浮腫で水分が貯留するのは、「間質(かんしつ)」です。間質というのは細胞と細胞の間のすき間のことです。間質の水分のことを間質液または組織液といい、浮腫とは間質液が増加した状態です。

 

水分はあらゆる器官で生命維持のために重要な役割を担い、成人では体重のおよそ60%を占めています。

 

体液の55%は細胞の中にあり、これを「細胞内液」といいます。45%は、細胞の外にある「細胞外液」です。細胞外液は、組織中にある間質液と、血漿やリンパのように血管やリンパ管や体腔、結合組織、骨に存在するものとに分けられます。

 

図1体液の分布

体液の分布

 

血液やリンパと、間質の間では、たえず水の移動が行われています。水の移動に関係する主な力は、血管内圧、血漿膠質浸透圧(けっしょうこうしつしんとうあつ)です。血管内圧は血管内の水分を間質に移動させる力として働き、動脈側では静脈側よりも大きな値を示します。血漿膠質浸透圧は間質の水分を血管内に移動させる力として働き、血管の部位によらず一定です。

 

組織を見てみると、動脈側では、血管内圧が血漿膠質浸透圧より大きいので、水が血管から間質に移動します。静脈側では逆に、血漿膠質浸透圧が血管内圧より大きいので、水は間質から血管に移動します。また、間質液の一部はリンパ管にも吸収されており、間質の水分が増加した場合には、リンパ管への吸収量が増加します。

 

この水分の流れに障害が起こると、間質に水分が溜まって浮腫が起こります。

 

図2浮腫が起きるメカニズム

浮腫が起きるメカニズム

 

用語解説血漿膠質浸透圧(けっしょうこうしつしんとうあつ)

溶質(溶けているもの)は通さないけれど、溶媒(溶かしているもの、水分子)は通す—そんな膜を半透膜といいます。溶質の濃度が異なる溶液を、半透膜を隔てて隣り合わせに置くと、水分子が濃度の低いほうから高いほうに移動し、同じ濃度になろうとします。この「水を移動させる力」が、浸透圧です。

 

次に、溶質の濃度の異なる2つの液を血漿と組織液、半透膜を血管壁に置き換えて考えてみましょう。下図を見てください。ただ「浸透圧」といった場合に重要なのは、Na+です。しかし、Na+は血管壁を自由に通過するので、血漿と組織液のNa+濃度はほぼ同じで、血漿と組織液の間で水を移動させる力にはなりません。

 

では、血漿と組織液の間で濃度が異なる溶質は何でしょうか。答えは、膠質(蛋白質)です。蛋白質は分子が大きいため、Na+のように自由に血管壁を通過することができません。血漿の蛋白質の濃度と組織液の蛋白質の濃度を比べると血漿のほうが大きく、この差が組織液から血漿へと水を移動させる力、すなわち血漿膠質浸透圧になります。

 

低蛋白血症では、血漿と組織液の蛋白濃度の差が小さくなるので、組織から血漿に移動する水分も減少し、浮腫が起きます。

 

図3

 

浮腫はどうして起きるの?

浮腫が起こるメカニズムは、「血管内圧の上昇」「低蛋白血症による血漿膠質浸透圧低下」「ナトリウムの貯留」「リンパ管障害」の4つに分類されます。

 

また、全身に起こるものを全身性浮腫、局所的に起こるものを局所性浮腫といいます。それぞれの特徴は、表の通りです。

 

このほかに炎症では、炎症部位の血管透過性が亢進することによって浮腫が起こります。

 

表1浮腫の種類と特徴

浮腫の種類と特徴

 

血管内圧が上昇するとどうして浮腫が起きるの?

心臓が悪い人は、顔や手足に浮腫が出ることがあります。心臓が悪い、つまり心臓の収縮力が弱いと、「心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓」という血液の流れがスムーズにいきません。血液を車に例えるなら、静脈から心臓に入る辺りで車が渋滞している状態です。

 

すると、全身の静脈で血液がうっ滞し、それによって静脈の「血管内圧」が高まります。その結果、間質から血管へ水分を移動させる力が弱まって間質に水分が貯留し、浮腫が起こるのです。うっ血性心不全で起こる浮腫が、これに当たります。

 

また、血栓性静脈炎などのように、静脈の一部に閉塞がある時にも、同じようなメカニズムで浮腫が起こります。この時の浮腫は全身ではなく、静脈の閉塞部位よりも末梢側にみられます。

 

図4血管内圧の上昇と浮腫の関係

血管内圧の上昇と浮腫の関係

 

低蛋白血症による血漿膠質浸透圧低下って何ですか?

組織から血管内に水を移動させる力である血漿膠質浸透圧(用語解説参照)は、血漿中の蛋白質(主としてアルブミンという蛋白質)の濃度に左右されます。蛋白質の摂取量が減少すると、血漿中のアルブミンが減り、間質から血液に水を移動させる力が弱まり、間質に水分が溜まってしまうのです。

 

また、肝硬変の時にみられる浮腫、腹水にも、低蛋白血症による血漿膠質浸透圧の低下が関係しています。肝硬変では、肝細胞が徐々に減少するため、食物中の蛋白質をアルブミンに作り替える肝臓の働きが弱まり、血漿の蛋白質が減って浮腫や腹水が発生します。

 

ナトリウムが貯留するとどうして浮腫が起きるの?

血液中の水分やNa+は、糸球体で濾過され、一部が尿細管で再吸収された後、尿中に出ていきます。

 

糸球体濾過に障害(急性糸球体腎炎など)が起きたり、Na+や水の再吸収が増加すると、水分やNaが尿中に出ていかなくなり、結果として循環血液量が増えて血管内圧が上昇し、浮腫が起こります。

 

リンパ管障害があるとどうして浮腫が起きるの?

乳癌の手術で転移を防ぐために腋の下のリンパ節を摘出(てきしゅつ)すると、摘出した側の腕と手に浮腫が起こることがあります。

 

子宮癌で鼡径リンパ節を摘出した時は、摘出した側の下肢に浮腫が起きます。これがリンパ性浮腫です。

 

間質液の水分の一部はリンパ液としてリンパ管に吸収されているので、リンパの流れがうっ滞するとリンパ管への水の吸収が減少して間質に水分が溜まり、浮腫が発生するのです。

 

COLUMNセンチネルリンパ節ナビゲーションサージェリー

癌のリンパ液がいちばん最初に流入するリンパ節を、センチネルリンパ節といい、癌がリンパ行性転移を起こす時には、まずセンチネルリンパ節に転移します。センチネルとは「見張り」という意味です。

 

リンパ浮腫が発生する原因の1つが、癌の摘出手術に伴うリンパ節の郭清(摘出)です。最近では、手術中に癌のまわりに色素や放射性同位元素を注入することによってセンチネルリンパ節を見つけ出し、これに癌が転移しているかどうかを術中迅速診断(摘出した組織を凍らせて標本を作り、病理医が転移の有無を顕微鏡で診断する)によって確かめてから、切除範囲を決めるという方法を採用している病院が増えています。

 

今までは、どこまで癌が転移しているかを手術中に知ることができませんでした。そのため、広い範囲を切除せざるをえず、転移のない、つまり摘出する必要のないリンパ節も郭清の対象になっていました。今後、この方法が普及し、リンパ性浮腫で苦しむ患者さんが少しでも減るといいですね。

 

浮腫の観察のポイントは?

浮腫の観察のポイントは浮腫の原因を把握し、それに応じた対応を行うことが大切です。

 

まず、浮腫が出ている部位を観察します。一般に心性浮腫は、下肢に強く出ます。腎性浮腫のうち、急性糸球体腎炎では、顔に強く出ます。ネフローゼ症候群では、全身に強い浮腫をきたします。どの部位にどの程度の浮腫があるかを把握しましょう。

 

心性浮腫や肝性浮腫は、浮腫が出る前に原因になる疾患で治療を始めているケースがほとんどで、浮腫の発生を予測してかかわります。子どもに多い急性糸球体腎炎の際に起こる腎性浮腫の場合のように、浮腫を訴えて病院に来るケースもあります。

 

急性糸球体腎炎では数週間前に扁桃炎を起こしている可能性が高いので、「のどが腫れて熱が出ませんでしたか」と質問し、浮腫の原因となるような出来事がなかった、尋ねましょう。

 

また、浮腫があると、尿量が減少したり体重が増加したりするので、尿量や体重の変化なども尋ねます。

 

浮腫を緩和するためには?

浮腫を緩和するためには、まずは楽な姿勢を取ってもらいます。

 

急性糸球体腎炎の場合は、安静を保ちます。心性の場合は脚を少し持ち上げると血流の戻りがよくなり、浮腫が軽減します。ただし、心臓への負担が増さないように注意が必要です。

 

浮腫のある部位の皮膚は機械的な刺激に対して弱くなっているため、衣服の紐、袖口など、圧迫するものがあれば、緩めます。血行も悪く冷感を生じやすいので、室温や寝具などを調節して保温しましょう。

 

皮膚を清潔に保ち、リンパ性浮腫であればマッサージも有効です。

 

このほか、浮腫の原因によっては水分制限、塩分制限などの食事の管理、利尿薬を中心とする治療薬の服薬の管理なども必要になります。なお、浮腫の原因や強さによって処方される利尿薬の種類が違ってきます。どの利尿薬を服用しているか把握したうえで、服薬管理をしていくことが求められます。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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