帝王切開術を受ける産婦へのケア

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は帝王切開術を受ける産婦へのケアについて解説します。

 

岡山久代
筑波大学医学医療系教授

 

 

帝王切開とは

帝王切開の動向

帝王切開とは子宮壁を切開して胎児を娩出させる手術のことである。少子化に伴い分娩件数は減少傾向にあるが、分娩に占める帝王切開の割合は年々増加している。2017年の帝王切開の割合は、一般病院で25.8%、一般診療所で14.0%となっている1)

 

帝王切開の術式

子宮下部横切開
子宮下部を横に切開する方法でほとんどの症例で実施されている術式である。出血量、術後癒着や縫合不全の頻度は低い。
子宮体部横切開
子宮下部よりも上方を横に切開する方法である。前置胎盤の場合など、子宮下部を切開できない場合に用いられる。
子宮体部縦切開
子宮体部を縦に切開する方法で、古典的な帝王切開術である。子宮筋腫や前置胎盤、早産の場合で子宮下部横切開ができない場合に用いられる。子宮下部横切開とは対照的に出血量、術後癒着や縫合不全の頻度、次回妊娠時の子宮破裂の頻度が高くなる。

 

帝王切開の必要条件

・経腟分娩の方が母児にとってリスクが高いと考えられること。
・母体が手術に耐えうる全身状態であること。
・胎児が生存しており、胎外生活が可能であること。ただし、胎児、胎盤の存在が母体の生命に危険を及ぼす場合は、児の生存を問わない。

 

 

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帝王切開の緊急度とその適応

帝王切開の緊急度とその適応について、表1に示した。

 

表1 帝王切開の緊急度と適応

帝王切開の緊急度と適応

参考文献2)3)より作成

 

 

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帝王切開の流れ

手術当日までの流れ

術前検査

心電図検査:循環器の合併症がないかを確認する。
・胸部X 線撮影:心不全や肺水腫などの評価を行う。
血液検査貧血の有無、止血・凝固系、腎機能・肝機能、感染症の有無などを確認する。

 

手術同意書の準備

インフォームド・コンセントに基づいた説明と同意。
・帝王切開を必要とする母児の状態、多量出血と輸血に関すること、麻酔と手術に関すること、合併症のリスク、次回妊娠に関すること。

 

帝王切開予定妊婦を対象とした出産準備教育

・経腟分娩とは異なる点が多いため、帝王切開に特化した出産準備教育のニーズは高い。経過の説明、心身の準備などの指導を行う。

 

バースプランの作成

・帝王切開でもできることを提示し、産婦の希望・主体性を尊重する。
・夫・パートナーの手術立ち会い(施設による)、早期母子接触、母児同室、授乳方法の希望などを確認する。

 

術前オリエンテーション

・パスにそって当時~退院までの流れを説明する(表2)。
・児がNICUへ入院予定の場合には小児科スタッフによる産前訪問を行う。

 

表2 帝王切開を受ける患者のクリティカルパス

※横にスクロールしてご覧ください。

帝王切開を受ける患者のクリティカルパス

 

術前チェックリストの作成
・分娩予定日、胎児の推定体重、血液型、既往歴、合併症、手術歴、術前検査結果、最終飲食など、術前のチェックリストを作成する。

 

TOLACとは

帝王切開既往妊婦に対し経腟分娩を試行することをTrial of labor after cesarean delivery(TOLAC)といい、それが成功した結果をVaginal birth after cesarean delivery(VBAC)という。TOLAC では子宮破裂のリスクが高いため、あらかじめ実施による利益と危険性について、文章による説明と同意が必要である。

 

TOLACを行う際の条件4)

・児頭骨盤不均衡がないと判断される。
・緊急帝王切開および子宮破裂に対する緊急手術が可能である。
・既往帝王切開数が1回である。
・既往帝王切開術式が子宮下節横切開で術後経過が良好であった。
・子宮体部筋層まで達する手術既往あるいは子宮破裂の既往がない。

 

手術当日の流れ(予定帝王切開の場合)

産婦の準備

・当日は絶飲食とする。
・コンタクト・化粧をとる。シャワーと剃毛を行う(施設によっては前日に実施)。
・18G で静脈ルートを確保し、術前輸液を開始する。

 

手術室へ移送

・入室時間にあわせて車いすもしくは徒歩にて移送する。
・手術室到着後、チェックリストにそって引き継ぎを行う。

 

術後ベッドの準備
心電図モニター血圧計、酸素、輸液ポンプ、間欠的空気圧迫装置、蓄尿用の容器、電気毛布、病衣などを準備しておく(図1図2)。

 

図1 術後ベッドの準備

帝王切開術後ベッドの準備

図2 術後ベッドに必要な物品

帝王切開術後ベッドに必要な物品

 

新生児の準備

・搬送用クベースの温度設定と必要物品の確認をして手術室へ持参する。手術室では電源を入れて保温しておく。
・手術室内では新生児蘇生に必要な物品の準備を行う。
・出生直後の児の状態が安定していれば搬送用クベースにて新生児室へ移送されるので、新生児室では保育器、モニター、バイタルサイン測定、諸計測、ネームバンドの装着の準備をしておく。

 

 

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帝王切開の麻酔

帝王切開で行われる主な麻酔の特徴、利点と欠点・合併症について、表3に示した。

 

表3 帝王切開の麻酔

帝王切開の麻酔

参考文献2)3)より作成

 

 

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帝王切開の合併症と看護問題

帝王切開による合併症と看護問題について、表4に示した。

 

表4 帝王切開の合併症と看護問題

帝王切開の合併症と看護問題

 

深部静脈血栓症(DVT)5)

量深部静脈で血栓形成が起こったもの。妊娠中は、血液凝固能の亢進や増大した子宮による下大静脈・骨盤内静脈の圧迫・還流の停滞によりDVTが起こりやすい。帝王切開では安静臥床による血流の停滞、手術操作による静脈壁の損傷が加わるため、発症頻度が高くなる。予防として、早期離床、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、低分子ヘパリン療法が行われる。

 

 

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帝王切開術後(主に術直後~当日)の管理・看護のポイント

循環状態:血圧・脈拍のチェック

・術後帰室後2時間までは30分ごとに、帰室後2時間以降4時間までは60分ごとに、帰室後4時間以降は3~4時間ごとに評価する。
収縮期血圧:90~140mmHg
脈拍:60回~100回/分
・SI(ショックインデックス):≦ 1
不整脈の有無

 

呼吸状態

呼吸数:10~20回/分
・リズム不整、呼吸苦の有無、チアノーゼの有無
・パルスオキシメータ:SpO2≧95%

 

体温

皮膚温:36.0~38.0℃
・震え(シバリング)の有無
・術中は低体温に陥りやすい。帰室時には電気毛布の準備をしておく。

 

意識レベル

・麻酔からの覚醒状態
・下肢・上肢の感覚や嘔気・嘔吐の有無

 

IN-OUT バランス

・実際の出血量の把握は難しいが、補液量や尿量を含めた出納バランスの評価は重要。バイタルサインとあわせて評価する。
・尿量0.5~1.0mL/Kg/時以下が2~3時間続いた場合、循環不全・腎機能低下を考えて対処する。バイタルサイン、創部・腹腔内・子宮内からの出血、尿の性状・比重、発汗などの不感蒸泄の評価、膀胱留置カテーテルの屈曲の有無、カテーテル内の尿の色調確認(血尿、混濁など)を行う。

 

子宮底の観察

・痛みに配慮し、形を探りながら優しく触る。
・輪状マッサージを行う場合も同様である。

 

子宮底の高さの比較

帝王切開では、経腟分娩と比較して子宮復古が遅れる(表5)。離床が遅れた場合には、悪露の排泄が停滞しやすく、授乳回数が少ない場合にはオキシトシンが分泌されにくい。

 

表5 帝王切開術後の子宮底の高さの比較

帝王切開術後の子宮底の高さの比較

 

悪露の量の評価

・1時間で50g以上の出血は収縮不良を疑う。
・術後の安静や頚管拡大不十分のため、子宮腔内に悪露が貯留し排泄されないことがある。体位変換を促す。

 

創部の管理

・術後は滅菌ドレッシング材にて被覆し、その上から創部の状態を観察する。
・出血があればマーキングする。

 

腸蠕動の観察

腸蠕動音、排ガス、腹痛、嘔気・嘔吐の有無
・術後の生理的腸管麻痺は24~48時間で改善するが、48時間以上経過しても腹鳴や排ガスのない場合は、重篤なイレウスに移行する可能性が高まる。
腸蠕動を促進するためには、温罨法を用いる。子宮復古促進のために冷罨法(アイスノンなどの冷却枕)を用いる場合には、慎重に行う。

 

 

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引用・参考文献

1)厚生労働省:平成29年(2017)医療施設(静態・動態) 調査・病院報告の概況、表20、分娩件数の年次推移
2)村越毅:母体適応・胎児適応、母児のリスクを鑑みた実施時期、術前・術中・術後のアセスメント&ケアを時系列で網羅! 帝王切開バイブル、ペリネイタルケア2018年新春増刊(通巻485号)、p. 8~15、メディカ出版、2018
3)角倉弘行:帝王切開の術前管理、産科麻酔ポケットマニュアル、p.16~33、羊土社、2012
4)日本産科婦人科学会/ 日本産婦人科医会編集・監修:CQ403 帝王切開既往妊婦が経腟分娩(TOLAC,trial of labor after cesarean delivery)を希望した場合は?、産婦人科診療ガイドライン産科編2017、p.250~253、2017
5)日本産科婦人科学会/ 日本産婦人科医会編集・監修:CQ004-2 分娩後の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防は?、産婦人科診療ガイドライン産科編2017、p.15~19、2017

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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