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2017年01月24日

急性心筋梗塞【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【1】

来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。

→急性心筋梗塞【ケア編】はこちら

急性心筋梗塞

 

急性心筋梗塞_持続性の胸痛(数分で最強となる)_胸部不快感_心窩部痛_冷汗 _フラフラ感_呼吸困難_起坐呼吸_喘鳴_吐き気_嘔吐

 

辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

〈目次〉

 

急性心筋梗塞ってどんな疾患?

急性心筋梗塞は、心筋を栄養する「冠動脈」が突然「閉塞」することで血流が途絶し、その血管の支配する心筋が壊死に陥ってしまう疾患です。
多くの場合、血管の閉塞は冠動脈の中で、動脈硬化プラーク(粥腫〈じゅくしゅ〉)のある場所で血栓が詰まることによって生じます。

急性心筋梗塞は全世界で最も死亡数の多い疾患です(1)
治療法の進歩と予防医学の発達・確立によって、その死亡率は1980年からの20年間で半分以下になりました。しかし、急性心筋梗塞による突然死を含めて、冠動脈疾患の発作が起こった患者は、1年以内に37%が死亡するといわれています。

急性心筋梗塞では、胸痛などの心筋虚血症状、心電図異常が見られ、心筋逸脱酵素の上昇、画像上心筋壁運動異常の存在で診断されます。

 

急性心筋梗塞のリスクファクター(危険因子)

冠動脈疾患患者の多くに、以下のようなリスクファクターがあります。

これらのリスクファクターのうち、肥満、脂質異常、高血圧、高血糖の4つの因子をまとめたものがメタボリック症候群表1)と言われているものです。

表1メタボリック症候群

 腹囲 男性≧85cm 女性≧90cmの人で、以下のうち2つ以上を満たす場合をいう

 

また、日本では、糖尿病と喫煙が急性心筋梗塞を発症する高いリスクファクターとして知られています。喫煙は冠動脈疾患の発症リスクです。ただし、年々喫煙率は低下(2014年全人口の19.3%で男性32.1%、女性8.5%)しています(2)禁煙するとその1年後にはリスクが50%低下するといわれています。

 

急性心筋梗塞の予防

上記のようなリスクファクターを減少させることが冠動脈疾患の発症を遅らせたり、低下させることになります

脂質異常に対しては、スタチンと呼ばれる、HMG-CoA還元酵素阻害薬を服用する薬物療法があります。それにより、血液中のコレステロール値を低下させ、冠動脈疾患の発症を低下させます。この薬は冠動脈疾患を発症してからでも効果があり、再発のリスクも減らします。また、肥満や喫煙習慣の改善も予防に効果があります。

 

急性心筋梗塞の症状

  • 突然出現、数分で最強となり30分以上続く
  • 胸痛・胸部または上腹部不快感
  • 1/3は無痛性
  • 重症例:ショック・起坐呼吸

突然起こる胸痛や胸部不快感が代表的な症状ですが、心窩部痛のような腹部症状を訴えて来院する患者もいます。痛みは数分で最も強くなり、症状は長時間(30分以上)持続し、痛みのための冷汗もよく見られます。胸痛発作は明け方(早朝)に生じることが多いといわれています。

ただし、急性心筋梗塞患者の1/3は無痛性で、特に高齢者、糖尿病患者、女性に多く見られます
また、心筋梗塞の範囲が広範になると重症です。この場合、患者はショックを呈し、起坐呼吸や低血圧、呼吸困難といった症状が出現します。

 

Killip分類による重症度評価(表2

急性心筋梗塞の重症度は、心音および呼吸音の聴診所見によるKillip(キリップ)分類で評価することができます。

表2Killip分類

Killip分類_キリップ分類

 

Killip分類はⅠ~Ⅳ群に分類されます。
Ⅰ群湿性ラ音および心音におけるⅢ音が聞こえない状態、つまり「異常なし」という状態です。
Ⅱ群は湿性ラ音が聞こえますが、聴取領域が肺野の1/3であるか、心音におけるⅢ音が聞こえる状態で、軽度~中等度の心不全の状態です。
Ⅲ群は肺野の1/3以上で湿性ラ音が聞こえており、重症心不全もしくは肺水腫の状態です。
Ⅳ群は全肺野で湿性ラ音聴取され、低血圧チアノーゼなどの症状が出ており、心原性ショックを呈している状態です。

 

急性心筋梗塞の検査

バイオマーカー検査

急性心筋梗塞において心筋のバイオマーカー検査は重要です。これにはCK-MB(クレアチニンキナーゼの心筋型)およびトロポニンI(通常感度、高感度)があります。

CK-MBと通常感度トロポニンI検査は心筋梗塞の発症後4〜6時間で異常値を示します。 高感度型トロポニンI検査は通常のトロポニンI検査の10~100倍の感度で、心筋梗塞の発症から3時間で異常値を示します。

トロポニンI検査は急性心筋梗塞のバイオマーカーとして一般的ですが、5〜7日間高値が持続します。このため、初回の心筋梗塞から1週間以内に再梗塞を発症した場合の診断には、トロポニンI検査は役立ちません。これに対してCK-MBは1〜2日で低下してくるため、再梗塞の診断に役立ちます

心電図

通常、急性心筋梗塞の心電図ではST上昇図1が見られますが、超急性期にはST上昇の前に尖鋭T波図2が見られることがあります。

 

図1ST上昇が見られる急性心筋梗塞(前壁中隔)の心電図

急性心筋梗塞の心電図_前壁中隔_ST上昇

V1V5にST上昇が見られます。

 

図2尖鋭T波が見られる急性心筋梗塞(前壁中隔)の心電図

急性心筋梗塞の心電図_前壁中隔_超早期の尖鋭T波

V2V4に超早期の尖鋭T波が見られます。

 

心電図変化の起こる順は一般的に①尖鋭T波→②ST上昇→③Q波出現→④T波陰転となっています。これらの変化は発症後数時間〜数日で完成します。しかし、およそ1/3の患者にはQ波は出現しません。また、新たに出現した左脚ブロックはST上昇型の急性心筋梗塞と考えて差し支えありません。

超音波検査(心エコー)

心臓超音波検査はいつでも検査でき、情報量も多いことから極めて有用です。エコー所見から心臓のどの部位の壁運動が低下しているかを知ることができます。
心電図でST上昇があり、心エコーで心電図に相当する部位の壁運動が低下していたら、急性心筋梗塞の可能性が非常に高いといえます。また弁の逆流や、心室中隔穿孔、心嚢液の貯留なども非侵襲的に知ることができます。

 

急性心筋梗塞の処置・治療法

心筋梗塞の心電図でSTが上昇するというのは、冠動脈に急性の閉塞が起こっていることを示します。つまり、STが上昇した持続する胸痛発作が出た場合は、迅速に閉塞した血管を再開通させる治療を開始する必要があります。

行われる治療は、経皮的冠動脈インターベンション(Percutaneous Coronary Intervention;PCI)が標準的な治療です。そのほかに必要な治療は鎮痛、薬物療法などがありますが、注意すべきは、これらの治療は順に行うのではなく、「同時にできるだけ早く行う」ということです。

再灌流療法(PCI)

PCIを行う場合、救急外来到着からカテーテル治療開始まで(Door to balloon time;DTBT)が90分以内を目標とします。
搬送された病院がPCIを行えない施設の場合、最初の病院到着からPCIを行える施設へ転送し、120分以内に治療を行うことができれば、予後は改善するといわれています。

抗血小板療法

急性心筋梗塞は、動脈硬化プラークのある場所に血栓が詰まる疾患です。血栓形成は最初に血小板が凝集することから始まるので、抗血小板療法が重要な治療法となります。
アスピリンは消炎鎮痛剤ですが、抗血小板作用を有するため、急性心筋梗塞患者全員に投与されます。たとえこれまでアスピリンを服薬していた患者でも、さらにアスピリン投与が必要となります。

また、P2Y12阻害薬(クロピドグレルなど)はアスピリンと併用で全例に投与されます。これをDouble Antiplatelet Therapy(DAPT)と呼びます。クロピドグレルなどは2週間以上投与され、1年間投与するケースもあります。

鎮痛

心筋梗塞による痛みを軽減させる鎮痛は、痛みにより発生する交感神経反応(頻脈・高血圧など)を軽減させます。これによって心臓への負荷増大を少なくし、心不全の出現を減らすことができます。また不整脈の発現も抑えます。急性心筋梗塞において鎮痛は重要です。

鎮痛剤としてはまずニトログリセリン舌下錠を投与します。これで鎮痛が得られなければモルヒネのような働きのあるオピオイドが使用されます。オピオイドが使用される理由は、オピオイドによる鎮痛効果に加え、末梢血管が軽度拡張することによって心臓への負荷を減らし、肺うっ血を軽減させるためです。

逆に、鎮痛薬として使用してはならないのは、ジクロフェナク、ロキソプロフェンなどの非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)です。この薬剤は使用すると血管収縮を来すため、心臓への負荷が増大します。急性心筋梗塞の痛みに対してNSAIDsを使用することで、死亡率が上昇し、心不全や急性腎障害を発症する率が増えることが分かっています。

酸素投与

酸素投与は患者の経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が低下している場合に投与が必要です。

安静

基本的に発症後24時間は歩行などの負荷は避けた方が良く、安静が必要です。ただし、PCI後に心筋バイオマーカーの低下、心電図変化が基線に戻る、胸痛発作が消失など、症状の改善が早い場合にはこの限りではありません。その後は段階的に離床を進めていくべきです。

その他の薬剤

血栓溶解療法

血栓溶解療法は発症後3時間以内に施行すれば死亡率を半分に減らすことができます、PCIを行う方が優れていることが分かっています。

ニトログリセリン

鎮痛と血圧低下作用、肺水腫治療に使用されますが、舌下錠以外はルーチンに使われる薬剤ではありません。

ACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)

短期〜長期投与で心筋梗塞の梗塞範囲が広い症例、左室区出率<40%の症例、心不全徴候が明らかな症例に有効な薬剤です。

β遮断薬

心筋梗塞発症24時間以内に投与される場合があります。

その他、アルドステロン拮抗薬やカルシウム拮抗薬が投与される場合もあります。

急性心筋梗塞の合併症

不整脈

不整脈心筋梗塞発症直後より発生する可能性があります。特に心室性不整脈は心室頻拍や心室細動を含めており、致命的となるため、積極的な抗不整脈薬の投与が必要となります。

  1. 洞性徐脈(アトロピン)
  2. 上室性頻脈(βブロッカー、Ca++ブロッカー、アミオダロン)
  3. 心室性不整脈(リドカイン、プロカインアミド、アミオダロン)
  4. 伝導障害(一次ペーシングを考慮することあり)

心筋障害

以下の①②は心筋梗塞発症早期に、③④⑤は梗塞後2〜7日に、⑥は梗塞後4〜8週で、⑦は梗塞後6週以内に見られます。

  1. 急性左心不全
  2. 低血圧、ショック
  3. 心室中隔穿孔
  4. 心破裂
  5. 心外膜炎
  6. 左室瘤(広範前壁梗塞に見られる)
  7. 心室内血栓(広範前壁梗塞に見られる)

 

急性心筋梗塞は再開通までの時間が一刻を争うことを肝に銘じ、急性心筋梗塞を疑う患者を必ずスクリーニングできるようにしてほしいと思います。
筆者の施設(日赤和歌山医療センター)では、「胸痛発作+心電図ST上昇=直ちに循環器内科コール(同時に採血)」という取り決めがあります。

救急外来に胸痛を訴える患者が来院すると分かった時点で、急性心筋梗塞に対する準備(表3)を行います。

表3救急外来での急性心筋梗塞に対する準備

 

バイタルサインは頻繁にチェックが必要です。急激に血圧が低下したり、徐脈となる可能性があるので、救急外来到着時のバイタルサインはその後の変化を知る上で重要です。
また、末梢チアノーゼや末梢冷感がある場合には心拍出量が少ない(=ショックに移行する可能性がある)と考えます。聴診所見で湿性ラ音と心音のⅢ音はKillip分類のところで述べたように、心不全を診断する上で重要です。

 

最も避けたい病態は、致死的な不整脈です。特に発症から数時間以内に突然VF(心室細動)や完全房室ブロック(高度徐脈)を来すこともあります。
胸痛発作の患者が来院したときには、不整脈が出現しないかどうかを常に意識しつつ、必要な処置に当たる必要があります。必要な薬剤(表4)は心肺蘇生セット(救急カート)に常備しておきます。

表4救急外来で準備するべき薬剤

  • リドカイン
  • プロカイン
  • アミオダロン
  • アトロピン
  • ランジオロール
  • ジルチアゼム
  • ドパミン
  • ノルアドレナリン
  • アドレナリン

 

緊急PCIが迅速に行えるように、循環器内科医師、放射線科、集中治療室への連絡体制をあらかじめ決めておくことが必要です。

 



[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 看護副部長


[Design]
高瀬羽衣子


 

著作権について

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