甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に関するQ&A

 

『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』より転載。

 

今回は「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)」に関するQ&Aです。

 

山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長

 

〈目次〉

 

甲状腺機能亢進症ってどんな病気?

甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン:T3、サイロキシン:T4)が過剰に合成・分泌され、甲状腺機能が亢進した状態です。甲状腺機能亢進症は、バセドウ病、プランマー病、下垂体腺腫などにより起こります。通常、甲状腺機能亢進症をバセドウ病といいます。

 

バセドウ病って何が原因なの?

バセドウ病の原因は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)受容体に結合する自己抗体(TSH受容体抗体:TRAb)が産生されることです。

 

TSHは下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモンです。血中の甲状腺ホルモンの濃度が低下すると、視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が分泌され、TSHが分泌されます。分泌されたTSHは、甲状腺細胞の表面に存在するTSH受容体に結合し、甲状腺細胞を刺激して甲状腺ホルモンを分泌させます(図1)。

 

図1甲状線ホルモンの分泌調節

甲状線ホルモンの分泌調節

 

ところが、TRAbが産生されると、本来TSHが結合する受容体にTRAbが結合します。すると、甲状腺細胞は常に刺激され、甲状腺ホルモンの分泌が亢進するのです。TRAbは自己免疫機序により産生されます。TRAbが産生される原因は、まだわかっていません。

 

MEMOネガティブフィードバックによる甲状腺ホルモンの調節

血中の甲状腺ホルモンT3、T4の濃度が上昇するとTRH、TSHの分泌量が減少し、血中の甲状腺ホルモンT3、T4の濃度が低下するとTRH、TSHの分泌量が増加する調節システムをネガティブフィードバックという。

 

MEMO甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモンの基準値

T3:0.80〜1.60mg/mL
FT3:2.5〜4.5pg/mL
T4:6.10〜12.4μg/dL
FT4:0.7〜1.7ng/mL
TSH:0.50〜5.0μU/mL    である。

 

バセドウ病ではどんな症状が出現するの?

甲状腺ホルモンは、全身の代謝の調整にかかわっています。

 

そのため、分泌が亢進すると全身代謝が促進され、その結果、①酸素消費量が増えるために頻脈になる、②消費エネルギーが摂取エネルギーを上まわるため、食欲は亢進するのに体重は減少する、という症状が出現します。また、暑がり、発汗過多、全身倦怠感、軟便・下痢、手指の振戦、動悸、などが現れます。

 

表1甲状腺機能異常に見られるおもな症状

甲状腺機能異常に見られるおもな症状

 

バセドウ病に特徴的な検査所見は?

バセドウ病の検査所見の特徴は、血液検査でのFT3、FT4の上昇と、血漿TSHの低下です。

 

FT3、FT4のFはfreeの頭文字で、FT3は遊離トリヨードサイロニン、FT4は遊離サイロキシンのことです。甲状腺ホルモンは、サイロキシン結合グロブリンなどに結合した結合型と、結合していない遊離型があります。甲状腺ホルモンの作用を発揮するのは遊離型なので、FT3、FT4を測定します。

 

血漿TSHは、FT3、FT4の値が上昇すると低下し、逆にFT3、FT4の値が低下すると上昇します。

 

バセドウ病にはどんな治療が行われるの?

バセドウ病に対する治療には、薬物療法、アイソトープ療法、手術療法があります。

 

薬物療法では、甲状腺ホルモンの合成を抑制する抗甲状腺薬が与薬されます。

 

アイソトープ療法は、放射線ヨードを服用し、甲状腺の組織を破壊する療法です。妊婦、授乳中の褥婦(じょくふ)には禁忌です。若年者にもあまり勧められません。

 

手術療法は、甲状腺の組織を一部切除します。

 

いずれも対症療法なので、再発することがあります。

 

バセドウ病の看護のポイントは?

バセドウ病の患者は全身の代謝が亢進しているため、安静を保ち、心身のエネルギーの消耗を最小限にするよう援助します。

 

また、甲状腺クリーゼや無顆粒球症などの異常の早期発見に努めます。甲状腺クリーゼは、甲状腺機能亢進症を治療しなかったり、治療が不十分な場合に起こるきわめて悪化した状態で、高熱、頻脈、多量の発汗、下痢、精神混乱などをきたします。そのため、バイタルサインの観察が大切です。

 

無顆粒球症は、抗甲状腺薬の副作用で、約500人に1人の割合で出現します。対応が遅れると危険な状態になるため、顆粒球数の測定が必要です。

 

MEMO無顆粒球症

末梢血好中球数が500個/㎣以下の場合を無顆粒球症という。
メチマゾール(商品名メルカゾール)などの原因となる薬物の服用後、数日〜数週間で発症。あらゆる年齢に発症し、男女差はみられない。
発熱、頸部リンパ節腫脹、扁桃炎、壊死性咽頭炎、悪寒、頭痛筋肉痛が出現する。皮膚発疹や水疱形成がみられることもある。重症例では意識障害黄疸および血圧低下などのショック症状を認める。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』 (監修)山田 幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版

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