脳卒中【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【20】

来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。

 

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脳卒中

 

脳卒中の症状_脳卒中の主訴

 

山田裕樹
日本赤十字社和歌山医療センター集中治療部

 

〈目次〉

 

脳卒中ってどんな疾患?

脳卒中とは、「脳の一部が虚血あるいは出血により一過性または持続性に障害を受けるか、脳の血管が病理的変化により一時的に侵される場合、またはこの両者が混在するすべての疾患」と定義され、「脳血管障害」とも呼ばれます。

 

日本では、毎年118万人(2014年)もの人々が罹患し、年間11万人(2016年)が死亡しています12卒中は、後遺症を残しやすい点でも社会的損失の大きな疾患群と言えます。

 

臨床病型としては、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞に分類されており、障害された脳血管の部位によりさまざまな症状を呈します(図1)。脳卒中の中では、脳梗塞一過性脳虚血発作〈TIA〉を含む)が最多で約6割、次いで脳出血が約2割、くも膜下出血が約1割をそれぞれ占めています。

 

図1脳卒中の分類

脳卒中の分類_脳出血_くも膜下出血_脳梗塞_脳血栓症_脳塞栓症_一過性脳虚血発作(TIA)

 

脳卒中の障害血管と主要徴候(図2

 

図2脳卒中の障害血管となりやすい脳の動脈

脳卒中の障害血管となりやすい脳の動脈_脳底動脈_外頸動脈_内頸動脈_総頸動脈_椎骨動脈_後大脳動脈_中大脳動脈_前大脳動脈

 

内頸動脈

中大脳動脈閉塞の症状、同側の視力障害など、症状は多彩にあります。また、症状がない(無症候)場合もあります。

 

中大脳動脈

中大脳動脈の障害された血管と対側の運動障害・感覚障害、同名半盲、対側への共同偏視意識障害、失語あるいは病態失認などが見られます。

 

前大脳動脈

前大脳動脈の傷害された血管と対側の運動障害(特に下肢)・感覚障害、離断症候群(左手の失行、失書)、精神機能低下、自律神経障害などが見られます。

 

椎骨脳底動脈系

椎骨動脈

延髄外側症候群(めまい、嚥下困難、患側の小脳症状・ホルナー症候群、病側顔面と対側上下肢・体幹の温痛覚の低下)などが見られます。また、無症候のこともあります。

 

脳底動脈

主幹部の閉塞の場合は、意識障害、瞳孔不同、縮瞳、共同偏視、水平性または垂直性眼振、顔面麻痺、難聴、四肢麻痺、両側深部反射亢進などが見られます。

 

上小脳動脈の閉塞の場合は、病側の小脳失調・不随意運動ホルナー症候群、対側の顔面を含む半身の感覚障害・聴力障害などが見られます。

 

前下小脳動脈の閉塞の場合は、病側の小脳失調症・顔面の温痛覚障害、難聴、末梢性顔面神経麻痺ホルナー症候群、対側の顔面を除く半身の温痛覚障害などが見られます。

 

傍正中視床動脈 の閉塞の場合は、垂直性注視麻痺、動眼神経麻痺、無動無言、意識障害、行動異常などが見られます。

 

後大脳動脈

同名半盲1/4半盲、失読・失計算(優位半球)、相貌失認・地誌的障害(劣位半球)、視床症候群(対側の運動・感覚障害、疼痛、不随意運動)、中脳症候群、側頭葉症候群(記憶障害

 

memo

ホルナー症候群

交感神経が障害されることで起こる疾患です。縮瞳、眼瞼下垂(眼裂狭小)、眼球陥凹、病側顔面の発汗低下・紅潮などが見られます。

 

小脳失調症

小脳が正常に働かない状態で、協調運動に障害が起こります。まっすぐに歩けない、字がうまく書けない、手足の動きがぎこちなくなるなどの症状が見られます。

 

同名半盲・1/4半盲

両眼の右または左のどちらか同じ側の視野が半分欠損する症状。1/4半盲は、視野が1/4欠損している状態です。

 

地誌的障害

地理や場所についての障害で、よく知っている場所で道に迷ったり、よく知っている場所の地図が書けなかったりします。

 

脳卒中を疑う場合の初期対応

脳卒中の初期対応は、ほかの重篤な疾患と同様で、気道確保、呼吸状態、循環動態の評価と安定化を図り、その後、神経学的評価を行います。来院後に病状が急速に進行する可能性があるため、増悪時に対応できるよう準備しておきましょう。

 

また、脳卒中以外の疾患との鑑別のため、血糖、電解質、凝固機能、生化学検査などを行います。脳卒中では心疾患を合併する頻度が高く、心筋逸脱酵素の測定や12誘導心電図はすべての脳卒中患者で行うべきとされています。

 

診断(あるいは除外診断)において、CTやMRIが果たす役割は大きく、救急診療において欠かせないツールです。脳出血やくも膜下出血を疑う場合はCTを撮影します。脳梗塞を疑う場合でも、出血性病変がないことを確認するために、まずCTを撮影することがあります。脳梗塞を疑い、患者の状態などが可能であればMRIの拡散強調像を撮影します。臨床経過からくも膜下出血を疑うにもかかわらず、CTで異常所見を認めない場合は、MRIや髄液検査が有用です。

 

意識障害や片麻痺を認めるのは脳血管障害だけではありません表1)。脳卒中以外に見逃すことで重篤な転帰となる疾患も含まれているため、注意が必要です。

 

表1脳血管障害と鑑別すべき疾患・状態

脳血管障害と鑑別すべき疾患・状態_前庭機能障害_てんかん_急性脳症_頸椎病変_低血糖_低血圧

 

脳卒中急性期は、専従の専門医療スタッフが持続したモニター監視下での治療と早期からのリハビリテーションを計画的かつ組織的に行う脳卒中専門病棟(Stroke Care Unit;SCU)で治療することが推奨されています。

 

脳卒中の急性期治療

脳梗塞

脳梗塞(図3)は、脳卒中で最多の病型であり、全体の60%を占めます。

 

図3脳梗塞のMRI

脳梗塞のMRI

 

脳実質内小動脈病変が原因のラクナ梗塞と、頸部~頭蓋内の比較的大きな動脈のアテローム硬化が原因のアテローム血栓性脳梗塞、心疾患による心原性脳塞栓症、およびその他に分類されます(図4)。

 

図4脳梗塞の分類

脳梗塞の分類_アテローム血栓性脳梗塞_ラクナ梗塞_心原性脳梗塞栓症

 

梗塞像は、画像診断においてCTでは発症後、1~3時間以上経過して初めて淡い低吸収域として検出できます。一方、MRIでは、拡散強調画像によって発症30分後から高信号域として検出でき、病型診断、治療方針を考える上で有用です。

 

脳梗塞の内科的治療

発症4.5時間以内の超急性期では、脳梗塞の病型にかかわらず、組織プラスミノゲンアクティベータであるアルテプラーゼ(rt-PA)の投与を考慮します。
症候性頭蓋内出血を合併する可能性があるため、頭部CTで早期虚血変化(early CT sign)が広範囲でないことなど、アルテプラーゼの使用が禁忌に該当しないことを必ずチェックします(表2)。

 

表2アルテプラーゼの投与禁忌の項目

アルテプラーゼの投与禁忌の項目_t-PA投与禁忌

 

1つでも当てはまった場合は、アルテプラーゼの使用は禁忌となります。
文献3参照

 

発症48時間以内の脳梗塞では、アスピリン経口投与による抗血小板療法が推奨されています。そのほか、アルガトロバン水和物、オザグレルナトリウム、ヘパリン、浸透圧利尿薬(高張グリセロール、マンニトール)を使用することもあります。

 

脳梗塞の外科的治療

中大脳動脈領域を含む一側大脳半球梗塞では、発症後2、3日中に脳浮腫が生じます。そのため、広範な虚血性病変により重篤な神経症状を認める場合には、生命予後/神経予後の改善を期待して減圧開頭術が考慮されます。小脳梗塞では脳幹部圧迫によって重症の意識障害を呈する場合には減圧開頭術、水頭症を合併し中等度以上の意識障害を認める場合に脳室ドレナージ術を考慮します。いずれの場合においても、脳ヘルニア所見(意識障害、散瞳、高血圧、徐脈、過呼吸/失調性呼吸)の有無に注意します。

 

脳血管内治療

内頸動脈系の近位頭蓋内動脈閉塞を伴い、広汎な虚血性病変を認めない発症早期の脳梗塞患者では、発症よりおおむね6時間以内に脳血管内治療を実施できる施設において発症4.5時間以内のrt-PA静脈内投与に加え、必要に応じてステント型血栓回収器具を用いた再開通療法を行うことが推奨されています。

 

memo一過性脳虚血発作(TIA)について

米国国立神経疾患・脳卒中研究所によれば、TIAとは、「通常、単一の脳血管灌流領域における局所神経症状を呈する短時間の発作で、脳虚血以外の原因が考えにくいもの」と、定義されています。TIA発症後、約1/3の症例が脳梗塞に移行すると言われています。

 

発症から48時間以内のTIA急性期は、脳梗塞と同様にアスピリン内服を行います。非心原性TIAでは、非心原性脳梗塞急性期に準じた治療を行います。心原性TIAでは、ワルファリンによる抗凝固療法が有効とされています。

 

脳出血

脳出血の好発部位は、被殻出血が約40%、視床出血が約30%、橋出血が約10%、小脳出血が約10%と報告されています。CTでは、それらの部位に高吸収域として認められます(図5)。

 

図5脳出血のCT画像

脳出血のCT画像

 

脳出血の内科的治療

脳出血において、血圧上昇は再出血の増悪因子であり、適正な血圧管理が必要です。 収縮期血圧140mmHgを目標として、カルシウム拮抗薬を静注します。
頭蓋内圧亢進例では、30度の頭部挙上を行うことがありますが、血圧低下に注意しましょう。浸透圧利尿薬(高張グリセロール、マンニトール)を投与することもあります。

 

血小板が高度に減少している場合や抗血小板薬を内服している場合には、血小板輸血を考慮します。凝固因子欠乏例や、抗凝固薬の内服例では新鮮凍結血漿輸血、プロトロンビン複合体(保険適応外)、ビタミンKなどの投与を試みます。

 

脳出血の外科的治療

脳出血の外科的治療では、開頭血腫除去術や脳室ドレナージ術を施行する場合があります。しかし、多くの脳出血では外科的治療の有用性は不確実です。例外的に、神経症状が悪化した小脳出血、あるいは、脳室圧迫による水頭症を伴うか、脳幹を圧迫する小脳出血については、できるだけ速やかに血腫除去を考慮します。

 

くも膜下出血

くも膜下出血の頭部CTでは、くも膜下腔に高吸収域を認めます(図6)。

 

図6くも膜下出血のCT画像

くも膜下出血のCT画像

 

また、続発する水頭症によって脳室拡大を伴うことや、血管攣縮によって浮腫や梗塞像(低吸収域)を認めることがあります。また、くも膜下出血では、原因となる動脈瘤や動静脈奇形の検索のために脳血管撮影を行います。

 

高血圧に対して降圧薬を使用するだけでなく、神経原性肺水腫、たこつぼ型心筋症などの合併に注意します。人工呼吸が必要な場合に備えて準備しておきましょう。脳動脈瘤からの再出血は早期に多く、発症直後は、十分な鎮痛、鎮静を行います。頭蓋内圧亢進例では、30度の頭部挙上や浸透圧利尿薬(高張グリセロール、マンニトール)を投与することがあります。

 

くも膜下出血の外科的治療

脳動脈瘤破裂例では、再出血予防のために開頭クリッピング術、あるいは血管内治療(コイル塞栓術)を行います。開頭クリッピング術か血管内治療か、どちらが適切かは、重症度や年齢、全身合併症の有無、ならびに動脈瘤の局在や形状などにより、症例ごとに検討します。

 

 

脳卒中は、呼吸、循環、中枢神経のいずれにも重篤な合併症を生じ得る疾患です。来院後に病状が急速に進行する可能性があるため、意識レベルや脳ヘルニア所見(散瞳、高血圧、徐脈、過呼吸/失調性呼吸)の有無、バイタルサインを常にチェックして、増悪時に対応できるよう準備しておきましょう。

 


[参考文献] 

 

 


[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長

 


[Design]
高瀬羽衣子

 


 

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