生化学検査(肝機能)|検体検査(血液検査)

『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、肝機能検査について解説します。

 

高木 康
昭和大学医学部教授

 

〈目次〉

 

生化学検査(肝機能)とはどんな検査か

生化学検査(肝機能)とは血液の成分を検査して、肝臓の機能が低下しているかどうかを調べる検査である。

 

生化学検査(肝機能)の目的

肝臓は生体内物質代謝の中心であり、種々の物質を合成・分解している。この肝臓の合成能・代謝能・分泌能を検査する。

 

  1. 合成・分解のためには多くの酵素が必要であり、これらが肝障害により血中に逸脱・遊出したり、作られなくなる。また、胆汁がうっ滞することにより、逆流して上昇する。
  2. 逸脱・遊出する酵素(AST[GOT]、ALT[GPT]、LDH)は肝細胞障害を反映する。
  3. 胆汁中に排泄される酵素(ALP、γ-GT)やビリルビンは胆汁うっ滞の指標となる。
  4. 肝で合成されている酵素(ChE、LCAT)蛋白合成能を反映する(表1表5)。

表1生化学検査(肝機能)の基準値

生化学検査(肝機能)の基準値

 

日本臨床検査標準化協議会基準範囲共用化委員会:共用基準範囲2014
※BML総合検査案内
 D-BILはJCCLSで基準範囲が設定されていないので、BMLの基準値を載せた。

 

表2赤血球血漿間の成分の比率

血球と血漿間の成分の比率

 

表3肝機能検査法の選択基準(2006年)

肝機能検査法の選択基準(2006年)

 

◎:必須 ○:できるだけ行う
※HBs抗原、HCV抗体の測定を同時に行うことが望ましい

 

表4必要に応じて行う検査

必要に応じて行う検査

 

表5肝機能検査の異常値の程度と疾患の関係

肝機能検査の異常値の程度と疾患の関係

 

生化学検査(肝機能)の実際

現在は多くの検査室では自動分析装置で測定されている(表1表5)。

 

AST(GOT)、ALT(GPT)、LDH

  • これらの酵素は肝細胞になんらかの障害が起こったときに肝細胞から逸脱してくる酵素である。
  • 肝細胞障害はALTの特異性が最も高い。

 

ALP、γ-GT

  • これらの酵素は胆汁うっ滞による逆流ばかりでなく、うっ滞刺激により胆管上皮内で合成が亢進するため、胆汁うっ滞では異常高値となる。
  • γ-GTはアルコール性肝障害の特異的な指標である。
  • ALPは肝臓・胆道系以外にも骨・胎盤・小腸など人体に広く分布しているため、成長期の子供や妊婦で著しい上昇が見られる。

〈注意〉

 

  • 胆汁うっ滞ではビリルビンも上昇するが、ビリルビンは逆流による上昇だけである。
  • 肝臓の孤立性疾患(肝癌、肝膿瘍)ではビリルビンの上昇は軽度であるが、ALP、γ-GTは異常高値となる。

 

コリンエステラーゼ(ChE)

  • 肝臓で合成されるため肝機能が低下すると減少する。
  • アルブミンと相関する。

〈注意〉

 

  • ただし、脂肪肝では上昇する(コリンエステラーゼは脂質代謝の役割を果たしているため)。

 

ビリルビン(図1

  • ビリルビンは胆汁の色素である。
  • ビリルビンは赤血球のヘモグロビンに由来する。
  • 赤血球が細胞(主に脾臓)で破壊されると、ヘモグロビンはビリルビンに分解される。
  • ビリルビンはアルブミンと結合して(間接ビリルビン)、肝臓に運搬される。
  • 肝臓でグルクロン酸抱合される(直接ビリルビン)。
  • 胆汁中に含まれ、十二指腸に排泄される。
  • 腸内細菌によりウロビリノゲンに分解される。
  • 一部はステルコビリノゲンとなり便中に排泄される。

図1ヘム・ビリルビン代謝と黄疸

ヘム・ビリルビン代謝と黄疸

 

高木康:わかりやすい臨床検査、じほう、2000より

 

〈臨床的意義〉

 

  • 血中にビリルビンが増加すると黄疸を発症する。
  • 赤血球破壊が亢進する溶血性黄疸では間接ビリルビンが高値となる。
  • 肝細胞性黄疸では肝細胞中の直接ビリルビンが血中に出現するために、直接ビリルビンが高値となる。
  • 胆汁うっ滞では直接ビリルビンが高値となる。

〈注意〉

 

  • 特に間接ビリルビンは光により分解されるため、血液検体を長時間蛍光下に放置するとビリルビン値は低下する。

 

アルブミン、血漿蛋白

  • アルブミンは、肝臓で合成されるため肝機能が低下すると減少する(図2)。
  • フィブリノゲン血液凝固因子も肝臓で合成されるため、凝固検査(プロトロンビン時間)も肝機能検査として行われている。

図2正常血清蛋白の電気泳動パターンと代表的な疾患の泳動パターン

正常血清蛋白の電気泳動パターンと代表的な疾患の泳動パターン

 

前田昌子、高木康編著:薬剤師のための臨床検査ハンドブック、p61、丸善、2005

 

コレステロール

  • 肝臓で合成され、胆汁中に排泄される。
  • 肝機能が低下すると合成されなくなるので、血中コレステロールは低値になる。
  • 胆汁うっ滞の閉塞性肝障害では排泄が不十分となるため、血中コレステロールは高値になる。

 

生化学検査(肝機能)前後の看護の手順(採血時の注意)

  • 採血時、無理な吸引は避ける。無理な吸引により赤血球が溶血して、赤血球に多く含まれているAST(GOT)やLDHが血清中に出現して測定に影響を与えてしまう。
  • 採血後、血液の全血放置は避ける。溶血はしなくても赤血球の成分が逸脱してくる可能性がある。

〈参考〉

 

肝機能検査はその使用目的により選択され、種々の病態解析にはそれに対して有用な検査を追加する。

 

 

生化学検査(肝機能)に関するQ&A

Q1.長期にわたる飲酒を続けるとγ-GTが上昇するとよくいわれますが、飲酒のみが原因ですか?

A.そうではありません。アルカリホスファターゼ(ALP)と同様に、胆道系疾患で高度に上昇しますし、慢性肝炎肝硬変でも軽度に上昇します。γ-GTのみが100〜200IU/L程度の上昇であればアルコール摂取による可能性が高いと考えてよいでしょう。この場合には禁酒をして、2週間で半分程度に低下すればアルコール性と考えられます。また、抗てんかん薬やその他の薬剤の長期服用でも上昇します。

 

Q2.ウイルス性肝炎の診断・経過観察にはどのような検査を行えばよいですか?

A.スクリーニング的な検査で、ASTやALTが数千IU/Lのように高度に上昇している場合は、急性肝炎(ウイルス性)の可能性があります。A型肝炎ではIgM-HA抗体、B型肝炎ではHBs抗原、C型肝炎ではHCV抗体を測定してウイルス感染の有無を確認します。ただし、HCV抗体は急性期には陽性化しないこともありますので、その場合はHCV-RNAをPCR法によって測定します。

 

治癒判定としてはALTの正常化に加えて、B型肝炎ではHBs抗原の陰性化、HBs抗体の陽性化が基準となっています。C型肝炎では高率に慢性化しやすく、ALTが正常化してから2〜3か月以降に再び上昇することがあるため、ALTの正常化が半年以上持続し、さらにHCV-RNAが陰性化することが基準となっています(表6参照)。

 

表6肝炎ウイルスマーカーの選択基準(2006年)

肝炎ウイルスマーカーの選択基準(2006年)

 

略語

 

  • AFP:alpha-fetoprotein(アルファフェトプロテイン)
  • ALP:alkaline phosphatase(アルカリホスファターゼ)
  • ALT:alanine aminotransferase(アラニンアミノトランスフェラーゼ=GPT)
  • AST:aspartate aminotransferase(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ=GOT)
  • ChE:cholinesterase(コリンエステラーゼ)
  • D-BIL:direct bilirubin(直接ビリルビン)
  • GOT:glutamic oxaloacetic transaminase(グルタミン酸オキザロ酢酸転移酵素)
  • GPT:glutamic pryuvic transaminase(グルタミン酸ピルビン酸転移酵素)
  • γ-GT:γ-glutamyl transpeptidase(ガンマーグルタミール・トランスペプチダーゼ)
  • HPT:hepaplastin test(ヘパプラスチンテスト)
  • ICG:indocyanine green(インドシアニングリーン)
  • LAP:leucine aminopeptidase(ロイシンアミノペプチダーゼ)
  • LCAT:lecithin cholesterol acyltransferase(レシチンコレステロール・アシルトランスフェラーゼ)
  • LDH:lactic acid dehydrogenase(乳酸脱水素酵素)
  • PCR:polymerase chain reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)
  • PIVKA-Ⅱ:protein induced by vitamin K absence or antagonist-Ⅱ(ビタミンK欠乏誘導蛋白)
  • T-BIL:total bilirubin(総ビリルビン)
  • T-CHO:total cholesterol(総コレステロール)

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版

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