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2016年08月14日

内皮細胞の働き|循環

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

〈前回の内容〉

血圧測定法

今回は、内皮細胞の働きについて解説します。

片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

Summary

  • 血管内腔を覆う単層からなる内皮細胞は、血管緊張性の調節、血管内血栓形成の防止、動脈硬化の予防など驚くべき機能をもっている。
  • 内皮細胞は、強い収縮物質に曝されると強力な血管拡張作用を示す因子(NO、プロスタサイクリン、過分極因子)を産生遊離し、収縮作用に拮抗する。
  • NOは、内皮細胞内のL-アルギニンにNO合成酵素が働くと産生される。
  • 内皮細胞の機能低下や剥離など障害が起こると、血栓や血液凝固促進、動脈硬化、末梢血行障害、冠血管や血管の攣縮、高血圧などさまざまな循環器疾患が増加する。

 

〈目次〉

 

内皮細胞とは

血管平滑筋の内腔面は単層の細胞で覆われている。この細胞を内皮細胞 endothelial cell とよんでいる。

血管内皮細胞は、かつて、血液や血球に含まれる物質が直接平滑筋に接触して組織変化を起こすのを妨げたり、特定の化学物質が透過するのを遮ったりする単なる障壁と考えられていた。

ところが、血圧や血流などの変化に加え、さまざまな刺激物質に曝されたとき、それらに反応して強力な血管拡張物質あるいは血管収縮物質を産生・遊離することによって、血管の緊張性の調節、血管内血栓形成の防止、動脈硬化の予防にあたるなど、驚くべき多様な機能をもつことが最近の研究により明らかになった。

 

内皮細胞から産生・遊離される物質

内皮由来の血管拡張因子

主な拡張因子には、一酸化窒素(NO)プロスタサイクリン過分極因子がある(図1)。

図1内皮細胞の働き

内皮細胞の働き

NO(一酸化窒素):L-アルギニンにNO合成酵素が作用するとNOが放出し、平滑筋内に入る。NOは平滑筋内で可溶性グアニル酸シクラーゼ(GC)を活性化する。GCはGTPに作用し、cGMP生成を促進する。cGMPはG-キナーゼを活性化する。G-キナーゼによる機能タンパクのリン酸化の結果、Ca2+の筋小胞体への取り込み促進、細胞外へのCa2+排出促進、ミオシン軽鎖キナーゼの不活性化をもたらす。その結果、平滑筋拡張(弛緩)をもたらす。
プロスタサイクリン:アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼが作用するとPGH2、G2が生成される。PGH2、G2にプロスタサイクリン合成酵素が作用してPGI2が生成される。PGI2は、アデニル酸シクラーゼを活性化し、cAMP生成を介して平滑筋弛緩をもたらす。
過分極因子:内皮細胞由来のEDHFがK+チャネルを開孔し、血管平滑筋を過分極させることによって平滑筋弛緩をもたらす。

 

一酸化窒素〔 nitric oxide : NO 〕

R. F. Furchgott (ファーチゴット)らは、1980年代にアセチルコリンのような平滑筋収縮作用をもつ物質を血管内腔側から投与するとむしろ血管拡張作用を示すことから、収縮物質に曝されたとき内皮細胞は拡張物質を放出することを見出し、この未知の物質を内皮細胞由来の血管拡張因子  endothelium-derived relaxing factor : EDRF と名付けた。

EDRFの実体はその後の研究によりNOであることがわかった。ニトログリセリンは、生体内でNOを放出することによって狭心症改善効果を発揮することが明らかになったが、これはNOの発見による功績である。

 

NO産生機序

NOは、L-アルギニンNO合成酵素 NO synthase (NOS)が作用すると産生される。NO合成酵素には構成型NOSeNOSとnNOS)と炎症やサイトカインなどにより誘導される誘導型NOSiNOS)がある。eNOSが活性化するためには内皮細胞内のCa2+が上昇する必要がある。

iNOSの活性化にCa2+は必要でない。内皮細胞内のCa2+濃度が上昇するとCa2+はeNOSを活性化して、L-アルギニンからNOを放出する。

 

NOによる血管拡張作用機序

内皮細胞内で産生されたNOは、平滑筋細胞膜を自由に通過して、可溶性グアニル酸シクラーゼ guanylate cyclase を活性化する。可溶性グアニル酸シクラーゼはGTPに作用してサイクリックGMPcGMP)の生成を促進する。cGMPは、Gキナーゼを活性化し、機能タンパクをリン酸化する。

Gキナーゼによるリン酸化は、Ca2+の筋小胞体への取り込み促進、Ca2+の細胞外への排出促進、ミオシン軽鎖キナーゼの不活性化をもたらす。その結果、平滑筋拡張(弛緩)をもたらす。

 

NOの産生遊離を促進する生体内物質

アセチルコリン以外に、生体内の強力な血管収縮物質にはアンジオテンシンⅡバゾプレッシンエンドセリンヒスタミントロンビン等がある。これらの物質はいずれも内皮細胞上にあるそれぞれの受容体に結合し、 PI turnover (代謝回転)促進を介して細胞内Ca2+濃度を上昇させ、NOの産生遊離を促進する。

memo

アセチルコリンやヒスタミンは本来強力な平滑筋収縮物質であるが、静脈内投与すると血圧が低下するのはNO産生促進作用があるからである。アセチルコリンの場合、内皮細胞上のムスカリン受容体にアセチルコリンが結合する。すると、PI turnover 促進、すなわちGqタンパク、IP3を介して細胞内Ca2+が上昇する。Ca2+はeNOSを活性化して、L-アルギニンからはNOが産生される。

 

プロスタサイクリン(プロスタグランジンI2:PGI2

内皮細胞内にはプロスタサイクリン合成酵素が存在する。内皮細胞内のCa2+濃度が上昇すると膜からアラキドン酸が放出され、これはシクロオキシゲナーゼの作用を受けてPGH2、G2が生成される。PGH2、G2にプロスタサイクリン合成酵素が作用してPGI2が生成される。PGI2は、アデニル酸シクラーゼ adenylate cyclase を活性化し、 cyclic AMP 生成を促進して弛緩をもたらす(図1)。

 

内皮細胞由来過分極因子〔 endothelium-derived hyperpolarizing factor : EDHF 〕

EDHFの実体はまだ明らかになっていないが、内皮細胞由来のEDHFがK+チャネルを開孔し、血管平滑筋を過分極させることによって弛緩をもたらす(図1)。

 

内皮由来の血管収縮因子〔 endothelium-derived contracting factor:EDCF 〕

内皮由来の血管収縮因子として、最も注目されているものにエンドセリンがある。

エンドセリンは、現存する物質中最も強力な血管収縮作用をもつペプチド(21個のアミノ酸からなる)として柳沢、真崎らによって発見された(1988年)。現在、エンドセリンは心不全を誘発するホルモンであると考えられている。

 

血管内皮細胞障害によってもたらされる疾患

血管内皮細胞は、血圧や血流などの変化に加え、強力な血管収縮物質に曝されたときなど、それらに反応して強力な血管拡張物質を産生・遊離し、血管平滑筋を保護する。また、血管内血栓形成の防止や血液凝固系の抑制および線溶系の活性化にも重要な役割を果たしている。

したがって血管内皮細胞が障害されると、これらの作用が失われてしまうために動脈硬化、末梢血行障害、高血圧、冠血管や脳血管の攣縮、血栓や血液凝固促進等の循環器疾患が増加する(図2)。

図2内皮細胞障害によって起こる循環疾患

内皮細胞障害によって起こる循環疾患

 

かつて人間は血管とともに老いるといわれていたが、今では、人間は内皮細胞とともに老いると言い換えられるようになった。加齢による老化ばかりでなく、食生活の欧米化(動物性脂肪摂取量増加等)によって、日本人においては、内皮細胞・血管の衰えが若年齢化している。これが、いわゆる生活習慣病の急増につながっている。

 

NursingEye

動脈硬化症とは

 動脈硬化症とは、動脈壁にコレステロールが沈着して壁が肥厚するため内腔が狭くなることで、また動脈が硬化して弾力性を失うため血管が脆弱となる。動脈硬化は、欧米型食生活、高血圧や肥満、糖尿病等により促進され、心筋梗塞や脳出血脳梗塞、腎梗塞などを引き起こす。

 

タバコは百害あって一利なし

タバコを1本吸うと寿命が5分30秒も縮むといわれる。タバコにはさまざまな有害物質(ニコチン、タール、一酸化炭素、シアン化物、アルデヒド等)が含まれていて、多くの疾患を引き起こす。一例をあげると、タバコは血管内皮細胞を障害することも知られている。内皮細胞の障害は動脈硬化を促進し、それがもとで脳血栓、脳塞栓、狭心症、心筋梗塞、動脈瘤などのリスクが増加する。

 

〈次回〉

リンパ液の働き

 

⇒〔ワンポイント生理学〕記事一覧を見る


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

参考文献

著作権について

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