特定行為看護師になるには?38項目のできることや研修内容、診療看護師(NP)との違いも解説

特定看護師(特定行為看護師)は、特定行為研修を修了した看護師のことです。医師があらかじめ取り決めた範囲で、患者さんに必要な専門的な処置を自身の判断で行うことができます。
この記事では、特定看護師になるための流れ、特定行為研修の概要や習得できる38行為、診療看護師(NP)との違いなどを詳しく解説します。
特定看護師とは?
「特定看護師」という資格は実はありません。厚生労働省の「特定行為研修(特定行為に係る看護師の研修制度)」を修了した看護師の通称となります。
特定行為とは、医師があらかじめ指示した「手順書」にもとづいて、診療の補助として看護師が実施できる医行為のことです。高度かつ専門的な知識・スキルが特に必要とされる21区分38行為が定められています。
特定行為研修では、21区分38行為から必要な科目を選択して受講します。研修を修了した行為については、医師の判断を都度確認することなく、看護師が患者さんの状態を見極めてタイムリーな処置をとることができます。自律的に動けるようになるため、特定看護師は臨床での役割が広がるでしょう。
特に、迅速なケアが求められる周術期や救急などのクリティカル領域の現場、医師が不在になる在宅医療の現場などで活躍が期待されています。
特定行為研修の修了者数は年々増加傾向にあり、2025年3月時点で11,840人に達しています。
特定行為(21区分38行為)の一覧
| 区分 | 特定行為 |
|---|---|
| 1.呼吸器(気道確保に係るもの)関連 | 1.経口用気管チューブまたは経鼻用気管チューブの位置の調整 |
| 2.呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連 | 2.侵襲的陽圧換気の設定の変更 3.非侵襲的陽圧換気の設定の変更 4.人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整 5.人工呼吸器からの離脱 |
| 3.呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連 | 6.気管カニューレの交換 |
| 4.循環器関連 | 7.一時的ペースメーカの操作及び管理 8.一時的ペースメーカリードの抜去 9.経皮的心肺補助装置の操作及び管理 10.大動脈内バルーンパンピングからの離脱を行うときの補助の頻度の調整 |
| 5.心嚢ドレーン管理関連 | 11.心嚢ドレーンの抜去 |
| 6.胸腔ドレーン管理関連 | 12.低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及びその変更 13.胸腔ドレーンの抜去 |
| 7.腹腔ドレーン管理関連 | 14.腹腔ドレーンの抜去(腹腔内に留置された穿刺針の抜針を含む。) |
| 8.ろう孔管理関連 | 15.胃ろうカテーテルもしくは腸ろうカテーテルまたは胃ろうボタンの交換 16.膀胱ろうカテーテルの交換 |
| 9.栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連 | 17.中心静脈カテーテルの抜去 |
| 10.栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連 | 18.末梢留置型中心静脈注射用カテーテルの挿入 |
| 11.創傷管理関連 | 19.褥瘡または慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去 20.創傷に対する陰圧閉鎖療法 |
| 12.創部ドレーン管理関連 | 21.創部ドレーンの抜去 |
| 13.動脈血液ガス分析関連 | 22.直接動脈穿刺法による採血 23.橈骨動脈ラインの確保 |
| 14.透析管理関連 | 24.急性血液浄化療法における血液透析器または血液透析濾過器の操作及び管理 |
| 15.栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連 | 25.持続点滴中の高カロリー輸液の投与量の調整 26.脱水症状に対する輸液による補正 |
| 16.感染に係る薬剤投与関連 | 27.感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与 |
| 17.血糖コントロールに係る薬剤投与関連 | 28.インスリンの投与量の調整 |
| 18.術後疼痛管理関連 | 29.硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与及び投与量の調整 |
| 19.循環動態に係る薬剤投与関連 | 30.持続点滴中のカテコラミンの投与量の調整 31.持続点滴中のナトリウム、カリウムまたはクロールの投与量の調整 32.持続点滴中の降圧剤の投与量の調整 33.持続点滴中の糖質輸液または電解質輸液の投与量の調整 34.持続点滴中の利尿剤の投与量の調整 |
| 20.精神及び神経症状に係る薬剤投与関連 | 35.抗けいれん剤の臨時の投与 36.抗精神病薬の臨時の投与 37.抗不安薬の臨時の投与 |
| 21.皮膚損傷に係る薬剤投与関連 | 38.抗癌剤その他の薬剤が血管外に漏出したときのステロイド薬の局所注射及び投与量の調整 |
特定看護師になるには?
特定看護師になるには、大学病院や一般病院で特定行為研修を受講して、修了試験に合格する必要があります。
研修の受講資格や内容、費用などについて詳しく確認していきましょう。

特定行為研修の受講資格
特定行為研修を受けるための受講資格として、必須要件はありません。
しかし、厚労省は受講者をおおむね3〜5年以上の実務経験のある看護師と想定しています。
また、それぞれの研修機関によっては独自に受講要件を定めている場合もあるので、希望する研修機関の募集要項を確認しましょう。
特定行為研修の内容と期間
特定行為研修は、すべての特定行為区分に共通した共通科目(250時間)と、選択する特定行為区分ごとの区分別科目(5〜34時間)で構成されます。
研修は講義、集合研修、シミュレーション演習、実習などが組み合わされ、知識と実技の両方を身につけます。
修了までの期間は、おおむね6カ月〜2年間。指定研修機関やどの特定行為区分を選択するかによりますが、1年程度としている研修機関が多いようです。
また、2020年からは「領域別パッケージ研修」を受講することもできるようになりました。
領域別パッケージ研修は、「在宅・慢性期領域」「外科術後病棟管理領域」など、それぞれの分野で実施頻度が高い特定行為があらかじめパッケージされた研修メニューです。
パッケージは現在、6領域分。区分ごとに選択して受講するよりも効率よく、現場で生かす機会の多いスキルを学ぶことができます。
厚労省「特定行為研修の一部を免除した研修(領域別パッケージ研修)」
特定行為研修はどこで受ける?
特定行為研修が受けられるのは、厚労省が指定した大学病院や一般病院などです。2025年9月時点では全国に474機関があります。
研修機関は特定行為区分ごとに指定されており、選択したい特定行為によって選ぶことになります。
研修機関は都市部に多く、地域によっては選択したい特定行為の指定研修機関が近くになかったり、定員が限られていたりするので早めに確認しましょう。
厚労省「特定行為に係る看護師の研修制度」
費用はどのくらいかかる?
特定行為研修にかかる費用は30万円〜250万円程度と幅があります。研修機関や選択する特定行為区分によって大きく異なるためです。
国や自治体、勤務先によっては、研修費用をサポートする制度があることも。ただ、雇用保険の加入期間や研修の修了期限など、サポートを受けるための条件があったりするので確認しましょう。
研修の難易度は?仕事との両立は可能?
研修の難易度としては、専門性が高く取得単位のボリュームも少なくないため、大変さを感じるかもしれません。
一方で、多くの研修機関が「e-ラーニング」を活用したオンライン講義を導入しているため、働きながらでも研修の修了を目指すことはできます。
修了試験も万が一、不合格になっても再試験を受けられることが多いです。
診療看護師(NP)、認定看護師との違いは?
では、「特定看護師」は他の資格とは何が違うのでしょうか。
よく比較される「診療看護師(NP)」と「認定看護師」とは、以下のような違いがあります。
| 項目 | 特定看護師 | 診療看護師(NP) | 認定看護師(B課程) |
|---|---|---|---|
| 主な業務範囲 | 医師が作成した手順書の下、21区分38行為のいずれか | 特定行為を含む医師と協働した幅広い「診療の補助」の実践 | 専門分野に特化した実践・指導+特定行為の実施 |
| 研修内容・期間 | 共通科目+区分別科目(実習含む)。1年程度 | 修士課程(特定行為研修も修了) | 共通科目+専門科目(特定行為研修区分別科目含む)+演習・実習。1年程度 |
| 必要経験年数 | 実務経験3~5年以上想定 | 実務経験5年以上+修士課程修了(2年) | 実務経験5年以上(うち3年は認定分野) |
| 特定行為研修との関係 | 必須(これ自体が条件) | 実質的に不可欠 | 必須(課程内に組み込み) |
| 認定主体 | 厚生労働省(修了証発行) | 日本NP教育大学院協議会 | 日本看護協会 |
| 更新 | なし | 5年ごと | 5年ごと |
診療看護師(NP)との違い
診療看護師(NP)は、日本NP教育大学院協議会の認定資格です。
特定看護師はあくまで研修制度ですが、診療看護師(NP)が認定資格という点は大きな違いと言えるでしょう。
また、“資格”を取得するために必要な要件にも違いがあります。
特定看護師は3〜5年以上の実務経験が想定されてはいるものの、特に必須要件はありません。しかし、診療看護師(NP)は大学院の修了が必要な点が特徴です。
診療看護師(NP)養成コースの大学院修士課程(2年)を修了した後、認定試験に合格して資格を取得できます。大学院に進むためには、5年以上の実務経験も必要です。
一方で、教育課程で「特定行為研修」を修了する点は共通しています。診療看護師(NP)も特定看護師と同じように、医師の直接指示を待たずに特定行為を実施できます。
ただ、診療看護師(NP)は特定行為のほか、大学院で臨床薬理学やフィジカルアセスメント、多職種連携、リーダーシップ論などを学びます。そのため、特定行為に限らない幅広い知識・スキルを修得することができます。
医療機関にもよりますが、現場では医師や薬剤師と連携しながら、患者に必要と考えられる検査や処方の代行入力などを担うこともあるようです。
診療看護師(NP)とは?なるための方法やできること、特定看護師との違いを解説
認定看護師との違い
認定看護師は、日本看護協会が認定する資格です。資格ではない特定看護師とは明確な違いと言えます。
認定看護師は特定の看護分野において水準の高い看護を実践する「看護現場のスペシャリスト」とされています。専門分野ごとに指定された教育機関で研修を修了し(1年程度)、認定審査に合格すると取得できます。
研修受講に必要な経験年数も異なります。特定看護師が3〜5年以上の実務経験が想定されているのに対し、認定看護師は5年以上の実務経験を必ず積んでいる必要があり、そのうち3年は認定分野における経験が不可欠です。
また、研修内容にも違いがあります。
認定看護師は高い臨床推論力と病態判断力を発揮すること、多職種と協働してチーム医療のキーパーソンとなること、患者とその家族に対して倫理的な配慮を行えることなどが求められるため、専門分野の幅広い知識の学習が必要となります。
このほか、他の看護師に適切に助言する相談対応なども学び、指導役を務めることも期待されています。そのため、合計教育時間数は800時間程度とボリュームが多いです。
一方で、「特定行為研修」を修了する点は特定看護師との共通点です。
認定看護師規程が改正され、2020年度から従来の教育(A課程)に新たに特定行為研修を組み込んだ教育(B課程)が開始しました。
これから新制度で認定看護師を目指す人は自動的に特定行為研修を修了することになるため、医師があらかじめ指示した「手順書」にもとづいて特定行為を実践できます。
特定看護師を目指すメリットは?何が変わる?
特定看護師になるメリットは、看護師としての仕事の幅が広がり、現場で頼られる場面や活躍の機会が増えることです。
ここでは具体的に、日々の業務やチーム医療の中での役割、給与面での変化について見ていきましょう。
1医師の直接指示を待たずに処置できる
特定看護師は、医師の直接的な指示を待たずに、研修で学んだ範囲内で必要な処置を判断し、迅速に行うことができます。
急変時の対応で待機時間を減らせるほか、患者さんへの迅速なケア提供が可能になるため、現場の効率化にもつながります。
これにより患者さんの安全性も高まり、看護師自身の自信ややりがいにもつながります。
特に活躍が期待されている場面が、救急や在宅医療の現場です。
迅速なケアが求められる状況や医師が常駐しない環境においても、患者さんの状態を的確に把握し、速やかに必要なケアを提供できるため、医療サービスの質の向上に大きく貢献しています。
2チーム医療の中で役割を拡大できる
特定看護師はチーム内で「頼れる存在」としての期待が大きくなります。
医師や他職種と連携しながら、より高度なケアを担うため、チーム医療の中での発言力や責任感が増します。
また、患者さんやご家族に対して説明できる内容も広がるので、信頼関係の構築にも役立ちます。
これまで以上に現場の中心で活躍できると考えられます。
3昇給・昇格できる可能性がある
医療機関によって異なりますが、特定行為研修を受講している看護師には、月数千~数万円程度の手当が出ることがあります。
昇格のチャンスも広がるため、長期的なキャリア形成においても大きなメリットとなります。転職活動で有利に働くことも期待できます。
また、2022年度に診療報酬改定で特定行為に係る評価が新設されました。特定行為研修を修了した看護師が訪問看護において対象の行為を実施した場合や、医師が特定行為の実施に関する手順書を作成した際に加算されます。
特定看護師に向いているのはどんな人?

特定看護師に向いている人としては、以下のような特徴が挙げられます。
1患者さんのためにできることを増やしたい
日々の看護業務の中で、「もっと患者さんのためにできることがあったのでは」などと悔しい思いをしたことがある方もいるのではないでしょうか。
特定行為研修を修了すれば、看護師が自身の判断で患者さんの状態を見極めて、手順書に沿ったスムーズな処置を行えるようになります。
その場に医師が付き添っていない中でも自律的に行動し、「自分の看護で苦痛を和らげたり、不安を解消したりして患者さんを支えたい」という思いがある方は向いていると言えます。
2救急、在宅医療への関心が高い
特定看護師は、研修を修了した特定行為を実施する場合に医師の直接的な指示を必要としません。
そのため、迅速なケアが必要な現場や医師が不在の環境で特に強みを発揮します。
救急医療や在宅医療を支えることに興味がある方は、研修を修了しておくことで現場での活躍の幅を広げることができるでしょう。
3時間、費用の負担をなるべく減らしたい
特定看護師と同じく特定行為研修を受講できる診療看護師(NP)と認定看護師は、5年以上の実務経験が資格の取得に不可欠です。
さらに、診療看護師は大学院への進学が必要です。認定看護師は大学院の進学は必要ありませんが、教育カリキュラムは休職して受講する人が多いです。
対して、特定看護師は大学院への進学がいらない上に、働きながらでも受講が可能です。
時間と費用をどのくらいかけられるかという面も、大きな判断基準となりそうです。
まとめ
特定看護師は、医師の指示を待たずに必要な処置を看護師の判断で行えるようになる制度です。
医師の働き方改革や地域医療のニーズ拡大を背景に、今後の医療を支えていく人材として期待されています。
「役割を広げたい」「信頼を高めたい」「給与・キャリアアップの機会を増やしたい」など、看護師としての成長を目指している人は、特定行為研修の受講を検討してもいいかもしれません。
看護roo!編集部 北井寛人
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(参考)
厚生労働省「特定行為に係る看護師の研修制度に関するQ&A」
厚生労働省「特定行為研修制度の現状と見直しについて」
厚生労働省「特定行為区分とは」
日本看護協会「看護研修学校_2025年度特定行為研修募集要項」
日本NP教育大学院協議会
日本NP教育大学院協議会チラシ
日本看護協会
日本看護協会「認定看護師教育基準カリキュラム」
日本NP学会誌「診療看護師(NP)が一次・二次救急患者に 対応するための包括的指示書の作成」
日本看護協会「新たな認定看護師教育基準カリキュラム作成の概要」
厚生労働省「特定行為研修制度の概況について」
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