内視鏡的胆道ドレナージ

ドレーンカテーテル・チューブ管理完全ガイド』より転載。
今回は内視鏡的胆道ドレナージについて説明します。

 

笹井貴子
川崎医科大学総合医療センター総合内科学2講師(内科医長)
土田幸平
獨協医科大学医学部消化器内科学学内助教
小池健郎・吉竹直人
獨協医科大学医学部消化器内科学学内講師
富永圭一
獨協医科大学医学部内科学(消化器)講座講師
平石秀幸
獨協医科大学医学部消化器内科学特任教授
杉山栄子
獨協医科大学病院看護部看護師長

 

 

 

《内視鏡的胆道ドレナージの概要》

 

主な適応
胆管閉塞をきたす悪性・良性の胆道狭窄(総胆管結石、胆管癌、膵頭部癌、慢性膵炎、胆管圧迫など)
目的
胆汁うっ滞・閉塞性黄疸に対する減圧、減黄
合併症
ERCP後膵炎、出血・穿孔、胆管炎・胆囊炎、誤嚥性肺炎
抜去のめやす
胆管閉塞の原因が除去された後。
外科切除不能な悪性腫瘍など、閉塞が解除される見込みのない場合は、長期留置を目的に内瘻化する。
観察ポイント
排液 : 胆汁の性状(色調〈正常:緑色〉、混濁や出血の有無など)や量(正常:500mL/日)を確認する
腹部症状 : 腹壁の緊張や腹痛、背部痛、発熱などの自覚症状が強い場合は膵炎などの偶発症を疑う
ケアのポイント
事故抜去 : 患者への十分な説明と固定方法を工夫して、事故抜去を予防する
ルート管理 : ENBDドレーンは細く長い構造で閉塞しやすいため、排液量の減少や排液バック(ボトル)の位置にも注意する

図内視鏡的胆道ドレナージ

内視鏡的胆道ドレナージ

 

〈目次〉

 

内視鏡的胆道ドレナージの定義

内視鏡的胆道ドレナージ(endoscopic biliary drainage:EBD)は、胆道腫瘍・膵腫瘍や胆道結石など、さまざまな原因で発生する胆道狭窄・閉塞によって、胆汁うっ滞・閉塞性黄疸をきたした症例に対して行う内視鏡的逆行性膵胆管造影(endoscopic retrograde cholangio pancreatography:ERCP)関連処置である。

 

ERCPは、術後膵炎など重篤な偶発症のリスクはあるが、内視鏡的に鎮静下に行うことができるため、手術のリスクの高い症例や高齢者、進行がん症例などにおいて特に有用性が高いと考えられている。

 

閉塞性黄疸の際には、しばしば重篤な胆道感染症を併発し、ただちに緊急ドレナージ術を行わなければ生命に危険を及ぼす場合がある。こうした重症例に対する緊急処置として、あるいは進行がん患者のQOL向上・症状緩和をめざし、広く応用されているEBDであるが、患者の全身状態や原因疾患、病変の状況や進行度などを正しく評価し、適切なドレナージ法の選択が必要となる。

 

内視鏡的胆道ドレナージの適応と禁忌

EBD(内視鏡的胆道ドレナージ)が必要となる疾患は、胆管閉塞をきたす悪性または良性の胆道狭窄である(表1)。

 

表1EBD(内視鏡的胆道ドレナージ)の適応

EBDの適応

 

内視鏡的胆道ドレナージの挿入経路と留置部位

1EBD(内視鏡的胆道ドレナージ)の挿入方法(図1

  1. 咽頭麻酔・鎮静薬投与ののち、内視鏡(側視鏡)を十二指腸下行部に挿入する。
  2. 十二指腸乳頭を確認し、造影カテーテルを乳頭部から胆管内に挿入する。
  3. 胆管造影を行い、胆管閉塞・狭窄の原因、部位、病変の長さなどを評価する。
  4. ドレナージの方法・種類・使用するドレーンやステントを選択し、先端が病変部を越えるように挿入・留置する。
  5. 径の大きいステントを挿入する際には、膵炎予防として十二指腸乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)を行ってからステントを挿入したり、内視鏡的逆行性膵管ドレナージ(endoscopic retrograde pancreatic drainage:ERPD)を一緒に行うことが多い。

図1EBDの挿入方法(ERBDの例)

EBDの挿入方法(ERBDの例)

 

 

2ドレナージの種類

十二指腸内に生理的に胆汁を排出させる方法(内瘻ドレナージ)と、ドレーンを通して体外に胆汁を排出させる方法(外瘻ドレナージ)がある。

 

①内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(endoscopic retrograde biliary drainage:ERBD)(-a)

胆道内から狭窄部を越えて、経乳頭的に十二指腸内に胆汁を排出するため、胆管ステントを体内に留置する方法である。

 

ステントには、①プラスチック製のチューブステント(PS)、②金属製のメタリックステント(MS)、③表面をカバーで覆ったカバードメタリックステントがある(表2)。

 

表2ステントの種類と特徴

ステントの種類と特徴

 

 

②内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage:ENBD)(-b)

先端が狭窄部を越えるように胆道内に挿入された長いドレーンを、経乳頭的に腔から体外に出して留置する方法である。

 

接続した排液バック内に胆汁を回収する。

 

通常ERBDより細い径のドレーンを挿入するため、応用として胆囊管に結石が嵌頓した急性胆囊炎の場合に、経鼻胆囊ドレナージ(endoscopic nasobiliary gall bladder drainage:ENGBD)
を行うこともある。

 

術後に起こりうる偶発症1

1ERCP後膵炎

ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)関連処置の偶発症として、最も注意しなければならない。

 

ステントによる膵管出口を圧迫することで発症することが多い。

 

対策として、①乳頭開口部の大きさに合わせたステントの選択、②ESTやERPD(内視鏡的逆行性膵管ドレナージ)の併用、③重症例ではステントの抜去、④膵炎に対する薬物療法、⑤十分な補液などを行う。

 

2出血・穿孔

ESTに伴い発生することが多く、アドレナリン局注やクリッピングなどの内視鏡的止血術で対処することが多いが、膵管口をふさがないよう注意する。

 

穿孔例では外科的処置も考慮する必要がある。

 

3胆管炎・胆囊炎

胆泥や結石、血液などによる細径ドレーンの詰まりやねじれなどでドレナージが不良になると、炎症の再燃をきたす。

 

ENBDでは定期的なドレーンの洗浄が可能である。ドレーンの長期留置例では3~6か月をめやすに定期的なドレーン交換が必要である。

 

悪性腫瘍に対しメタリックステントを留置した場合、腫瘍のステント内増殖(ingrowth)やステント長を越える増殖(overgrowth)によってステント閉塞が生じる。あらかじめ長めのステントを選択したり、腫瘍の進展に合わせメタリックステント内への再度ステント留置(stent in stent)などの追加処置を行う。

 

4誤嚥性肺炎

高齢者、嚥下障害や呼吸器疾患をもつ症例では特に注意が必要である。

 

鎮静下に治療を行うため、内に内容物が貯留した状態で処置を行うような緊急症例の場合も注意を要する。

 

5ステントの逸脱・迷入

ERBD施行例で、チューブステント、メタリックステントともにステントの胆管内への迷入、十二指腸内への逸脱がみられる場合がある。

 

チューブステントではピッグテール型など、ステントの形状を工夫することで防止可能な場合が多い。

 

いずれもドレナージ不良で胆管炎が出現するため、内視鏡的ステント抜去および再挿入が必要となる。

 

内視鏡的胆道ドレナージの利点と欠点

EBD(内視鏡的胆道ドレナージ)は経皮的ドレナージに比べ、①出血のリスクが少ない、②腹水が貯留していても施行可能、③一度の処置で内瘻化が可能で患者のQOLが高い、などの利点がある。

 

さらに、ERBDとENBDでそれぞれ利点と欠点があり、患者の状態に適した方法を選択する(表32

 

表3EBD(内視鏡的胆道ドレナージ)の方法別メリット・デメリット

EBDの方法別メリット・デメリット

 

 

内視鏡的胆道ドレナージのケアのポイント

1処置前

患者の状態の把握バイタルサインのチェック、最終の食事時間・内服薬の確認を行う。

 

ライン確保 : 処置中の体位変換に備え、右前腕に末梢静脈ラインを確保する。

 

酸素投与の準備

 

2処置中

患者の状態の把握 : バイタルサインのモニタリング、鎮静下の患者の意識・呼吸状態のチェックを行う。

 

誤嚥の対策口腔内貯留物を吸引する。

 

患者の体動への対策 : 処置中の疼痛などで患者の体動がみられることがあり、転落や静脈ラインなどに対する注意が必要である。

 

3処置後

安静の保持 : 胆管炎から敗血症に陥っている重症例では、意識障害血圧低下がみられる場合がある。また、鎮静や誤嚥の影響で血圧や呼吸などが不安定な場合もあり、術後しっかり覚醒するまで安静と経過観察が必要である。

 

偶発症の観察 : 術後、膵炎や出血、穿孔などの偶発症がみられないかどうかを慎重にチェックする。腹痛、背部痛や発熱などの自覚症状が強い場合は、早期に血液検査や腹部CT検査などを行い、膵炎などの合併がないかどうか確認が必要である。

 

栄養摂取 : 基本的には、処置翌日の腹部所見や血液検査結果を確認するまでは経口摂取は再開せず補液管理とする。

 

4ENBD留置例での注意点

①排液の観察

ドレーンから排出される胆汁の性状(色調、混濁や出血の有無など)や量を確認する。

 

排液量は通常500mL/日前後で、胆汁は濃い黄金色で透明であるが、排液時には酸化され緑色~暗緑色になることが多い。

 

②自己抜去の予防

ENBDの留置期間は2~4週間程度であり、ドレーン自体は細いものの、咽頭の異物感は患者に苦痛を与えることになる。

 

鼻や喉の不快感のため、術後の半覚醒時や夜間就寝中などに患者がドレーンを自己抜去することがあり、高齢者や認知症患者などでは注意が必要である。最も基本的なことは、患者がドレーンを自己抜去することがないように、十分に説明して必要性をよく理解してもらうことである。

 

排液バック(ボトル)は、患者の体動の妨げにならない位置に固定し、ドレーンが引っ張られない位置を保つ。引っ張ると容易に先端が抜けてしまうため、ベッド周囲やトイレなどでの動作や歩行時など、ドレーンを引っ掛けないよう患者自身にも注意を促す。

 

定期的な腹部X線撮影により、ドレーンの位置に変化がないことを確認する。

 

③ルートの管理

ENBDのドレーンは細くて長いため、ねじれや折れ曲がり、胆泥・血液などで容易に閉塞する。

 

更衣や体位変換時は、ドレーンの屈曲、捻転などがないことを確認する。

 

ドレーン先端と排液バックとの落差による水柱圧を保つため、床面ぎりぎりに排液バックが位置するようにする(図2)。

 

図2排液バックの設置

排液バックの設置

 

排液量を定期的に確認し、胆汁の排液量が減少したり、まったく出なくなった場合には、すぐに医師に報告する。

 

④固定部のケア

ドレーンは、鼻翼に粘着性の高いテープであそびをもたせて固定する(図3)。特に長期留置の場合に皮膚に押し付けるように固定すると、鼻の固定部分に皮膚潰瘍を形成し、疼痛が生じる可能性があるので注意する。

 

図3ENBDの固定

ENBDの固定

 

 

⑤その他のケア

腹痛や腹壁の緊張など腹部症状がないか観察する。

 

食事摂取が可能であれば、誤嚥に注意し嚥下を慎重に行うように説明する。

 

5ERBD留置例での注意点

胆汁は十二指腸内に排出されるため、性状や量を直接確認することができない。そのため、ステント閉塞などのトラブルに気づくのが遅れる場合がある。

 

特にチューブステントの場合、メタリックステントに比べて開存期間が短いため、長期留置例では定期的なチューブ交換が必要となる。

 

チューブトラブルの際には、胆管炎や閉塞性黄疸などが出現するため、発熱・腹痛・皮膚や尿の黄染・白色便などの症状に注意し、変化があればすみやかに医師に報告する。

 

ERBDを留置後退院する患者には、ステントトラブルの可能性を説明し、上記のような症状が出現した際の外来受診を指導する。

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)高岡亮:胆道ドレナージ.日本消化器内視鏡学会監修,日本消化器内視鏡学会卒後教育委員会責任編集,消化器内視鏡ハンドブック,日本メディカルセンター,東京,2012:427-434.
  • (2)Sharma BC,Kumar R,Agarwal N, et al.Endoscopic biliary drainage by nasobiliary drain or by stent placement in patients with acute cholangitis.Endoscopy 2005;37(5):439-443.
  • (3)堤宏介,安井隆晴,貞苅良彦,他:内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(ERBD).消化器外科ナーシング2009;14(7):660-662.
  • (4)佐藤憲明編:ドレーン・チューブ管理&ケアガイド.中山書店,東京,2014.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社

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