血管炎|血管病変③

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は血管炎について解説します。

 

古賀哲也
福岡和白病院皮膚科部長

 

 

Minimum Essentials

1壊死性血管炎という特徴的病理組織像を本態とする疾患群で、皮膚限局型、全身性の血管炎として四肢末梢合併型、内臓合併型の3つのタイプがある。

2皮膚症状は、罹患血管の大きさ、深さ、炎症の程度、その経過により多彩で、網状皮斑、浸潤を触れる紫斑、紅斑、水疱、潰瘍、壊疽などを形成する。

3診断には皮膚生検が重要である。治療は局所的には下肢安静で、全身性の血管炎に対してはステロイド薬や免疫抑制薬の全身投与を行う。

4経過は慢性で、ほとんど全身症状がない皮膚限局型血管炎は予後良好である。全身臓器に症状を伴う全身性の血管炎では、重篤な経過をとることもある。

 

血管炎とは

定義・概念

壊死性血管炎(血管壁のフィブリノイド変性、核塵[かくじん]を伴う好中球浸潤、赤血球漏出)という特徴的病理組織像を本態とする疾患群である。

 

血管炎は全身の臓器に起こりうるが、もっとも発症頻度が高い臓器は皮膚である。

皮膚にみられる血管炎には、皮膚限局型、四肢末梢合併型(末梢神経炎、関節痛、筋痛、四肢末端壊疽などを合併)、内臓合併型(腎炎、肺浸潤、消化管出血、脳出血など)の3つのタイプがある。

 

また、血管炎が生じている血管径の大きさ(大、中、小)、自己抗体の抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)の有無、特徴的な各臓器の臨床症状などから分類されることもある。

 

ANCA関連血管炎として、多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー〈Wegener〉肉芽腫症ともよばれる、図1)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(チャーグ・ストラウス〈Churg-Strauss〉症候群ともよばれる、図2)、顕微鏡的多発血管炎がある。

 

図1ウェゲナー肉芽腫症

a:下腿に小潰瘍を伴う紅斑が多発。

b:aの拡大像。

ウェゲナー肉芽腫症,a:下腿に小潰瘍を伴う紅斑が多発。,b:aの拡大像。

 

図2チャーグ・ストラウス症候群

a:下腿に紫斑が散在(皮疹軽症例)。

b:下腿の紫斑上に一部水疱化病変がみられる(皮疹重症例)。

チャーグ・ストラウス症候群,a:下腿に紫斑が散在(皮疹軽症例)。,b:下腿の紫斑上に一部水疱化病変がみられる(皮疹重症例)。

 

それ以外に、IgA血管炎(アナフィラクトイド紫斑病、ヘノッホ・シェーンライン[Henoch-Schönlein]紫斑病)、クリオグロブリン血症性血管炎、皮膚白血球破砕性血管炎(図3)、結節性多発性動脈炎、膠原病・悪性腫瘍・薬剤・感染症に続発する血管炎などがある。

 

図3皮膚筋炎に伴う白血球破砕性血管炎

皮膚筋炎に伴う白血球破砕性血管炎

 

 

原因・病態

原因不明なことが多く、病態も複雑である。

ANCA関連血管炎では、ANCAにより好中球の脱顆粒や活性酸素の放出が促進され、血管壁に炎症が惹起される。また、免疫複合体が血管壁に沈着することで、炎症が惹起される血管炎もある。

 

細菌やウイルス感染、薬剤、各種化学物質、膠原病や悪性腫瘍との関連が指摘される場合もある。

 

 

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診断へのアプローチ

臨床症状・臨床所見

共通した皮膚症状として、おもに下腿から足にかけて左右対称性に多彩な皮疹が出現する。

やや浸潤した紅斑、丘疹、紫斑で初発し、その後、表面が壊死した丘疹、水疱、血疱、小潰瘍、痂皮色素沈着などを混じる多彩な病像を呈する。

また、結節、皮下硬結、壊疽の病像も呈する。とくに下肢の網状(もうじょう)皮斑ならびに浸潤を触れる紫斑は、血管炎の存在を示唆するといわれている。

 

全身性の血管炎では、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状とともに筋痛、関節痛、末梢神経障害、腎炎、間質性肺炎、消化管出血心不全、中枢神経障害、さらに、眼、気道などの全身臓器病変による症状がみられる。

皮膚症状が先行し、その後に全身臓器症状が出現する場合と、同時に出現する場合がある。

 

検査

皮膚生検により、病理組織学的に確定診断が得られる。

蛍光抗体直接法で、IgA、IgG、IgM、補体のC3の血管壁沈着を調べる。CRPや白血球上昇などの炎症所見がみられ、ANCAとクリオグロブリン測定は鑑別診断に役立つ。

 

多彩な臓器症状に対しては、内科専門医に依頼し、全身的な血管炎の評価を行う。細菌やウイルス感染、薬剤、膠原病や悪性腫瘍に続発する場合もあり、その検査も必要になる。

 

 

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治療ならびに看護の役割

治療

おもな治療法

皮膚限局型血管炎に対しては、基本的には下肢安静と外用薬による局所療法が主体であり、皮膚潰瘍には潰瘍治療薬、感染がみられる場合には抗菌薬(外用薬)を使用する。

全身療法としては、NSAIDs、ジアフェニルスルホン(DDS)、血管強化薬、止血薬、時に少量のステロイド薬内服などを症状に応じて用いる。

 

全身性の血管炎に対しては、ステロイド薬や免疫抑制薬の全身投与が基本であり、内科専門医と相談のうえ疾患活動性と内臓病変の重症度に応じた治療方針を立てる。

 

皮膚潰瘍に感染が合併すると、治療による易感染性に伴い敗血症などのリスクも高まるために、皮膚潰瘍の治療を並行して行う。

 

合併症とその治療法

ステロイド薬や免疫抑制薬の全身投与により易感染状態になることもあり、二次感染の防止に努める。

基礎疾患の違い、全身症状の程度の違いにより、筋萎縮、骨粗鬆症、圧迫骨折、糖代謝異常、血栓症などさまざまな合併症が起りうる。早期に気づき、早めの対応を行う。

 

治療経過・期間の見通しと予後

皮膚限局型血管炎の生命予後は良いが、経過は慢性で、長年にわたり寛解・増悪を繰り返すことも多い。また、経過観察中に他臓器症状が出現し、全身性の血管炎と診断されることもあり、注意深い全身症状の観察が必要である。

 

全身性の血管炎は、疾患と重症度の違いによって予後も異なる。

罹患臓器によっては生命予後不良のこともあり、急速に腎不全、心不全、中枢神経障害などを呈して死の転帰をたどるものから、慢性に経過して消耗していくものもある。

 

看護の役割

治療における看護

局所的には、安静、患肢の挙上、保温などに留意して看護を行う。病棟内移動で下肢に負担をかけないようにする。皮膚潰瘍の二次感染の予防が必要である。

全身的には、ステロイド薬や免疫抑制薬治療開始後にさまざまな臓器症状が出現することもあるため、早期発見に努める。

 

また、罹患臓器に後遺症が残ることもある。寛解・増悪を繰り返し、治療が長期化して退職や異動を余儀なくされることもある。

看護師は患者と良好なコミュニケーションをとり、患者の抱える問題を傾聴して精神的負担の軽減に努める。

 

フォローアップ

局所的には、長時間の立ち仕事や歩行によって増悪しやすいことをよく説明する。

寒い時期には防寒を図り、血行障害の悪化条件を減じる。また、血行障害により外傷が回復しにくいため、けがをしないように指導する。

 

全身的には罹患臓器の後遺症に対する指導、長期間内服せざるをえない薬剤の副作用についての説明が必要である。

 

 

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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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