脊髄損傷に関するQ&A

 

『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』より転載。

 

今回は「脊髄損傷」に関するQ&Aです。

 

山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長

 

〈目次〉

 

脊髄損傷ってどんな病気?

脊髄損傷とは、脊椎が脱臼や骨折などによって傷害をうけ、脊椎の中で保護されている脊髄が損傷を受け、運動麻痺や知覚障害などが出現する状態です。

 

脊髄損傷って何が原因なの?

脊髄損傷の原因は、交通事故(44%)が最も多く、次いで高所からの転落(29%)、転倒(13%)、物体による打撲や下敷き(6%)、スポーツ事故(5%)などです。

 

脊髄損傷ではどんな症状が出現するの?

脊髄損傷にともない、運動麻痺、知覚障害、排尿・排便障害、自律神経障害(体温調節の異常、発汗の異常、起立性低血圧)、性機能障害などの症状が出現します。

 

損傷以下の支配域の機能障害が出現するため、どのような障害が起こるかは、損傷部位によって異なります。

 

たとえば、第3頸髄(C3)損傷とは、C4以下の神経が障害されていることを意味します。C4以下には大皮質からの運動指令が伝わらないために四肢麻痺となり、加えてC4で支配されている横隔膜が麻痺するために人工呼吸器が必要になります。C4損傷では、四肢麻痺は同様ですが、横隔膜は機能するため、自発呼吸が可能になります。

 

このように、損傷部位が頭に近いほど、障害の範囲が大きくなります(表1図1)。

 

表1脊髄損傷患者の生活自立度

 

損傷部位 障害の程度 生活自立度
C1~C3 呼吸筋の完全麻痺 人工呼吸器の使用が必要になる
C4~C5 四肢麻痺、
全介助
  • 上部肋間筋の麻痺により、横隔膜のみの呼吸運動になる
  • 目や頭の動きで電動器具の利用が可能である
  • 移動は電動車いすになる
C6 四肢麻痺、
要介助
  • 上部肋間筋の麻痺により横隔膜のみの呼吸運動になる
  • 肩関節・肘関節・手関節の運動が可能で、車いすを駆動できる
  • 自助具を利用したベッド上での移動・食事・行為の一部ができる
C7 四肢麻痺、
胸郭運動障害
  • 自力で起坐可能で、ベッド上動作は自立する
  • 前腕、手に装具・スプリントが必要である
C8 四肢麻痺、
胸郭運動障害
  • ベッド上動作は自立、車いす動作と身のまわり動作は部分介助になる
  • 手動装置によって自動車運転が可能である
T1 対麻痺
  • 車いす動作と身の回り動作は部分介助になる
  • 手動装置によって自動車運転が可能である
T6~T12 要介助
  • T12の対麻痺では、長下肢装具を装着して松葉杖歩行ができ、車いすスポーツも可能
  • 実用性のある歩行は無理だが、歩行は要介助で行える

 

(山田幸宏編著:脊髄損傷。看護のための病態ハンドブック、改訂版、p.432、医学芸術社、2007)

 

図1脊髄神経の皮膚分節(デルマトーム)

脊髄神経の皮膚分節(デルマトーム)

 

脊髄損傷にはどんな検査が実施されるの?

脊髄損傷には、神経学的検査、画像検査、筋電図、徒手筋力テスト、皮膚知覚テストなどの検査が実施されます。

 

神経学的検査とは、意識レベル、瞳孔の大きさ、対光反射、深部腱反射などを調べる検査です。

 

画像検査には、X線撮影、CT、MRIのほか、脊髄造影検査があります。これは、脊髄のくも膜下腔に造影剤を注入し、脊髄や神経根の状態を見る検査です。

 

筋電図というのは、筋肉に刺激を加え、筋肉が収縮するときに発生する活動電位を記録する検査です。徒手筋力テストは、患者に前腕を屈曲するなどの動きをしてもらい、それに抵抗する力を加えて、運動麻痺の有無と程度を評価する検査です。

 

脊髄損傷にはどんな治療が行われるの?

損傷を受けた脊髄はもとに戻らないため、急性期の全身管理とリハビリテーションがおもな治療になります。

 

急性期は、呼吸障害と排尿障害が起こることが多いため、とくに、補助呼吸による呼吸管理と導尿などの尿路管理に重点がおかれます。また、牽引療法やギプス固定、あるいは手術療法などにより、脊椎の骨折や脱臼を修復し、脊髄への圧迫が除去されます。

 

リハビリテーションは、残存機能を活かしてADLが自立し、さらに社会復帰できることを目的に実施されます。

 

脊髄損傷の看護のポイントは?

脊髄損傷の看護では、急性期は、合併症の出現に注意します。合併症には、呼吸不全、呼吸器感染症イレウス血圧低下、深部静脈血栓症、褥瘡、尿路感染症などがあります。また、脊髄損傷は突然受傷することが多いため、患者の精神的な動揺ははかり知れないものがあるため、精神面のケアも大切です。

 

回復期は、日常生活が自立できるように、また社会復帰が可能となるように援助することがポイントです。患者が障害を受容できるように、他の医療スタッフと一緒に支援することが必要です。

 

脊髄と脊髄神経の働き

脊髄は、延髄の延長である中枢神経である。太さ約1cm、長さ約40cmの円柱状の器官で、脊柱管の中に保護されている。脊髄は、頚髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄の小節に区分される。

 

脊髄神経は、脊髄に出入りする末梢神経である。脊髄の前角から出る前根(運動神経)と、後から出る後根(知覚神経)が、椎間孔を出たところで合流し、混合神経になっている。脊髄神経も脊髄と同様に区分され、頸神経(8対)、胸神経(12対)、腰神経(5対)、仙骨神経(5対)、尾骨神経(1対)の合計31対が脳以外の全身に伸びている。

 

脊髄と脊髄神経には、大脳皮質からの指令を身体の各部に伝え、体の各部からの知覚情報を大脳皮質に伝える働きがある。すなわち情報の遠心路は、大脳皮質→脊髄→脊髄神経→身体の各部となり、求心路はその逆になる。また、脊髄を終末にするものもある。

 

脳神経、脊髄神経の働きと支配領域は図2表2のとおりです。

 

図2脳神経・脊髄神経と脊髄の構造

脳神経・脊髄神経と脊髄の構造

 

脊髄神経は神経線維の束で、そのなかには内臓や血管の運動などを支配する自律神経が含まれる。自律神経には交感神経と副交感神経があり、互いに拮抗的に働いて身体の機能を調整している。

 

髄は反射運動もつかさどっている。これを脊髄反射という。

 

脊髄反射は、無意識に(大脳皮質の指令を受けずに)知覚情報に対して筋肉を収縮させることである。たとえば、膝をハンマーで叩くと、足先が跳ね上がる動きや、熱い物に触れたとき、とっさに手を引っ込めるような動きである。「熱い」という感覚は、手を引っ込めた後に大脳皮質に伝わる。

 

随意筋に関係する脊髄反射には、膝蓋腱反射、アキレス腱反射、足底反射などがある。不随意筋に関係する脊髄反射には、排便、排尿、勃起、射精、分娩反射、瞳孔散大反射、唾液分泌反射、発汗反射などがあります。

 

脳から出る末梢神経を脳神経といい、12対ある。

 

表2脳神経の働き

脳神経の働き

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための病気のなぜ?ガイドブック』 (監修)山田 幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版

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