循環器のフィジカルアセスメント

 

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』より転載。
今回は循環器のフィジカルアセスメントについて解説します。

 

井熊三奈子
新東京病院看護部

 

〈目次〉

 

 

循環器のフィジカルアセスメントのポイント

循環器疾患の患者さんのフィジカルアセスメントで大切なことは、「聞(聴)き逃さない」「見逃さない」ことです。患者さんの訴えや全身の症状を見逃すことなく、観察しましょう。

 

 

 

問診

胸の痛みを訴えている患者さんは、「どこが痛い」と正確に答えることは難しいです。実際、「胸」と呼ばれる部位は「心臓」のほかに、「肺」「気管」「食道」「肋骨・胸骨」「大動脈・大静脈」「乳房」「皮膚」などさまざまあります。

 

胸痛のなかで、まず鑑別しなくてはならないのが致死的な胸痛であるかどうかです。致死的な胸痛とは、心筋梗塞解離性大動脈瘤肺梗塞の3つです。まずは問診からアセスメントをしてみましょう(表1)。

 

表1胸痛を訴える場合の問診のポイント

胸痛を訴える場合の問診のポイント

 

 

 

視診

まずは、患者さんの第一印象を確認しましょう。苦悶様(くもんよう)の表情を浮かべていたり、息苦しい感じはないでしょうか。

 

視診は、患者さんの全身状態を目で診ることが目的です。局所だけではなく、全身を観察するように心がけましょう。

 

循環器疾患を疑う患者さんに対する視診のポイントは、表2図1のとおりです。

 

表2循環器疾患の視診のポイント

循環器疾患の視診のポイント

 

※1 チアノーゼの分類
※2 ばち状指
※3 浮腫の分類

 

図1頸静脈怒張の観察方法

頸静脈怒張の観察方法

 

 

 

触診

触診は、
①脈拍測定
②心尖拍動の確認
③腹部・両下肢の動脈の聴診

の順番で行います。

 

脈拍測定

脈拍測定は一般的に、手首にある橈骨(とうこつ)動脈に示指、中指、薬指の3本の指を当てて、リズムがみられたら1分間測定します(図2図3)。

 

図2脈拍の測定部位(橈骨動脈)

脈拍の測定部位(橈骨動脈)

 

図3脈拍からみる血圧のめやす

脈拍からみる血圧のめやす

 

成人の正常な脈拍数は、1分間あたり60~100回です(表3)。

 

表3脈拍のアセスメント

脈拍のアセスメント

 

はじめて脈をとる患者さんの場合は、両橈骨動脈を同時に測定し、左右差がないかを確認します。

 

脈拍測定は脈拍数のほかに、リズム、脈拍欠損の有無、脈拍の強さ・速さ・左右差・上下肢差などを確認します。

 

心尖拍動の確認

手のひらを胸骨正中部位に当てて、指の先端で心尖拍動※4を触知します(図4)。

 

図4心尖拍動の確認方法

心尖拍動の確認方法

 

心尖拍動が著しく弱い、または触知できない場合は、低心拍出状態心タンポナーデ肺気腫などが疑われます。

 

心尖拍動が大きくて強い場合は、大動脈弁狭窄症拡張型心筋症左室肥大などが疑われます。

 

心尖拍動とともに、振戦の有無を確認します(表4)。振戦は、心臓弁膜症短路血流(シャント)によって生じます。

 

表4振戦による異常

振戦による異常

 

腹部・両下肢の動脈の触診

腹部の触診では、上腹部から中腹部の正中線上付近にあたる、腹部大動脈の拍動に注意します。三尖弁閉鎖不全症(TR)の場合、収縮期に心窩部から右季肋部にかけて肝臓の拍動を感じることがあります。

 

両下肢の動脈を触知し、左右差の有無を確認します。左右差がある場合は、閉塞性動脈硬化症や大動脈解離が疑われます。

 


[memo]

  • ※1 チアノーゼの分類(上へ戻る
    ・中心性チアノーゼ:動脈血酸素濃度の低下によって生じる。おもな原因は、先天性心疾患や肺機能の低下。
    ・末梢性チアノーゼ:動脈血酸素濃度は正常だが、末梢血管床の血流停滞によって静脈血の脱酸化ヘモグロビンが増加した状態。おもな原因は、心拍出量低下、動脈閉塞。
  • ※2 ばち状指(上へ戻る
    正常な指では、第一関節を背中合わせにすると、と爪の間に菱形の空間ができる。慢性的な酸素供給不足が続いていると、爪のつけ根が盛り上がり、爪どうしがあたらないようになる(図5)

    図5ばち状指

     

    ばち指

     

  • ※3 浮腫の分類(上へ戻る
    ・全身性浮腫の種類:心性、腎性、肝性、栄養状態、内分泌性、薬物性など。
    ・局所性浮腫の種類:血管系、リンパ系、炎症など。
  • ※4 心尖拍動(上へ戻る
    心収縮期に、心尖部(心臓の左前方の尖端)が前胸壁に突き当たり、その部分が心臓の拍動とともに持ち上がること。

 


文献

  • 1)上田芳郎:診察と診断の流れ.吉田俊子著者代表,系統看護学講座 専門分野Ⅱ 成人看護学3 循環器 第14版,医学書院,東京,2015:48-51.
  • 2)横山正明:診察(視診・聴診),診察(聴診).落合慈之監修,山﨑正雄,柴田講編,循環器疾患ビジュアルブック 第2版.学研メディカル秀潤社,東京,2017:21-29.
  • 3)竹尾惠子監修:看護技術プラクティス 第23版.学研メディカル秀潤社,東京,2013.
  • 4)山内豊明:見る・聴く・触るを極める! 山内先生のフィジカルアセスメント 技術編.エス・エム・エス,東京,2014:24-27,34-43.

 


本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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