小児の人工呼吸中の特徴と観察点は?

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』より転載。

 

今回は「小児の人工呼吸中の特徴と観察点」に関するQ&Aです。

 

三浦規雅
東京都立小児総合医療センターPICU主任

 

小児の人工呼吸中の特徴と観察点は?

 

小児の人工呼吸管理では、安全域が狭く、合併症を起こしやすいとされています。小児の特性を理解して、呼吸をはじめとする全身状態の観察、機器の観察を行うことが求められます。

 

〈目次〉

 

小児における人工呼吸

人工呼吸の目的は、

 

  1.  ①  酸素化の改善
  2.  ②  換気の調節
  3.  ③  呼吸努力の軽減
  4.  ④  蘇生後あるいは中枢神経管理のため

に集約される。

 

小児の人工呼吸の適応を表1に示す。

 

表1小児の人工呼吸の適応

 

志馬信朗,橋本悟,問田千晶:小児ICUマニュアル改訂第6版.永井書店,大阪,2012:93.より引用

 

小児の特性

1モードは圧規定換気

小児の気管挿管においては、カフなし気管チューブを用いることが多い(『小児にカフなし気管チューブを使うのは、なぜ?』)。そのため、気管と気管チューブの間にはリークが存在することから、量規定換気では、設定した一回換気量と、患者の肺に実際に入る一回換気量との間に乖かい離りが生じる。

 

小児は肺コンプライアンスが低いため、設定した一回換気量を得るために高い気道内圧を要し、圧損傷をきたす恐れがある。そのため、小児の人工呼吸においては、圧規定換気が選択される。

 

圧規定換気を行っている小児の人工呼吸では、気管チューブの屈曲・閉塞、気管分泌物の貯留、体位などによる気道抵抗の上昇や、病勢の悪化による肺コンプライアンスの低下により、同じ吸気圧で得られる一回換気量が低下する。

 

2合併症が起こりやすい

肺コンプライアンスの低い小児の人工呼吸では、呼吸回数を増加させる呼吸管理が主体となる。

 

ただし、気道閉塞性疾患を有している小児や、年齢に比して細い気管チューブを使用している小児では、時定数(コンプライアンス×気道抵抗)が増加するため、呼気時間を十分に確保し、エアトラッピングによる高二酸化炭素血症、肺気腫気胸などの合併症を防ぐ必要がある。

 

小児は、小さい胸郭に対して腹部臓器が大きく、腹部膨満により容易に横隔膜の動きが制限される。人工呼吸中でも同様で、胃管からの脱気や内容物の吸引、排便コントロール、排ガス促進により、腹部減圧を図る必要がある。

 

2適切な鎮静が不可欠

小児の人工呼吸では、コミュニケーションやタッチングによって安静が得られることもあるが、通常、適切な鎮静なしに人工呼吸器との同調性を得ることは困難である。

 

不適切な鎮静は、苦痛・不安・恐怖を生じさせ、酸素消費量・基礎代謝量を増加させて、換気を悪化させ、圧外傷を引き起こす。

 

小児の人工呼吸において、多くの場合、患児の協力を得ることは困難である。また、その解剖学的特徴から、成人に比べて挿管手技は難易度が増す。そのため、鎮静の有無にかかわらず、予定外抜管に対する予防が重要となる(表2)。

 

表2人工呼吸中の観察点

 

呼吸状態 呼吸回数、胸郭の動き(胸上がり・胸下がり)、呼吸音、呼吸パターン(深さ、リズム)、異常呼吸(陥没呼吸、下顎呼吸、肩呼吸など)の有無、自発呼吸の有無、人工呼吸器との同調性、SpO、ETCO、気管分泌物の量・性状、口分泌物の量・性状、咳嗽反射の有無
循環状態 心拍数血圧中心静脈圧皮膚色、中枢温・皮膚温格差、毛細血管再充満時間、尿量
神経症状 意識レベル、鎮静度、機嫌、活気、瞳孔異常所見の有無、睡眠パターン、体動
皮膚状態 挿管チューブ固定に伴う皮膚損傷の有無
その他の所見 胃内容物の量・性状、腹部膨満の有無、排便の量・性状
検査所見 血液ガス、胸部単純X線
人工呼吸器 気管チューブの固定状態、挿入長、リーク、回路のねじれ・屈曲の有無、回路接続部のゆるみ・リークの有無、回路内の結露水貯留の有無、回路の固定、加温加湿器の温度・水、人工呼吸器設定、モニタリング値(各測定値、一回換気量、リーク率など)、アラーム設定、電源

 

注釈

 


[文献]

  • (1)Lerman J,Cote CJ,Steward DJ著,宮坂勝之,山下正夫訳:小児麻酔マニュアル改訂第6版.克誠堂出版,東京,2012.
  • (2)American Heart Association:PALSプロバイダーマニュアルAHAガイドライン2010準拠.シナジー,東京,2013:46.
  • (3)Silverman WA, Dunham’s Premature Infants. 3rd ed. New York:Harper & Row;1961:144.
  • (4)志馬信朗,橋本悟,問田千晶:小児ICUマニュアル改訂第6版.永井書店,大阪,2012
  • (5)日本呼吸療法医学会・多施設共同研究委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline第2版.人工呼吸2004;21:44-61.
  • (6)Curley MA:Japanese Version SBS. http://www.marthaaqcurley.com/uploads/8/9/8/6/8986925/sbs_japanese.pdf(2014年11月18日閲覧).
  • (7)志馬信朗:小児人工呼吸管理中の鎮静・鎮痛.救急・集中治療2010;22:407.
  • (8)McGrath PJ, Johnson G, Goodman JT, et al. CHEOPS:A behavioral scale for rating postoperative pain in children. Adv Pain Research therapy 1985; 9: 395-402.
  • (9)小宮山明子,魚住知恵:人工呼吸療法中の子どもの口腔ケア.小児看護2012;35(9):1203.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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