受持ちの患者の様子がいつもと違い、ぐったり。どのように対応する?
『根拠から学ぶ基礎看護技術』より転載。
今回は急変時の対応に関するQ&Aです。
江口正信
公立福生病院診療部部長
受持ちの患者の様子がいつもと違い、ぐったり。どのように対応する?
“ABC-OMI”で対応します。
〈目次〉
ABC-OMIとは
ABC-OMI”で対応します。患者の急変時の対応の手順として、まずはABCの順に観察を行い、緊急性が高い場合にはOMIを実施します。
- ABCとは
A=air way(気道)
B=breathing(呼吸)
C=circulation(循環)
気道(air way)を確認しよう
まずは、気道が開いていることを確認します。声が出れば、気道は開いていると判断できます。痰や吐物などでゴロゴロと音がしているような場合は、吸引して気道を確保しましょう。
呼吸(breathing)を観察しよう
次に、呼吸の確認と補助呼吸が必要かどうかをみます。患者の呼吸にあわせて呼吸をしてみましょう。おおまかに速いか、遅いかがわかります。
呼吸音、呼吸パターンについても学習しておきましょう。頻呼吸(25回/分以上)の原因としては、低酸素血症、アシドーシス、発熱、痛みなどがありますが、ショックの徴候である可能性もあるので注意が必要です。除呼吸(12回/分以下)の場合は、鎮静薬の影響やアルカローシス、脳圧亢進などの可能性があります。
あわせて呼吸パターンの観察もしましょう。また、呼吸停止寸前かもしれません。その場合はバッグバルブマスクによる呼吸の補助を行いましょう。
memo
救命救急センターに運ばれてくる患者だけでなく、入院患者の急変時には、患者の反応や呼吸の有無を把握し、患者の状態を的確に評価して、心肺蘇生や止血などの必要な救命救急処置を行わなければなりません。
心停止など生命の危機的状況に陥った患者に対しては、呼吸と循環をサポートする一連の処置として胸骨圧迫および人工呼吸による心肺蘇生と、AED(automated external defibrillator:自動体外式除細動器)を行います。
呼吸数を数えましょう
こんなやりとりを耳にしたことはありませんか?
新人看護師:「患者さんの具合が悪いように思います。体温は37.6°C、脈拍は108回/分、血圧は126/54mmHg、SpO2は96%です」
先輩看護師:「呼吸数は?」
新人看護師:「あっ、数えてはいませんが、SpO2は96%あるので問題ないと思います!」
皆さんは呼吸数を数えていますか?
バイタルサインのなかでも呼吸数は重要なサインです。身体の異常時に、脈拍や血圧、体温などのバイタルサインよりも早い時点で異常値を示します。
頻呼吸の原因はいくつもありますが、その原因の1つで忘れてはいけないのは「代謝性アシドーシスの呼吸性代償」です。人間が正常な体の機能を営むためには血液のpHが7.4あたりで保たれる必要があります。急変患者は代謝性アシドーシス(pH7.35より低い値)になっていることが多く、それをpH7.4に頑張って戻そうとして、頻呼吸になっている可能性があります。アシドーシスは心停止に至る致死的状態であるため、ただちにそれに対応する必要があるのです。
なぜアシドーシスの代償で頻呼吸になるのか?
CO2+ H2O → H++ HCO3-
この式で表されるとおり、二酸化炭素(CO2)は H+(酸)を放出する酸性物質であるといえます。酸性に傾いた(アシドーシスとなった)身体を中和させるために、呼吸数を増やすことによって酸性物質である CO2を排出して減らそうとするのです。
循環(circulation)をチェックしよう
A(気道)、B(呼吸)の次に、血圧、脈拍をみます。
一般的には、収縮期血圧90mmHg以下、または200mmHg以上は注意が必要です。若い女性などで、普段から収縮期血圧が80mmHg台という人もいると思いますので、90mmHg以下だから異常というわけではありません。
しかし、血圧が90mmHgで、脈拍が120回/分(頻脈)であったとすると異常な状態です。「収縮期血圧÷脈拍」(ショックインデックス)が1より低くなる場合はショックである可能性が高いです。ただちに先輩看護師や、医師に報告しましょう
まずは、橈骨動脈に触れてみましょう。脈拍が触知できなかったり、微弱に触れる状態であれば、収縮期血圧80mmHg以下である可能性が高いです。
血圧が高すぎる場合(高血圧)に関しては、それ以外の症状、たとえば、意識障害、胸痛、頻呼吸、呼吸困難などを伴う場合は要注意です。ただちに先輩看護師や、医師に報告しましょう。
ABCの次はOMI
以上のようにABCを観察し、異常だと判断したら、OMIが合言葉です。酸素投与(oxygen)、モニター(monitor)、 静脈ル ー トをとるための点滴(IVinfusion)の準備をしましょう。
ショックとは、「全身の循環障害により血流が維持できなくなり、臓器が酸素不足になることにより生体機能に異常が生じる病態」です。単に血圧が低いことではありません。患者の状態が悪そうなときは以下のショック兆候を頭において観察しましょう。
①意識状態が悪い。興奮していたり、不安がっていたりいつもと様子が違う。
②呼吸数の増加(20回/分以上)
③尿量の減少(30mL/時間以下)
④体温の低下(36°C以下)、もしくは発熱(38°C以上)
⑤ショックインデックス(収縮期血圧÷脈拍)< 1
⑥四肢の冷感、網状皮斑(図1)がみられる。
図1網状皮斑

高血圧緊急症とは?
高血圧に関して、患者が「ただちに降圧治療を開始しなければ臓器障害が急速に進行し、致命的になりうる状態(高血圧緊急症)にある」ことを見逃してはいけません。その場合の血圧の目安は拡張期血圧が120mmHg以上です。
主な高血圧緊急症と観察ポイント
①高血圧性脳症:血圧上昇により脳血流の自動調節能が破綻し、血管性浮腫が起こり頭蓋内圧が亢進する。
②脳血管障害:脳梗塞やクモ膜下出血など。
➡意識状態、不穏、けいれん、麻痺などに注意
③高血圧性急性左心不全:血圧が高いと、心臓はより高い圧力をかけて血液を送り出さなければなりません。血圧が高くなりすぎたために、血液を十分送り出せず、その上流にある肺がむくんだ状態(肺水腫)
④急性冠症候群
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 根拠から学ぶ基礎看護技術 第2版』 (編著)江口正信/2024年5月刊行/ サイオ出版


