リンパ球と抗体|守る(3)

解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、免疫についてのお話の3回目です。

 

[前回の内容]

侵入してきた敵をたたく白血球|守る(2)

 

解剖生理学の面白さを知るため、からだのなかに侵入してきた細菌などと戦う白血球について知りました。

 

今回はリンパ球と抗体の世界を探検することに……。

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

血液はどこで生まれるか

血球の生成はまず、胎生3週目頃、卵黄嚢(のう)の中胚葉性細胞で始まります。その後、胎生1~2か月頃からは肝臓脾臓でも血球がつくられ、肝臓においては、出生数週間前まで活発に生成が続きます。胎生4か月目頃になると、骨髄でも血球がつくられ、7~8か月目には肝臓や脾臓での生成を上まわるようになります。以後、骨髄での血球生成はさらに盛んになり、出生直後から生後4歳くらいまでは、ほとんど全身の骨髄で血球がつくられます(図1)。

 

図1造血の変遷

 

造血の変遷

 

こうした造血作用は、成長するにつれ、四肢末端の長管骨から弱くなります。思春期では、大腿骨や脛骨、上腕骨などの長管骨で血球がつくられていますが、20歳を過ぎると、長管骨のほとんどで生成は止まります。ただし、頭蓋骨、骨盤、胸骨、脊椎骨、肋骨ではその後も長く、血液細胞がつくられ続けます。

 

造血作用が盛んな骨髄は、見た目から赤色骨髄とよばれますが、生成が止まった骨髄は脂肪細胞に置き換えられ黄色くなるため、黄色骨髄とよばれます。

 

成人の場合、白血球も赤血球血小板も骨髄で作られる。ここまではOKね?

 

はい

 

白血球のうち、免疫にかかわる細胞を免疫細胞とよびますが、それはみな、骨髄の中にある多能性幹細胞という1種類の細胞から派生したものです

 

つまり、好酸球好中球もリンパ球も、ぜーんぶ、もとは同じってことですか?

 

そう。ただしリンパ球には、それぞれに必要な能力を訓練する学校があって、生まれた後はそこへ行くのよ

 

リンパ球の学校?

 

リンパ球の学校──胸腺

骨髄でつくられたリンパ球は、そのままでは未熟で使い物になりません。その未熟なリンパ球のほとんどが向う学校が胸腺です(図2)。

 

図2胸腺の役割

 

胸腺の役割

 

胸腺(thymus)は胸の真ん中にある白っぽいプヨプヨした臓器です。10歳代前半で最大になり、約35gに達しますが、性成熟後は小さくなり、老人になると痕跡(こんせき)を残すくらいになってしまいます。

 

胸腺の働きが明らかになってきたのは、1900年代半ばのことです。マウスの胸腺を取ると伝染病にかかりやすくなったり、胸腺をとったマウスにヒツジの赤血球を注射しても抗体ができなかったりしたことから、胸腺が免疫反応を起こすために必須の臓器であることがわかってきました。

 

胸腺で成熟したリンパ球は、thymusの頭文字をとってTリンパ球T細胞)とよばれます。胸腺では多くの未熟なリンパ球がひしめき合って教育されていますが、実際にそこを出て活躍できるのは一部のエリートだけ。卒業できるのはなんと、胸腺に入ったリンパ球全体の5%以下に過ぎません。

 

胸腺を卒業していくT細胞は、それぞれ得意な仕事を身につけています。あるものは免疫反応を助け、あるものはそれを抑えます。それぞれ、ヘルパーT細胞サプレッサーT細胞とよばれます。また、殺し屋専門の細胞もいて、それはキラーT細胞とよばれています。

 

訓練を終えたリンパ球は、卒業証書をもらうのよ

 

卒業証書?

 

まあ、リンパ球として成熟している証明のようなもので、T細胞抗原受容体(T cell receptor)、略してTCRとよばれています

 

それは、どういうものですか?

 

ある種の分子と思ってくれればいいわ。こうした分子には国際的に統一した番号が付けられていて、CD(cluster of differentiation)とよばれています。ヘルパーT細胞にはCD4分子、サプレッサー、キラーT細胞にはCD8分子などが細胞表面に出てくるの

 

ところで、B細胞の学校はどこにあるんですか?

 

それがね、どうもはっきりしないのよ

 

Bリンパ球の由来と成熟

リンパ球のうち、Bリンパ球B細胞)はニワトリの消化器官に相当するファブリキウス嚢(bursa of Fabricius)で初めて発見されました。そのため、bursaの頭文字をとってB細胞とよばれています。

 

ニワトリを使った実験では、ヒヨコのうちにファブリキウス嚢を除去すると、細胞性免疫は損なわれませんが、抗体産生が低下することが示されています。人間にはファブリキウス嚢は存在しないため、いまのところ、骨髄がファブリキウス嚢と同じ役割を果たしているのではないか、と考えられています。

 

B細胞っていったいなんなんですか? T細胞とは、何がどう違うんでしょうか

 

そう、あわてないで。簡単にいうと、B細胞は抗原に出合うと抗体製造マシーンに変身しちゃうのよ

 

抗体製造マシーン?

 

抗体製造マシーン──形質細胞

抗原に対応する抗体をつくるのは、リンパ球のB細胞が分化してできた形質細胞です。B細胞は、「抗体」分子を受容体としてもっていて、抗原が侵入してくると、その刺激によって形質細胞に分化し、次々と抗体を産生します。

 

一方、形質細胞に分化しなかったB細胞は、記憶細胞(メモリー細胞)となり、入ってきた抗原を記憶します。これによって、次に同じ抗原が侵入してきたときにも、すばやく反応することができるのです。

 

B細胞に抗原の侵入を知らせるのはヘルパーT細胞で、ヘルパーT細胞からの連絡を受けると、B細胞はすぐに分裂を始め、形質細胞へと分化していきます。形質細胞が作り出す抗体は、たとえていうなら細胞の壁を打ち破るミサイルのようなもの。抗体には「補体」という爆薬があり、導火線のようにさまざまな反応を繰り返し、最終的に敵の細胞膜を破壊し、死滅させます(図3)。

 

図3補体

 

補体

 

(齋藤紀先:休み時間の免疫学。p.24、講談社、2004より改変)

 

爆薬だとか、導火線だとか、なんだか乱暴な話ですね

 

免疫機能は侵入者との闘いでしょ。だからどうしても、物騒な言葉が出てきてしまうのよね

 

それにしても、抗体ってまだよくイメージがわかないなあ。いったい、どんな材料でできていて、どんな形をしているんだろう?

 

じゃあ、次はそれを見て行きましょう

 

抗体の基本構造

免疫グロブリン(immunogloblin:Ig)ともよばれる抗体は、血清タンパク質のγグロブリンに相当します。その基本構造は、2本の重鎖(heavy chains:H鎖)と2本の軽鎖(light chains:L鎖)でできています(図4)。

 

図4抗体の基本構造

 

抗体の基本構造

 

H鎖とL鎖、およびH鎖とH鎖の間はジスルフィド結合(S-S結合)で結ばれており、4本の鎖が結合すると、全体としてT字型、あるいはY字型となります。

 

先生、いきなり難しい言葉が出てきました。ジスルフィド結合ってなんですか?

 

タンパク質とタンパク質、あるいはタンパク質内の分子どうしの結び方の一種と考えてくれればいいわ

 

それにしても、抗体ってなぜこんな形をしているんですかね?

 

抗体の構造はよく、鍵と取っ手にたとえられるの

 

どこが鍵で、どこが取っ手なんだろう?

 

抗体は、その構造上、Fab領域とFc領域に分けられます。抗原と結びつくことができるのは、Fab領域です。

 

また、一方の端には抗体の種類によって形の違う可変部(V領域)があり、他方にはほとんど同一の構造をもつ定常部(C領域)が存在します。定常部は、たとえるなら鍵の取っ手になります。ですから、ここはどの抗体でも同じ形をしています。

 

一方、鍵にたとえられる可変部は、抗体の種類によって形が違います。H鎖とL鎖の可変部が抗原結合部位となるため、どのような抗原と結合するかによって、その部分の形が違ってきます。

 

1つの抗体には、抗原と結合する部位が必ず2か所あります。そして、可変部の違いにより、免疫グロブリンは、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDの5つのクラスに分けられます。

 

特異的防御機構である抗原-抗体反応について、おおよそ理解できたかしら?

 

抗体に関しては、難しい言葉がたくさん出てきて、覚えきれなかったかもしれません

 

一度に全部、覚えようとしなくていいのよ。わからない言葉は無視して、とにかく流れをつかんで。流れが見えてきたら、わからなかったこともだんだん、わかるようになるはずよ

 

コラム免疫グロブリンの種類

抗体、すなわち免疫グロブリンの種類を以下にまとめました(図5)。

 

図5免疫グロブリンの種類

 

 

IgG:分子量は約16万。正常人の免疫グロブリンの70~75%を占め、最も多い抗体である。胎盤通過性があり、血液を介して母親から胎児へと受け渡される。

 

IgE: 分子量は約19万。気道、消化管粘膜、リンパ節などの局所でつくられる。Ⅰ型アレルギー反応(即時型アレルギー反応)を起こすレアギン抗体であり、組織中の肥満細胞や末梢血中の好塩基球と結合し、細胞表面上でアレルゲンと反応してヒスタミンなどの化学伝達物質を放出し、Ⅰ型アレルギー反応を起こす。

 

IgD:分子量は約19万。末梢血中のリンパ球の膜表面に存在する。正確な機能についてはよくわかっていない。

 

IgM:分子量は約100万。正常人の免疫グロブリンの10%を占める。通常、5量体の形で存在し、それぞれのFc部分はJ鎖によって結合されている。抗原結合部が多いため、IgGと比べて赤血球凝集能、細菌凝集能、溶血能、殺菌能なども高い。IgMは、抗原刺激後、IgGより早い時期(3日前後)から出現するが、短期間で下降していく。個体発生的にも初期に産生される。

 

IgA: 血清IgAと分泌型IgAの2つがある。分泌型IgAは外分泌液中(唾液、涙、気管支分泌液、汁、前立腺液、腟分泌液、腸管分泌液)に含まれていて、それぞれの局所粘膜における防御機能を担っている。分泌型IgAは2量体の形で存在し、分泌成分とJ鎖によって結合している。分子量は39万。

 

[次回]

免疫反応の流れ|守る(4)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版

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