イレウスチューブ|イレウスチューブの適応・禁忌とケアのポイント | ドレーン・カテーテル・チューブ管

ドレーンカテーテル・チューブ管理完全ガイド』より転載。
今回はイレウスチューブについて説明します。

 

石塚 満
獨協医科大学医学部第二外科学内准教授
窪田敬一
獨協医科大学医学部第二外科教授
渋井由花・戸崎幸子
獨協医科大学病院看護部
小山喜代美
獨協医科大学病院看護部看護師長

 

《イレウスチューブについて》

 

主な適応
腸閉塞(絞扼性腸閉塞・大腸癌による腸閉塞は除く)
目的
保存的に腸管減圧・排液を図る
合併症
固定部(翼)の潰瘍形成、腸管虚血
抜去のめやす
排便・排ガスが生じ、排液量が500mL/日以下に
なれば抜去可能
排便、排ガスの回復
観察ポイント
排便・排ガスが生じ、排液量が500mL/日以下になれば抜去可能
排便、排ガスの回復
ケアのポイント
歩行時 :チューブの固定位置を調整し、排液バックを点滴台に装着するなど配慮する
in-out :排液量が急激に増加する場合があるため、in-outバランスに注意する

イレウスチューブ

 

〈目次〉

 

イレウスチューブの定義

イレウスチューブの構造

イレウス(腸閉塞)チューブ(図1)は、通常、先端に先導子と呼ばれる金属球が連なった構造をもち、先端ないし誘導子のあとにバルーンが付いた全長240~320cm程度のものが一般的である1

 

図1イレウスチューブの一例

イレウスチューブの一例

 

チューブ内腔にガイドワイヤーを通し、透視下にガイドワイヤーを軸にしてチューブを挿入する。先導子は重りの役目をもち、幽門輪や小腸の屈曲の強い部位を、チューブ先端を体位変換にて通過させる際に有用である。

 

最近では、親水性のガイドワイヤーやイレウスチューブが登場し、以前の材質のチューブに比べ、格段に挿入の操作性が向上した。

 


 

 

イレウスチューブの使用

イレウスチューブ挿入時には、鼻腔に局所麻酔薬含有ゼリーを塗布するだけでなく、咽頭部をチューブが通過する際の嘔吐反射により大量の吐物を吐いてしまうことを予防するために、あらかじめ経鼻胃管を挿入して内を虚脱しておくことも有用である。

 

イレウスチューブ挿入後は、通常は器械を用いた積極的な間欠的持続吸引が行われる(図22。腸管内の減圧は、吸引圧が高いほど、吸引時間が長いほど効果的に行うことができるが、腸管壁の吸引による腸管穿孔の恐れがあるため、常に適正な吸引圧(10~50cmH2O)や吸引-休止時間(10秒-5秒程度)での管理を行う。

 

図2イレウスチューブによる腸閉塞解除の機序

イレウスチューブによる腸閉塞解除の機序

 

チューブの閉塞を予防する目的で、1日に数回時間を決めて50mL程度の空気を用いてチューブ内をフラッシュすることも、効果的な減圧を行うためには大切である。

 

ちなみに、欧米では胃に貯留した胃液などの液体を吸い出すために、経鼻的に胃に挿入される管(経鼻胃管、ガストリックチューブ、NGチューブなど)を「ショートチューブ」と呼ぶのに対し、小腸に貯留した腸液などを積極的に吸引するために経鼻的に小腸に挿入される管を「ロングチューブ」と呼ぶ。

 

イレウスチューブはロングチューブのことであり、イレウスチューブ(イレウス管)という名称は、1953年に齊藤3が用いて以来、わが国では一般的に使われている。

 

イレウスチューブの適応・禁忌

がん性腹膜炎に伴う腸閉塞で、減圧手術や抗がん薬の全身投与によっても通過障害の改善を期待できない場合は、イレウスチューブの挿入経路を経鼻経路からすみやかに経皮経胃経路(胃瘻、『経皮内視鏡的胃瘻造設術:PEG』参照)や経皮経食道経路(PTEG、『経皮経食道胃管挿入術:PTEG』参照)に変更し、長期挿入に伴う鼻翼や咽頭の痛みを取り除く必要がある。

 

イレウスチューブは腸閉塞を保存的に加療する目的で挿入されるため、緊急手術が必要な絞扼性腸閉塞の患者に加療目的で挿入されることはない。

 

大腸癌による腸閉塞に対しては、イレウスチューブでは大腸の減圧効果が弱いことや、経肛門的減圧チューブの挿入や狭窄部へのステント治療が近年積極的に行われるようになってきたことから、イレウスチューブ挿入の意義は薄れてきている。

 

イレウスチューブの挿入経路と留置部位

イレウスチューブは胃管同様に経鼻的に挿入され、その先端はトライツ靱帯を越えて空腸以深に留置するのが基本である(図3)。

 

図3イレウスチューブ挿入直後の造影写真

イレウスチューブ挿入直後の造影写真

 

チューブ先端のバルーンを蒸留水(生理食塩水は用いない)で膨らませることにより、腸管の蠕動運動に乗ってチューブの先端は受動的に深部まで挿入され、閉塞部位により近い部位で、効果的な減圧や造影を行うことができるようになる。これがイレウスチューブの最大の特徴である。

 

イレウスチューブの合併症

固定部の潰瘍形成

イレウスチューブは、胃管に比べて堅い材質を用いていることから、鼻翼への固定で圧迫壊死による潰瘍形成を容易に生じてしまうことが合併症として挙げられる(図4)。潰瘍形成を防ぐためには、チューブの管理が大切である。

 

図4イレウスチューブによる鼻翼の潰瘍形成

イレウスチューブによる鼻翼の潰瘍形成

 

 

腸管虚血

イレウスチューブを挿入後も絞扼が緩徐に進行することがあるため、腹部の触診や腹部X線写真に常に注意する。

 

腹部所見が悪化するようであれば、すみやかに造影CT検査を行い、腸管への血流の評価を行う。腸管虚血が疑われる場合は、決して緊急手術を躊躇してはならない。

 

イレウスチューブの利点と欠点

イレウスチューブの利点・欠点を、ロングチューブとショートチューブの比較で示す(表1)。

 

表1チューブの比較(利点・欠点)

チューブの比較(利点・欠点)

 

イレウスチューブは常に、ショートチューブ挿入よりもその利点が上回る場合にのみ行うことが原則である。

 

イレウスチューブのケアのポイント

イレウスチューブ挿入時

X線透視下で挿入するため、医師・看護師はX線防護服を着用して被曝を避ける。

 

患者に適宜声かけを行い、不安の軽減に努めながら介助にあたる。

 

イレウスチューブの観察

排液量・性状、チューブの長さ、固定方法を経時的に観察する。排液量が急激に増加し脱水になる場合があるため、in-outバランスにも注意する。

 

イレウスチューブ挿入中のケア

嘔気・嘔吐の有無、口渇、口唇・舌の乾燥、全身倦怠感、脱力感、腹部症状の有無、腹痛の有無、輸液量、尿量、採血データのチェック、X線画像の観察を行う4

 

イレウスチューブ挿入中は、特に感染予防のため、口腔内の清潔を図る必要がある。

 

自然排液または器械による間欠的持続吸引なのかを確認し、点滴台などにセッティングする(図5)。

 

図5点滴台への器械のセッティング

点滴台への器械のセッティング

 

 

器械による間欠的持続吸引であれば、吸引圧が指示通りであるか経時的に確認する。また誤って吸引圧が変わらないように、ロックが設定されているか確認する(図6)。

 

図6間欠的持続吸引の設定(メラサキューム の場合)

間欠的持続吸引の設定(メラサキューム の場合)

 

歩行できる患者の場合は、チューブを衣服へ固定する位置の調整(図7)、排液バックが挿入部より下位になるよう点滴台にかける、持続吸引器に台車をつける、または点滴台に装着するなどし、歩行できるように配慮する。

 

図7イレウスチューブの衣服への固定

イレウスチューブの衣服への固定

 

シャワー浴を行う場合、三方活性をオフに固定し、排液バックを外す。チューブにキャップを付けて束ね、濡れないようにビニール袋に入れて管理する。シャワー時は固定が剥がれないように注意する。シャワー浴後は、必ず鼻翼などの固定部を再度確認する。

 

固定部のケア

①鼻翼固定がある場合(図8-①

鼻翼がチューブで圧迫されないように注意する。必要時は皮膚保護材を使用する。

 

固定用テープは1日1回貼り替え、チューブの固定位置や皮膚の状態を観察する。

 

固定部(鼻翼)に皮脂がたまることで、固定用テープが剥がれやすくなるため注意する。

 

②鼻翼固定がない場合(図8-②

消化管の蠕動運動が回復すると、イレウスチューブが進み、鼻翼の固定が引っ張られるようになる。このようなときには、鼻翼固定を外し、イレウスチューブがさらに深部へ移動できるようにする。

 

頬に固定する場合、チューブが進むにつれ鼻から頬までのチューブのたるみがなくなってくる。そのため、チューブの進行の妨げにならないように、チューブにたるみを作り固定する。

 

チューブの長さを経時的に確認する。

 

図8固定部ケアの注意点

固定部ケアの注意点

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)岩淵正之:ロングチューブとショートチューブ.救急医学1980;4(10):1207-1211.
  • (2)土師誠二:「イレウスチューブ」抜去の基準とケア.エキスパートナース2014;30(15):22-27.
  • (3)斉藤淏編:急性腹症.金原出版,東京,1966.
  • (4)永井秀雄,中村美鈴編:臨床に活かせるドレーン&チューブ管理マニュアル.学研メディカル秀潤社,東京,2011:92-95.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社

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