嚥下障害に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「嚥下障害」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

嚥下障害の患者からの訴え

  • 食べ物がうまく飲み込めません
  • 食べるとむせます

 

〈目次〉

〈嚥下障害に関連する症状〉

〈嚥下に関連する症状〉

 

嚥下障害って何ですか?

嚥下(えんげ)とは、食物を口に入れ、噛み砕いてからゴクンと飲み込み、食道を通っての中に行くまでの過程のことです。

 

そのどこかに障害があり、「飲み込みにくい」「むせる」「つかえる」などと嚥下がうまくいかないことを、嚥下障害(えんげしょうがい)といいます。

 

嚥下にはどんな器官が係わるの?

嚥下にかかわる器官などの名称と位置を確認しておきましょう。

 

特に口腔咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)、食道、喉頭蓋(こうとうがい)は重要ですので、しっかりと部位を覚えてください。

 

図1嚥下に係わる器官

嚥下に係わる器官

 

嚥下のプロセスはどうなっているの?

嚥下は、「口腔期」「咽頭期」「食道期」という3つのプロセスに分かれます。

 

口腔期は、食物を口に入れて咀嚼(そしゃく)し、飲み込める状態にして咽頭に送るところまでをいいます。口腔期は、意識して行う随意運動です。

 

咽頭期は、咽頭に送り込まれた食物を食道の入り口まで移送する過程です。これは随意運動ではなく、嚥下反射によって行われます。

 

食道期は、食道に入った食物を蠕動(ぜんどう)運動によって胃まで送る過程です。

 

図2嚥下のプロセス

嚥下のプロセス

 

口腔期に重要なことは何ですか?

食物を飲み込める大きさに噛み砕くためにはが必要ですし、頬の筋肉(咀嚼筋)も使います。食物が口腔内からこぼれないように、口唇をきちんと閉じることも大切です。

 

特に舌の運動は重要で、食塊を咽頭に送り込むには、舌の先端である舌尖(ぜっせん)が上顎にくっつくことが必要です。

 

咽頭期のメカニズムは?

咽頭に送られた食物を食道に送り込む際は、舌が上顎(口蓋/こうがい)にしっかりと付きます。舌骨が上方へ引き上げられ、軟口蓋も上がって咽頭と腔の間をふさぎ、食物が鼻腔に入らないようにします。

 

また、喉頭が前上方に移動し、これによって喉頭蓋が喉頭の入口にふたをするように倒れます。

 

試しに、のど元に指をそっと当てた状態で、唾を飲み込んでみてください。喉頭が上がるのがわかるはずです。これによって気道がふさがり、代わりに咽頭の後方にある食道入口部が開き、そこに食べ物が送られます。

 

従って、嚥下の時には呼吸が停止しています。

 

嚥下障害が起こるメカニズムは?

嚥下障害は、これらの嚥下の過程のどこかに障害があることによって起こります。

 

口腔期の障害としては、舌がうまく動かないことが考えられます。舌がうまく動かないと、食物を咽頭に送ることができず、食物が口腔内に残ってしまいます。

 

咽頭期では、軟口蓋と喉頭蓋という2つのふたがうまく閉じるかどうかがポイントです。軟口蓋が閉じないと、食物が鼻に逆流します。喉頭の動きが悪いと、喉頭蓋による気道の閉鎖や食道入口部の開きが不十分になり、食物が食道ではなく気道に入ってしまう、「誤嚥(ごえん)」が起こります。また、咽頭の筋肉の動きが悪いと、咽頭に食物が残り、これも誤嚥の原因になります。

 

食道期には、蠕動運動を司る食道括約筋の働きが低下することによって通過障害が起こったり、胃に入った食物が逆流することがあります。また、食道の狭窄がある場合にも、食物の通過障害が起きます。

 

嚥下障害を引き起こす疾患は?

口腔から食道の間に腫瘍による狭窄があると、通過障害が起きます。代表的な疾患は、食道癌です。

 

歯の喪失や加齢によって咀嚼能力が低下すると、食物を細かくすることができなくなり、口腔期の障害をもたらします。

 

また、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や重症筋無力症などの神経系の疾患、出血脳梗塞の後遺症で、嚥下に関係する筋肉を支配する神経が麻痺することがあります。すると、口唇がきちんと閉じないために食物がこぼれ落ちる、舌や喉頭をうまく動かせないなど、口腔期や咽頭期の問題を生じます。

 

さらに、疾患ではありませんが、加齢による咽頭筋や食道括約筋の筋力の低下によっても、嚥下障害が起こります。高齢者に嚥下障害が多くみられるのは、このためです。

 

嚥下障害はどうやってアセスメントするの?

嚥下障害で最も問題になるのは、誤嚥です。誤嚥は以下に述べるように、3つのタイプに分けられます。それぞれ、嚥下のプロセスのどこに問題があるかが異なります。

 

嚥下前誤嚥
まだ飲み込む準備ができていないうちに食物が咽頭に達してしまうもので、口腔期に障害があります。

 

嚥下中誤嚥
喉頭蓋が十分に閉じないために、食物が気道に入ってしまう状態です。鼻から出てくる時は、咽頭と鼻腔の間の軟口蓋がうまく閉じていないと考えられます。

 

嚥下後誤嚥
食物を飲み込んだ後で起こる誤嚥です。咽頭の筋肉の働きが悪く、嚥下圧が十分にかからないと、食物が咽頭に残ってしまいます。そのため、「のどに何か引っかかる感じ」があります。また、食道の通過障害があったり、胃から食道への逆流が起こる場合も、嚥下後誤嚥につながります。原因としては、食道に腫瘍があったり、食道括約筋の働きに問題があることなどが考えられます。

 

食事中に患者がむせたら、「どの時点でむせたか」をみることで、誤嚥のタイプを判定して原因を推測します。

 

飲み込む前なら嚥下前誤嚥、飲み込んでいる途中なら嚥下中誤嚥、飲み込み終わってからなら嚥下後誤嚥であると判断できます。

 

食事の前後の気管・肺の呼吸音の比較も有用です。

 

嚥下障害の簡易的な評価方法としては、反復唾液嚥下テスト(RSST、30秒間にできるだけ多くの唾液を嚥下してもらい、その回数をみるもの)、水飲みテスト(MWST、冷水3mLを口腔前庭に注いで、嚥下してもらった時の嚥下の様子を見るもの)、フードテスト(ティースプーン一杯のプリンなどを嚥下してもらった時の様子をみるもの)があります。

 

検査としては、X線透視下で贈造影剤を飲み込んでもらう嚥下造影検査(VF)や鼻腔から内視鏡を挿入して、直接嚥下の様子を観察する嚥下内視鏡検査(VE)が行われます。

 

嚥下障害を発見する糸口は?

患者に食物を飲み込む時の感じを尋ねた時に、「飲み込みにくい」「飲み込む時に痛みがある」「のどに引っかかる」「鼻に戻ってくる」「口の中に残る」「胸焼けする」「口の中に戻ってくる」「酸っぱい味がする(胃から逆流した食べ物に胃酸が混じっているため)」などのような訴えがあれば、嚥下障害を疑います。

 

ただし、神経疾患のように誤嚥が起こっていても「むせ」が起きない場合もあります。また、睡眠中や意識障害の時など、本人が気づかない間に誤嚥が起こっていることもあります。頻繁に発熱や肺炎を繰り返す時には、誤嚥を疑います。

 

嚥下障害のケアは?

医師、言語聴覚士、管理栄養士などと連携しながら、嚥下障害のタイプに応じた食事の工夫、専門的な訓練とケアを行います。また、身体が傾いていたり、足先がぶらぶらしていないか、ベッドの角度は適切か等について確認し、正しい姿勢を取ることも大切です。

 

誤嚥があると、食べ物が気道から肺に入り、肺炎を起こすおそれがあります。口の中をきれいに保ち、リスクを少なくすることが重要です。

 

食べやすい食物や食べ方ってあるの?

咀嚼に問題がある時には、小さく刻んだり、柔らかく調理するなどの工夫をします。飲み込みに問題がある時は、のどにくっつくような食品を避け、とろみをつけたりします。

 

摂食時の姿勢も重要です。基本的には座位にし、臥床している場合は、ベッドを30度に挙上します。枕などを利用して身体の軸をまっすぐにし、足の裏が平らな面につくようにします。口の中に食物が残る時には頸部を少し後ろに反らせ、なかなか飲み込めない場合は少し前屈させます。

 

胃からの逆流が疑われる場合は、食事後もしばらく体を起こした状態を保ちます。片麻痺の患者には、健側に食べ物を入れます。

 

いずれの場合でも、嚥下したこと、口腔内に食べ物が残っていないか確認します。

 

また、嚥下障害があると食物を十分に取れず、栄養状態が悪くなります。体重をこまめに測るなどして注意をします。水も飲めない状態では脱水症状(→脱水に関するQ&A参照)を起こしやすいので、水分補給に気をつけ、尿の量や色をチェックしましょう。

 

用語解説不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)

誤って気道に物が入ると、普通はむせが起こって誤嚥した物を吐き出そうとします。

 

これに対して不顕性誤嚥とは、文字通り、気づかないうちに起こる誤嚥をいいます。従って、むせは起こらず、誤嚥した物が排泄されずに気道内に吸引されたままになってしまいます。

 

不顕性誤嚥が起こる原因としては、加齢に伴って食道を固定している靭帯が緩み、徐々に食道の位置が高くなって食べ物が逆流しやすくなる場合が考えられます。高齢者では、臥床している場合が多いので、さらに胃内容逆流が起こりやすくなり、不顕性誤嚥につながる可能性が増加します。

 

COLUMN嚥下訓練

嚥下障害では、適切なリハビリテーション、すなわち嚥下訓練を行うことにより、嚥下機能を高めたり、誤嚥を防止することが可能です。

 

嚥下訓練の方法としては、冷たいもので口周辺やのどをマッサージするアイスマッサージ、頬や顎、唇、舌のマッサージや運動をする、空嚥下をする、自助具(じじょぐ)を用いるなどがあり、障害の種類に応じて適切な方法を選択します。パタカラ体操など、楽しみながら摂食や嚥下に関する筋肉も鍛えるものも工夫されています。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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