貧血|貧血の種類と原因

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

赤血球の働き(2)

 

今回は、貧血について解説します。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

Summary

 

〈目次〉

 

貧血の種類

血液の酸素運搬能の低下した状態を貧血という。臨床的には、Hb、赤血球数、Htなどの低下を貧血の指標としている。貧血の原因は、赤血球成分の不足によるもの、造血機能の低下によるもの、赤血球の破壊亢進によるもの、多量の出血に大別される。

 

表1貧血の種類、主な原因および治療薬

貧血の種類、主な原因および治療薬

 

鉄欠乏性貧血

貧血で最も多いのは鉄欠乏性貧血である。鉄が不足すると赤血球は小さくなりHb含有量も低下する(小球性低色素性貧血)。このため、酸素の運搬能力が低下する。

 

Hbの合成には、鉄が不可欠である。摂取された鉄はで吸収可能な形になり、小腸で吸収され、肝臓に貯蔵される。貧血の際にレバー(肝臓)を食べることを勧められるのは、レバーが鉄を多く含んでいるからである。

 

また、手術で胃を摘出した人は、鉄の吸収率が低下するので、鉄欠乏性貧血になりやすい。血液中の鉄の量が低下したときは、肝臓の鉄の貯蔵も枯渇している。したがって、鉄欠乏性貧血の治療では貯蔵分の鉄まで補給する必要がある。

 

巨(大)赤芽球性貧血(悪性貧血)

赤血球の合成には、鉄のほかに、ビタミンB12と葉酸などの造血ビタミンが必要である。赤芽球は分裂速度が速く、DNAを大量につくっているため、DNAの合成に必要なビタミンB12と葉酸が不足すると、赤血球の合成に影響を及ぼす。したがってビタミンB12や葉酸が不足しても貧血になる。

 

この場合は、赤血球の形が大きくなるので、巨(大)赤芽球性貧血ともいう。かつてはビタミンB12不足による貧血は、原因も治療法も不明なため、悪性貧血とよばれた。胃切除した人では、胃の壁細胞でつくられる内因子が不足するため、ビタミンB12が内因子と結合できず、巨(大)赤芽球性貧血を起こすことがある。

 

なお、ビタミンB6ヘモグロビンタンパク質合成に必要であり、この不足はヘモグロビンの生成を妨げ、貧血を起こす。

 

図1赤血球の成熟過程と必要成分

赤血球の成熟過程と必要成分

 

赤血球の増殖は速い。造血ビタミン(特にビタミンB12)は細胞の分裂増殖に必要なDNA合成には不可欠である。鉄はHb の重要な構成成分である。

 

再生不良性貧血

骨髄機能の低下による再生不良性貧血は、赤血球、白血球血小板のすべての減少をもたらす難治性の造血障害である。

 

腎性貧血

腎臓が障害されるとエリスロポエチンの産生が低下し、これが原因で貧血となることもある(腎性貧血)。腎臓で合成されるエリスロポエチンは、赤血球産生に重要な役割を果たす造血因子である。

 

組織の酸素分圧が低下すると、腎臓でエリスロポエチンが産生され、放出される。これが、骨髄の幹細胞から前赤芽球への分化を促し、赤血球産生を促進する。

 

溶血性貧血

赤血球の破壊が亢進し、造血がそれに追いつかない場合も貧血となる。このような貧血を溶血性貧血という。

 

貧血に用いられる指標

貧血にはいろいろな種類があり、それぞれHb値や赤血球数が特徴的に変化する。そのため、貧血の診断には、MCV平均赤血球容積)、MCH平均赤血球ヘモグロビン量)、MCHC平均赤血球ヘモグロビン濃度)が用いられることが多い。

 

[次回]

白血球の働き

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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