いざ、毛細血管の中へ|流れる・運ぶ(5)

解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、循環器系についてのお話の5回目です。

 

[前回の内容]

血液は何でできている?|流れる・運ぶ(4)

 

血管の世界を冒険中のナスカ。前回は血管を流れる血液について学びました。
今回は、毛細血管の中を旅することに。血液に含まれる酸素や栄養素は一体どこへ・・・?

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

いざ、毛細血管の中へ

血液は、運ぶ機能を備えた体液ともいえます。細胞外液には、ナトリウムカリウムなどの電解質が含まれていましたよね。血液にはそのほかに、少量のタンパク質や糖、脂肪酸、コレステロールなども溶けています。こうした栄養素を運ぶのも、血液の重要な役割の1つよね

 

それにしても、血液に含まれる酸素と栄養素は、どうやって細胞まで届けられるんだろう?

 

知りたい?

 

知りたい!

 

じゃあ、今度はそれを見て行きましょう

 

どこに行くんですか

 

毛細血管の中よ

 

 

心臓から出た動脈の末端は枝分かれして細くなり、細動脈から毛細血管と続きます(図1)。毛細血管は、いわば、動脈と静脈をつなぐ場所。壁は非常に薄く、物質の透過性に優れています。酸素と二酸化炭素のガス交換や、栄養素・老廃物の移動はすべて、この毛細血管で行われます。

 

図1全身を巡るおもな血管

 

なんだか、一気に狭くなりましたね

 

毛細血管の直径は5~15μm。赤血球が1列に並んで、やっと通れる太さしかないの

 

血液の流れも、すごくゆっくりですね

 

秒速0.5~1.0mm。心臓を出たばかりの大動脈を流れる血液のスピードが秒速50cmだから、およそ1000分の1くらいのスピードね

 

図2毛細血管の構造

 

血管の壁から、血漿が外にしみ出していますね

 

毛細血管にはたくさんの細かな孔が開いていて、酸素と栄養素が溶け込んだ血漿はそこから血管の外へとしみ出します。そして、細胞周辺の間質液と混ざり合って、その間質液がじわじわと細胞の中へ入っていくの

 

じゃあ、細胞からゴミを受け取るときは?

 

細胞から出た物質がまず間質液と混じり合って、その間質液が静脈側の毛細血管へとしみ込むの

 

どちらも細胞と血管が直接物質のやりとりをせず、一度、間質液に混ぜるんだ

 

図3結合組織を走る毛細血管

 

血圧と浸透圧のバランスによる水の移動

毛細血管付近での水の移動は、血管内から水を押し出そうとする力と引き寄せようとする力のバランス(差し引き)によって調節されています。では、この「押し出す力」と「引き寄せる力」とはいったい、なんなのでしょうか。『細胞ってなんだ(2)実は多機能、細胞膜』で説明したことを、少し思い出してください。水の移動には浸透圧が関係していました。ここではさらに、血圧も関係してきます。さらに、毛細血管の壁は、選択的透過性をもつ半透膜でできています。物質によって、その壁を通れるものと通れないものがある、ということです。
毛細血管の壁を通り抜けることができるのは、糖(グルコース)や水、酸素、脂肪、ホルモン、電解質、薬物成分など小さな分子だけです。分子の大きなタンパク質は、通ることができません。こうしたタンパク質の代表格が、アルブミンです(図4)。そして、このアルブミンが、水の移動に際して重要な鍵を握ります。

 

図4アルブミン

 

アルブミンは、ほかの血清タンパクに比べて分子量が小さく、数が多いため、血液の浸透圧の調整する役割を担っている

 

血管の中にはアルブミンが多く、血管の外にはアルブミンが少ない。これは、血管壁という膜を介して濃度の違う液体が存在しているのと同じことです。この場合、アルブミンは血管の壁を通り抜けることができないため、2つの濃度を均一にするためには、アルブミンではなく、水の分子が血管の外から中へと移動することになります(図5)。

 

図5アルブミンの機能

 

これを現象面でみると、まるでアルブミンが水を引きつけているように見えます。「浸透圧=水を引きつける力」といわれるのは、そのためです。毛細血管では、こうしたアルブミンの浸透圧によって、間質液(組織液)が血管の中へと引き込まれます。間質液にはこのとき、細胞が出した物質(二酸化炭素や代謝産物、電解質など)も溶け込んでいますから、これらのゴミも間質液を介して血液中へと回収されていきます(図6)。

 

図6細胞と間質液(組織液)

 

アルブミンのような血漿タンパク質によって生じる浸透圧を膠質(こうしつ)浸透圧といい、血管内のどこでも変わらず、25mmHg(ミリメートルエイチジー)です

 

毛細血管に水分が引き寄せられるだけでなく、物質がしみ出す現象にも、膠質浸透圧が関係していますか

 

それには、膠質浸透圧だけじゃなく、血圧も関係しているの

 

どういうことですか

 

毛細血管から糖などの分子が押し出されるのは、ろ過の原理によるものです。毛細血管には小さな孔が無数に開いているため、そこに血圧がかかると、自然に押し出されるのです(図7)。

 

図7血圧と膠質浸透圧の関係

 

血圧は通常、動脈側では高く、静脈側では低くなっています。動脈側の血圧を35mmHgとすると、35mmHg(押し出す力)-25mmHg(膠質浸透圧)となり、押し出す力が10mmHgほど強くなります。
一方、静脈側の血圧は15mmHgですから、15mmHg(押し出す力)-25mmHg(膠質浸透圧)で、10mmHgの水が引き寄せられます。
その結果、動脈側でしみ出した水は静脈側で回収されるため、全身を巡る血漿の量はほぼ、変わらないことになります。

 

毛細血管を出た血液は、その後、どうなるんですか

 

細静脈へ入るとスピードは徐々に速くなって、心臓へと戻ります

 

また、速くなるんですか

 

必要なものを届けてしまえば、長居は無用ですからね。静脈ではだいたい、秒速25cm程度。血圧が低い分、動脈よりはスピードがちょと遅いわね

 

リンパ管

動脈側の毛細血管で漏れた水のほとんどは、膠質浸透圧の働きで、静脈側の毛細血管に回収されます。しかし、ごく一部の水は回収できないまま、組織の中を漂うことになります。この、回収できなかった水を吸収するのがリンパ管で、リンパ管に吸収された水をリンパと呼びます。後で詳しく説明しますが、食物から摂取した栄養分のうち、脂質を運ぶのもリンパ管の役割です。
リンパ管には、静脈と同じように、逆流を防ぐ弁がついています。リンパ管自体に備わった平滑筋の収縮によって流れを作り出し、末梢から心臓へと一定方向にリンパを運びます。
毛細リンパ管は、全身の各組織に植物の根のように張り巡らされ、組織から漏れ出た水を回収しています(図8)。毛細リンパ管は次第に太いリンパ管へと合流し、最終的には、胸腔内にある2本のリンパ本幹(右リンパ本幹と胸管)を通って静脈に合流します。

 

図8リンパ管

 

毛細リンパ管に吸い上げられたリンパは、集合リンパ管を経て胸管と右リンパ本幹に集められ、左右の静脈角から静脈に注ぐ。リンパ節はリンパ管に付属する米粒~豆粒大の器官で、リンパとともに流れてきた病原体や異物に対して免疫反応を起こす「関所」のような場所である

 

用語解説水銀柱ミリメートル(mmHg)

圧力を示す単位の1つ。標準大気圧の760分の1は1ミリメートルの水銀柱を支えることができ、その圧力を1水銀柱ミリメートル(mmHg)と示す

 

静脈に合流するまでの間に、リンパは数千というリンパ節で濾過されます

 

リンパ節?

 

リンパ節は、白血球の控え所みたいなところかな。リンパ管には、比較的大きな分子や危険な細菌・病原菌なども入り込みやすいため、生体防御の機能も備わっています。でも、これについてはまた別の機会に、詳しく説明するわね

 

なーんだ。つまんないの

 

あれれっ、解剖生理は嫌いじゃなかったっけ?

 

運搬以外の血液の役割

読者の皆さんにはちょっとだけ、血液のもつ防御機構についてお話しておきましょう。
血液の働きはもちろん、「運搬」だけではありません。体内に細菌などが侵入してきたときに、これと闘って追い払うのも、血液の重要な役割です。細菌などから身体を守ることを、生理学では免疫といいます。血液に含まれる白血球は、この免疫において、とても重要な働きをしています。
白血球は、血流に乗って全身をパトロールし、体内に細菌が侵入してくると、血管から出てきて細菌を攻撃したり、「敵が来たぞー」という情報を仲間に知らせて、協力しあって敵を退治します。
また、けがなどで血管が破れると、流れ出た血液が固まって、傷口をふさいでくれます。これも、防御機構の一種です。
ただし、こうした生体の防御機能が働くのも、血液が循環しているから。そう考えると、血液にとって「流れている」ということが、いかに大事なことかわかるでしょう。

 

 

[次回]

酸素を使わず呼吸する?|呼吸する(1)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版

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