梅毒|梅毒、性感染症(STI)①

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は梅毒について解説します。

 

西澤綾
防衛医科大学校皮膚科学講座

佐藤貴浩
防衛医科大学校皮膚科学講座

 

 

Minimum Essentials

1性感染症(sexually transmitted infections:STI)には梅毒、性器ヘルペス、コンジローマなどがあり、最近ではHIV感染を伴っていることも多い。

2梅毒は梅毒トレポネーマによって引き起こされ、それぞれの病期に特徴的な皮膚症状を呈するが、無症状で経過する潜伏梅毒もある。

3治療の第一選択はペニシリンである。

4治療効果は脂質抗原法(STS法)の抗体価と相関するため、定期的にチェックをして治療効果を評価する。

 

梅毒とは

定義・概念

梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum:TP)による感染症で、おもに性交渉を介して感染する。感染症法では5類感染症に指定されており、診断から7日以内に全例届け出ることが義務づけられている。

 

原因・病態

梅毒は後天梅毒と先天梅毒に分けられる。後天梅毒は、皮膚や粘膜の微細な傷からTPが侵入して感染することで生じる。胎盤を経由して感染すると先天梅毒となる。

 

 

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診断へのアプローチ

臨床症状・臨床所見

第一期梅毒

潜伏期間は約3週間とされる。性交渉によりTPが局所から侵入したあと接種部位にかたい丘疹(初期硬結)が出現し、間もなくびらんまたは浅い潰瘍(硬性下疳[げかん])を形成する(図1a)。

 

図1a 梅毒:包皮の硬性下疳

梅毒:包皮の硬性下疳
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下疳は外陰部に認めることが多いが、肛門や口唇、舌にも認めることがある(図1b)。

 

図1b 梅毒:陰部外下疳(口唇部)

梅毒:陰部外下疳(口唇部)

 

多くの場合、痛みやかゆみなどの自覚症状はなく、接種部位の所属リンパ節が腫脹(無痛性横痃[おうげん])する。初期硬結は放置しても数週間ほどで消退し、第二期へと移行していく。

 

第二期梅毒

全身にトレポネーマが播種している時期である。症状は硬性下疳出現後4~10週で進行し、第二期の症状を呈する。第一期梅毒は無症状で本人が気付いていない場合があり、硬性下疳の訴えがなくとも第二期梅毒を認めることがあるため注意が必要である。

 

全身のリンパ節が無痛性に腫脹し、微熱、倦怠感などがみられ、やがて皮膚、粘膜に症状が出現する。腎炎や虹彩炎、ぶどう膜炎、中枢神経の症状を呈することもある。皮膚症状には以下のようなものがある。

 

(1)梅毒性バラ疹(斑状梅毒疹)

二期疹のなかではもっとも早期にみられる。直径2cmぐらいまでの円形または楕円形の淡紅色~暗紅色の紅斑で、主として体幹を中心に、左右対称性に多発する(図1c)。放置しても数週で消失する。

 

図1c 梅毒:梅毒性バラ疹

梅毒:梅毒性バラ疹
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(2)丘疹性梅毒疹

小豆大~指頭大の、鮮紅色~紅褐色の丘疹が顔面、体幹、四肢に出現する(図1d)。

 

図1d 梅毒:丘疹性梅毒疹

梅毒:丘疹性梅毒疹

 

角層の厚い手掌、足底に生じると乾癬類似の外観を呈し、乾癬性梅毒とよばれる、梅毒を疑わせる特徴的な皮疹である。

 

これらの皮疹には自覚症状はないか、あっても軽度のかゆみ程度である。

 

(3)扁平コンジローマ

肛囲、会陰部、腋窩などの間擦部で丘疹が集簇して扁平に隆起する局面を形成し、表面はびらんとなり湿潤する。多量のTPが存在し、強力な感染源となる。

 

(4)梅毒性脱毛

びまん性脱毛と小斑状脱毛があり、小斑状脱毛では後頭部から側頭部にかけて境界不明瞭な不完全脱毛が特徴である(図1e)。

 

図1e 梅毒:梅毒性脱毛

梅毒:梅毒性脱毛

 

そのほか、膿疱性梅毒疹、梅毒性アンギーナ(扁桃から軟口蓋にみられる発赤、びらん、潰瘍)などがある。

 

第三期梅毒

まれではあるが、感染後無治療のまま、あるいは再発、感染を繰り返しながら数年を経ると、第三期、第四期梅毒へと移行することもある。

 

第三期では結節性梅毒疹、ゴム腫を生じ、さらに感染後10年経過すると大動脈瘤脊髄癆(ろう)、進行麻痺などをきたす第四期へと進行する。

 

最近では、第三期、第四期梅毒を見ることはほとんどない。

 

検査

塗抹標本によるTPの検出

初期硬結や扁平コンジローマの表面から得られた滲出液をスライドガラスに付着させ、パーカーインキ法や墨汁法を用いて直接検鏡する。パーカーインキ法ではTPは青黒くらせん状に染まり、墨汁法では白く抜けたらせん状構造物としてみられる(図1f)。

 

図1f 梅毒:墨汁法でみられたトレポネーマ

梅毒:墨汁法でみられたトレポネーマ

 

血清学的検査法

梅毒の診断にもっとも有用な検査である。

 

血清検査には脂質抗原を用いた非特異的反応である脂質抗原法(serological test for syphilis:STS法)とTPを抗原とした特異反応を検出するTP抗原法があり、両者を同時に測定し感染の有無や病勢を判断する。

いずれかが陽性であった場合は定量検査を施行する。

 

(1)STS法

STSは、TP感染による細胞破壊に伴い自己抗原が認識されて産生された自己抗体である。

 

RPR(rapid plasma reagin)カードテスト法やガラス板法〔VDRL(venereal disease research laboratory)法〕などがあるが、最近では自動分析器による自動測定が可能なラテックス凝集法(RPR自動化法)が普及しており一般的となっている。

 

RPR定量法は従来の倍数希釈法では「倍」で表記されていたが、ラテックス凝集法では測定値でR.U(RPRUnit)と表記されることが多い。おおむね「測定値=倍」と考えて良い。

 

STSは感染後3~4週で陽性となり、梅毒の治療効果を反映するため、治療後の経過観察に用いられる。ただし、感染初期、第三期梅毒では偽陰性、感染症や自己免疫性疾患、妊娠などでは偽陽性となることがあるため注意を要する(表1)。

 

表1 血清反応結果の判断

血清反応結果の判断

 

感染症法における梅毒発生届出基準は、RPR法検査で16倍以上もしくはそれに相当する抗体価(自動化法では16.0R.U. 16.0U.など)となっている。

 

(2)TP抗原法

TPに特異的な抗体を測定する検査である。TP抗原法にはTPHA法、FTA-ABS試験の2つがあるが、TP抗原法は治癒後であっても陽性が続くため、治療効果や治癒の判定には適さない。TPHA法はSTS法より2~3週遅れて陽性化する。

 

 

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治療ならびに看護の役割

治療

おもな治療法

第一選択薬はペニシリンである。

ペニシリンアレルギーの場合はドキシサイクリンまたはテトラサイクリン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬を選択する。

投与期間は第一期は2~4週、第二期は4~8週、第三期以降は8~12週である。

 

治療経過・期間の見通し

治療効果判定のためSTS法による定期的検査を行い、治癒を確認することが重要で、投与終了後3、6、12ヵ月後の経過を追う。

治療効果は倍希釈法4倍以上の低下が認められれば治療は奏効したと判断し、最終的に陰性以下もしくは安定することを確認する。

自動化法においても抗体価の4分の1の低下を目安に利用できるとされている。

 

合併症

抗菌薬投与開始後、数時間で発熱や倦怠感などの一過性の感冒症状や皮疹の増悪を認めることがある。これはヤーリッシュ・ヘルクスハイマー(Jarisch-Herxheimer)反応とよばれ、抗菌薬によるTP破壊に伴う反応で、薬疹や梅毒の増悪ではない。この反応は通常1日で軽快する。

 

合併症として、梅毒患者では高頻度にHIV感染もみられるため、採血でのスクリーニングが勧められる。

 

看護の役割

治療における看護

パートナーへの検査・治療などの介入も行う。パートナー間の再感染、他者への感染拡大防止に努めることも重要である。

 

梅毒血清反応陽性であることは、必ずしも治療を要する梅毒患者であることを意味していない。血清反応が陽性であることに不安、悩みをもっている人も多く、このような人たちへの対応には慎重を要する。

 

 

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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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