輸血用血液は、なぜ必ずしも加温投与しなくなったの?

『エキスパートナース』2017年3月号<バッチリ回答!頻出疑問Q&A」>より抜粋。
輸血用血液の加温について解説します。

 

藤田 浩
東京都立墨東病院輸血科部長

 

輸血用血液は、なぜ必ずしも加温投与しなくなったの?

 

輸血用血液の加温は、低体温などのリスクを考えて行われます。
基本的には「大量輸血」「新生児の交換輸血」「中心静脈ルートからの大量輸血」が加温の適応です。

 

〈目次〉

輸血用血液の“加温”が行われる条件

“輸血用血液の加温が必要な場合”の基準を表1に示します。

 

表1輸血用血液の加温条件

輸血用血液の加温条件

 

基本的には、大量輸血や新生児の交換輸血が適応です。また、中心静脈ルートからの大量輸血も加温する1つの適応です。

 

しかし、加温条件に関連した“大量”輸血の定義は、どの成書にも書いてありません。ただ、一般的に考えて大量輸血とは、24時間以内に患者全血液量とほぼ同等の量を輸血することと定義されています

 

なぜ大量輸血等では加温が必要?

輸血用血液を加温する理由は以下の通りです。

 

4℃に保存されている赤血球製剤を大量にかつ急速に輸血すると、低体温になります。低体温は重症不整脈、心停止を誘発します(図1)。

 

図1大量出血・大量輸血で起こる悪循環

大量出血・大量輸血で起こる悪循環

 

Boyan CPらは、「加温しない群」「加温した群」での100mL/分の輸血での検討で、「加温しない群」に心停止の頻度が増加したことを報告しています2。また加温しない輸血用血液を急速輸血すると、洞房結節付近の温度が30℃以下になり、心室性不整脈が生じたことを報告しています2。したがって、急速でなくても、中心静脈ルートで大量輸血をする場合においては、低体温による不整脈のリスクが上昇すると考えられます。

 

一方、適切な加温方法では溶血のリスクは低いですが、不適切な加温方法(例:温度を高くしてしまうなど)を行うことで、溶血してしまうリスクが高まります。また輸血セットを穿刺してから6時間以内に使用するというルールは加温しない場合のもので、加温することで血液の質(溶血以外の質)の低下や、感染のリスクが上がるとされます。

 

以上のデータなどを基にして、加温の基準が決められています。

 

【コラム】「加温」だけではない! 周術期の体温管理の方法

上記で説明したように、低体温は、血小板機能低下、血液凝固障害を引き起こし、出血量を増加させます。

 

また、輸血用血液に含まれている、抗凝固剤であるクエン酸は、患者さんに大量に入ると、凝固障害の原因になります。さらに止血能が低下し、悪循環になってしまいます。

 

このような事態を防ぐための周術期体温管理は重要です。ポイントを以下に示します。

 

低体温の予防

輸液や輸血用血液の加温に加え、患者さん自身にブランケットの被覆や循環式温水マットなどを活用し、低体温の予防を講じなければなりません。

 

pH、電解質の管理

クエン酸はカルシウムキレート作用*1によって抗凝固能を発揮しているので、大量に身体に入ると、低カルシウム血症、低マグネシウム血症になり、心室性不整脈の原因になります。

 

この低カルシウム血症や低マグネシウム血症は、加温では予防できません。輸血用血液を加温していても、pH、電解質の管理は常に必要です。

 

高カリウム血症

大量輸血後の高カリウム血症には注意が必要です。

 

赤血球製剤では、貯血時間とともに細胞外カリウムが高くなってきます。さらに、TA-GVHD*2予防のために行う放射線照射が細胞外カリウムをさらに高めています。低体温になると、患者の各末梢組織の細胞、あるいは赤血球に存在するNa-K ATP pump*3の機能が低下しており、増加したカリウムに対応できにくくなっています。

 

輸血後の高カリウム血症は加温により一部は予防できますが、リスク因子は複数あり(表2)、その点を十分留意しなければなりません3

 

表2輸血による高カリウム血症の危険因子

輸血による高カリウム血症の危険因子

 

 

  • *1【カルシウムキレート作用】:血液が凝固するのに必要なカルシウムを、包み込むように結合し、カルシウムの作用を阻止する作用。
  • *2【TA-GVHD】:輸血関連移植片対宿主病。輸血に代表的な副作用。輸血された供血者リンパ球が、排除されずに体内で増殖し、患者の体組織を攻撃す ることによって引き起こされる。
  • *3【Na-K ATP pump】:細胞外のカリウムを、細胞内(赤血球など)へ取り込み、細胞内のナトリウムを細胞外へ排出するポンプ。このポンプはエネルギー (ATP)依存であり、温度依存性である。

[引用文献]

 

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2017照林社

 

P.15~17「輸血用血液はなぜ必ずしも加温投与しなくなったの?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2017年3月号/ 照林社

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