聴覚障害に関するQ&A

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「聴覚障害」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

聴覚障害の患者からの訴え

  • 音が聞こえにくくなりました
  • 音が聞こえません

 

〈目次〉

 

聴覚障害って何ですか?

音が聞こえにくい、または音が聞こえない状態を、聴覚障害といいます。

 

〈聴覚障害に関連する症状〉

聴覚障害に関連する症状

 

音が聞こえるメカニズムは?

聴覚障害のメカニズムを理解するためには、「音が聞こえる」仕組みについて知ることが大切です。まずは、の解剖について理解しましょう。

 

音は、空気の振動というかたちで耳に入ります。これが外耳道で共鳴し、鼓膜を振動させます。鼓膜の奥には、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨という3つの小さな骨(耳小骨)がつながって存在しており、鼓膜の振動はツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の順で伝えられます。(図1

 

図1耳の構造

耳の構造

 

内耳は、蝸牛(かぎゅう)<聴覚に関係する>、半規管と前庭器<2つとも平衡感覚に関係する>からなる骨迷路と、それぞれの骨送路の内部にある膜迷路(まくめいろ)からなっています。

 

図2内耳の構造

内耳の構造

 

骨迷路(こつめいろ)は外リンパ液で、膜迷路は内リンパ液でそれぞれ満たされています。蝸牛の内部にある膜迷路は蝸牛管と呼ばれ、ここに聴覚器であるコルチ器が存在しています。

 

アブミ骨は、ちょうどその広い面で、前庭にはまり込むようなかたちになっています。鼓膜から、ツチ骨、キヌタ骨を介してアブミ骨に伝えられた振動は、骨迷路の中の外リンパ液を揺らします。

 

この外リンパ液の振動は、内リンパ液、コルチ器、蝸牛管の基底板を揺らします。その結果、基底板の上にある有毛細胞が振動することにより、上方にある蓋膜に押し付けられたような形になります。これが電気信号になり、蝸牛神経、内耳神経を伝わり、大脳の聴覚野に届いて音として感じられます。(図2

 

外耳に音が入ってから聴覚野に達するまでの、これらのルートのどこかが障害されると、聴覚障害が起こります。

 

なお、音が内耳に伝わるルートは、今説明した空気の振動が伝わる「気導(空気伝導)」のほかに、頭蓋骨の振動が、側頭骨を介して直接、内耳のリンパ液を振動させて伝わる「骨伝導」があります。

 

聴覚障害にはどんな種類があるの?

音が聞こえる仕組みは、音を伝える伝音系(外耳、中耳)と、音を感じる感音系(内耳と聴覚路)に分けられます。聴覚障害も、その障害部位によって「伝音性障害」、「感音性障害」、「混合性障害」、「機能性障害」に分けられます。

 

伝音性障害は、外耳から内耳までの空気の振動が伝わる経路の障害によって起こります。

 

感音性障害は、内耳と、内耳から聴覚中枢に至るルートの障害によって起こります。空気の振動(音)は伝わってきても、それを音として感じ取ることができない状態です。感音性障害は、さらに内耳に障害がある「内耳性(迷路性)障害」と、内耳から中枢までのルートが障害されている「後迷路性障害」に分けられます。

 

混合性障害は、伝音系と感音系の両方が障害されて起こります。機能性障害は、器質的な異常は特にないのに「聞こえない」状態をいい、精神的なショックなどの心因的な要因が原因として考えられます。

 

伝音性障害の原因は?

外耳の疾患では、外耳炎があげられます。炎症による浮腫のために外耳道が狭くなり、音が伝わりにくくなります。また、先天的な外耳道の狭窄や閉塞、腫瘍や外傷、耳垢(じこう)なども、伝音性障害の原因になります。

 

中耳の疾患の代表例は、中耳炎です。鼓膜が腫れたり、膿が溜まったりすると、鼓膜がうまく振動しなくなり、聞こえにくくなります。鼓膜に穴が空く、鼓膜穿孔(こまくせんこう)も同じです。また、頭蓋骨骨折などの外傷や、中耳の腫瘍が原因になることもあります。

 

感音性障害の原因は?

内耳の障害によるものとしては、年をとって耳が遠くなる「老人性難聴」や「騒音性難聴」が代表的です。

 

騒音性難聴は、騒音の中で働いている、ヘッドフォンで大きな音を聞き続けた、オーケストラの演奏者をしていた—など、いつも大きな音を聞いている環境にいるような状況があると、起こります。

 

メニエール病では、内リンパ液の過剰により、平衡機能とともに内耳も障害されます。

 

外傷としては、スキューバダイビングやいきみなどによる内耳破裂があります。また、薬剤の副作用として起こる場合もあります。アミノグリコシド系抗生物質のストレプトマイシン、カナマイシンによる難聴がよく知られています。

 

麻疹インフルエンザ、母体内での風疹感染などの感染症糖尿病などの全身疾患でも、内耳の障害を引き起こすことがあります。また、突発性難聴のように原因のわからないものもあります。

 

一方、内耳より中枢側の後迷路性障害を引き起こす原因としては、腫瘍、炎症、外傷、脱髄疾患が考えられます。具体的な疾患としては、聴神経に好発する神経鞘腫、髄膜炎、頭蓋骨骨折、多発性硬化症があります。

 

聴覚障害はどうやってアセスメントするの?

会話などを通して、聞こえにくい状況があるかを判断し、もし聴力障害があるようなら、聴力検査を行って聴覚障害の程度やタイプを明らかにし、原因疾患の特定につながるような情報を集めます。

 

聴力検査は、通常、オージオメータを用いて行います。レシーバを着けていろいろな音を聞かせ、音の高低による聞こえ方や、どのくらいの大きさの音がどこまで聞こえるかを調べます。

 

音の高低は周波数:Hz(ヘルツ)で表され、周波数が大きいほど高い音になります。普通の会話で交わされる音は、500〜2000Hzです。難聴の程度は、聞くことができる音の大きさで表され、単位はデシベル(dB)です。数値が大きくなるほど、難聴の程度が重くなります。正常では、20dB以下の音を聞き取ることができます。

 

気導聴力と骨導聴力は、それぞれ専用のレシーバーを使って音を聞かせることによって区別できます。気導聴力と骨導聴力の違いをみることにより、伝音性障害か感音性障害かを判断します。伝音性障害では、気導聴力のみが低下して骨導聴力は正常です。これに対して感音性障害では、両方とも低下します。そのほかには、言葉を聞かせて聞き取ってもらう語音聴力検査などが行われます。

 

滲出液や耳垢の有無といった、耳の観察も大切です。痛みやめまいがないかなど、聴力以外の症状も重要な情報になります。

 

聴覚障害のケアはどうするの?

聴覚障害がある場合は、どうやってコミュニケーションを取るかを考えます。身振り手振りも交えて大きな声で、口をはっきりと動かして話し、話したことが相手に伝わっているか、きちんと確認しましょう。状況に応じて筆談も行います。

 

耳が聞こえないと不安が増しますので、精神的なケアも欠かせません。

 

また、車のクラクションや駅でのアナウンスが聞こえないことなどから、事故に遭遇する危険性も高まります。事故を未然に防ぐために事前に注意点を確認し合い、外出時は付き添うなどの配慮も大切です。

 

最近は、補聴器の性能が進化しています。上手に利用し、聴力を補うことも効果的です。

 

用語解説補聴器

補聴器は、耳に入ってくる音の音量をマイクを使って大きくすることにより、聴力の低下を補う装置です。形態別に、耳穴に収まる耳穴型補聴器(耳介全面に入るフルサイズ、やや小型のカナル型、耳の穴に収まり外部からほとんど見えないマイクロカナル型がある)、耳にかけて使用する耳掛け型補聴器、ポケットなどに入れた本体とイヤホンをコードでつないで使用するポケット型補聴器、メガネのフレームを利用し、皮膚から音を伝える骨導メガネ型補聴器などがあります。
現在では、耳の形状と聴力に合わせて作る耳穴型のオーダーメイドの補聴器が広く使われています。補聴器のマイクが耳の穴の位置にあるため、自然に近いかたちで音をとらえることができます。
通常、保険は適用されませんが、聴覚障害の種類によっては、補聴器の給付を含めた公的支援を受けられる場合があります。補聴器に入った音声をデジタル化して処理を行った後に出力するデジタル補聴器もあり、アナログ補聴器に比べ、騒音の中でも会話が聞き取りやすいなどの利点があります。

 

COLUMN聴導犬

視覚障害者の目になってくれる盲導犬と同じように、聴覚障害者の耳の代わりをしてくれる犬を、聴導犬といいます。人が好きで仕事をするのが楽しく、好奇心が旺盛—などの適性を基準に候補になる犬を選別し、約7か月〜1年の訓練期間を経た後、聴導犬を必要とする方に無償で手渡されます。
聴導犬の具体的な仕事内容は、目覚まし時計の音、笛吹きやかんの沸騰音、ドアのノック・チャイム、電話・ファックスのベル、赤ちゃんの泣き声、火災報知器・非常ベルなどの異常音、自動車のクラクションや名前を呼ばれた時などを聞き分け、吠えることなく知らせ、誘導することです。
オレンジ色の首輪・リード(引き綱)が、聴導犬の印とされ、聴導犬を開発したアメリカでは、盲導犬と同じようにホテル・レストラン・乗り物・公共施設などに自由に出入りできます。
日本ではまだ知名度が低く、今後の普及が待たれます。

 

症状に関するQ&A一覧〕を見る

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

この記事をシェアしよう

看護知識トップへ