心不全の患者さんを頭側挙上したら、血圧が低下した!
『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、心不全の患者さんを頭側挙上したら、血圧が低下した場合について解説します。
新潟大学医歯学総合病院集中治療部
集中ケア認定看護師

ピンチを切り抜ける鉄則
血圧の低下を防ぐポイントは、脈圧の低下などの低灌流の徴候を事前に確認し、リスクを踏まえながら段階的に頭側挙上などのケアを行うことです。
何か変だと思った場合、水平仰臥位に戻すとともに、緊急度の判定を行いましょう。
緊急時の対応についてシミュレーションしておくとあわてず対応できるでしょう。
起こった状況
症例
患者Aさん。心不全で入院し利尿薬を使用して大量の排尿を認めました。
酸素の需要も減り、夜間は水平仰臥位で眠れるまで心不全の症状は改善しています。
看護師が朝食のセッティングのため、Aさんを頭側挙上したところ、反応が緩慢になり、眩暈を訴えたため、血圧を測定すると72/56mmHgと低下しています。
どう対応すればよいのかわからず、Aさんの肩を叩いて呼びかけています。
どうしてそうなった?
心不全の症例では、最小限の循環血液量で管理され、さらに長期臥床のために血管収縮反応が低下している場合があります。
頭側を挙上することで、重力によって下半身に体液が移動し、静脈灌流量が低下した結果、血圧の低下を招いたと考えられます(図1)。
図1頭側挙上による水分移動の図

どう切り抜ける?
1 緊急かどうか判定する
反応が緩慢になったり眩暈を訴えたりするなど、何か変だと感じた場合、緊急度の判定を行うことが重要です。
緊急度の判定はABCDの4つを評価します。
ABCDとは、気道(A:Airway)、呼吸(B:Breathing)、循環(C:Circulation)、意識(D:Dysfunction of CNS)の4つです。
具体的な評価方法は表1をご覧ください。
表1緊急度の判定方法

ABCDの評価は、患者さんに呼びかけながら、同時に橈骨動脈に触れて短時間で評価する。
異常がある場合は緊急度が高いと判断する。
緊急度が高い場合は応援を呼ぶ。
2 水平仰臥位へ戻す
頭側挙上直後に症状が出現しているため、体液の移動によって眩暈などが引き起こされている可能性があります。
水平仰臥位に戻すことで、体液の移動による低灌流を改善させる可能性があります。
血圧が低下していると、下肢を挙上したくなるかもしれませんが、下肢挙上による静脈灌流の増加や、それに伴う心拍出量増加の効果は数分しか続かず、根本的な解決になりません。
3 初期対応と原因の検索
水平仰臥位にしても症状が改善しない場合、応援を要請して医師に報告します。
初期対応と原因の検索については、「猿も聴診」という頭文字で覚えます。

さ :酸素投与の準備
る :ルート(静脈路)を確保し、薬剤投与ができるよう準備する
も :モニターの準備(モニター付き除細動器やSpO2)
ちょう:超音波検査の準備
しん :心電図(12誘導心電図)の準備
モニターを装着したら不整脈を確認します。
心不全の患者さんでは、利尿薬の副作用、塩分制限、ホルモン分泌異常などによって、しばしば電解質異常が見られます。
電解質異常は不整脈の誘発など、循環器系に悪影響を与えるとともに、脳への循環が低下すると、意識障害の原因にもなります。
対応中に状態が悪化して心停止となった場合は心肺蘇生法を行いましょう。
4 普段から低灌流の徴候を確認する
四肢や体幹に浮腫を認めたとしても、それは間質の水分量を表しており、血管内は脱水となっている場合があります。
頻脈、口渇の訴え、尿量の減少、舌の乾燥による口腔粘膜の亀裂などの徴候や、皮膚緊張の低下などは脱水を示唆している可能性があります(図2)。
図2皮膚緊張の低下の観察

※ 皮膚緊張の低下は、母指と示指で皮膚を摘んでテント状に盛り上げた後に、それが3秒以上経過しても復元しない場合を異常としている。
皮膚の復元にはエラスチンというタンパク質が関与している。
年齢とともに皮膚のエラスチンは減少することが知られており、年齢が進むにつれて皮膚の緊張は低下する。
高齢者の場合は、入院時の皮膚緊張の程度と比較するなど、経時的な変化でアセスメントする必要がある。
さまざまな要因で心拍出量が低下している場合、体は主要臓器の血流を保とうとし、四肢末梢の血流を低下させるため、指先や足先に冷感を認めます。
また、脈圧が小さい場合も心拍出量の低下を疑います。
脈圧とは収縮期血圧と拡張期血圧の差のことですが、脈圧が収縮期血圧の25%未満であった場合は脈圧が低下していると判断します(症例は約22%です)(図3)。
図3脈圧低下の式

Steven McGee:マクギーの身体診断学 3rd Edition.エルゼビア・ジャパン,東京,2014:97-108.を参考
5 頭側挙上など体位変換は症状を確認しながら段階的に行う
低灌流の所見がある患者さんなどは、特に、頭側挙上すると体液が重力によって下半身に移動します。
血管の反応性が悪い場合、脳への血流が低下して眩暈や意識レベルの低下を起こします。
頭側挙上する際、症状を確認しながら少しずつ行いましょう。
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1) 林寛之:Tips & Pitfalls in EM 救急診療の落とし穴.日本内科学会誌 2019;108(3):557–562.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社



