65歳過ぎたらメタボよりフレイルへの対策を|「医原性フレイル」を見逃さない、作り出さない

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

聞き手:小板橋律子=日経メディカル

 

2018年3月、日本初の『フレイル診療ガイド2018年版』を取りまとめた、日本サルコペニア・フレイル学会代表理事の荒井秀典氏。

 

その荒井氏に、医療者はフレイルをどう理解し、対策はどうあるべきかを聞いた(文中敬称略)。


 

1984年京都大卒のあらいひでのり氏の写真。

 

――そもそもフレイルとは何でしょうか。老化と何が違うのでしょうか。

 

荒井 『フレイル診療ガイド2018年版』(発行ライフ・サイエンス)では、フレイルを「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」と定義しました。

 

もう少し具体的に言うと、フレイルとは、要介護には至っていない、すなわち自立性は失われていない段階ですが、加齢により体の余力が低下して、感染症など急にストレスがかかるイベントが起こった後に元の状態へ戻る回復力や体の機能が極端に低下し、場合によっては要介護になってしまう状態です。

 

高齢者といっても個人差が大きいことは、医療者の皆さんはよくご存じだと思います。

 

フレイルとは平均よりも老化が進んで虚弱となっているグループを指すと考えていただけばいいと思います。

 

個人的には、将来、高齢者の定義そのものに置き換わる概念ではないかと考えています。

 

現在は何歳を超えると高齢者というように年齢が指標となっています。すなわち、65歳以上を高齢者と定義していますが、将来には高齢者の定義を年齢ではなく、「フレイルかどうか」で決めるような時代が来るのではないでしょうか。

 

90歳でも元気で予備能力も十分あるような方は、高齢者と呼ばなくてもいいのではないか。そんなイメージです。

 

――フレイルへの介入は、健康寿命を延ばし、介護期間を短くすることが目的だと思います。ですが、フレイルに介入して要介護状態になるのを2年遅らせたとしても、寿命が2年延びてしまえば、介護期間は短縮できないという指摘があるように思います。

 

荒井 フレイルへの介入が健康寿命を延ばすというエビデンスはありますが、いずれ訪れる要介護期間を短縮できるかどうかについての十分なエビデンスはありません。

 

だからといってフレイルを放置してよいというわけではありません。

 

気をつけなければいけないのは、薬剤によってフレイルが誘発されるような医原性のものが少なくない点です。ですから、医療者としては、医原性のフレイルは見逃さない、作り出さないという配慮が何より大切だと思います。

 

医原性フレイルの原因として、まず注意すべきは「薬剤」です。患者が複数の診療所にかかっている場合、同効薬の重複処方や多剤併用などが生じやすく、それが有害事象につながる危険性があります。

 

厚生労働省が今年5月に発表した「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」を参考に対策を立てていただきたいです。

 

とはいっても、薬の処方が必要になる場面は多々あります。必要であれば、もちろん薬物療法を選択するわけですが、非薬物療法も併用し、症状が改善したら休薬して非薬物療法のみで対応することは常に念頭に置いて診療に当たる必要があります。

 

もう1点、とても重要なのが「栄養」です。高齢者では栄養不足からフレイルを生じるケースが多いと考えられています。

 

国が進めるメタボ対策の周知が進み、70歳代、80歳代でも「やせなくちゃいけない」と固く信じている患者さんが多くいます。

 

80歳代で糖尿病になることを心配している患者さんもいます。しかし、ある年齢に達したら、メタボ対策は卒業し、フレイル対策に移行すべきだと思います。

 

――メタボの原因となる過栄養対策から、フレイルの原因となる低栄養対策に切り替えるということですね。どのタイミングで切り替えたらいいのでしょうか。

 

荒井 特に意識していないのに「やせてきた」といのは1つのサインかもしれません。また、疲れやすくなってきたという症状がそのサインのこともあります。

 

体重減少や疲れやすさの陰には、何らかの疾患が隠れていることがありますので、まずは疾患の有無を精査することが必要です。

 

体重減少や易疲労感をもたらし得る原因疾患が特定できない場合には、フレイルを念頭に置いた対応が必要になります。筋力低下など、他のフレイル指標についても確認が必要です。

 

年齢で考えると、メタボではない患者さんでは、だいたい65歳くらいからフレイル対策として栄養を十分取れるような食事指導に切り替えるといいと思います。

 

メタボリックシンドロームを合併しているような患者でも、BMIが30以上という極端な例を除き、65~75歳くらいの間で切り替えを検討するべきだと思いますが、具体的にいつかというと、病態に応じた個別対応が必要です。

 

栄養指導では、腎機能低下がないかに注意した上で、たんぱく質をできるだけ多く取ってもらいます。

 

また、フレイルな高齢者では多くがビタミンD不足なので、ビタミンDを多く含む食事を取ること、散歩などで日光に浴びることも指導してください。

 

ビタミンDが不足しがちなのは、日本では欧米に比べてビタミンD強化食が少なく、また、乳製品の摂取も少ない、日光を十分に浴びないなどが原因と考えられます。

 

――薬物療法はどうあるべきでしょうか。

 

荒井 日本老年医学会が、年齢や合併症の有無で基準値を変えた糖尿病や高血圧のガイドラインを出しています。

 

その基準値に合わせて、現在使用中の薬剤を減量または中止することを検討してもいいと思います。

 

例えば、ADLが低下していたり、認知機能が低下している患者に対して3剤併用でHb1Ac値6%を維持している場合には、2剤に減らして8%未満ならよしとするという対応です。

 

――脂質異常症についてはいかがでしょうか。日本老年学会が昨年10月に取りまとめた「高齢者脂質異常症診療ガイドライン2017」には、「後期高齢者(75歳以上)の高LDL-C血症に対する脂質低下治療による一次予防効果は明らかでない」と記載されています。75歳以上ではスタチンの処方は不要、という意味でしょうか。

 

荒井 一次予防の場合75歳以上での治療開始を支持するエビデンスがないという意味です。

 

ほとんどの患者さんが75歳までに処方を開始されて服用を続けているので、そのような場合は75歳を過ぎても服用を継続して構いません。

 

個人的には、85歳くらいまでは継続し、患者さんの状態を見ながら、85~90歳で中止することが多いです。二次予防のためのスタチンは、原則として年齢には関係なく継続しています。

 

脂質異常症の高齢者では、状況により薬物療法を継続する患者もいれば中止する患者もいていいと思います。

 

一方、皆さんに実施してほしいのが栄養指導です。BMIが30を超えるような患者を除いて、脂肪やカロリー制限といった厳格な食事制限は75歳以上では慎重であるべきです。

 

フレイル対策を考えれば、きちんと食べる指導に切り替えることが大切です。また、積極的に食べても検査値が悪化しないようであれば、一次予防を目的とした処方は中止を検討してもよい場合があります。

 

きちんと食べる指導は、二次予防でスタチンなどを飲んでいる患者でも同様に必要です。

 

――外来でもフレイルへの注意が必要ということですね。

 

荒井 外来では、栄養状態に加えて、筋肉量のモニタリングを定期的に行うことが望ましいでしょう。

 

モニタリング方法としては、下腿周囲長、もしくは握力の計測がいいでしょう。握力計を外来に置くことには、コストがかかるという批判もありますので、下腿周囲長の測定がよいかもしれません。

 

ただし、特に女性では、下腿が元々とても細い人や、脂肪やむくみの影響で筋肉量に比例しない場合もありますので、そのようなときは、握力低下の有無を見て、フレイル対策の必要性を判断すればいいでしょう。

 

現在、メタボ健診は74歳までを対象としていますが、個人的にはほとんどの場合65歳までで十分と考えます。

 

実際、日本人を対象とした前向き研究で、65歳以上でその後の自立度に影響するのはフレイル健診の結果のみで、メタボリックシンドロームの有無は影響しないという研究成果が出ています。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

Aナーシングは、医学メディアとして40年の歴史を持つ「日経メディカル」がプロデュースする看護師向け情報サイト。会員登録(無料)すると、臨床からキャリアまで、多くのニュースやコラムをご覧いただけます。Aナーシングサイトはこちら

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