最終更新日 2023/07/18

ALS

ALSとは・・・

ALS(えーえるえす)とは、筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう、amyotrophic lateral sclerosis)の略語で、神経細胞(上位および下位の運動ニューロン)が障害されて、四肢脱力のほかに呼吸筋を含めた全身の筋肉の萎縮・脱力をきたす疾患群の総称である。

 

【原因】
原因はまだ十分解明されていない。
TDP-43などの蛋白の異常蓄積や、グルタミン酸の過剰や酸化ストレスにより神経細胞が変性・脱落(細胞死)することが、原因の1つと考えられている。

 

また、ALSは家族内で発症することもあり、SOD1などの遺伝子の異常が関連するといわれている。

 

【症状】
ALSは主に上肢の筋力低下が主体の上肢型(手指の使いにくさや肘から先の筋肉がやせ、力が弱くなる)、構音障害や嚥下障害が主体の球型、下肢から発症する下肢型(足の筋肉がやせて力が弱くなる)の3型に分けられるが、そのほかにも体幹筋障害が主体となる例など多様性が見られる。


手指の使いにくさや、話しにくい(構音障害)、食べ物が飲み込みにくい(嚥下困難)、もしくは下肢脱力という症状で始まる。いずれの型も、1~3年で進行し全身の筋肉がやせて力が入らなくなり、呼吸困難などが出現する。一方で、体の感覚、視力や聴力は保たれる。

 

【予後】
進行は比較的速く、多くの場合、発症から死亡もしくは人工呼吸器が必要な状態になるまでには20~48カ月程度である1)

死亡までの期間は個人差が大きく、発症から3カ月以内に死亡する例もあれば、呼吸補助なしで10数年生存する例もある。

 

【検査・診断】
成人発症で、感覚機能が保たれるにもかかわらず、進行性に運動機能が障害される場合に疑われる。加えて、遺伝子検査および他の他神経筋疾患の除外により総合的に行われる。

 

最近では、簡便で臨床的有用性のあるGold Coast診断基準(2020年)が用いられる2)
この基準では、以下の3つが満たされることが診断の条件とされている。
1.進行性の経過であること
2.1身体領域以上の上位・下位運動ニューロン徴候、あるいは2身体領域以上の下位運動ニューロン徴候を認めること
3.他疾患の除外がされていること

 

診断のために必要な検査としては以下が挙げられる。
脊髄MRI検査(他疾患の除外のため)
血液検査(他疾患の除外のため)
・髄液検査(他疾患の除外のため)
・神経伝導検査(他疾患の除外のため)
・遺伝子検査(家族性の場合には、SOD1遺伝子などの異常を認める場合がある)
・針筋電図検査(下位運動ニューロン障害の検出のため)

 

【治療法】
ALSに対する根治的な治療法は存在しない。治療の主な目的は、運動機能低下の抑制、呼吸機能障害への対応、コミュニケーション障害への対応となる。

 

(1)薬物療法
進行を遅らせるものとして、グルタミン酸拮抗薬(リルゾール;リルテック®)やフリーラジカルスカベンジャー(エダラボン;ラジカット®)が使われることもある。

 

(2)対症療法
有痛性筋痙攣(一般にこむら返りと呼ばれるもの)や痙縮(不随意な筋収縮)は、患者に大きな苦痛をもたらしQOLを低下させる。

それらを軽減するために、理学療法や筋弛緩薬・鎮痛薬を用いる。

 

(3)非薬物療法
・人工呼吸器の使用
呼吸障害の初期症状や呼吸機能検査、夜間の低換気の症状(朝の頭痛など)などを参考にして、早期の呼吸障害の段階から、夜間から非侵襲陽圧換気(NPPV)による呼吸補助を開始する。NPPVは呼吸不全があるものの、ができ分泌物が少ない患者に利用できる。
NPPVで補助しきれない場合、気管切開下陽圧換気(TPPV)を考慮する。侵襲的ではあるが、NPPVに比較して換気効率に優れ、痰の吸引が容易である。
なお、人工呼吸器を使用することで延命を図れるが、その選択に当たっては十分な説明と理解に基づく自己決定が重要である。

 

・リハビリテーション
呼吸機能検査で呼吸筋麻痺を疑う、もしくは呼吸障害を認める場合には、呼吸理学療法を開始する。呼吸筋ストレッチ・筋力増強は呼吸不全の進行を遅らせる効果がある。

また、排痰リハビリテーションは誤嚥肺炎無気肺などの原因となる喀痰の貯留を予防・改善する効果がある。
残存する運動機能に応じて文字盤やタブレットを用いてコミュニケーションを行うが、四肢筋力低下が高度な場合には、視線入力装置のあるパソコンで意思伝達を行う。

 

・HAL®(Hybrid Assistive Limb)医療用下肢タイプ(ロボットスーツ)
実施可能な施設は限られるが、保険適用となっている。筋力維持、歩行能力の改善効果が期待されている。

 


【引用・参考文献】
1)日本神経学会監.筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013.2013,南江堂.(2023年6月閲覧)
2)Steve Vucic et al.Gold Coast diagnostic criteria: Implications for ALS diagnosis and clinical trial enrollment.Muscle Nerve.2021;64(5):532-537.(2023年6月閲覧)

執筆: 寺本昇生

神戸市立医療センター中央市民病院 救命救急センター・救急部 副医長

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