在宅患者:進行性難病患者(ALSなど)のポジショニング

『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』(照林社)より転載。一部改変。
今回は進行性難病(ALSなど)の在宅患者のポジショニングについて解説します。

 

原田典子
原田訪問看護センター代表/訪問看護認定看護師

田中マキ子
山口県立大学看護栄養学部教授

藤田明美原田さをり(3学会合同呼吸療法認定士)
宇田川正子田中美代子小林美代子(作業療法士)
原田訪問看護センター

 

 

●筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)患者は、在宅療養を希望されることが多い。そこで、在宅でのポジショニング技術の解説の例としてALS患者の日常生活場面を取り上げる。

●ALSは、初発症状が出現し始めてすぐに確定診断される場合と、長い時間を要して診断される場合とに大別される。診断後、徐々に症状が悪化しADL(日常生活動作)が低下し呼吸筋麻痺が生じる時期までと、人工呼吸器装着後(開始時)の時期と、病状の変化に応じて大きく2段階に分けられる。

●ALSの診断がついた後、闘病生活ではその日・そのときをいかに充実したものとして送れるかが強く望まれる。

●ADL低下期における基本となる日常生活項目を取り上げ、そのポジショニングについて述べる。

 

1ALS患者の食事時のポジショニング調整

進行性難病患者(ALSなど)のポジショニング

 

 

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食事時のポジショニングのポイント

  • 可能な限り自力摂取できる体位と補助具を検討する。
  • 誤嚥しない体位を検討する。
  • 疲労が最小となる体位を検討する。

 

 

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食事時のポジショニングの進め方

1 体位の工夫

1)首おれへの留意

ALSでは、頸部周囲筋の筋力低下による首おれ(頭部保持困難)が生じる(図1)。首おれは、脊柱の歪みにも影響し、姿勢のくずれ(前方倒れ)や尾骨部突出ともつながる。

 

図1 ALS患者の首おれの現象

前屈(左):食道が圧迫され、うまく飲み込めない

後屈(右):気道が狭められ呼吸に影響を及ぼす。食道が狭められ、飲み込むことができない

ALS患者の首おれの現象

 

首おれになると、嚥下(飲み込み)が難しくなり食事摂取を困難にする。そのため、補助具等で頸部の角度を支持することが大切になる。角度は、患者の飲み込みとの関係で異なるため、患者が飲み込める角度(意向)に応じることが重要である。

 

2)上肢の動きの支援

ALSは、四肢遠位から筋力低下が進行するなど、食事動作に重要な影響を与える。自分のペースで食事ができるためには、スプーン等をつかめるような工夫や自助具を使用する他、肘の前屈を可能とする体位を支援することが必要になる。

 

肘の前屈を行えるように、肘を上げる。肘の動きを助ける補助具を使用する。

 

2 補助具の活用

1)ネックカラー

首おれ対策には、ネックカラーがよく使用される。患者個々の角度に応じ、その幅や厚みを工夫する他、寒さ暑さに対応できるようカバー素材にもさまざまな工夫が必要になる(図2)。

 

図2 「手作りネックカラー」で患者個々に対応する

適度な硬さになるように食器洗いスポンジなどを組み合わせてネックウオーマーやアームカバーなどに包む。伸縮性のない綿生地で全体を包み、着脱できるようマジックテープを付ける。また、患者自身でも操作可能なよう、指がひっかかるようにひっかかりを付ける

手作りネックカラー

 

良いネックカラーには条件があり、そうでないものは欠点が多い(表1)。

 

表1 ネックカラーの悪い条件と理由

ネックカラーの悪い条件と理由

 

ネックカラーを装着するとともに、姿勢保持のために両上肢を組む(図3)。

 

図3 ネックカラーを装着し上肢を組む姿勢

ネックカラーを装着し上肢を組む姿勢

 

2)スプリングバランサー

上肢に力が入らず脱力感が強いため、食事途中で疲労し、食事摂取量が低下する。そこで、スプリングバランサー等を導入すると、一人で自分のペースで食事摂取が可能となり、患者のQOLが向上する(図4)。

 

図4 スプリングバランサーの導入

手作りの道具を用いて食事動作を補助する。上肢の疲労を改善し、自力摂取を可能にする

スプリングバランサー

 

こうした補助具を十分に活用するためには、装具が接触する部位(腕)の観察を怠らないことが大切となる。

 

 

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2ALS患者の排泄時のポジショニング調整

ALS患者の排泄時のポジショニング

 

 

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排泄時のポジショニングのポイント

  • 排泄時、洋式トイレに座る際の姿勢の安定を図るため、脊柱をまっすぐにする。
  • 姿勢を安定させるために、両足を外側に広げ踏ん張るような形にする。
  • 両上肢は体幹につけて座位の安定を図る。

 

 

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排泄時のポジショニングの進め方

1 最適な脊柱姿勢の維持

排泄するためには、便器にある程度の時間座って(座位姿勢の維持)、いきむ(腹圧をかける)などの行為が行えなくてはならない。こうした行為が安全に行われるためには、座位バランスが安定する必要がある。

 

そこで重要になるのは、脊柱がしっかり立つことである。「脊柱は軸性骨格の重要な構成部位であって、連結している胸郭と骨盤とともにからだの主要な支持構造を形成している」1)ため、頸椎や腰椎の生理的前弯を適切に保ちながら、脊柱を安定させることが必要となる。

 

姿勢を安定させるためには、下肢を外側に広げる(図5)。

 

図5 ALS患者の排泄時の体勢

姿勢が安定する

ALS患者の排泄時の体勢

 

姿勢が安定しない

ALS患者の排泄時の体勢

 

また、生理的弯曲が保たれるように座らせる(図6)。

 

図6 生理的弯曲を保つ

生理的弯曲を保つ

 

2 バランス調整に必要な足の姿位

排泄のための座位姿勢に必要な脊柱のポジショニングは、骨盤のポジショニングを伴う。

 

「骨盤の運動は常に脊柱の運動を伴って行われる。骨盤の前傾は腰椎の伸展と関連し、骨盤の後傾は腰椎の屈曲の結果による。関連する股関節のポジショニングもまた、骨盤の傾斜を伴う」1)ことから、脊柱と骨盤の姿位関係を検討しなくてはならない。

 

「脊柱が最適姿勢からどのような方向にも動けば動くほど、どの方向においても運動性は低下し、安定性は妨げられる」1)と言われる。

 

そのため、座位時足を広げ踏ん張るようにすることで、脊柱の自由な動きを抑制し、脊柱と骨盤のポジショニングが連動するよう促すことが重要になる。

 

3 バランス調整に必要な手の姿位

脊柱と骨盤の姿位関係が良好であっても、筋力低下をきたす上肢がまとまらない状態にあると、上半身の傾き(脊柱のねじれ・歪み)をまねく可能性がある。

 

そこで両上肢は、脊柱のねじれ・歪みを引き起こさないよう、アームレストに乗せ、座位姿勢の安定を図る。アームレスト等が準備できない場合には、両上肢を体幹で組むなどすることが重要になる。

 

 

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3ALS患者の休息時のポジショニング調整

休息時のポジショニングのポイント

  • 臥位において呼吸しやすい体位を検討する。
  • 座位において呼吸しやすい体位を検討する。
  • 褥瘡等、弊害が生じない体位変換方法を検討する。

 

 

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休息時のポジショニングの進め方

1 座位におけるポジション管理(図7

 

図7 ALS患者の座位のポジショニング

ALS患者の座位のポジショニング

 

ALS患者では、呼吸のしやすさを一番に考慮して胸郭の動きを制限しないように座位姿勢を検討しなくてはならない。また、筋力低下から筋力による姿勢維持が難しいため、脊柱姿勢を整えるなど骨格系のはたらきかけを重視する。

 

90度座位姿勢は、脊柱の曲がりを予防し、背中への圧迫も生じず、坐骨等への部分圧迫にも対応できるため、格好のポジションと言える。

 

必要に応じてアームレストを使用し、体幹姿勢を支える。また、テーブルやクッションを使用し、上肢の下垂を防ぎ座位姿勢を補助する方法もよい。背中を支えたくなるが、胸郭が前後に開くことを妨げるため、可能な限り脊柱を正すことで90度座位姿勢を維持することが好ましい。

 

ALS患者の座位「やってはいけない」

ALSは筋力低下が生じているためバックサポートに依存せざるを得なくなる。

[バックサポート角が狭すぎる場合]

背中が、椅子の背に押される。押される背部に沿って骨盤が後傾する。

バックサポート角が狭すぎる場合

 

[バックサポート角が広すぎる場合]

後方へ少し倒れる椅子の背に背部を沿わせようとすることで、骨盤が後傾する。

バックサポート角が広すぎる場合

 

[バックサポート角は合っていても座面奥行が長すぎる場合]

膝後面が椅子座面の端に当たり深く座れない(90度座位とならない)ため、骨盤が後傾する。

バックサポート角は合っていても座面奥行が長すぎる場合

光野有次,吉川和徳:シーティング入門ー座位姿勢評価から車いす適合調整までー.中央法規出版,東京, 2007:76.を元に作成

 

2 臥位におけるポジション管理

臥位におけるポジションで重要になるのは、自力で寝返りがうてないため、患者・家族の負担を少なくし、安全・安楽に体位変換を行うことができるかどうかである。

 

体圧分散用具は、患者の身体が埋まりこまないで、生理的弯曲がある程度維持され、さらに部分圧が低くなる素材と形状のものを選択する。

 

ALS患者は呼吸運動が低下し胸椎を軸にして上下運動をするため、肋骨を可能な限りサポートすることが重要になる。そのため、完全臥位よりも軽度頭部挙上が好まれる。

 

体位として、完全仰臥位では胸郭が重力の影響で押され、呼吸床を広げることが難しい。そこで、背上げモードを使用して軽度頭部挙上を行う。

 

横隔膜呼吸を支援するためにも、頭部を軽度挙上するほうが横隔膜の動きをサポートできる(「呼吸困難を持つ患者のポジショニング」参照)

 

患者の呼吸状態や筋力低下、あるいは痛み等を勘案し、背上げの有無や角度を検討する必要がある。

 

呼吸床を確保するためには、柔らかすぎる体圧分散用具等を使用しないことが勧められる。柔らかい体圧分散用具は、腰部が沈み込み、臥床状態にあって生理的弯曲の維持を妨げるためである。

 

滑るシートを使用すると、筋力低下のために身体に力を入れられなくなっていても、安全に体位移動することができる(図8図9)。

 

図8 滑るシートを使用した安全な体位移動方法

滑るシートを使用すると、横への体位移動の際、身体に過度な力をかけなくてもがスムーズに動くことができる

滑るシートを使用した安全な体位移動方法

 

図9 自力で移動することを防げる滑るシートの部分使い

滑るシートを部分的に用いると、殿部はスムーズに動かせるが、下肢が動かせないなど、身体全体を移動させることができない

シートの部分使い

 

力が入らずに重くなっている身体を少しでも自由に動かすためには、摩擦係数が低く、滑る素材(ジャージ)の衣類を着用することも大切である。

 

 

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4ALS患者の入浴時のポジショニング調整

ALS患者の入浴時のポジショニング調整

 

入浴時のポジショニングのポイント

  • 座位から長座位の体位の安定を検討する。
  • 呼吸しやすい体位を検討する。
  • 疲労が最小となる体位を検討する。

 

 

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入浴時のポジショニングの進め方

ALS患者の入浴は、これまでの食事・排泄・休養におけるポイントを含んだ統合された内容となる。

 

1 首おれへの留意

前述した内容と同様である。

 

2 最適な脊柱姿勢の維持

排泄時に示した脊柱がしっかり立つ姿位を保つことが重要になる。入浴時にはリフト等を使用し湯船につかれるように支援する。

 

この際、使用するリフトの角度が重要になる。股関節90度、膝関節90度となるような座位角度を維持することと、リフトの座面部素材は固いものが有効である。

 

入浴ができる時期は、自力での活動が行える時期であるので、硬い座面のリフトに座るほうが、座位姿勢がくずれず、かつ患者個々が座位を自分の好みで微調整できる(両上肢等を振りながら、殿部位置を微妙に変えることができる)ためである。

 

3 バランス調整としての手(上肢)の姿位

入浴時は、湯船につかると浮力により姿位が不安定になりやすい。そのため、座り姿勢が安定するように、また脊柱と骨盤の姿位関係を良好に維持することを支えるように、両上肢は体幹につける。

 

これにより基底面の範囲を狭くすることができ、重心移動への影響を少なくでき、座位姿勢の安定を図ることができる。

 

4 入浴補助具の使用

入浴時には、バスタブに据え置きするタイプのリフトを使用するのが主流である。リフトに座る際には、首おれ、脊柱姿勢の維持、上肢の姿位に留意することが前提である(図10)。

 

図10 据え置きタイプのリフトでの入浴体位

据え置きタイプのリフトでの入浴体位

 

このような姿位を維持しながら、患者を湯船につけ、入浴を楽しんでもらうことが重要である。浮力との関係から、湯量は乳頭ラインを基準とする。肩までつけてしまうと患者の姿位が不安定になり、呼吸への影響や介護者が支えづらくなり事故につながりやすい。

 

湯船につかった際には、下肢は投げ出すような長座位とする(図11)。下肢を曲げたままでいると、股関節角度が大きくなり、脊柱の曲がりを生じ、前座りとなり姿勢が不安定になる。

 

図11 湯船につかったら長座位になる

湯船につかったら長座位になる

 

脊柱はまっすぐで股関節90度に維持しつつ、腰から下肢がそのまま投げ出されるような状態が姿位を安定させる。

 

バスタブの高さが低く、長さが長い場合は、寝そべる姿位とする。寝そべっている間は、首おれが生じず、脊柱がまっすぐで長座位を維持できるように、開脚して両足底でしっかりバスタブを踏んでもらう姿位をとると安定する。バスリフトの座面は硬いものを使用する(図12)。

 

図12 バスリフト

バスリフトの座面は硬いものを

バスリフトの座面は硬いものを選ぶ

 

 

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ALS患者のポジショニングは個別性が重要!

高齢者の看護・介護も個別性が重視されるようになってきましたが、神経筋難病(以下、ALS)患者や介護量が多い人は、なおいっそう個別性を持ってケアすることが望まれる時代となりました。

 

ALS患者は、2~3年という早いペースで病気が進行していき、どんどんADLが低下します。こうしためまぐるしく変化する状況のなかで、快適に座る・寝る・動くことができるように、専門家の支援が必要になってきます。

 

健康人にあっては、何も考えずに行っている立つ動作も、いろいろな筋肉の伸展と収縮が連動して行われています。ALS患者は、まず立つことをサポートするために、立位補助具が必要となり、現実によく使われています。「できる限り自分で動きたい」という思いを大切にすることが重要だからです。

 

そのためには、ALS患者のポジショニングを的確に行うことで、自分で動ける期間を延長することができます。

 

ALS患者のポジショニングを的確に行うためには、個別性を見きわめることが重要で、観察と実践が求められます。動くところを見きわめ、適切な補助具を紹介し、使ってみて動き方の助言をする、といったことを繰り返します。個々のALS患者に合った効率的な動きをみつけていくことが重要です。

 

夜間の寝返りも、滑りやすいシーツ(摩擦係数の低い素材)を使用することで、少しでも動かせる部位を使って可動性を高め、自分の力で動ける方法を「あみ出す」のです。

 

この他、「安定」と「安楽」も重要です。特に、座位は長時間にわたるため、重心の位置(上肢の位置や首の位置との関係)次第では安定性を欠く状態になってしまいます。動かすということと、安定性を確保する(固定する)という矛盾する課題にも対応しなくてはなりません。

 

ALS患者一人一人へのかかわりから、新たな発見と学びがある毎日です。

 

原田典子(原田訪問看護センター代表/訪問看護認定看護師)

 

 

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文献

1)アーバーグ 著,加藤清忠 監訳:カラー図解 筋肉メカニクスとトレーニング技術.西村書店,新潟,2011:43.

2)光野有次,吉川和徳:シーティング入門ー座位姿勢評価から車いす適合調整までー.中央法規出版,東京.2007:76.


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』 編著/田中マキ子/2014年8月刊行/ 照林社

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