CO2ナルコーシス|”コレ何だっけ?”な医療コトバ

『エキスパートナース』2015年4月号より転載。
CO2ナルコーシスについて解説します。

 

島 惇
自治医科大学医学部麻酔科学・集中治療医学講座(集中治療医学部門)

 

布宮 伸
自治医科大学医学部麻酔科学・集中治療医学講座(集中治療医学部門) 教授

 

CO2ナルコーシスとは・・・

 

〈目次〉

 

CO2ナルコーシスとは?

 

 

CO2ナルコーシスは、なぜ起こる?(メカニズム)

CO2ナルコーシスの発生機序について、例を挙げて説明します。

 

ヒトはさまざまな物質の変化をもとに、呼吸運動の刺激を発生させています。そのなかでも体内のCO2によるpHの変化が主な呼吸刺激としてはたらいており、体内のCO2が上昇すれば換気を増やし、減少すれば換気を減らすようになっています。(図1-①)。

 

一方で、病的状態により慢性的にCO2が貯留している場合では、CO2貯留に“慣れ”が生じて刺激が低下しており、代わりに低酸素血症が呼吸刺激となっています(図1-②)。

 

図1呼吸刺激の変化と酸素投与による影響

呼吸刺激の変化

 

 

このような患者に不用意に酸素投与を行うと、低酸素血症による呼吸刺激がなくなり、CO2による呼吸刺激も低下したままのため、著しい呼吸抑制が起こります(図1)。

 

その結果、CO2のさらなる貯留をきたし、CO2自体が麻酔作用などを持つため、蓄積したCO2が中枢神経系に作用して意識障害に至ります。このように、さまざまな要因で異常に蓄積したCO2による中枢神経抑制作用がさらに呼吸抑制を引き起こし、よりいっそうCO2蓄積を招く悪循環に陥って、昏睡状態から死亡に至る危険もある病態が、CO2ナルコーシスです。

 

CO2ナルコーシスはどんなとき起こる?

CO2ナルコーシスをきたし得る基礎疾患としては、肺気腫や慢性気管支炎などの慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease、COPD)や気管支喘息肺結核後遺症など、肺の器質的疾患が臨床的には多く見られます。

 

また、神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉、重症筋無力症など)ほかもしばしば原因となります。

 

これらの患者に、肺炎などの呼吸器感染症やうっ血性心不全、気胸、あるいは手術などの侵襲が加わると、CO2ナルコーシスの誘因となりやすく、例に挙げたような不用意な酸素投与は禁物です。

 

CO2ナルコーシスのポイント

慢性的な呼吸不全患者に対する酸素投与に気をつけよう

不用意な酸素投与により、CO2ナルコーシスが起こります。それでは、仮にCO2ナルコーシスに至ってしまった場合、どのような症状が現れるでしょうか。

 

まず中枢神経症状として、CO2の血管拡張作用によって頭蓋内圧が亢進し、頭痛が起こりますが、その後、意識レベルの低下が生じます。放置すれば痙攣なども起こり、傾眠傾向から昏睡に至ります(表1)。

 

表1高二酸化炭素の症状 (中枢神経症状による)

高二酸化炭素の症状 (中枢神経症状による)

 

 

同時に呼吸抑制もしだいに強くなってきますので、CO2ナルコーシスでは理学所見上、意識障害、自発呼吸の減弱を認めます。さらに、血液ガス分析で重症呼吸性アシドーシスを認めます。これら、

 

  1. 重症呼吸性アシドーシス
  2. 意識障害
  3. 自発呼吸の減弱

が「CO2ナルコーシスの3徴」と呼ばれます。

 

加えて、血圧上昇、発汗、頻脈縮瞳などが起こりえます。酸素投与後にこれらの症状(特に頭痛)が出現した際には、3徴に至る前にすみやかに対応することが重要になります。

 

CO2ナルコーシスにどう対応する?

CO2ナルコーシスを起こしそうな患者に注意

まず、CO2ナルコーシスを起こさないことが第一です。

 

CO2ナルコーシスは、慢性的にCO2が貯留している患者に起こりやすいので、COPDや結核の術後、進行した間質性肺炎などの呼吸器疾患、筋萎縮性側索硬化症や重症筋無力症などの筋疾患を基礎に有する患者に注意が必要です。これらの患者に酸素投与が必要な場合、低濃度、低流量の酸素投与から開始します。

 

しかし、CO2ナルコーシスを恐れるあまり、不十分な酸素投与で患者を危険にさらしてはならないことを肝に銘じてください。十分な酸素投与が必要な場合は、呼吸抑制、意識障害に対応できる準備をして臨むことが重要です。

 

「意識障害」「呼吸抑制」には呼吸確保を

CO2ナルコーシスに陥ってしまった場合はどう対応すればよいでしょうか。

 

CO2ナルコーシスの最大の問題は、意識障害と呼吸抑制です。意識障害により気道の開通の維持が困難になります。そのため、いびき音などの気道閉塞の症状があれば、気管挿管を行います。

 

また、呼吸抑制に対しては呼吸補助が必要となります。挿管しなくてよい場合は非侵襲的陽圧換気(NPPV)、挿管する場合には人工呼吸器による緩徐な呼吸補助を行います。

 


[引用文献]

 

  • (1)村川裕二:新・病態生理できった内科学〈2〉呼吸器疾患.医学教育出版社,東京,2010:15.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

P.36~37「CO2ナルコーシス」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2015年4月号/ 照林社

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