肺炎(市中肺炎)の疾患解説

この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼とで理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
より深い知識を習得したい方は、本文内の「目指せ! エキスパートナース」まで読み込んで下さい。
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。

 

今回は、感染性呼吸器疾患である「肺炎(市中肺炎)」について解説します。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科准教授)

 

呼吸器の疾患の中でも、肺炎はよく聞く疾患ですね。

 

私の患者さんの中にも、肺炎で来られる方がいらっしゃいます。

 

そういえば、肺炎は「市中肺炎」と「院内肺炎」の2種類に分けられることは知っていましたか?

 

市中肺炎・・・ですか?

 

言葉は聞き慣れないかもしれませんが、一般的な肺炎のことです。院外肺炎と言う人もいます。
肺炎は臨床現場で遭遇することが多い疾患ですので、しっかりとポイントは抑えておきましょう。

 

〈目次〉

 

肺炎の基礎知識

肺炎とは、肺に炎症を引き起こす疾患の総称です。肺炎は、市中肺炎と院内肺炎の2種類に分けられます。

 

基本的に肺炎の約70%は、病院外で日常生活を送っている人に発症しています。このような肺炎を、市中肺炎と呼びます。つまり、肺炎に罹患する患者さんのほとんどが、普段の生活を送っているヒトです。

 

この市中肺炎に対して、病院内で感染する肺炎のことを、院内肺炎と呼びます。

 

肺炎の原因と病態生理

肺炎の患者さんの多くを占める市中肺炎は、原因菌の違いによって、定型肺炎と非定型肺炎の2種類に分けられます表1)。

 

表1肺炎の代表的な起因菌

 

 

定型肺炎 非定型肺炎
肺炎球菌 レジオネラ菌
インフルエンザ マイコプラズマ
モラクセラ・カタラーリス菌 クラミドフィラ菌

 

定型肺炎

肺炎球菌やインフルエンザ菌、モラクセラ菌などが原因で発症する肺炎を、定型肺炎と呼びます。

 

これらの菌は、喀痰検査(かくたんけんさ)時のグラム染色で染色されるため、顕微鏡で見ることができます。

 

非定型肺炎

マイコプラズマ菌やクラミドフィラ菌が原因で発症する肺炎を、非定型肺炎と呼びます。

 

これらの菌は、喀痰検査のグラム染色では染色されないため、顕微鏡で見ることはできません。

 

肺炎の患者さんの特徴的な画像所見

肺炎球菌肺炎の患者さんのCT写真

肺炎球菌が原因で肺炎を発症している、肺炎球菌肺炎の患者さんの画像所見では、気管支透亮像が見られることが特徴です(図1)。

 

図1肺炎球菌肺炎の患者さんに見られる気管支透亮像

 

肺炎球菌肺炎の患者に見られる気管支透亮像

 

黒矢印)の位置に気管支透亮像が見られます。

 

memo白い中に気管支が黒く見える気管支透亮像

気管支透亮像とは、CT検査の画像所見でみられる気管支の像のことです。

 

通常、浸潤影や網状陰影は全体が白く映っていますが、気管支透亮像は気管支が黒く映っているのが特徴です。

 

マイコプラズマ肺炎の患者さんのCT写真

マイコプラズマ菌が原因で肺炎を発症している患者さん(マイコプラズマ肺炎)の画像所見は、気管支壁の肥厚と、気道を介して菌が広がった(経気道散布)ことを示唆する、小粒状陰影が見られることが特徴です(図2)。

 

図2マイコプラズマ肺炎の患者さんに見られる気管支壁の肥厚と小葉中心性陰影

 

マイコプラズマ肺炎の患者に見られる気管支壁の肥厚と小葉中心性陰影

 

黄矢印)の位置に気管支壁の肥厚が、黒矢印)の位置に小葉中心性陰影が見られます。

 

この陰影のことを、小葉中心性陰影と呼ぶこともあります。

 

肺炎の症状

肺炎の患者さんが訴える症状は、定型肺炎の患者さんと非定型肺炎の患者さんで異なります。

 

定型肺炎の症状は、鼻汁や咽頭痛、咳、痰、発熱、悪寒、息苦しさ、胸痛など、さまざまなものがあります。一方で、非定型肺炎の場合は、発熱や、長引く咳嗽の症状を訴えて、来院する場合が多いです。

 

目指せ! エキスパートナース定形肺炎と非定型肺炎を鑑別する方法

定型肺炎と非定型肺炎の患者さんを鑑別するためには、表2の(1)~(6)の6項目を確認していき、項目に合致した数によって、定型肺炎か非定型肺炎かを判定します。

 

表2定形肺炎と非定型肺炎の鑑別方法

 

 

(1) 60歳未満
(2) 基礎疾患がない、あるいは軽微
(3) 頑固ながある
(4) 胸部聴診上所見が乏しい
(5) 痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない
(6) 末梢血白血球数が10,000/μL未満である
上記(1)~(6)までの6項目について  
6項目中4項目以上合致した場合 非定型肺炎の疑い
6項目中3項目以下の合致 細菌性肺炎の疑い

*この場合の非定型型肺炎の感度は77.9%、特異度は93.0%

 

上記(1)~(5)までの5項目について  
5項目中3項目以上合致した場合 非定型肺炎の疑い
5項目中2項目以下の合致 細菌性肺炎の疑い

*この場合の非定型型肺炎の感度は83.9%、特異度は87.0%

 

表2の項目の中で、6項目中4項目以上に当てはまる場合は、非定型肺炎の可能性が高いと診断されます。また、採血ができない場合、項目(1)~(5)のうち3項目に当てはまると、非定型肺炎の可能性が高くなります。

 

聴診時に気を付けるポイント

肺炎の患者さんを聴診する場合、下肺野では少なくとも6箇所聴診器を当てましょう(図3)。

 

特に、肩甲間部(肩甲骨と肩甲骨の間)から肺底部までは聴きもらすことのないように、しっかりと聴くことがポイントです。

 

図3肺炎の患者さんに行うべき聴診の位置

 

肺炎の患者さんに行うべき聴診の位置

 

上肺野は2箇所、下肺野は6箇所で音を聴きましょう。

 

肺炎の患者さんは誤嚥性肺炎も疑おう

肺炎患者さんの右下肺野背側に聴診器を当てる際は、患者さんが誤嚥性肺炎を起こしていないかを意識して聴くと良いでしょう。誤嚥性肺炎は、高齢者に多くみられますが、右肺に発生するケースが多くあります

 

この理由としては、左右の気管支の分岐角度が異なることが挙げられます。通常、気管支の分岐角度は、右気管支の方が左気管支に比べて急な形状をしています。このため、異物が右気管支に落ちていきやすくなっているためです(図4)。

 

図4気管の分岐角度

 

気管の分岐角度

 

右気管支の方が左気管支よりも角度が急になっています。

 

目指せ! エキスパートナース市中肺炎の重症度分類に用いられる「A-DROPシステム」

肺炎について、色々と勉強していくと、「A-DROPシステム」という言葉を耳にする機会があると思います。A-DROPシステムとは、2007年に呼吸器学会が刊行した『成人市中肺炎診療ガイドライン』に掲載されている重症度分類のことです。A-DROPというのは、下記の5つの項目の頭文字から作られた名称です。

 

  • A:age(年齢)
  • D:dehydration(脱水
  • R:respiration(呼吸状態)
  • O:orientation(意識障害の有無)
  • P(BP):blood pressure(血圧

 

市中肺炎の重症度は、このA-DROPシステムで判定します(表3)。わが国では、A-DROPシステムで3点以上の場合(A~Pのうち、3つ以上に当てはまる場合)、入院が勧められます(1)

 

表3身体所見、年齢による肺炎の重症度分類(A-DROPシステム)

 

使用する指標

 

A 男性70歳以上、女性75歳以上
D BUN 21mg/dL以上、または脱水あり
R SpO2 90%以下(PaO2 60Torr以下)
O 意識障害
P 血圧(収縮期)90mmHg以下

重症度分類

 

軽症 使用する指標の5つの項目のいずれも満足しないもの
中等症 使用する指標の項目の1つ、または2つを有するもの
重症 使用する指標の項目の3つを有するもの
超重症 使用する指標の項目の4つ、または5つを有するもの。
ただし、ショックがあれば、1項目のみでも超重症とする

重症・超重症の場合、入院が必要になります。

 

(文献(1)より引用、改変)

 

ナースへのワンポイントアドバイス

定型肺炎の代表的な原因菌は肺炎球菌で、非定型肺炎の代表的な原因菌はマイコプラズマ肺炎です。非定型肺炎のスコアリング(A-DROP)は、日本独自で開発されており、感度、特異度ともに良好なため、機会があれば確認してみてください。

 

また、喫煙歴のある肺気腫の患者さんや、COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)の患者さんの中で、呼吸器の感染症を合併している患者さんは、肺炎球菌やインフルエンザ菌などが原因です。

 

Check Point

  • 肺炎の患者さんを聴診する場合、下肺野の音は最低でも6箇所は聴こう。

 

次回は、実際の肺炎患者さんの聴診音を紹介します。
代表的な音ですので、特徴をしっかりと覚えましょう。

 

[次回]

肺炎(市中肺炎)患者さんの聴診音

 

[関連記事]
  • ⇒『聴診スキル講座』の【総目次】を見る

 


[文 献]

 

  • (1)日本呼吸器学会市中肺炎診療ガイドライン作成委員会編. 「呼吸器感染症に関するガイドライン」 成人市中肺炎診療ガイドライン. 2007.

 


[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科講師

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志

 


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