食物アレルギーを引き起こすアレルゲン、原因はハウスダストの中?
小児科医・アレルギー
アレルギー体質は、どこで、どのように獲得する?
世界中で食物アレルギーを持つ人が増えています1)。たとえば、鶏卵アレルギーは日本人の食物アレルギーの3割以上を占め、近年、木の実アレルギーが大きく増えて3位になったことが示されています2)。
ちょっと不思議に思った方はいらっしゃいませんでしょうか。
卵やクルミを食べたことがない子どもが、初めて卵を食べ、じんましんや場合によってはアナフィラキシーといったアレルギー症状が出たりすることがありますよね。
そういった子どもは、どこで、どのように、卵やクルミに対するアレルギー体質を獲得したのでしょうか?
以前は、妊娠中や授乳中に母親が食べた食べ物が子どものアレルギー体質を作るのではないかと考えられていました。
そのため、アレルギーになりやすい食べ物を除去するという方法が推奨された時代があったのです。
しかし、その効果は認められず、むしろピーナッツアレルギーは増加しました3)。
では、どのようなルートで子どもの食物アレルギーが起こっているのでしょうか?
実は、ハウスダスト、すなわち家のホコリの中にある食物タンパク質が、アレルギー体質を起こす大きな原因になっていることがわかってきているのです。
ハウスダストから食物アレルギーになる「仕組み」
ハウスダストに食物のタンパク質が含まれているというと、驚かれるかもしれません。
しかし、ハウスダスト中に『ダニ』が存在し、そのダニが喘息を起こしやすくすることはご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
1979~1989年に、イギリスで1歳児がいる家のハウスダストに含まれるダニの量と、その子どもが成長して喘息になるリスクについての研究が行われました。
それによると、1歳のときダニが多い環境にいた子どもは、11歳で喘息になりやすいことが判明しました。特に、ハウスダスト1g中にダニのタンパク質が10μg(マイクログラム)以上ある場合、喘息になる確率が約5倍になるのだそうです4)。
この研究からわかるように、ハウスダスト中にアレルギーを起こしやすいタンパク質、すなわちアレルゲンが含まれていることは、以前から知られていたのです。
では、このアレルゲンは、どのようにアレルギー体質を発症させたり、悪化させたりするのでしょうか?
やはりイギリスで、赤ちゃんにピーナッツオイルが含まれるスキンケア製品を使用すると、ピーナッツアレルギーの発症リスクが約7倍になるという報告があります。さらには、アトピー性皮膚炎のような皮膚の炎症がある子どもへの使用は、さらにそのリスクが高まるという結果でした5)。
これは、皮膚にピーナッツタンパク質が付着することでアレルギー体質を獲得する可能性があるということを現しています。
「食物が含まれるような製品なんて日本で販売されているのか」と思われるかもしれませんが、最近、私たちの研究グループは、日本で販売されているスキンケア保湿剤の多くに、さまざまな食物が含まれていることを報告しています6)。
そして特に、『オーガニックやナチュラル』を強調した製品であるほど、その含有するリスクが高まるので、留意する必要性があるかもしれません6)。
話を元に戻しましょう。
皮膚からアレルゲンが吸収されることでアレルギーが悪化するという現象を『経皮感作』といいます。この経皮感作がピーナッツアレルギーとなる大きな「ルート」になっていたのですね。
しかし、ピーナッツの含まれたスキンケア製品を使っていなくても、ピーナッツアレルギーを発症する子どもも当然います。
そこで注目されたのが、ハウスダスト中の食物アレルゲンだったのです。
2015年、イギリスの研究チームは、赤ちゃんがいる家のハウスダストに含まれるピーナッツタンパク質の量と、赤ちゃんのアトピー性皮膚炎の重症度を調査し、3~15ヵ月時点でのピーナッツアレルギーの発症リスクを評価しました。
すると、ハウスダストの中にピーナッツタンパク質が多い家や、アトピー性皮膚炎が重症の子どもほど、ピーナッツアレルギーになりやすいことが明らかになったのです。
これは、ハウスダストに含まれるピーナッツタンパク質が、特に炎症を起こした皮膚に付着し、経皮感作のメカニズムによりピーナッツアレルギーの一因になる可能性を示唆しています7)。
それでも、「食べた食物が、家にそれほど広がっていってしまうのだろうか」と疑念を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
ベルリン大学の研究チームは、家のリビングで卵を食べた後、48時間以内にリビングだけでなく、ベッドルームなど家中のハウスダストに卵のタンパク質が広がることを報告しています8)。
このことは、食べ物のタンパク質が簡単に家中に広がりやすいことを示しています。
早期の積極的治療が、アレルギー発症リスク軽減の鍵?
では、日本で多い鶏卵やクルミアレルギーを考えると、日本の家のハウスダスト中には、これらのタンパク質が多く含まれているのでしょうか?
日本の国立成育医療研究センターで行われた研究があります。
それによると、研究対象となった子どもたちのベッドシーツのハウスダストには、卵のタンパク質がダニよりも多く含まれていることが分かりました9)。
さらに別の検討で、リビングやベッドのハウスダストから、クルミタンパク質が高い割合で見つかったのです10)。
これらの研究結果は、ピーナッツ、卵、クルミなどの食物アレルギーの発症には、ハウスダスト中のタンパク質が関わっている可能性があることを示唆しています。
もちろん、ハウスダスト中の食物アレルゲンによる経皮感作のみが食物アレルギーの原因というわけではないのですが、どうやら大きなルートのひとつになっているといえます。
では、この経皮感作のリスクを減らすにはどうすればいいのでしょう。
ハウスダスト中の食物アレルゲンを減らすという方法もありますが、なかなか容易ではないでしょう。
経皮感作は、アトピー性皮膚炎といった皮膚の炎症がある状態では、より起こりやすいことがわかっています。
ですので、皮膚の炎症を早く治めて、安定させておいたほうがよいのではないかという考え方があります。
そして最近、アトピー性皮膚炎を生後2~3ヵ月から積極的に治療することで、鶏卵アレルギーの発症リスクを減らすことができたという研究結果が発表され、注目されています11)。
アレルギーの発症予防に関しては、まだまだわかっていないことも多いのですが、判明してきていることも急速に増えています。
これからも一緒に学んでいくことができれば嬉しく思います。
この著者の前の記事
参考文献
- 1)Gupta RS, et al. Prevalence and Severity of Food Allergies Among US Adults. JAMA Netw Open. 2019; 2(1): e185630.
- 2)令和3年度食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書.(2024年4月7日アクセス)
- 3)Sara Anvari, et al. Evolution of Guidelines on Peanut Allergy and Peanut Introduction in Infants: A Review. JAMA Pediatr. 2017: 171(1):77-82.
- 4)R Sporik, et al. Exposure to house-dust mite allergen (Der p I) and the development of asthma in childhood. A prospective study.N Engl J Med. 1990; 323(8): 502-7.
- 5)Gideon Lack, et al. Factors associated with the development of peanut allergy in childhood. N Engl J Med. 2003; 348(11): 977-85.
- 6)Horimukai K, et al. Food Allergens and Essential Oils in Moisturizers Marketed for Children in Japan. Cureus. 2023; 15(2): e34918.
- 7)Helen A Brough, et al. Atopic dermatitis increases the effect of exposure to peanut antigen in dust on peanut sensitization and likely peanut allergy. J Allergy Clin Immunol. 2015; 135(1): 164-70.
- 8)V Trendelenburg, et al. Hen's egg allergen in house and bed dust is significantly increased after hen's egg consumption-A pilot study. Allergy. 2018; 73(1): 261-4.
- 9)Hiroshi Kitazawa, et al. Egg antigen was more abundant than mite antigen in children's bedding: Findings of the pilot study of the Japan Environment and Children's Study (JECS). Allergol Int. 2019; 68(3): 391-3.
- 10)Hiroki Yasudo, et al. Association of walnut proteins in household dust with household walnut consumption and Jug r 1 sensitization. Allergology Int. 2023; 72(4): 607-9.
- 11)Kiwako Yamamoto-Hanada, et al. Enhanced early skin treatment for atopic dermatitis in infants reduces food allergy. J Allergy Clin Immunol . 2023; 152(1): 126-35.
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科 助教堀向健太
1998年、鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て、2007年、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科助教。
毎日新聞医療プレミア、Yahoo!個人オーサー(2020年MVA受賞)、ブログ「小児アレルギー科医に備忘録」、Newspicsプロピッカー、音声ラジオVoicy、note、Twitter、Instagramなどで情報発信。著作に『マンガでわかる! 子どものアトピー性皮膚炎のケア(内外出版)』『ほむほむ先生の小児アレルギー教室(丸善出版)』『小児のギモンとエビデンス ほむほむ先生と考える 臨床の「なぜ?」「どうして?(じほう)』など。
編集:林 美紀(看護roo!編集部)
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