話題の病態「スキンテア」をどう防ぐ?|リポート◎進化する褥瘡・創傷ケア(後編)

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褥瘡との鑑別が必要な病態の一つとして近年注目されているのが、「スキンテア」と呼ばれる皮膚裂傷だ。皮膚が脆弱な人に摩擦やずれなどの一時的な外力が加わることで生じる創傷で、「絆創膏を剥がすときに一緒に皮膚が剥がれた」「四肢がベッド柵に擦れて皮膚が裂けた」「体位変換時に身体を支持していたら皮膚が裂けた」など、日常的に起こり得る。

 

高齢化が進む日本では、スキンテアに対する取り組みは大きな課題である。2014年12月に開催された照林社看護セミナー「褥瘡・スキンテア(皮膚裂傷)・失禁スキンケア:世界の最前線2014」では、スキンテアの研究に最前線で取り組む、豪シルバーチェーン&カーティン大学プライマリーヘルスケア&地域看護教授のケリリン・カービル(Keryln Carville)氏が登壇し、同病態の予防とケアについて解説した。

(森下紀代美=医学ライター)

 

処置を行うあらゆる場所で起こる

スキンテアは、オーストラリア人のように暑い地域に居住する白色人種に特に発生しやすいとされる。カービル氏らが2007~2011年に行った調査では、西オーストラリアの86の公立病院の入院患者におけるスキンテアの有病率は8~11%だった。同地域の80歳以上の退役軍人を検討した別の調査では、20%に及んでいた。

 

こうした実態を踏まえてカービル氏らは、スキンテアをアセスメントして分類するためのシステムとして、STAR(Skin Tear Audit research)スキンテア分類システムを開発した(図1)。

1993年に発表されたスキンテアの定義、

 

「主として高齢者の四肢に発生する外傷性創傷であり、摩擦単独あるいは摩擦・ずれによって、表皮が真皮から分離(部分層創傷)、または表皮および真皮が下層構造から分離(全層創傷)して生じる」

 

を検証し、その上で臨床での対応により活用できるものとするため、組織の欠損、血腫や斑状出血の有無などの特徴により、五つの病態に分類した。

 

図1 日本語版STARスキンテア分類システム(日本創傷・オストミー・失禁管理学会)

日本語版STARスキンテア分類システム

 

2007~11年に行われた前述の調査によると、スキンテアは高齢者で発症率が上昇するのみならず、新生児においても皮膚のテープを剥がす際などに生じる。またスキンテアは、外科、産科、救命救急部門から、緩和ケア、リハビリテーション科まで、すべての分野で発症していた。

カービル氏は「患者の処置を行う場所であれば、スキンテアはどこでも起こる可能性がある」と説明する。

 

さらにこの調査結果からは、スキンテアの好発部位は上肢・下肢に限らず、顔や骨盤、体幹などのすべての部位で発症することも分かった。これらの実態を踏まえて、カービル氏らがスキンテアの危険因子について検討したところ、老人性紫斑、斑状出血、血腫、過去に治癒したスキンテアの瘢痕化、浮腫といった皮膚の特徴と、自力での体位変換が不可であるという患者特徴が因子として抽出された。

 

「危険因子に『年齢』は含まれていなかった。また、ステロイドや抗血小板薬などの薬剤も危険因子として抽出されなかった」とカービル氏は述べる。

 

豪シルバーチェーン&カーティン大学プライマリーヘルスケア&地域看護教授のケリリン・カービル(Keryln Carville)氏

「スキンテアはケア場面のどこでも起こる可能性がある」と話すケリリン・カービル氏。

 

保湿剤による予防で発症が半減

では、スキンテアを予防するにはどうすればいいのか。

カービル氏らは、西オーストラリアにある14の高齢者施設の入所者968人(平均年齢86.35歳)を対象に、市販の無香料の中性保湿ローションを1日2回、上肢と下肢に塗布する介入群と、通常のケアとして不特定の製品を不定期に塗布する対照群に無作為に割り付け、保湿剤によるスキンテアの予防効果について検討した。

 

試験期間中(2011年10月~12年3月)、424人に計1396のスキンテアが発症した。介入群と対照群の発症率は、40.57%と59.43%だった。さらに満床とした1000床当たり、スキンテアが1カ月間にどれだけ発症するのかを算出すると、介入群では5.76床、対照群では10.57床となり、介入群で有意に低い結果だった(p=0.004)。この結果から、保湿ローションの1日2回の塗布により、スキンテアの発症は約50%減少することが示された。 

 

施設内のスキンテアの発症場所としては、入所者の居室・寝室が68.84%と最も多く、次いで浴室の7.59%であり、介入群と対照群に差はなかった。また全体では土曜日に多く発症し、時間帯では朝8時から10時までが最も多く、この時間帯は入所者がベッドから出る、またはシャワー浴をする時間帯(オーストラリアでは1日2回行う場合が多い)と一致していた。もう一つのピークは午後2時から4時までで、この時間帯は入所者が再度ベッドに入るために移動する時間と一致していた。

 

これらの結果を踏まえ、カービル氏らは保湿効果に関する経済評価も行っており、費用対効果を検討しているという(現在発表準備中)。

 

オーストラリアでは、政府主導で共同研究センター(CRC)による創傷管理イノベーションが進行している。カービル氏らはその一環として、CRCスキンテアプロジェクトにおいて、保湿洗浄剤と保湿ローションを併用する場合にスキンテアの発症率を低下させることができるのか、保湿洗浄剤だけを用いても同様の結果となるのかといった試験の検討も進めているそうだ。

「スキンテアを予防するために私たちはあらゆることができる。そのためには何よりもまず、優れた看護診断が重要になる」とカービル氏は話している。

 

 

<掲載元>

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