卵巣腫瘍は良性でも怖い?|働くナースが知るべき病気【8】

婦人科医の清水なほみが、看護師のみなさんに知っておいてほしい病気についてお知らせします。

 

働くナースが知るべき病気【8】

卵巣腫瘍は良性でも怖い?

 

卵巣の腫れをまとめて「卵巣腫瘍」といいますが、悪性度、つまり「がん」か、それ以外かによって大きく3つに分けられます。卵巣は悪性度にかかわらず症状が出にくく、発見が難しいため、見つかったときには進行がんになっていることも多くあります。まずは正しい知識をもち、疑いがある場合には診察を受けることが大切です。

 

 
【目次】
卵巣がある限り油断しちゃだめ!
卵巣は異常があっても症状が出にくい
悪性以外の卵巣腫瘍は治療しなくていいの?
治療方法はさまざま。主治医とよく相談して!
卵巣腫瘍の診断はどうやって行う?

 

卵巣がある限り油断しちゃだめ!

明らかな悪性腫瘍が「卵巣がん」、逆にはっきりと良性腫瘍だといえるものが「卵巣のう腫」、そして悪性と良性の間くらいの性質を持っている腫瘍が「境界悪性腫瘍」です。


大きく3つに分かれるとはいえ、卵巣腫瘍には非常にたくさんの種類があり、その原因を特定するのはなかなか難しいのが現状。10代でみつかるものも、閉経後に発症するものもあり、卵巣がある限り油断ができない病気です。

 

卵巣は異常があっても症状が出にくい

いずれの卵巣腫瘍の場合も、卵巣が多少腫れているという程度ではまったく症状が出ません。極端に大きくなればお腹の圧迫感などで気づくこともありますが、検診や他の症状で内科の診察を受けた時にたまたま発見されるケースのほうが多いといえます。

 

もともと卵巣は「沈黙の臓器」といわれているほど症状が出にくい臓器です。正常な大きさが2~3cmと小さいため、多少腫れても腹部のスペースに影響を与えにくく、しかも、子宮の両側にハンモックにつるされるような形でルーズに存在しているので、痛みも圧迫症状もあまり出ないという特性があります。

 

悪性以外の卵巣腫瘍は治療しなくていいの?

悪性の卵巣腫瘍である卵巣がんは、早期に発見するのがとても難しく、見つかった時にはすでに進行がんであることがほとんどです。これが、卵巣がんが「サイレントキラー」といわれる所以です。
卵巣にできる腫瘍のうち卵巣がんは10%程度で、あとは良性腫瘍のことが多いですが、早期発見するにはやはり定期的に超音波検査を受けるしかありません。

 

また、良性である卵巣のう腫や、両方の性質を持つ境界性悪性腫瘍ならほうっておいていいかといえば、そうではありません。

 

■卵巣のう腫の「捻転」

卵巣が5~6cm以上に腫れると、卵巣を支えている靭帯ごとグルッと捻じれてしまうことがあります。卵巣のう腫の「捻転」と言って、この状態になると立っていられないほどの激痛が突然現れますので、たいていは救急受診してそのまま手術になります。


たまに、捻じれかかっては自然に元に戻るといった中途半端な「捻転」を繰り返す方もいらっしゃるようで、突然痛くなったりしばらくすると治まったりといった症状を繰り返します。こういった捻転を疑う症状がある場合は、例え良性腫瘍であっても早めに手術しておくことをお勧めします。

 

■境界悪性腫瘍

境界性悪性腫瘍は、良性腫瘍と悪性腫瘍の中間の性質を持つ腫瘍です。境界性悪性腫瘍とされるものにはさまざまな種類があり、その定義は研究者の間でも確立されていません。ただし、中間の性質を持つといっても「悪性度の低いがん」と考えるべきで、治療が必要です。


進行してがんになる確率は低く、治療してしまえば予後は比較的良好ですが、まれに再発することがあります。そのため、治療後も長期の経過観察が必要です。

 

治療方法はさまざま。主治医とよく相談して!

超音波検査で「卵巣が腫れている」といわれた人は、悪性の可能性は低いのか、どういった種類の腫瘍が考えられるのか、いずれ手術が必要なのか、などを確認しておくといいでしょう。手術する場合も、全摘出以外にのう腫の部分だけをくりぬくのう腫摘出が可能な場合があります。


いずれにせよ、手術を含めて治療は患者さんの年齢や希望を考慮して行います。卵巣腫瘍と診断された場合は、主治医とよく相談して治療の内容や時期を決めましょう。

 

卵巣腫瘍の診断はどうやって行う?

卵巣腫瘍の診断は、主に超音波検査やMRIなどの画像検査で行います。悪性の可能性が高い場合は、腫瘍マーカーやCTやカメラ・大腸カメラなどの詳しい検査を合わせて行うこともあります。卵巣がんの中には「転移性」と言って、胃がんや大腸がんからの転移で卵巣が腫れることもあるので、消化管の検査が必要になります。

 

最終的に悪性なのかどうかという「確定診断」は、卵巣の腫瘍そのものを病理の検査に出して顕微鏡で細胞を見てみなければつけることはできません。つまり、手術をするまでは良性なのか悪性なのかといった区別を確定することはできないのです。あくまで画像や腫瘍マーカーの値から、「悪性の可能性が低いか高いか」を予測しているに過ぎません。

 

超音波やMRIで明らかに良性腫瘍の見え方をしていて、腫瘍マーカーの数値も上がっていない場合は、急いで白黒つけなくてもいいので「様子を見ましょう」「いずれは手術をしましょう」と言われることが多いです。逆に、少しでも悪性を疑う所見があったり、腫瘍マーカーの数値が高かったりする場合は、万が一悪性だった場合のことを考えてできるだけ早めに手術をするように勧められます。


【清水なほみ】

日本産婦人科学会専門医で、ポートサイド女性総合クリニック・ビバリータ院長。産婦人科・女性医療統合医療を専門に、患者に最適な医療を提供。クリニックのほかに、NPO法人やAll aboutガイドなどでも情報提供や啓発活動を行っている。

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