洞性頻脈|洞性P波から読み解く不整脈(2)

 

看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。

 

[前回の内容]

洞不整脈

 

今回は、洞性頻脈について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈目次〉

 

洞性頻脈

図1の心電図を眺めてみましょう。

 

図1洞性頻脈の心電図

 

洞性頻脈の心電図

 

忙しく波形が出現していますが、規則正しい繰り返しです。P波は陽性で同じ形で、一定間隔で出ているようです。洞性P波でよいと思います。

 

では計測しましょう。PP間隔は10コマで、正常下限の15コマよりも短くなっています。0.04×10=0.4秒間隔でP波が出現しています。

 

心房心拍数は1500÷10(または60÷0.4)=150回/分で、100回/分以上ですから頻脈です。PQ間隔は3コマ(0.12秒)で一定、QRS波は2コマで正常です。PQ間隔は一定なので、PP間隔=RR間隔であり、心房心拍数=心拍数となり、この心電図の心拍数は150回/分です。

 

正常条件に照らしますと、PP間隔が短縮している以外は正常です。

 

このように、洞性P波の出現周期が短くなって頻脈となっている心電図を洞性頻脈(sinus tachycardia:サイナス タキカルディア)といいます。洞結節の信号発生が頻回になるために起こります。

 

運動や緊張、興奮などの生理的な心身のストレスから、発熱や痛み、脱水、感染、薬剤、甲状腺機能亢進などの病的な心身のストレスまでさまざまな外的な要因によって、交感神経活動の亢進、迷走神経活動の低下、副腎からのホルモンであるアドレナリンの分泌増加などの反応が生じ、これらの作用が洞結節の脱分極周期を短縮するため頻脈となります。

 

不安や緊張で、汗やほてり、そして脈が速くなるのは皆さんも体験として理解できると思いますが、身体の中ではストレスに対して自律神経やホルモンに変化が起こって、洞結節を刺激して頻脈になっているのです。

 

***

 

日本列島新聞配達物語」に例えると、洞結節宗谷岬の発行所では、外からの要求でプレッシャーがかかって、新聞を出す頻度が増えているのが洞性頻脈です。房室接合部青函トンネルや、心室本州は通常の流通を行っていますが、新聞発刊のサイクルが速くなっています。

 

コラム自律神経と心臓の関係

心臓には自分の意思でコントロールできない神経である自律神経が入り込んでいます。とくに洞結節と房室結節は強い影響を受けます。

 

この自律神経には交感神経と副交感神経(迷走神経)の2種類があって、交感神経が興奮すると洞結節の電気信号の発生間隔が短くなり、脈拍を上昇させ、また心臓内の電気の通過性(伝導能)もよくします。反対に迷走神経が興奮すると、洞結節の信号発生が遅くなり、脈拍はゆっくりになります。この2種類の自律神経が心臓の調節の重要な役割を担っています。

 

血を見て倒れる人がいますよね。世の中では“貧血”などといわれますが、あれは極度の精神的ストレスに反応して自律神経の調節が不良になり、迷走神経の緊張状態が生じます。その結果、徐脈と血圧低下を起こして、脳血流が減るために倒れてしまうのです。

 

洞性頻脈の原因と対処

一時的なストレスに対する洞性頻脈は、もちろん問題ありません。

 

病的な状態(感染、発熱、甲状腺機能亢進など)に対する反応の結果である洞性頻脈でも、洞結節を抑制する薬剤を使用せず、洞性頻脈の原因に対する対策を優先します。感染であればその治療、薬剤の副作用であればそちらの減量、痛みが原因であれば痛みに対処します。

 

例外として、洞性頻脈の持続が循環機能に悪影響を及ぼしている場合や、生理的頻脈でも動悸症状が強い場合は、内服や点滴の薬剤を用いて洞結節の信号発生を抑える場合もあります。

 

たとえば甲状腺機能亢進による洞性頻脈や、更年期障害で起こる洞性頻脈にβ遮断薬という薬を用いて治療する場合などがこれにあたります。しかし繰り返しますが、洞性頻脈は原因に対する対処が基本です。

 

洞性頻脈のまとめ

  • 洞性P波のPP間隔が15コマ(0.6秒)以下に短縮、PQ間隔、QRS波の幅は正常なのが洞性頻脈。
  • 基本的には背景にある原因に対処する。

 

[次回]

洞性徐脈|洞性P波から読み解く不整脈

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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