経カテーテル大動脈弁植込み術(TAVI)

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』より転載。
今回は経カテーテル大動脈弁植込み術(TAVI)について解説します。

 

加瀬美樹
新東京病院看護部

 

〈目次〉

 

 

経カテーテル大動脈弁植込み術(TAVI)はどんな治療?

経カテーテル大動脈弁植込み術(transcatheter aortic valve implantation;TAVI)は、基本的に胸を開かず心臓が動いている状態で、カテーテルを使って人工弁を患者さんの心臓に装着する治療法です(図1表1)。

 

図1アプローチの部位

経カテーテル大動脈弁植込み術(TAVI)のアプローチの部位

 

表1TAVI弁の種類

TAVI弁の種類

 

大動脈弁狭窄症(AS)によって息切れなどの症状がある患者さんで、高齢などの理由で開胸手術をあきらめていた人に対する新しい治療の選択肢となります(表2)。

 

表2経カテーテル大動脈弁植込み術(TAVI)の適応

外科的な治療が困難な症例に対して有効な治療方法である。外科的手術とTAVIの解剖学的リスクの2つの側面から検討し、治療の選択をしていく。

経カテーテル大動脈弁植込み術(TAVI)の適応

 

 

看護師は何に注意する?

術前の看護のポイント

TAVI治療は外科的手術でのリスクが高い患者さんへの治療で、おもに高齢者を対象としており、なかには90歳以上の患者さんもいます。超高齢患者さんに対するTAVI治療と保存的加療の明確な境界線は存在しません。そのため、患者さんや家族の希望、介護サポート力の程度を確認し、医師をはじめとして多職種間で共有することが大切です。

 

手術までの流れの説明

オリエンテーション用紙を使用し説明します。

 

術前に主治医から病状説明を行いますが、高齢者の場合、時間の経過とともに不安や心配ごとが出現します。なるべく術前に解決できるよう、不安なこと、心配なことを会話のなかから読み取り、医療者間で共有できるよう努めます。

 

退院に向けた情報収集・ADLの評価

家族背景(キーパーソン、支援体制)、介護支援の状況を確認します。術前から介護度を把握し、患者さんの希望している場所へ退院できるよう、医療ソーシャルワーカーと連携をとっておきます。

 

高齢の患者さんが多いため、術前から理学療法士による心臓リハビリテーション介入を行い、術前からADLを評価し、多職種間で情報共有・協力して、ADLを落とすことなく退院できるよう努めます。

 

術後の看護のポイント

全身状態の観察

術後はCCU※1へ入室し、全身管理を行います(表3)。
▷完全房室ブロック波形の有無
▷アプローチ部位からの出血の有無
脳梗塞の所見の有無
血圧変動の有無

 

表3起こりうる合併症

経カテーテル大動脈弁植込み術(TAVI)で起こりうる合併症

 

せん妄の予防

患者さんは術後に、CVや一時的ペースメーカが挿入されており、アプローチ部位の圧迫止血のため、ベッド上安静臥床の状態を強いられた環境に置かれます。患者さんにとっては強いストレスが加わります。この状態が長く続くことで、容易にせん妄症状を引き起こすことになります。そのため、術後は患者さんの訴えに耳を傾け、可能な範囲で苦痛を解除できるよう努めていく必要があります。

 

抗血栓薬の管理

TAVI後は抗血小板薬を内服し、血栓の予防を行います(表4)。基本的には抗血小板薬であるクロピドグレル硫酸塩を3~6か月バイアスピリン錠を一生内服していきます。

 

表4TAVI適応患者の抗血栓薬の使用方法(例)

TAVI適応の患者さんの抗血栓薬の使用方法(例)

※2 DOAC:直接経口抗凝固薬。直接Xa阻害薬、トロンビン直接阻害薬がある。

 

心房細動を患い治療している場合は、抗凝固薬が必要です。

 

薬の使用方法はガイドラインに沿って行われますが、患者さんの状態(例えば出血のリスク)を加味しながら調節します。必ず主治医と治療方針を確認しながら看護にあたることが重要になります。

 

早期離床の促進

TAVI後は状態が安定していれば、翌日にデバイスがすべて抜去され、理学療法士によるリハビリテーションを開始し、ADLの評価・拡大を行います。

 

高齢の患者さんは、長期間の入院による制限や苦痛により、せん妄症状発症のリスク、ADLの低下も懸念されます。

 

医師の指示に従い、早期離床をめざすことが大切です。

 

退院前の生活指導

健康な毎日を送るために、一般的な項目(バイタルサイン、食事、運動)について説明を行います。退院後の生活については心不全患者に沿った退院指導を行います。

 


[memo]

  • ※1 CCUでの観察項目(上へ戻る
    ・覚醒状態の確認
    ・CVや一時的ペースメーカ、Aラインなどのデバイス挿入部位の確認と管理
    ・アプローチ部位の観察
    ・バイタルサイン
    心電図
    血液検査データ
    動脈血ガス分析
    ・胸部X線検査
    ※ 術後は完全房室ブロック(CAVB)波形に注意(術前に右脚ブロックがある場合、CAVB波形になる確率が高い)。

 


文献

  • 1) 山名比呂美:特集 60問トライアル ハートナース検定.ハートナーシング 2016:29(12):40-41.
  • 2)循環器用語ハンドブック:僧帽弁閉鎖不全[症].(2020.01.10アクセス)
  • 3)日本循環器学会:弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2007年改訂版).(2019.09.01アクセス)
  • 4)齋藤滋監修,高橋佐枝子,島袋朋子編:やさしくわかる心臓カテーテル 検査・治療・看護.照林社,東京,2014.
  • 5)尾辻豊:心臓弁膜症・心内膜炎.医療情報科学研究所編,病気がみえる vol.2 循環器 第4版,メディックメディア,東京,2017:202-230.
  • 6)長沼亨:弁膜症 実地医療で実践すべき診療のプロセス弁膜症 実地医家が知っておくべき現代の弁膜症 経カテーテル僧帽弁逆流症治療MitraClipとは.Medical Practice 2017;34(12):1999-2005.
  • 7)高谷陽一,赤木禎治:はやわかり! Amplatzerの実際と必要な看護.ハートナーシング 2015;28(7):710-712.
  • 8)日本メドトロニック株式会社:ペースメーカって、何ですか? 2013年12月改訂版.(2019.09.01アクセス)
  • 9)吉川糧平,岡村篤徳,南口仁 他:第6章 心臓カテーテル治療.粟田政樹,田中一美編,はじめての心臓カテーテル看護 -カラービジュアルで見てわかる!.メディカ出版,大阪,2013:65-87.

 

 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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