周術期の血糖コントロールはどう行う?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』より転載。

 

今回は「周術期の血糖コントロール」に関するQ&Aです。

 

細井雅之
大阪市立総合医療センター糖尿病・内分泌センター糖尿病内科部長
上野宏樹
大阪市立総合医療センター糖尿病・内分泌センター糖尿病内科医長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

周術期の血糖コントロールはどう行う?

 

周術期の血糖コントロールには強化インスリン療法がベスト。ただし目標血糖値は140~180mg/dLです。

 

〈目次〉

 

“高血糖”“低血糖”の両方に注意

1入院中の強化インスリン療法が必要な理由

強化インスリン療法とは、1型糖尿病患者などに対して厳格な血糖コントロールを目的として行われるインスリン治療法です。インスリンを3~4回/日で皮下注射する方法や、インスリン皮下持続注入療法などが用いられます。

 

周術期に強化インスリン療法による血糖コントロールが必要になるのには、いくつか理由があります。

 

まず、高血糖状態が持続すると、免疫学的防御機構が低下し感染のリスクが上昇します。高血糖による好中球の遊走能や貪食能の低下は、手術により発生する創部への感染リスクや創傷治癒遷延のきっかけとなります。

 

また、全身麻酔や手術侵襲によるストレスから、副腎皮質刺激ホルモン、コルチゾール、グルカゴン、カテコラミンなどのインスリン拮抗ホルモンが過剰となり、血糖は上昇します。手術後の高カロリー輸液などで容易に高血糖に陥る可能性があり、高血糖による利尿過多による脱水だけでなく、インスリン欠乏状態から脂肪やタンパクの異化が亢進し、糖尿病性ケトアシドーシスなどの深刻な状態に陥ることがあります。

 

2血糖管理の目標

現在のADA(American Diabetes Association、米国糖尿病学会)の推奨目標血糖は144~180mg/dL(8.0〜10.0mmol/L)です(1)。

 

入院中の血糖管理においては重症患者で血糖値180mg/dLを超えないようにインスリン治療を開始し、インスリン治療が開始されたら、血糖値140~180mg/dLを保つことを推奨します。

 

非重症患者においては、食前血糖値140mg/dL未満、随時血糖値180mg/dL未満が大多数の患者の治療目標として設定されています。

 

特に重症患者において、現在ではむしろ“低血糖リスク”を低下させるような考え方に変わってきています(2-5)。

 

実際には、術後の血糖管理が中心となることが多い

すべての周術期の血糖コントロールを、強化インスリン療法で行うことが理想的です。しかし、現実問題として、糖尿病に詳しい内科医が、どの施設にもいるわけでない現状では不可能です。

 

そのため、施設の状況もふまえながら、以下のような血糖管理を行っていきます。

 

1術前の血糖管理

予定手術の場合は、約1~2週間前には、入院を行ってでも目標血糖値にコントロールするのが望ましいのですが、DPC(*1)型病院、急性期型病院では難しいのが現状です。実際には、術後のコントロールを中心にせざるを得ません。

 

*1 DPC(Diagnosis Procedure Combination):診断群分類。

 

①経口血糖降下薬の中止

小手術や日帰り手術など、当日から食事摂取可能であるようなものでは、経口血糖降下薬の中止は当日の絶食時のみでよいでしょう。その他の手術では、表1にしたがって中止と開始の指示を出します。

 

表1糖尿病薬の中止基準

糖尿病薬の中止基準

 

②インスリン注射の開始

最も血糖コントロールを行いやすいのが、生理的な追加インスリンと基礎インスリン分泌を模倣して投与する、超速効型(速効型)インスリンと持効型インスリンによる強化インスリン療法です。

 

切り替えるインスリンは、速効型インスリン(ヒューマリンR、ノボリンR)あるいは超速効型インスリン(ヒューマログ、ノボラピッド、アピドラ)を毎食前に注射、空腹時血糖が150mg/dL以上と高値の場合、持効型インスリン(ランタス、レベミル)を眠前ないし、夕食前に追加します。

 

具体的には表2のように対応します。

 

表2術前インスリン療法

 

術前2~3日前
  • メトホルミン(メトグルコ)などを中止する(表1
  • ヒューマログ(4、4、4)(スケールあり)で開始する
  • 朝食前血糖が150mg/dL以上ならば、ランタス(0、0、4)(スケールなし)を追加する
手術当日
  • スルホニル尿素(SU)薬を中止する

※入院前よりランタス1回打ちのBOT(Basal Supported Oral Therapy。経口薬の服用を継続しながら、持効型インスリンを上乗せする方法)や、混合型製剤(ノボラピッド30ミックスやヒューマログミックス50)の2~3回打ちを行っている場合も、可能な限り強化インスリン療法へ切り替えるのが望ましい

 

ただし、小手術や日帰り手術では、表3のような指示ですませることもできます。その場合、自己血糖測定をしているものは、2~4時間おきのチェックが必要です。

 

表3小手術、日帰り手術時のインスリン指示

 

インスリン投与回数 中止指示
持効型1回 持効型は中止
混合製剤2~3回 欠食時は中止
持効型+(超)速攻型3回やCSII* 欠食時の超速効型、ボーラスは中止し、持効型や基礎インスリンは続行

*CSII:continuous subcutaneous insulin infusion:持続皮下インスリン注入療法

 

2術後の血糖管理

食事量が安定し、通常量に戻るまでは経口血糖降下薬を中止し、強化インスリン療法は継続します。

 

当院では、術後絶食~5分粥相当開始まではヒューマログ(0、0、0)(スケール/*2あり)、ランタス(0、0、4.10)で対応し、5分粥以上がとれるようならば、食事量に応じた食後打ちで対応します。全粥が10割以上とれるようになれば、経口血糖降下薬も再開し、インスリン指示はヒューマログ(0、0、0)(スケールあり)のみとし、徐々に中止の方向とします。

 

このとき、同量の経口薬では低血糖を起こす場合もあり、注意を要します。スルホニル尿素(SU)薬は、1/2量ぐらいになることが多いです。

 

*2 血糖値に応じてインスリンを増減する。

 

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本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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