心臓の構造と機能|心臓とはなんだろう(1)

心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
初回の今回は、心臓の構造と機能について解説します。心臓がマヨネーズに似ているってどういうこと??

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈目次〉

 

心臓の仕組み

収縮と拡張

冒頭から恐縮ですが、市販のマヨネーズ知っていますよね。
手で絞ると中のマヨネーズが出てくるアレです。大まかに例えれば、心臓に似ています。血液というマヨネーズを絞り出しているのが心臓なのです。

マヨネーズ

 

ただし、心臓の場合は血管というチューブを通して血液を送り出し、また吸い込んで送り出すという作業を繰り返しています。マヨネーズの容器の出口とお尻にチューブを付けて、絞り出した分をお尻のほうから吸い込んで、繰り返し絞り出しているのです。

 

心臓という容器は筋肉の袋でできていて、筋肉が縮むと袋の容積が小さくなって血液を絞り出す。筋肉がダラっとリラックスすると袋の容積が大きくなって血液を吸い込むという仕組みになっています。
心臓の筋肉ですから心筋といいます。この心筋が縮んで血液を絞り出すことを収縮、緩んで袋を大きくして血液を吸い込むことを拡張といいます(図1)。

 

図1収縮と拡張とは

収縮と拡張とは

 

出ていった血液は、また心臓に戻ってきます。市内をグルグル回っているバスを循環バスといいますよね。血液も体内を巡って戻ってくるので循環といいます(図2)。

 

図2血液の循環は市内の循環バスと同じ

血液の循環は市内の循環バスと同じ

 

収縮・拡張を繰り返して血液を身体に循環させているのが心臓です。血液を循環させるポンプに例えられています。

 

まとめ

  • 心臓は、収縮・拡張を繰り返して身体に血液を循環させている

 

肺循環と大循環

さて、心臓という心筋の袋は、実は4つの部屋に分かれています。この事実は有名ですが、その理由はなかなか世の中では知られていませんので、この機会に特別に教えましょう。

 

まず、紙になるべく大きくハートマークを書いてみましょう。これが心臓です。次に真ん中に縦に実線を入れてください。どうです、これで左右2つの部屋に分かれましたね。この縦の線は、中央で左右を隔てているので、中隔といいます(図3)。

 

図3右心系と左心系

右心系と左心系

 

では、左右の部屋の上と下にチューブを書き足してください。計4本のチューブが手足のように四方に出っ張りましたね。このチューブは血管です。この右側の部屋(向かって左側)が右心系といって、全身から血液を吸い込んで、肺に送り出すポンプ系で、上の吸い込む血管が大静脈、送り出す血管が肺動脈です。ちなみに心臓に入ってくる(吸い込む)血管を静脈、心臓から出ていく(送り出す)血管を動脈といいます。

 

もう片方の左側(向かって右側)の部屋を左心系といい、肺から血液を吸い込んで、全身臓器に送り出すポンプ系です。肺から心臓に入るので、上の血管は肺静脈、左心系から全身に出ていく血管を大動脈といいます。

 

図4肺循環と大循環(体循環)

肺循環と大循環

 

図4のように右心系と左心系を分けてみると理解しやすいですね。肺動脈から肺を巡って心臓に入る血液の流れを肺循環といい、右心系がポンプとなっています。

 

大動脈から全身臓器を通って大静脈から右心系に戻る循環を大循環(体循環)で、左心系がポンプの役割を担います。つまり心臓は2つのポンプが合体してできていて、1回の収縮で肺と全身臓器に同時に血液を送り、拡張時に肺と全身から血液を受け取る仕組みになっています。

 

まとめ

  • 右側は右心系で肺循環を、左側は左心系で大循環をそれぞれ受け持つポンプ

 

心房と心室

これで、左右2つの部屋に分かれている理由はわかりましたね。

 

実は心臓は上下にも分けられるのです。先ほどのハートのなかに、横にギザギザ線を入れてみましょう。これで上下に分けられたでしょう。上の部屋が心房、下の部屋が心室です(図5)。

 

図5心房と心室

心房と心室

 

実際に肺と全身に血液を送り出す筋肉ポンプの働きは下の部屋、心室が受け持っています。心房は心室に送る血液を、全身あるいは肺から受け取って一時ためた後、拡張した心室に十分に送り込んで心室のポンプ機能を補助する役目です。
手術室に入る前の患者さんが待機している前室のようなものです。手術が終わるとすぐに待機の患者さんが入り、また手術中に次の患者さんの準備をするのが前室です。
補助ポンプともいえる存在の心房は、心室が拡張して容積を大きくしているときに収縮して、心室に血液を送り出し、心室が収縮しているときは、心房は拡張して、肺あるいは全身から血液を吸い込んでいます。つまり、心房と心室は逆モーションで動いて、2段ロケットのように血液の出し入れを行っているのです(図6)。

 

図6ポンプの働き

ポンプの働き

 

さて、もう一度ハートの絵を見ましょう。4つの部屋に分かれていますね。右上の部屋は右心系の心房ですから、右心房といい、全身から大静脈に集められた血液を受け取って右心室に送り出し、その右心室は、肺動脈で肺に血液を送る、肺循環のメインポンプです。同じように左には、肺からの血液を肺静脈から心臓に吸い込む左心房、さらに、大動脈から全身に血液を送るメインポンプの左心室があります(図7)。

 

図7心臓の4つの部屋

心臓の4つの部屋

 

これで心臓は4つの部屋に分かれましたね。

 

まとめ

  • 心臓は、左右上下の4部屋に分かれている
  • 左心系は、肺から血液を吸い込んで全身に送り出す大循環を担う。右心系は全身から血液を吸い込んで、肺に送り出す肺循環を受け持つ。
  • 上は心房で血液を受けて心室に送り出す補助ポンプ、下は心室で、血液を心房から十分受け取った後に収縮して、肺循環・大循環に送り出すメインポンプである

 

動脈弁と房室弁

さてここで、マヨネーズの容器を思い出してください。たしか絞り出す出口と、補充する入口にチューブを付けましたね。容器から絞り出すときに、補充口に逆流したり、容器が広がって吸い込むときに、せっかく出したマヨネーズが戻ったりしてはうまくありませんよね。

 

心臓のメインポンプの心室でも、せっかく心房から送り込まれた血液を収縮時に心房側へ逆流させたり、また、拡張の際にせっかく肺・全身に送り出した血液が戻ってくると、ポンプとしては効率が悪いですね。

 

送り出した血液が再び戻ってしまうことを逆流といいますが、この逆流を防ぎ、血液の流れを一方向に保つために、心室の入口と出口には逆流防止弁が付いています。

 

心室の出口にあって、送り出した血液が心室に逆流するのを防いでいるのが動脈弁で、右心系では肺動脈から右心室への逆流を防いでいるのが肺動脈弁です。
左心系では、大動脈からの左心室への逆流を防ぐ大動脈弁が付いていて、それぞれ、心室の収縮時に動脈側にめくれて開放し、収縮が終わって動脈側の圧力が心室よりも高くなると、めくれた弁が閉じて逆流を防止します。

 

同様に心房と心室の間、つまり心室の入口にも房室弁という逆流防止弁があります。これは心室が拡張しているときは血液を吸い込むために弁が開き、収縮時は心室内の圧が高まって、弁が閉じて心房への逆流を防いでいます。右心系は、3枚の弁からなる三尖弁、左心系は2枚の弁で僧侶の帽子のように見える僧帽弁です。心臓には心室の出入り口に1つずつ弁があり、右左で計4つの弁があります(図8)。

 

図8心臓にある弁と中隔

心臓にある弁と中隔

 

ではまた、ハートマークに戻りましょう。縦線は中隔でしたね。心房を左右に分ける中隔を心房中隔、心室を左右に分ける中隔を心室中隔といいます。横のギザギザ線は、そう房室弁ですね。右心系のギザ線は三尖弁、左心系のギザ線は僧帽弁です。
横をギザ線、縦を実線で書いた理由は、縦は中隔ですから血液の交通はないので実線、横は上から下つまり心房から心室へ血液が流入しますので、ギザ線にしました。ついでですから、心室の出口、肺動脈・大動脈の根元にも、ギザ線で肺動脈弁、大動脈弁を書いておきましょう。

 

まとめ

  • メインポンプの心室には、血液の逆流を防ぎ、血流の方向を一方向にするために逆流防止弁が付いている
  • 心房への逆流を防ぐために房室弁(右心室は三尖弁、左心室は僧帽弁)が、送り出した血液が心室に逆流しないように動脈弁(右心系は肺動脈弁、左心系は大動脈弁)が付いている

 

心臓の解剖

さて、心臓の仕組みが理解できたところで、リアル解剖イラストで勉強しましょう(図9)。

 

図9心臓の位置と概観

心臓の位置と概観

 

左手でコブシをつくって胸に、小指側が左下に向くようにおいてみましょう。これが左心室です。ドングリの実のような形で、小指側が尖っているので心尖部、親指側のドングリの帽子にあたる部分で心基部といいます。次に右手でゴルフボールを握るような形をつくり、左コブシの上にかぶせますとこれが右心室です。中は三日月型の部屋になっています。左右と名前は付いていますが、実際は右心室が身体の前右側、左心室が後左側に位置します。

 

これが、理解できると右心室から肺に向かう肺動脈が、前方右側を上に向かい、大動脈が左心室から肺動脈の後方左を上に向かうのがわかります。

 

今度は両手でゴルフボールを優しく握るようにしてみてください。右前に右手、左後に左手をもってきて先ほどの心室に乗せると、これが左右の心房です。右心房に入る大静脈は、実は2本で上半身の血液は上大静脈に集まり上から、心臓より下の血液は下大静脈に集まって、右心房の下側に入ってきます。また左心房に入ってくる肺静脈は、上下左右の4本が左心房の背中側に入ります(図10)。

 

図10心臓の解剖

心臓の解剖

 

例えてみれば、肺循環・大循環という2つの循環バスが、心臓というターミナルから同時発着していて、肺路線を回ってきたら、次の運行は大路線を回るというスケジュールを繰り返しています。
乗客は、栄養素、水分、老廃物などいろいろですが、重要な乗客は酸素二酸化炭素です。肺という停留所で酸素を補給し二酸化炭素を捨てていきます。これは呼吸によるガス交換です。そして全身の組織、たとえばや心臓自身、筋肉や肝臓などでは酸素を消費して二酸化炭素を血液中に捨てます(図11)。酸素濃度の高い血液は赤く、動脈血といい、酸素が少ない血液は黒っぽい色で静脈血といいます。

 

図11肺循環と体循環の役割

肺循環と体循環の役割

 

肺を通って酸素を補給した動脈血は、4本の肺静脈から左心房に入り、左心室から大動脈に至り、多くの枝を出して毛細血管となって全身各組織に動脈血を供給します。各組織で酸素を使って二酸化炭素を出しますと、これは静脈血になって、上下大静脈に集約して右心房に入り右心室から肺動脈を通って肺に送られます。

 

肺循環バスは肺までは肺動脈で静脈血を送り、肺から左心房まで肺静脈で動脈血が流れます。大循環バスは大動脈で動脈血を、大静脈で静脈血を運ぶというわけです。

 

まとめ

  • 右心系は右前方、左心系は左後方に位置している
  • 右心房には上下から2本の大静脈、左心房には左右上下4本の肺静脈が入ってくる
  • 肺から出た血液は酸素が豊富で動脈血、全身の組織を通った血液は酸素が少ない静脈血である

 

心機能

心拍出量

機能とは、目的のために果たすべき役割のことです。心臓の目的は“血液を循環させる”という一点につきますので、必要な血液量を循環させる能力がすなわち心機能です。身体が必要な血液量を、心臓が循環させられない状態が、心機能不全つまりは心不全ということになります。

 

心臓は血液を循環させるポンプであることは理解していただいていると思いますが、同じ1Lの量を、1秒間で送り出すポンプと10秒間で送り出すポンプではどちらが優れているでしょうか。もちろん1秒間で送り出すポンプのほうが機能的には優秀ですよね。1秒あたりになおすと、1L対0.1Lですから、明らかですね。

 

心臓が、一定時間に循環させる血液量がすなわち心臓の循環能力といえます。一定時間を1分にして、「1分間に心臓が循環させる血液量」を心拍出量〔cardiac output:CO(L/分)〕といい、心臓のポンプ能力の指標にします。

 

心拍出量が少ない状態は、ポンプ能力が低い状態で心不全といいます。

 

心室は収縮によって血液を送り出します。心室が収縮して血液を送り出すことを拍出といい、1回の収縮で送り出す血液量を1回拍出量〔stroke volume:SV(LまたはmL)〕といいます。右心系から拍出された血液は左心系に入って、左心系から全身に拍出されますので、右心室の1回拍出量=左心室の1回拍出量です。

 

心臓が1分間に拍動する回数を心拍数〔heart rate:HR(回/分)〕といいます。

 

1回拍出量(L)と1分間に何回拍出するか、つまり心拍数(回/分)の積が、心拍出量(L/分)ということになります(図12)。

 

図12心拍出量

心拍出量

 

心拍出量CO(L/分)=1回拍出量SV(L)×心拍数HR(回/分)

 

たとえば、1回の収縮で左心室が0.1Lの血液を拍出して、心拍数が70回/分だとしますと、心拍出量は0.1×70=7L/分で、この心臓は1分間に7Lの血液を循環させる能力があることがわかります。

 

循環バスで例えると、1回拍出量はバスの大きさで、何人乗りバスかということ、心拍数は発車頻度で、1分間に何台ターミナルから発車するかということです。大型バスが、短い時間で何台も発着すれば、それだけ多くの人を運べますし。バス拍出量すなわち運搬能力は高いといえます。逆に小さいバスが、たまにしか運行しないとなれば、その運搬能力は低いということですね。

 

まとめ

  • 心機能は1分間あたりの血液の循環量、心拍出量を指標にする
  • 心拍出量CO(L/分)=1回拍出量SV(L)×心拍数HR(回/分)

 

収縮能、前負荷、後負荷

1回拍出量は、3つの因子によって決まります。収縮能前負荷後負荷です。

 

収縮能とは、心室が容積を小さくする能力のことです。心室筋がしっかり力を出して血液を送り出さないと始まりません。前負荷とは心室の入口の圧力で、小さすぎればカラ打ちになってしまいます。後負荷とは心室の出口の圧力で、大きすぎると血液を出しにくくなります。

 

マヨネーズ模型を思い出してもらいますと、供給チューブが前負荷、収縮能は絞り出す握力、出口チューブの圧が後負荷です(図13)。

 

図131回拍出量をチューブに例えると

1回拍出量をチューブに例えると

 

いくら絞る力が強くても、供給がなければカラ打ちになりますし、後負荷(抵抗)が大きすぎれば同じ握力でも出す量が減りますね。マヨネーズ1回拍出量は、チューブの供給圧(前負荷)、絞り力(収縮能)、チューブの出口圧(後負荷)の3つの因子で決まります。

 

心臓全体を1つのポンプと考えれば、前負荷は大静脈圧、後負荷は大動脈圧(血圧)になります。右心系、左心系の2つのポンプに分けて考えると、右心系の前負荷は心室拡張時の右心房圧で、収縮能は右心室の心筋収縮力で、後負荷は肺動脈圧になります。左心系では、前負荷が左心房圧、後負荷は大動脈圧です(図14)。

 

図14前負荷と後負荷

前負荷と後負荷

 

さて、心機能の善し悪しを表す指標は、心拍出量で、1回拍出量と心拍数の積でしたね。さらに1回拍出量は、前負荷、収縮能、後負荷の3つの因子で決まることもわかりました。つまりは、心拍出量を決めるのは、心拍数、前負荷、収縮能、後負荷の4つの因子なのです。

 

まとめ

  • 心機能は心拍出量が指標となり、心拍数・前負荷・収縮能・後負荷の4つの因子で決まる

 

[次回]

心筋細胞と電気現象|心臓とはなんだろう(2)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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