下痢が持続したため、止痢薬を使用したら発熱し、状態が悪化した。
『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、患者さんの下痢が持続したため止痢薬を使用したら発熱し、状態が悪化した場合について解説します。
嶋田病院 看護部
クリティカルケア認定看護師

ピンチを切り抜ける鉄則
感染性下痢では、下痢を止めることを考えるのではく、下痢により喪失した体液、電解質の補充と調整が必要です。
そのためには、下痢症の原因を確認し、下痢に伴う身体変化、便の性状と回数、量を評価して、症状増悪の危険性を軽減します。
- 急性下痢は感染症の場合が多く、ほとんどが自然軽快します。
感染性下痢症の患者さんに止痢薬を使用することで、細菌や細菌が作り出す毒素の排泄などを妨げ、症状が悪化する可能性があります。
そのため、止痢薬の使用を避け、下痢により喪失した体液、電解質のバランスが増悪しないように注意しなければなりません。
起こった状況
症例
患者Aさん。1日10回以上の下痢と腹痛の症状が続き、経口での水分摂取が困難な状態となったため、感染性腸炎の診断で入院となりました。
入院後、抗菌薬と輸液による治療が開始となりました。
Aさんより、下痢が続いてつらいので、下痢を止める薬が欲しいとの希望があり、止痢薬が処方されました。
止痢薬使用後、下痢の回数は減少しましたが、発熱を認め腹痛と嘔吐が増悪したため、どう対応すればよいか先輩看護師に相談しました。
どうしてそうなった?
感染性の下痢に対し、止痢薬は病原微生物が体外に排出される速度を低下させ、時に必要とされる抗菌薬の効果も低下させると考えられています。
このケースは、止痢薬を使用したことで、起炎菌や細菌が作り出す毒素の排泄などを妨げたことで、症状が悪化したと考えられます。
どう切り抜ける?
1 下痢とは
下痢の定義は緩やかなものであり、異常に水分の多い便や、固形ではない便が頻度を増して排出されることとされています。
持続期間が2週間以内であれば「急性下痢」、4週間以上続くものを「慢性下痢」と定義しています。
2 急性下痢症
急性下痢症の90%以上は感染症が原因です。
これらの患者さんでは、嘔吐、発熱、腹痛を伴います。
残り10%は非感染性の下痢です。
薬物の副作用が最も多く、中毒、虚血や、その他の原因によっても引き起こされます。
急性の下痢症を認めた場合には、下痢の程度と持続期間やさまざまな宿主要因を考えて、観察し治療が行われます。
下痢症に対しは、看護師が便の性状や全身状態の観察を行うことで変化を早期にとらえることができます(表1)。
表1下痢に対して看護師が観察すべきこと

3 急性下痢症の治療の基本は、体液と電解質の補充・調節
嘔吐や腸閉塞などにより、経口での水分補給が難しい場合は、細胞外液を中心とした点滴療法が行われます。
下痢による腸液の電解質の喪失に加え、脱水がひどければ二次的なアルドステロン症になっており、K+の腎からの喪失が生じます。
このため、脱水がひどい場合はK+の補給が必要となることもあります。
ただし、脱水により急性尿細管壊死、急性腎不全になっている可能性も考えられるため、電解質、腎機能を含めた血液検査の結果も情報の1つとしてアセスメントしていく必要があります。
4 基本的には下痢止め・抗菌薬は不要
下痢・嘔吐は、一般的に消化管感染症に対する生理的反応であるため、基本的に制吐薬、止痢薬の使用は避けます。
中でも止痢薬は直接的に腸粘膜に作用し、過剰な蠕動運動を抑える作用、粘膜表面で蛋白質と結合し腸粘膜の保護や炎症を抑える収れん作用、下痢を起こす物質を吸着する作用があります。
その結果、感染性下痢症に使用することで、細菌や細菌が作り出す毒素の排泄などを妨げ、症状が悪化する可能性があります。
抗菌薬の使用は基本的には不要ですが、特定の急性下痢症においては適切な抗菌薬の使用は有用です。
症状および罹患期間を改善させるため、抗菌薬の選択および投与量は、病原体の種類、抗菌薬耐性パターン、病態によって決定されます。
抗菌薬の使用により正常な腸内細菌叢は乱れ、炭水化物の分解が障害され、腸内の浸透圧が上昇、水分の再吸収が阻害され下痢が生じます。
また、腸内細菌叢が変化すると、クロストリジウム・デフィシル(CD)が増殖し、産生されたトキシンにより下痢を来します。
クロストリジウム・デフィシル感染症は院内感染症として伝播することがあるため、隔離を行う必要があります。
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1) 青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル-第3版.医学書院,東京,2015:685-693.
2) アンソニーS.ファウチ著,福井次矢,黒川清監訳:ハリソン内科学-第3版.メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2009:254-260.
3) 若松博:Hospitalist Vol.1 No.2.メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2013:269-273.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社



