気管チューブ計画内抜去後の看護
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「気管チューブ計画内抜去後の看護」について解説します。
高橋功一
市立青梅総合医療センター 看護師
剱持雄二
市立青梅総合医療センター 看護主任
抜管について
人工呼吸器からの離脱評価により離脱可能と判断されると、次のステップとして気管チューブ計画内抜去(抜管)の流れに至る。
ここでは抜管の手順や必要物品、その他、抜管にかかわる周辺知識をまとめた。
抜管の基準について表1に示す。
表1抜管の基準
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抜管・人工呼吸器離脱による生理学的変化
抜管直後は最も呼吸状態が不安定になる。
抜管による生理学的変化として、①上気道の変化、②呼吸器系の変化、③循環器系の変化が起こる。
以下の生理学的な変化を踏まえ、患者の観察を行っていく必要がある。
上気道の変化
誤嚥
抜管後の約半数の患者は一時的なものを含め、嚥下機能に何らかの異常をきたす。その上、意識レベルの低下、舌根沈下などにより、誤嚥を起こしやすく、再挿管リスクが上昇する。
喉頭痙攣
気管チューブや吸引刺激、抜管操作、気道分泌物の存在が引き金となって、喉頭痙攣が発生する場合がある。抜管直後に発生しやすく、十分に覚醒が確認できないような浅い鎮静中の抜管は、喉頭痙攣発生リスクが高い。
喉頭損傷
抜管後から認められる喘鳴は喉頭損傷で多く見られる。重症例では、呼吸不全に陥り、再挿管が必要になる。
呼吸器系の変化
気管支痙攣発生の危険因子には、喫煙、気道感染、気管支喘息、COPD、肥満、浅い鎮静、異物などがあげられる。
気管支痙攣
喉頭痙攣と同様に、気管チューブそのものや、抜管操作の刺激によって誘発されることが知られている。
肺血管外水分量の変化
呼吸器離脱中、胸腔内圧は上昇しているため静脈還流量は減少している。呼吸器離脱後の呼吸では、人工呼吸に伴う陽圧が解除され、胸腔内圧は陰圧となる。そのため胸腔内圧の変化に伴い、静脈還流量は相対的に増加する。その結果、肺血管外水分量(肺の間質や肺胞内の水分)が増加するため、肺コンプライアンスの低下や、換気血流不均衡により呼吸仕事量は増加する。
機能的残気量の変化
PEEP の付加は開存している肺胞の容量増加、虚脱肺胞の再拡張などの効果をもたらす。人工呼吸の離脱による陽圧換気の終了は PEEP が付加された状況からそうでない状況へ移行することを意味する。そのため、肺胞虚脱、機能的残気量の減少、につながる。残気量の減少によりシャント様の肺胞領域(血流はあるが換気されていない肺胞)が増加し、酸素化が悪化する。
循環器系の変化
- 人工呼吸中は、陽圧換気による胸腔内圧の上昇により静脈還流量の減少(前負荷の減少)、後負荷を促進させることにより心筋酸素消費量の減少、心機能の改善につながる。
- 人工呼吸器離脱はこの逆の現象が生じる。
- 胸腔内圧が低下することで、前負荷・後負荷ともに増加する。
- さらに、鎮静、鎮痛の中断により内因性カテコラミン分泌され、頻脈、血圧上昇が起こる。
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抜管の実際
必要物品
介助手順
1救急カートを準備し再挿管の準備を行う。
2医師が患者に抜管することを説明する。
3医師に抜管後の酸素流量を確認し、酸素吸入できるよう準備をする。
4ガーゼ(口腔内の分泌物を拭うため)、カフ抜き用10mL シリンジを医師のそばに準備する。
5抜管前に吸引を実施する。吸引する順番は、①口腔・鼻腔、②カフ上、③気管の順に行う。医師が固定テープを剥がし、カフエアを抜き抜管を施行する。
6テープ剥離剤を使用し、固定テープを剥がす。
7カフエアを抜き、医師が抜管する。抜管手技は医師により異なる。吸引しながら行う「吸引抜管」とジャクソンリースで加圧しながら抜管する「加圧抜管」がある。
8抜管後、発声の確認、聴診にてストライダー(吸気性喘鳴)の有無を確認、患者に自己排痰をするよう説明する。
9頭部挙上し、指示された酸素療法を開始する。
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抜管後の合併症
- 抜管後の合併症について表2に示す。
表2抜管後の合併症
(道又元裕編著:人工呼吸器ケア「なぜ・何」大百科 照林社、2007、p.155をもとに作成)
- 抜管後に最も注意すべき合併症は急性上気道閉塞である。
- 急性上気道閉塞の危険因子については表3に示す。
表3急性上気道閉塞の危険因子
(Santos PM, et al. Risk factors associated with prolonged intubation and laryngeal injury. Otolaryngol Head NeckSurg 1994;111:453-9,Tadié JM, et al. Post-intubation laryngeal injuries and extubation failure:a fiber-optic endoscopic study. Intensive Care Med 2010;36:991-8 および Stone DJ, et al. Airway considerations in the managementof patients requireing long-term endotracheal intubation.Anesth Analg 1992;74:276-87をもとに作成)
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再挿管回避のための介入
- 計画どおりに抜管に至っても100% 再挿管を回避できる訳ではない(表4)。
表4再挿管の危険因子
*rapid shallow breathing index(浅速換気指数):呼吸回数を一回換気量(L)で割る(f/VT)。
(Esteban A, et al. Characteristics and outcomes in adult patients receiving mechanical ventilation:a 28 - dayinternational study. JAMA 2002;287: 345-55,Frutos-Vivar F, et al. Risk factors for extubation failure in patientsfollowing a successful spontaneous breathing trial. Chest2006;130: 1664-71 および Thille AW, et al. Outcomes ofextubation failure in medical intensive care unit patients.Crit Care Med 2011;39:2612-8をもとに作成)
- そのため、再挿管を回避するための抜管後にできる介入についての適応、有用性、合併症などについて以下にまとめる。
呼吸訓練
- 深呼吸、インセンティブ・スパイロメトリー、アクティブサイクル呼吸法を実施する。
- 呼吸訓練は抜管後の肺拡張を促し、分泌物を末梢から中枢に排出するための咳嗽時の呼気流速の確保、無気肺の予防につながる。
- インセンティブスパイロメトリーは周術期の呼吸器合併症予防に単独で漠然と使用しないことが推奨されているため、患者の状態に応じた包括的な呼吸訓練を実施する。
体位ドレナージ
- 人工呼吸器管理中は、同一体位の継続による重力の影響で無気肺を形成しやすい状態である。
- 抜管後も、無気肺が形成されている場合、酸素化悪化により再挿管にもつながる。
- 全身状態を把握しながら、排痰を促すよう、前傾側臥位、腹臥位を実施し、換気血流不均衡の是正に努める必要がある。
非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)
- マスクにより陽圧換気を行う管理方法である。挿管に伴うリスクを回避しつつ、補助換気、呼気終末陽圧(PEEP)の適応、高濃度酸素投与、呼吸筋疲労の回復などの効果が得られる。
- 抜管後の適応には、①抜管後呼吸不全の管理、②抜管後呼吸不全の予防などがある。
抜管後喉頭浮腫対策
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【コラム】気管チューブ計画外抜去時の対応
気管チューブの計画外抜去を発見したら、速やかに人手を集め、医師への報告、救急カート、再挿管の準備を依頼する。自発呼吸の有無、意識の変化、循環動態の確認をする。気道の評価をせず抜管しているため、カフが膨張のまま抜去したことによる声帯・気道粘膜の損傷の可能性があり、気道浮腫のリスクがある。上気道閉塞症状として嗄声などの出現に注意する。
自発呼吸がない場合
自発呼吸がない、または不十分なときは、患者を仰臥位として気道確保を行った後、バッグ・バルブ・マスクにて手動的に換気を行い、再挿管が必要であると判断された際には必要に応じて鎮静薬を用いて気管挿管を行う。再挿管時は、気道浮腫によって同じサイズの気管チューブが入らない場合があるため、サイズの小さいチューブも準備しておく。
自発呼吸がある場合
自発呼吸があれば、酸素マスクを装着して酸素投与を行う。酸素濃度は予定外抜去前と同程度から始め、SpO2が低ければ速やかに増量し、再挿管の準備をする。
* COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者は、このかぎりではない。高濃度酸素投与によって CO2ナルコーシスをきたし、呼吸停止に至ることがあり、低濃度の酸素投与から始め、呼吸パターンに注意する。
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1 )道又元裕編著:人工呼吸器ケア「なぜ・何」大百科,照林社,2007,p.154~156
2 )INTENSIVIS、 4 (10)、 2012、p.677~685、p.697~699
3 )Santos PM, et al. Risk factors associated with prolonged intubation and laryngeal injury. Otolaryngol Head NeckSurg 1994;111:453-9,Tadié JM, et al. Post-intubation laryngeal injuries and extubation failure:a fiber-optic endoscopic study. Intensive Care Med 2010;36:991-8 および Stone DJ, et al. Airway considerations in the managementof patients requireing long-term endotracheal intubation.Anesth Analg 1992;74:276-87
4 )Restrepo RD,et al.Incentive spirometry:2011.Respir care.2011Oct:56(10):1600-4.doi:10.4187/respcare.01471.PMID:22008401.
5 )Esteban A, et al. Characteristics and outcomes in adult patients receiving mechanical ventilation:a 28- dayinternational study. JAMA 2002;287: 345-55,Frutos -Vivar F, et al. Risk factors for extubation failure inpatients following a successful spontaneous breathingtrial. Chest 2006;130: 1664-71 お よ び Thille AW, et al.Outcomes of extubation failure in medical intensivecare unit patients. Crit Care Med 2011;39:2612- 8
6 )道又元裕総監修、露木菜緒監修・解説:ICU 3 年目ナースノート,改訂増強版,日総研,2017,p.224~225
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版