新型コロナで変わったこと、変わらないこと【前編】

坂本史衣Fumie Sakamoto

感染症対策

 

2019年の大晦日に何をしていたか覚えていますか?

 

私は布団の上でゴロゴロしながらTwitter(現:X)のタイムラインに流れてきた下の記事を読んでいました。

 

これは中国のビジネス系メディアが発信した「中国武漢市で発生した原因不明の肺炎」に関する記事の機械翻訳で、現地時間で大晦日の1分前に投稿されたものです。これが、新型コロナ発生の第一報とされています。

図1 2019年末にTwitter(現:X)に投稿された原因不明の肺炎に関する記事

 

 

はじめまして。坂本史衣と申します。

 

去年の10月まで、都内の急性期病院で感染管理をしていました。感染管理は、多くの部門や職種と連携しながら、感染が起きにくい、そして、起きても広がりにくい組織を作る仕事です。現在はご縁があって異動した別の急性期病院で「医療の質の評価・改善に関わる仕事を何でもやる院長補佐」として働いています。

 

ちなみに、私は遠い昔にとった看護師免許と保健師免許を持っています

 

看護の仕事は20世紀の終わりごろまで数年間経験しましたが、その後はもっぱら感染管理をやっていたので、いま臨床に出たら「天然でちょっとドジな看護師のかんごるー」(↓)に怒られるレベルだと思います。

感染管理に変化をもたらした新型コロナ

さて、2019年の大晦日に話を戻します。

 

世界のどこかで複数の人に原因不明の肺炎が起きたと聞くと、私を含めて感染管理を生業としている人は、新型インフルエンザが発生したのかそれともSARS(重症急性呼吸器症候群)のときのように未知のウイルスが見つかったのか、と考えます。

 

当時の勤務先は、銀座や築地といった訪日観光客に人気の観光スポットの近くにありましたので、謎の肺炎に罹患した人が突然受診する可能性は十分ありました。とはいえ大晦日ですから、準備するのは正月明けてからでいいかな~などと、約半月後には国内初の感染者が報告されて、怒涛の日々が始まることをまだ知らない私はのんきに考えていました

 

 

2020年2月に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019, COVID-19)と命名したこの感染症は、その後の2年間で、全世界で1590万件の死亡を引き起こし、2019年から2021年の平均寿命を1.6年縮小させました。

 

ニュースになることは減りましたが、現在も流行の波を繰り返していて、国内では、2023年5月に感染症法上5類に移行してからの半年間だけでも、高齢者や基礎疾患のある人を中心に約1万6千人が死亡しました。また、症状の重さに関わらず、感染した成人の1~2割は罹患後症状(後遺症)を経験しています。

 

このように全世界を巻き込む未曽有の災害を引き起こした新型コロナは、感染管理の考え方ややり方にも大きな変化をもたらしました。 それと同時に、変わらない原則をあらためて明確に示したと私は考えています。

 

そこで、今回はまず、新型コロナが感染管理にもたらした3つの変化をご紹介したいと思います。

 

新型コロナで変わった3つのこと

1)次のパンデミックへの備え

私たちは2009年に新型インフルエンザの世界的流行(パンデミック)を経験しました。しかし、そのときの教訓が活かされないまま新型コロナのパンデミックを迎えたため、医療・検査体制の整備に時間を要することになりました。

 

また、初期には消毒用アルコールや個人防護具のサプライチェーンの断絶で、安全な患者対応が困難になりました。

 

リスク(クライシス)コミュニケーションが機能せず、感染者や医療従事者に対する誹謗中傷や差別、デマの拡散も起こりました。

 

ワクチンや治療薬開発は他国に遅れをとり、承認の手続きも複雑で硬直化していたため、使用開始までに時間がかかりました

 

これらを教訓にして、政府は今年7月2日、2013年に策定した新型インフルエンザ等対策政府行動計画の大幅改定を行いました。次のパンデミックでは、今回の経験が活かされることが期待されます。

 

2)感染経路の考え方

呼吸、発声、会話、くしゃみをするときに、や口からさまざまな大きさと重さの微粒子が空気中に放出されます。このうち病原体を含むものを感染性微粒子といいます。

 

水分を含む大きな微粒子は、数メートル飛んで、重力で落下します。一方で、乾燥した軽くて小さな微粒子は、空気中を浮遊します。

 

感染性微粒子を介した感染経路に関する考え方は、新型コロナ以後に変化しましたが、経路の名称や考え方については国内外の専門機関での検討が続いている状況です。

 

下の表に、新型コロナ前までの考え方(上段)、世界保健機関(WHO)が2024年に発表した新しい考え方(中段)、2024年7月現在、国内で主流となっている考え方(下段)を示します(表1)。

 

表1感染性微粒子を介した感染経路の名称・考え方の変遷(筆者)

 

感染経路に関する詳しい解説は、別の機会に記事にしたいと思います。

 

3)ユニバーサル・マスキングの普及

病院などの建物内にいるすべての人が常時マスクを着用する感染対策をユニバーサル・マスキング(UM)と言います。UMは、無症状または発症前の感染者が放出する微粒子の量を減らす感染源コントロール(source control)のために行います。

 

新型コロナのパンデミックでは、2020年3月ごろからWHOに加え、世界各国の専門機関がUMを推奨するようになり、一般市民にも広まりました。実際にUMを行った地域や学校では、新型コロナの罹患率が低かったという報告もあります。

 

ただ、流行が長期化し、ワクチンや治療薬の開発で重症化のリスクが減少するにつれ、医療従事者の中にもマスク疲れが見られるようになりました。そのため、ウイルスの特徴や流行状況に応じて、UMを段階的に緩和する方法も提案されています(表2)。

 

各施設におけるUMの運用は、こうした情報や地域の流行状況を参考にしながら、感染対策担当者を中心に今後検討が進むと思われます。

 

表2ユニバーサル・マスキングと段階的な緩和に関する提案

 

後編では、新型コロナのパンデミックで見えた変わらない原則についてお話します。

 

(後編は2024年10月1日掲載予定です)

 

 

執筆

板橋中央総合病院 院長補佐/感染対策相談支援事務所 所長坂本 史衣

聖路加看護大学(現:聖路加国際大学)卒業. 米国コロンビア大学公衆衛生大学院修了. 2003年より感染制御および疫学資格認定機構(CBIC)による認定資格(CIC)の認定資格を維持. 聖路加国際病院において医療関連感染予防・制御に約20年従事し、2023年11月より現職. 日本環境感染学会理事、厚生科学審議会感染症部会委員などを歴任. 主書に「感染対策60のQ&A」「感染対策40の鉄則」(いずれも医学書院)、「泣く子も黙る感染対策」(中外医学社)、「感染予防のためのサーベイランスQ&A」(日本看護協会出版会)、「基礎から学ぶ医療関連感染対策」(南江堂)など.(プロフィルイラスト:なんちゃってなーす

 

看護roo!編集部 烏美紀子

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