敗血症で注意したい!「多臓器障害」とその対応

『エキスパートナース』2015年8月号<「急変」になる前に病棟で見抜きたい!「敗血症」の気づき方>より抜粋。

 

今回は敗血症について説明します。

 

木下喬弘
大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター医員

 

松浦暁子
徳島県立三好病院

 

山川一馬
大阪府立急性期・総合医療センター高度救命救急センター

 

〈目次〉

 

2016年2月 敗血症の新しい定義が発表されました。
敗血症の定義が変更。 臓器障害の有無が重要に

 

敗血症で問題になる:多臓器障害(MODS)って何?

ポイント

  • 複数の臓器が障害された状態を「多臓器障害」と呼ぶ
  • 敗血症で起こりやすい病態

 

重症敗血症では全身の複数臓器が障害される

敗血症が重篤化すると、全身のさまざまな臓器が障害されていきます(「重症敗血症」と定義される1)。

 

障害が起こりやすい臓器として、主に以下が挙げられます(図1)。

 

図1敗血症の重篤化による臓器障害

敗血症の重篤化による臓器障害

 

  1. 中枢神経(敗血症性症)
  2. 循環器(敗血症性ショック)
  3. 呼吸器(急性呼吸窮迫症候群:acute respiratory distress syndrome、ARDS)
  4. 肝(急性肝障害)
  5. 腎(急性腎障害)
  6. 消化器(腸管機能不全)
  7. 播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation、DIC)

このとき2つ以上の重要臓器が同時に障害された状態を、多臓器障害(multiple organ dysfunction syndrome、MODS)と呼びます。

 

多臓器障害(MODS)はどう危険?

ポイント

  • 複数の臓器障害が発生するにつれ、死亡率が上がることが示されている

 

臓器障害数の増加に伴い死亡率も増加する2

多臓器障害の合併は、敗血症患者の予後にどう影響するのでしょうか?

 

3,147症例のICU症例を対象とした、ヨーロッパ24か国198施設の大規模レジストリ研究が報告されています。

 

その結果によると、臓器障害数が増加するにつれて、死亡率が段階的に上昇することがわかります(図22

 

図2臓器障害数と死亡率の関連

臓器障害数と死亡率の関連

 

障害される臓器としては、循環器(62.6%)、腎(51.2%)、呼吸器(49.8%)が多く報告されています。

 

また、凝固障害(DIC)の合併率は20.1%と他の臓器障害に比べて高くはないものの、その死亡率は52.9%と高率であったと報告されています。

 

 

なぜ敗血症が多臓器障害(MODS)を招くの?

ポイント

 

臓器障害の原因は以下の3つ

  • 自然免疫反応と炎症
  • 血管内皮細胞の障害
  • DIC

 

多臓器障害が起こるメカニズム

敗血症が重篤化すると、重要臓器の血流障害が起こります。

 

臓器障害の進展には、さまざまなメカニズムが関与していることが近年わかってきました。

 

臓器障害の原因について解説します。

 

1全身の炎症反応が制御できなくなる

 

敗血症の重症化には以下の2つが関与しています3

 

  • 病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns、PAMPs)
    自分の体の外から(外因性)侵入したダメージ分子(例:細菌やエンドトキシンなど)
  • 傷害関連分子パターン(damage-associatedmolecularpatterns、DAMPs)
    自分の体内で産生されるダメージ分子(例:HMGB-1〈ショック状態などで細胞が壊死したときに放出される〉など)

この制御できなくなった炎症反応が、臓器障害の最大の原因となります。

 

2炎症により血管内皮細胞が障害される

 

血管内皮細胞は、全身の血管の最も内側に配列された一層の薄い細胞です。血液に直接接する細胞であり、さまざまな機能をもっています4

 

敗血症により過剰な炎症状態になると(①)、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor、TNF)やインターロイキン(interleukin、IL)-6などに代表されるサイトカインが血液中を大量に巡ります。これらによって血管内皮細胞が傷害されます。

 

血管内皮細胞が傷害されることで、多臓器障害につながる「a)敗血症性ショック」や、臓器障害のなかでよく見られる「b)急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome、ARDS)」が引き起こされます。

 

3血管による全身状態のコントロールが効かなくなる

 

a)敗血症性ショック

血管内皮細胞は血管の収縮・拡張をコントロールしています。

 

過剰な炎症反応によって障害された血管内皮細胞は、強力な血管拡張物質である一酸化窒素(NO)を産生します。その結果、正常な血管収縮ができなくなり、血圧が低下し、敗血症性ショックに陥ります。敗血症性ショックになると、肝臓腎臓・脳などの重要臓器の血流が低下し、酸素供給が不足します。そのため、臓器機能が低下し、最終的には臓器障害・臓器不全に陥ります。

 

b)ARDS:全身浮腫など

血管内皮細胞は、血管内(血液)と血管外(臓器)を隔てる壁の役割をしています。それが障害された病態が、血管透過性の亢進状態です。

 

これは本来、感染局所に白血球を呼び寄せ感染を制御するための正常な反応ですが、過剰炎症により障害された血管内皮細胞では細胞死やタイトジャンクション*1の低下により、血管内から血管外へ血漿タンパク質の漏出が起こり酸素供給量が低下します。この反応が、肺で起こった病態がARDSです。

 

メモ*1タイトジャンクション

特定のタンパク質がもつ、細胞同士を密着させる機能

 

4抗凝固作用の低下によりDICが合併する

 

DICの合併自体が臓器障害の1つに数えられますが、じつはDICそのものがその他の臓器障害にも悪影響を及ぼすため、多臓器障害の原因の1つとも考えられています。

 

正常な血管内皮細胞は、血液が凝固せずにスムーズに流れるようにするため、豊富な抗凝固物質を持ち合わせています(トロンボモジュリンやヘパリン様物質など)。

 

しかし過剰な炎症状態により障害された血管内皮細胞上では、これらの抗凝固物質が減少し、抗凝固作用が低下します。すると全身の血管内で微小な血栓が形成されるようになります。これが敗血症性DICです。

 

敗血症性DICによって作られた微小血栓は、全身臓器の微小血管を閉塞し、血流障害を起こします。その結果、肺・腎臓・肝臓などさまざまな臓器が障害されます。

 

敗血症による多臓器障害(MODS)への対応・治療は?

ポイント

  • SOFAスコアを用いて、臓器障害の程度を予測する
  • EGDTにより6時間以内の治療をめざす

 

SOFAスコアによって臓器障害の程度を判断する

敗血症患者の臓器障害を判断するスコアリングとして、SOFA(sequential organ failure assessment)スコアがよく知られています(表15

 

表1SOFAスコア

 

これは、6臓器(「呼吸器」「凝固系」「肝」「心・循環器」「中枢神経系」「腎」)の障害の程度を、それぞれ0~4点の5段階で点数化し、臓器ごとの点数とそれらの総和で多臓器障害の重症度を表現するものです。

 

スコアが2点以上となった臓器では、臓器障害が起こっていると判断します。

 

前述の通り、臓器障害と死亡率が関係することから、SOFAスコアをつけて多臓器障害の病勢を適切に把握することは、実際の臨床現場においても重要であると考えられています。

 

よって、臓器障害を疑ったら、SOFAスコアを用いて障害の程度などを予測しましょう。

 

EGDTにより、一刻も早くショックへの対応を

遷延する敗血症性ショックは臓器障害の最大の原因です。したがって、可及的すみやかにショックを離脱することが敗血症の初期治療の最優先事項となります。

 

その基本となる治療プロトコールは、EGDT(early goal directed therapy)と呼ばれる初期蘇生療法です(図36

 

図3EGDT(early goal directed therapy)のアルゴリズム

 

この治療法のポイントは、すべてのショック離脱項目を6時間以内に達成するという時間制限を設けている点です。

 

現時点では臓器障害に対して各臓器の機能障害を個々に治療することはできるものの、すべて対症療法に留まり、根本的な多臓器障害の治療は確立されていません。例えば、ARDSに対しては人工呼吸療法、敗血症性ショックに対してはカテコラミンによる循環維持、急性腎不全に対しては急性血液浄化療法などの治療が行われますが、これらはすべて対症療法に過ぎません。

 

したがって、EGDTにより、多臓器障害の状態に陥る前に、これを予防することが最重要です。

 

DIC治療により、臓器障害を改善できる場合がある

DICも臓器障害を引き起こす原因の1つです。よって抗凝固薬を投与し、DICにより産生された微小血栓を溶かすことで臓器障害を改善できる可能性が考えられます。アンチトロンビン製剤や遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤などのDIC治療薬が候補となります。

 

いくつかの小規模検討においてこれらの治療薬における有効性が示唆されています7が、今のところ、多臓器障害を改善させうる明確なエビデンスには乏しいのが現状です。

 

DIC治療薬に関しては、個々の症例のDICおよびMODSの病像に応じて、適切な投与判断をする必要があります。

 


 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

P.36~「敗血症で注意したい!「多臓器障害」とその対応」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2015年8月号/ 照林社

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