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2015年08月05日

呼吸のメカニズム|呼吸する(4)

解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、呼吸器系についてのお話の4回目です。

〈前回の内容〉

肺の構造とガス交換|呼吸する(3)

解剖生理学の面白さを知るため、身体を探る旅に出たナスカ。肺の構造から血管内のガス交換の仕組みについて知りました。

今回は、呼吸のメカニズムの世界を探検することに……。

 

呼吸のメカニズム

「さあ、深呼吸して」――。そういわれたら、ゆっくり深く、息を吸い込んで吐き出すことができますね。また、ほんの短い間なら、私たちは水中で呼吸を止めることさえ、できてしまいます。

心臓の収縮に関しては、意識して早くしたり遅くしたりすることはできませんので、意識で調節できるというのは、呼吸の大きな特徴の1つです。そして、これには肺の運動をつかさどる、いくつかのメカニズムが関係しています。

肺は空気の出し入れで伸びたり縮んだりするように思われがちですが、実際はそうではありません。肺そのものに自動的に動く仕組みはなく、肺を収容している胸郭(きょうかく)の容積が変化することで、間接的に伸ばされたり、縮んだりしているだけです。

胸郭の容積を変化させる方法は、大きく2つあります。1つは外肋間筋(ろっかんきん)を使う方法、もう1つは横隔膜(おうかくまく)を使う方法、です。前者は胸式呼吸、後者は腹式呼吸と呼ばれます。通常はどちらか一方ではなく、外肋間筋と横隔膜、両方の働きによって呼吸運動が行われています。

図1呼吸のメカニズム

呼吸のメカニズム

 

用語解説胸式呼吸

外肋間筋が収縮すると、肋骨が持ち上がって胸郭が前後左右に拡大、これによって肺は伸ばされ息を吸い込むことができる(吸気)。反対に、外肋間筋が弛緩して胸郭が縮小すると、それによって息を吐き出すことができる(呼気)

用語解説腹式呼吸

横隔膜が収縮すると、下に降りて、胸郭がそれに伴って上下に拡大し、外気が取り込まれる(吸気)。横隔膜が弛緩して胸郭が狭くなると、息を吐き出すことができる(呼気)

 

換気の仕組み

肺における空気の出入りには、圧力も関係しています。肺と胸郭(きょうかく)の間には胸膜腔という密閉された空間があり、ここは大気圧より常に圧力が低い状態(陰圧)になっています。

呼吸筋の収縮で胸郭の容積が拡大すると、それに伴って胸膜腔の内圧はさらに低くなります。すると、図2にあるようにゴム風船(肺のモデル)を外側に引っ張ろうとする力が働き、その圧力で、空気がゴム風船の中に入り込むのです。これが吸息です。

反対に、呼吸筋が弛緩(しかん)して胸郭の容積が小さくなると、胸膜腔の内圧はその分高くなり、その圧力でゴム風船は押しつぶされ、空気も押し出されます。これが呼息です。

図2換気の仕組み

換気の仕組み

びんの外側を胸郭とし、その中に肺に相当するゴムの袋がある。びんの底はゴム膜(横隔膜に相当)を張っている。このゴム膜を引っ張るとびん内の圧力が下がり、空気が入ってゴムの袋は膨らむ(吸気)。ゴム膜がもとに戻るとびん内の圧力が高まり、空気が流出する(呼気)。「ヘーリングの模型」として知られている

 

総合すると、肺の呼吸運動は図3のような順番で起こります。

図3肺の呼吸運動の順序

肺の呼吸運動の順序

 

ところで、1回の換気あたり、どれくらいの量の空気が出入りすると思う?

そんなに多くないような気がしますけど

安静時の場合で450~500mL

思ったよりも多いんですね

この換気あたりの空気の出入りを、生理学では一回換気量というの。覚えておいてね

 

死腔量と肺胞換気量

息を1回スーハーするたび、500mLのペットボトル1本分の空気が出入りしているなんて驚きですね。ただし、ここで出入りした空気に含まれるすべてが肺に送られるわけではありません。一部の空気は気道にとどまったまま、ガス交換されることなく、再び外へと吐き出されます。

気道はガス交換に関係しないため、死腔(しくう)ともいいます(細胞が死んでいるわけではありません)。この死腔にとどまっている空気の量を死腔量といい、正常では約150mLです。

また、死腔量に対し、肺まで到達して肺胞でガス交換される空気の量を、肺胞換気量といいます。

図4死腔と肺胞換気量

死腔と肺胞換気量

 

呼吸のしかたでガス交換の効率も変わる

死腔(しくう)量と肺胞換気量の関係をみていくと、興味深いことがわかります(図5)。ポイントは、どんな呼吸をしても、死腔量が150mLと、変わらないことにあります。

図5呼吸パターンによる分時換気量と分時肺胞換気量の違い

呼吸パターンによる分時換気量と分時肺胞換気量の違い

 

図5にある表は、呼吸パターンによる分時換気量と分時肺胞換気量の違いを示したものです。ふつうの呼吸の場合の1回換気量を500mLとすると、そこから死腔量を引いた肺胞換気量は、350mLになります。

これに対し、浅く速い呼吸をした場合、1回換気量は250mLで、そこから死腔量を引いた肺胞換気量は100mLしかありません。

仮に、毎分8,000mLの分時換気量を同じように確保しようとすると、ふつうの呼吸では16回息をスーハーするだけですみますが、浅く速い呼吸ではその2倍、32回も息をスーハーしなくてはなりません。

倍以上の数の呼吸が必要ということは、それだけ1回あたりの呼吸効率が悪いということです。最も呼吸効率がいいのは、皆さんご存知の深呼吸。つまり、ゆっくりと深く息を吸ったり吐いたりする方法です。1回換気量が1,000mLと通常の倍になるので、呼吸数は半分の8回ですみます。肺胞換気量が多く、効率よくガス交換ができます。

 

喘息の患者さんの呼吸が苦しそうなのは、呼吸効率が悪いためだったんですね

そうなの。ちなみに、息を深く吸い込むと血中の酸素濃度も上がって、脳や身体の働きも活発になるわよ

これから、テストの前には深呼吸します(笑)

 

呼吸と筋肉・脳の深い関係

皆さんは、呼吸器系さえ正常ならば、正常な呼吸ができるものと思うかもしれません。しかし、これまで説明してきたように、肺の呼吸運動は肋間筋や横隔膜(おうかくまく)の動きに支配されています。さらに、これらの呼吸筋を動かしているのは脳です。したがって、正常な呼吸を続けるためには、呼吸器が正常に働くばかりではなく、筋肉や脳もすべて、正常に働かなくてはなりません。

また、肺で換気ができたとしても、それを細胞へと届けたり、細胞が排出した二酸化炭素を肺まで運んできてくれる循環器系が機能しなくては、呼吸の意味がありません。

このように、呼吸の機能ひとつとってみても、身体は多くの器官と組織、細胞が連携してはじめて、1つの生命体として機能していることがわかります。

今度はその連係プレイをみていきましょう。

 

脳幹は呼吸をどうコントロールしているか

呼吸をつかさどる呼吸中枢は、脳幹の最下部に位置する延髄(えんずい)にあります(図6)。呼吸中枢の働きはまるで自動制御センターのようであり、意思で操ることはできません。

図6呼吸中枢の働き

呼吸中枢の働き

 

呼吸が正常に機能しているかどうかは、ある見張り役によって監視されています。「見張り役」とは、大動脈弓(きゅう)と、総頚動脈が内頚動脈と外頚動脈に分岐するポイントにある化学受容器(大動脈小体頚動脈小体)です。かたや全身、かたや脳に血液を送る手前の場所だと考えれば、そこに見張りが必要な意味もわかるでしょう。

これらの化学受容器は、血液中に流れる酸素や二酸化炭素の量を監視し、その情報を延髄に届けます。延髄では、情報をもとに呼吸のリズムを決め、横隔膜と外肋間筋に働きかけて、1回換気量や呼吸数を調節します。

なんらかの異常で、血液中の酸素分圧が低下したり、二酸化炭素分圧が上昇したりすると、延髄(えんずい)はすかさず「換気を増やせ」と命令します。運動してたくさんの酸素を消費した後、呼吸が深く早くなるのはこのためです。

反対に、酸素が十分にあると延髄は安心しきってしまい、動きません。人工呼吸器などで酸素が十分に供給される状態が続くと、なんと、自発呼吸は止まってしまいます。手術で麻酔をかけるとき、一定量の二酸化炭素を添加するのはこのためです。患者に二酸化炭素を吸わせることで、延髄の興奮と自発呼吸を促しているのです。

 

二酸化炭素って、すごく悪者のイメージがなかった?

ありますね。最近では地球温暖化の原因ともいわれてますし……

でもね、私たちの身体からすべての二酸化炭素がなくなってしまったら、自発呼吸も止まってしまうわけでしょう。酸素も大事だけれど、多少の二酸化炭素もまた、大事なのよ

 

大脳半球による呼吸のコントロール

肺を動かすのは、肋間筋と横隔膜(おうかくまく)です。これらは延髄の指令を受けて動くと同時に、実は大脳半球の命令でも動きます。

大脳半球は、人間の意識と関係があり、呼吸はある程度、意識的にも操れます。ただし、それは長くは続きません。自分でいくら息を止めようとしても、すぐに限界がきて、呼吸が始まりますね。これは、しばらくすると延髄から命令が下りて、「大脳半球からの命令を撤回せよ」と迫られるからです。

延髄からの要請は非常に強く、常に大脳半球の命令に勝ります。呼吸は意識でコントロールできますが、私たちが生きていくために必要不可欠な運動なので、自分の意思だけでコントロールできるようには、なっていないのです。

ちなみに、ヒトはどれくらいの間、呼吸しないでいられるんでしょうか。まず、血液中にある酸素の量は最大でも1Lです。ヒトは、安静時でも1分間に300mLの酸素を必要としますから、計算すると、3分間くらいしかもちません。

このように、酸素が豊富にある陸上に住む私たちの身体はもともと、いつでもどこでも酸素が摂取できることを前提につくられています。クリーンな大気と環境を守らなくちゃいけない理由も、よくわかるでしょう。

 

〈次回〉

栄養と代謝|食べる(1)


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

[出典]『解剖生理をおもしろく学ぶ』(編著)増田敦子/2015年1月刊行

解剖生理をおもしろく学ぶ

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