脳神経外科領域のドレナージ | ドレーン・カテーテル・チューブ管理

ドレーンカテーテル・チューブ管理完全ガイド』より転載。

 

今回は脳神経外科領域のドレナージについて説明します。

 

藤巻高光
埼玉医科大学医学部脳神経外科教授
大内道晴
埼玉医科大学国際医療センター看護部(CICU)看護師長

 

〈目次〉

 

《脳神経外科領域のドレナージについて》

 

主な適応
ドレナージによって異なる(頭蓋内圧測定、急性水頭症、脳腫瘍出血、クモ膜下出血、開頭術・頭蓋形成術などの術後、硬膜下・脳内血腫、脳膿瘍、脳腫瘍など)
目的
主に、①髄液循環の障害時に髄液を排液する、②術後の血液や滲出液を排液する、③クモ膜下出血による脳槽内の出血を排液するなど
合併症
頭蓋内圧亢進、脳ヘルニア、頭蓋内出血、感染など
抜去のめやす
ドレナージ部位によって異なる
観察ポイント
髄液の流出や拍動、排液の性状・量および圧の設定や固定部などを観察する
ケアのポイント
圧の管理 : 頭蓋内圧亢進や脳ヘルニア、頭蓋内出 血など重大なリスクがあるため、移動や清拭、体位変換などの際は圧の設定に注意する
感染予防 : 頭蓋内腔は非常に感染に弱く、髄液を 排除するドレーンは長期留置となる場合も多いため、無菌操作や逆流防止、排液操作などケア前後 の消毒の徹底などに努める

脳神経外科領域のドレナージ

 

はじめに

頭蓋内腔は閉鎖空間であり、頭蓋内腔からドレーンという形態で脳脊髄液(以下、髄液)や頭蓋内腔の液体を排除することは、とりもなおさず頭蓋内圧(脳圧)の変化をきたしうる。適切な圧の均衡を保つことが、脳という圧変化に敏感な臓器のためには非常に重要である。

 

頭蓋内(脳および髄液)は絶対的無菌環境にあり、かつリンパ組織がないこともあって感染抵抗性に乏しい。頭蓋外とつながるドレーンでは頭蓋内の無菌環境をいかに保つかということも重要となる。

 

脳神経外科領域におけるドレーンは、大きく2つに分類される。すなわち「髄液の排液を目的とするもの」と「それ以外のもの」である。

 

本稿では、まずドレナージを行うにあたって知っておくべき髄液循環について述べ、次に脳神経外科のドレーン一般に注意すべきことを述べる。

 

髄液循環

髄液腔は本来、互いに交通しているが、病的状態では流れが障害され、あるいは吸収が障害されることで頭蓋内圧亢進、ひいては生命の危険につながりうる。したがって髄液を排液するドレーン管理には髄液循環の知識が不可欠である。

 

髄液の産生量は成人で1日450~500mL程度とされているが、全髄液量は約150mLであり、1日に3回入れ替わっている計算となる。

 

髄液の循環については、概念が大きく変わりつつある。これまで髄液は両側の側脳室で脈絡叢から産生されモンロー孔を通って第3脳室に入り、中脳水道を経て第4脳室に至り、第4脳室から正中のマジャンディ孔、両側のルシュカ孔を経てクモ膜下腔に流出し、その後、一部の髄液は脊髄周囲のクモ膜下腔を灌流しつつ最終的には大脳表面のクモ膜下腔を流れて上矢状静脈洞へと吸収されるとされていた。古典的な髄液循環経路の考え方である(図1)。

 

図1これまでの髄液循環の考え方

これまでの髄液循環の考え方

 

最近では、この経路で髄液は拍動しているが大きな流れをつくっているわけではない、髄液は脈絡叢以外に脳実質のなかでも血管から漏出するかたちでつくられている、脳室周囲の毛細血管からも髄液は吸収される、さらに脳神経に沿って髄液吸収経路があり、特に嗅神経からは鼻腔のリンパ管へと流出する経路もあるなどとする説(図2)が提唱され、従来の説が書き換えられつつある。

 

図2新しい髄液循環の考え方

新しい髄液循環の考え方

 

臨床の現場では、「古典的」髄液循環経路(図1)が妨げられると水頭症を生じると考えてよい。松果体部に腫瘍があって中脳水道が圧迫される場合、小脳の出血で第4脳室が圧迫される場合などである。髄液循環の動態はともかく髄液腔が交通している経路を知っておくことが、髄液に関するドレーン管理に重要なことは今も変わらない。

 

脳神経外科領域のドレーン一般に注意すべきこと

1圧管理:ドレーンの高さを管理する重要性

脳神経外科領域のドレーンは、ほとんどの場合ドレーン回路が用いられる。ときに先端をガーゼで覆うだけのドレーン(ペンローズドレーンなど)が用いられる他科とはこの点で大きく異なる。前述の通り、髄液は無菌であり感染に弱く、わずかな細菌の汚染でも重度の髄膜炎を引き起こす可能性が高いからであり、またドレーン挿入が頭蓋内圧管理を目的とすることが多いからである。

 

ドレナージ回路自体は、大気圧との交通部(通常、フィルターを介している)のある「開放式ドレナージ回路」と、完全に閉鎖空間となっている「閉鎖式ドレナージ回路」とがある。

 

開放式ドレナージとしては「脳室ドレーン」「脳槽ドレーン」「腰椎ドレーン」などがあり、閉鎖式ドレナージとしては「硬膜外ドレーン」「硬膜下ドレーン」「血腫腔ドレーン」「膿瘍ドレーン」などがある(表1)。

 

表1脳神経外科領域のドレナージ

脳神経外科領域のドレナージ

 

頭蓋内圧(脳圧)は頭蓋内のさまざまな疾患で上昇するが、それが脳へ血液を送る圧(血圧)より高くなると頭蓋内灌流圧が0となり、図3で示すように脳への酸素や栄養の供給が断たれ、結果的に脳の神経細胞の死に至る。

 

図3頭蓋内圧上昇の影響

頭蓋内圧上昇の影響

 

頭蓋内腔は小脳テント(小脳天幕)によって主として大脳が入るテント上と小脳・脳幹が入るテント下の「2つの部屋」に分かれる。頭蓋内圧亢進があるときにこれらの2つの部屋の圧に大きな差ができると、圧の高い方の内容物(脳)が反対側に入り込んで、脳幹を圧迫する脳ヘルニアを生ずる(図456)。結果的に脳幹の機能障害を生じ呼吸障害・停止といった重大事態が生じうる。

 

図4代表的な脳ヘルニア(鈎ヘルニア、テント切痕ヘルニア)

代表的な脳ヘルニア(鈎ヘルニア、テント切痕ヘルニア)

 

図5脳室ドレナージによる髄液の排除

脳室ドレナージによる髄液の排除

 

図6脳室ドレナージによる頭蓋内圧のコントロール

脳室ドレナージによる頭蓋内圧のコントロール

 

頭蓋内圧の管理は、頭蓋内灌流圧の観点、および脳ヘルニア防止の2つの意味で脳神経外科において重要である。髄液腔に挿入されたドレーンは、頭蓋内圧(脳圧)測定や髄液を排除することによる頭蓋内圧コントロールを行うため、頭蓋内圧管理において重大な役割を果たす。

 

脳室ドレーンの項で詳細を述べるが、圧設定(通常、ドレーンの高さで設定される)のなされているドレーンで圧のコントロールに問題があって圧が上昇すると、ただちに頭蓋内圧亢進や脳ヘルニアが生じ生命の危険が出てくる。逆にドレーンの異常で頭蓋内圧が極端に下がると、頭蓋内静脈の破綻などによる頭蓋内出血の可能性が生じる。ドレーン(通常、ドレナージ回路が用いられる)と頭部との相対的な位置関係(高さ)の設定が重要となる。

 

具体的にはドレナージ回路(図7のC部)での高さで示されるドレーンの圧設定(額からの高さや、外耳道からの高さで指示されることが多い)が狂わないように、回路の固定、また頭部の高さの設定に注意を払う。患者を検査や体位変換、清拭などで移動する場合、一時的にドレーンを固定したり、短時間ドレーンをクランプする(後述)必要がある。また体位の移動後、再設定をきちんと確認する必要がある。

 

図7髄液ドレナージの回路

髄液ドレナージの回路

 

頭蓋内圧は通常8~15mmHg(10~15cmH2O)が正常値であるが、これが常に30mmHgを超えるようになると、引き続きさらに圧の上昇を招くことが病態として知られている。その結果、頭蓋内灌流圧が低下し、あるいは脳ヘルニアのため、生命の危険が切迫してくる(図4)。

 

2感染防止:無菌操作、逆流防止の重要性

前述のように、頭蓋内腔は非常に感染に弱い。しかも髄液を排除するドレーンは、ときには週単位の長期留置が必要となることもある。その意味からも、無菌操作は厳重に行う必要がある。

 

施設により基準があり、髄液ドレーンに関する排液操作を医師に限る施設もあるが、厳重な無菌操作に注意すれば看護師が行うことも差し支えない。この場合でも図7の回路のAの部分の操作は医師が行うことが望ましい。

 

図7で示すBの部分の操作の場合、消毒は必ずポビドンヨード(イソジン®)やクロルヘキシジングルコン酸塩エタノール消毒液(ヒビテン®アルコール)などの消毒薬を用い、鑷子での無菌操作下に数回の消毒を行ったのちに排液操作などを行う。操作の終了時、活栓を閉じ蓋をする前にも同様の厳重な消毒を行うようにする。アルコール綿での用手的な消毒での操作は行ってはならない。また、こういった回路の中継点は無菌のガーゼやドレープで覆うことが望ましい。

 

ドレーン回路の空気フィルターが濡れる事態は、感染予防およびすみやかな髄液流出の観点から望ましくない。もし空気フィルターが濡れた場合は、すみやかにドレーン回路の交換を行う。

 

回路の滴下部以下に何らかの理由で流出障害が生じてD部に髄液が貯留したり、あるいはドレーンバッグ(図7のB部)に髄液が充満して髄液が逆流すると、ドレーンが不潔となりやすい。早急に回路の交換を行う、バッグの廃液を行う、流出障害の原因を取り除くなどの対処が必要である。

 

脳室ドレーン、脳槽ドレーンなどは留置が長期にわたることも多いため、皮膚からの感染に注意する必要がある。ドレーン刺入部の消毒を怠らないとともに、刺入部にイソジン®ゲルを塗布するなど感染予防に努める。

 

ケアのポイント(脳神経外科領域のドレーン一般)

1抜去防止の工夫

脳神経外科領域におけるドレーンの抜去事故は、それ自体が患者の生命に直接かかわる事態となりうる。また、患者に意識障害があることも少なくないため、無意識の体動や手の動きによってドレーンが抜去されることのないように注意すべきである。

 

必要に応じて四肢、体幹の抑制が必要であり、ドレーンの固定方法にも工夫もこらす必要がある。

 

創部ガーゼの下で抜去防止の工夫が医師によってなされている場合もあるが、基本的にはガーゼの上に図8のようにドレーンのループを1つ作ることにより、外力が直接ドレーン挿入部にかかることを防止できる。

 

図8ドレーンの固定(抜去防止、落下防止)

ドレーンの固定(抜去防止、落下防止)

 

 

2スパゲッティ症候群対策

クモ膜下出血のクリッピング術後など、脳室、脳槽(場合によってはそれぞれ複数)、硬膜外ドレーンなど狭い術野の周囲に多くのドレーンが挿入されることが少なくない。それぞれがからまないように適宜環境整備を行う。

 

特に脳室ドレーンと脳槽ドレーンは、同一素材のチューブ、回路が用いられることが多く、それぞれのドレーンの途中に小さな絆創膏(テープ)を貼り、「右脳室」、「脳槽」などのように区別して書いておくと取り扱いが容易となる。

 

脳神経外科領域のドレーン管理の基本

脳神経外科領域におけるドレーン管理のポイントを表2に示す。

 

表2脳神経外科領域のドレーン管理の基本

脳神経外科領域のドレーン管理の基本

 

管理の基本に述べた圧管理と無菌操作の重要性に注意しつつ、ドレーンの状態に変化があった場合(流出量、排液の性状、抜去後など)は、それに応じて、意識、局所神経症状などの神経学的所見の変化を十分に観察・評価することが、脳神経外科におけるドレーン管理のポイントである。

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社

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