船上の看護師―シップナースの仕事― (後編)| 病院外の看護現場探訪【3】

前編はこちら―

 

豪華客船「ぱしふぃっく びいなす」に乗船し、看護師として働く矢野川准子さん。

前回は働くきっかけや、一般の病院との違いなどについてお話いただきましたが、後編では船上での緊急時や豪華客船で働く魅力についてお聞きしました。

 

看護師Webマガジン【ステキナース研究所】|船上の看護師ーシップナースの仕事ー (後編)| 病院外の看護現場探訪【3】

船内、高級感漂う吹き抜けのエントランス

 

緊急時の判断が船の進路を決める

これまで心筋梗塞(こうそく)や子宮妊娠、目の異常など、あらゆる科の症状に対応してきたと語る矢野川さん。一刻を争う緊急の対応に何度も迫られたこともあったそうです。船内で対応ができない場合は、状況に応じて最寄りの港へ緊急入港し、そこから病院に搬送できるように準備を進めます。

 

もちろん必要な場合はヘリコプターでの搬送を要請しますが、どのような場合でも手配できる訳ではありません。その国や地域ごとに指定の病院があるわけではなく、その都度、調べて対応をするそうです。

 

「特に海外では、病院の費用が高額になることがあるため、まずはお客様の加入している旅行保険を調べ、提携している病院を優先します。それがない場合は、現地の旅行会社に協力してもらい、その病気を診てもらえる病院を探します」

 

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緊急時の調べ物をはじめ、訪問する国のインフルエンザなどのウイルス情報を調べることも

 

医療設備が整った地域ばかりではないため、一番近い港に入港するという判断が必ずしもベストではない場合も。その場合、どの港から病院に搬送するのか、それまでどうやって船内で治療を続けるのか、患者さんの状況を見ながらの判断が求められます。

 

「以前、長期のクルーズでウイルスによる劇症肝炎にかかってしまった方がいました。一番近い港に着くまでも日数があり、その間にどんどん症状が進んでしまったんです。海外の港に入港後、すぐに病院に搬送。ご本人の希望通り、飛行機で帰国することができましたが、その後、亡くなられたと聞きました。こういうつらいこともあるので、クルーズで病気になられた方が、その後、リピーターとして元気に乗船してくださるのが一番うれしいです」

 

また、長期間のクルーズは、定年後に夫婦で旅をしている方などが多いため、ふだん通っている病院ではできない質問をされたり、セカンドオピニオンを求められることもあるそう。1時間近く話を聞くなど、相談相手としての役割も果たしています。

  

大自然に触れながら仕事ができる魅力

2~3カ月のクルーズの後、1カ月休むというのが矢野川さんの仕事のスタイル。

 

勤務の予定は3カ月前に決まります。今年は4月に台湾・沖縄や奄美諸島・屋久島をめぐる3~7日間のクルーズが続いた後、5月に10日間の日本一周クルーズ。その後、ようやく約1カ月の休暇に入るそうです。1つのクルーズが終わり、港に滞在するのは数時間。すぐに次のクルーズが始まります。

 

「海外では入港している間に、港の周辺を観光することもあります。クルーズの間は、携帯電話はつながらないことが多いですし、メールも常に使えるわけではないので、家族や友達と連絡が取れません。それを心配して、母はこの仕事をすることを反対していましたが、今は各地のおみやげを持って帰るのを楽しみにしてくれています(笑)」

 

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200個を超えた矢野川さんのピンバッジコレクションはこれからも増え続ける

 

ちなみに看護師をしている友人に仕事の話をすると、1人で対応する範囲の広さや設備のなさにびっくりされることが多いとか。

 

「24時間気を張っていなければいけないけれど、病院のように夜勤や役職の手当てがあるわけではなく、毎月、収入は変わらないこともあり“よくやっているね”と言われます。でも年に3回、1カ月ずつ休みが取れるのは、旅行好きの私にとっては大きな魅力。それに病院勤務だと、空も見ずに1日終わることが多いですよね。でも、船に乗っていると、大自然に触れながら仕事ができる。毎日、景色が違うし、夜は本当に星がきれいなんですよ」

 

北欧クルーズで見た白夜、フィヨルドやスエズ運河、パナマ運河が、これまでで一番印象に残っているそうです。

 

「どれも船の旅ならではの景色で感動しました。そういう体験ができるだけでなく、看護師としても幅広い知識が身につくので、何年経っても成長している実感があります。専門性を極めることはできませんが、病院の看護師では経験できないことばかりなので、体力が続く限り、続けていきたいですね」

 

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雄大な大自然が目前に迫るハバード氷河(アラスカ)。次の日には別の景色になり、世界の広さを感じられるのも魅力

 

大切なのは柔軟性

では、客船の看護師に求められるのは、どんなことなのでしょう?

 

「約220名のクルーが同じ船に乗り、長い旅が続いていくわけですから、いろいろな人とうまくやっていけることは大切です。もちろん自分の部屋で過ごす時間はありますが、家に帰って気持ちを切り替えられる生活とは違いますから。今、クルーの8割は外国人なので彼らとの会話は英語ですが、旅行レベルの英語ができれば大丈夫です。私も英語は得意ではありませんでしたが、コミュニケーションはとれるようになりました」

 

そして、一番大切なのは、想定外の事態に対応できる柔軟性だと語ります。

 

「天候によって予定通りに入港できないことも多いですし、医務室の設備がトラブルで使えなくなったり、備品が足りなくなったり、病院では考えられないこともよく起こります。実際、全自動の高圧自動滅菌器が使えなくなって、病院では使ったことがない昔ながらの煮沸消毒器を使ったこともあります。先日は乗客の方が使っていたドレーンのチューブが切れてしまい、急遽、点滴用の袋を使って作りました。そういう意味では、へき地医療に近いかもしれません。自分で考えて行動することが病院以上に求められますが、その分、自信はつきました」

 

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医務室には薬の棚。隣の棚には医学関係の書籍も並んでいる

 

8時間勤務であっても、24時間対応が求められる客船の看護師。それを“拘束されている”と捉えるのではなく、うまく気持ちを切り替え、船の生活を楽しんでいると語る矢野川さん。それが長く仕事を続ける秘訣なのでしょう。

 

病院とは仕事の内容も働き方も全く違う「豪華客船の看護師」。「やりたい!」と思った方は狭き門ではありますが、そこで諦めず、自ら行動する気持ちが大事かもしれません。

 

取材秘話

横浜港に入港した数時間の間の取材中、矢野川さんのPHSに「クルーの女性が急に倒れた」との連絡が入り、聴診器を持って飛び出していきました。横浜市内の病院に救急搬送することになり、矢野川さんも救急車に同乗したためこの日の取材は中断。

 

後日改めてお話を伺ったところ、病院で状況を説明した後、すぐに港に戻り定刻の17時に出港したそうです。“毎日、何が起こるかわからない”“常に臨機応変に対応しなければいけない”という矢野川さんのお話を目の当たりにした出来事でした。

 

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2回目の取材後はすぐに九州・沖縄方面に出港

 

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