妊娠中期に起こりやすいマイナートラブルと生活指導

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は妊娠中期に起こりやすいマイナートラブルと生活指導について解説します。

 

中井抄子
滋賀医科大学医学部看護学科助教

 

 

妊娠中期に起こりやすいマイナートラブルと生活指導

1便秘

発生機序

妊娠中から産褥にかけて分泌されるプロゲステロンの作用で、大腸平滑筋の弛緩、骨盤内うっ血のための排便反射麻痺、産後の腹筋運動の減少などのために便秘がひどくなることがある。いちばん多いのは、弛緩性便秘という大腸の緊張が低下し、蠕動運動が減弱して腸内容の通過が遅くなり、水分が吸収されて糞便が固くなるものである。

 

生活指導

朝食を必ず摂る、起床時に冷たい水や牛乳を飲む、繊維の多い食物の摂取する、十分な水分を補給することを指導する。その他に、排便は我慢しないこと、朝食後の排便習慣をつけること、適度な運動やストレスの回避も効果的である。

 

排便習慣と便秘予防

朝食後に起こる大腸の運動は1日のうちで最も強いといわれている。よって、朝食後に起こる大腸の生理的リズムに合わせて排便習慣をつけることは便秘を予防することに繋がる。

 

2浮腫

発生機序

妊娠による生理的な循環血漿量と腎血流量が増加、エストロゲンの増加による毛細血管の浸透性の亢進と尿細管によるナトリウム再吸収増加、血漿タンパク濃度の低下と膠質浸透圧の低下によって間質の水分貯留が増加し、浮腫が発生する。さらに、子宮の増大と圧迫により下肢の毛細血管内静水圧の上昇することで浮腫が増強する。

 

生活指導

バナナやリンゴなどの果物を摂取する(カリウムを含むことからナトリウムの排出を促す)、塩分を摂りすぎず薄味にする。また、長時間の歩行や起立を避けること、医療用の弾性ストッキングを装着すること、就寝時には下肢をあげて寝ること、からだを温めることなどが効果的である。

 

 

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環境ホルモンと食事

近年、ペットボトル飲料やコンビニ弁当、カップ麺、缶コーヒー、プラスチック容器やポリカーボネイト製耐熱容器が食生活のなかでよく用いられている。これらを使用した食事を摂取した母親の初乳から環境ホルモンであるビスフェノールAが検出されたため、妊娠期からペットボトル飲料を控える、コンビニ弁当を温める際には別容器に移すなど工夫して、環境ホルモンをなるべく摂取しないよう心掛ける指導も大切である11)

 

ビスフェノールA

内分泌撹乱化学物質の1つとされ、エストロゲン様作用をもつ物質である。実際のところ、その毒性については現在も検証中である。しかし、産業衛生学会の許容濃度でいう第3種粉塵に該当することから、人体にとって安全な物質とはいいがたい。

 

妊娠期の糖尿病(日本糖尿病学会編著:糖尿病診療ガイドライン2016より)

Column 医師イラスト

妊娠中期以降は胎盤が完成することによって、ヒト胎盤性ラクトーゲンやコルチゾールなどのホルモンの変化や代謝の変化によりインスリン抵抗性が増大し、耐糖能異常を来たしやすい。

 

妊娠期の糖尿病には、①妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus:GDM)、②妊娠中の明らかな糖尿病(overt diabetes in pregnancy)、③糖尿病合併妊娠(pregestational diabetes mellitus)の3つがある(妊娠糖尿病の定義 参照)。

 

これらを診断された妊婦は血糖値をコントロール(表1)する必要があり、そのために食事の工夫や運動、さらにはインスリン注射が必要になることもある。

 

表1 妊娠期の血糖コントロール目標値

(日本糖尿病学会編著:糖尿病診療ガイドライン2016、p.377、南江堂、2016より改変)

 

基本的には、適切なエネルギー摂取と栄養バランスについて食事指導を行う(表2)。

 

表2 糖代謝異常の妊婦のエネルギー量

(日本糖尿病学会編著:糖尿病診療ガイドライ3回の食事をン2016、p.378、南江堂、2016より改変)

 

1回の食事で食後血糖値が高値を示す場合には、総カロリーを考慮しつつ、1日朝食、10時、昼食、15時、夕食、夜食と少量ずつ食べる分割食にするなど工夫する。食事や血糖の記録をつけ、担当医や管理栄養士とも相談しながらコントロールを行う。

 

 

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引用・参考文献

1)厚生労働省:妊産婦のための食生活指針、「健やか親子21」推進検討会報告書、4.「妊娠期の至適体重増加チャート」について、2006.2019年1月4日検索
2)「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会報告書.2018年12月29日検索
3)水野克己、水野紀子:あんしんナットク楽しく食べる赤ちゃんとお母さんの食事、p.12~13、17~19、へるす出版、2018.
4)Kumar A, Rai AK,Basu S, et al : Cord blood and breast milk iron status in maternal anemia.Pediatrics,121:673-677,2008.
5)Triche EW,Lundsberg LS, Wickner PG,et al:Association of maternal anemia with increased wheeze and asthma in children. Ann Allergy Asthma Immunol, 106 : 131-139,2011.
6)平成29年国民健康・栄養調査結果の概要、2017.2019年1月4日検索
7)酒井一樹、西山宗六:インスタント食品摂取で注意すべきヨウ素過剰、小児内科、44(2):333~336、2012.
8)関沢明彦、岡井崇:新版安心すこやか妊娠・出産ガイド―妊娠・出産のすべてがこの1冊でわかる、第3版、p.62、メディカ出版、2018.
9)厚生労働省:これからママになるあなたへ お魚について知っておいてほしいこと.2019年1月4日検索
10)海老澤元宏、伊藤浩明、藤澤隆夫監修、小児アレルギー学会作:食物アレルギー診断ガイドライン2016、協和企画、2016.
11)立岡弓子:初乳中ビスフェノールA濃度と食器包装容器使用との関連、日本助産学会誌、18(2):63~70、2004.
12)日本糖尿病学会編著:糖尿病診療ガイドライン2016、南江堂、2016.

 

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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