消化管の構造と機能|消化吸収

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

呼吸不全の状態|呼吸

 

今回は、消化管の構造と機能について解説します。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

〈目次〉

 

Summary

  • 消化管は、食道から直腸に至る全長約9mの管状の器官である。
  • 消化管は一部分を除き平滑筋で、内側の輪状筋と外側の縦走筋が交互に収縮して蠕動運動を起こす。
  • 消化管には独特の内在神経系(アウエルバッハ神経叢およびマイスナー神経叢)がある。
  • アウエルバッハ神経叢は、蠕動運動を調節する。
  • マイスナー神経叢は、消化管ホルモンの分泌を調節する。

 

消化管とは

消化管〔alimentary tract〕(canal)は、食道(esophagus) から直腸(rectum)に至る全長約9mの管状の器官である。消化管壁の構造は、内腔より順に粘膜(mucus membrane)、筋層(muscle layer)、漿膜(serousmembrane)の3層からなる。

 

粘膜は、粘膜上皮、粘膜固有層(proper mucous membrane)、粘膜下層よりなり、固有層と下層の間には粘膜筋板(muscularis mucosae)がある。粘膜下層の外にある筋層は、筋線維が消化管を包むように輪状に走行する輪状筋(inner circular layer)が内側に、縦方向(長軸方向)に走行する縦走筋(outer longitudinal layer)が外側になる2層を形成している(図1)。

 

図1消化管の筋と内在神経系

消化管の筋と内在神経系

 

食道と、胃と小腸、小腸と大腸など、消化管の各部分の境界には、輪状筋が肥厚した括約筋(sphincter muscle)がある。

 

消化管には内在神経系(intrinsic nervous system)という他の器官にはない特殊な神経支配がある。また、内臓一般と同様に自律神経系の支配も受けており、消化管では内在神経系に対して自律神経系のことを外来神経系とよぶ。

 

内在神経は壁内神経(myenteric nerve)ともよばれ、縦走筋と輪状筋間に存在するアウエルバッハ神経叢(Auerbach plexus)(筋層間神経叢)と粘膜下組織に存在するマイスナー神経叢〔Meissner plexus〕(粘膜下神経叢)からなる。アウエルバッハ神経叢は蠕動運動を調節し、マイスナー神経叢は消化管ホルモンの分泌を調節する(表1)。

 

表1内在神経系の分類

内在神経系の分類

 

食道は約25cmの長さの筋肉性の管である。食道の筋は、上部1/3では横紋筋(striated muscle)でそれ以下は平滑筋(smooth muscle)である。消化管の筋は一般に平滑筋であるが、食道上部と外肛門括約筋(external anal sphincter)は例外的に横紋筋である。

 

下部2/3の平滑筋の部分では、輪状筋と縦走筋が交互に収縮することにより蠕動運動(peristalsis)が起こる。この蠕動運動により食塊は逆流することなく、前へ前へと進む。

 

〔stomach〕(gaster)は容量が約1,400mLで、入り口(食道との接続部)を噴門(cardia)、出口(十二指腸との接続部)を幽門(pylorus)という。胃の筋層は、輪状筋の内側に斜走筋が加わる3層構造である。

 

小腸(small intestine)は、幽門に続く長さ約6~7mの消化管で、約25cm(12横指)の十二指腸(duodenum)および腸間膜小腸(small intestine with mesentery)に区分される。 腸間膜小腸の始めの約2/5を空腸(jejunum)、終わりの約3/5を回腸(ileum)という。

 

大腸(large intestine)は、回腸に続く長さ約1.5mの消化管で盲腸(cecum)、結腸(colon)および直腸に分けられる。

 

内在神経系と括約筋

一般に内臓器官は自律神経に支配されるが、消化管だけはそれに加えて独自の内在神経系で支配される(表1)。

 

消化管各部の境界には輪状筋が肥厚した括約筋があり、管腔の入り口を絞める働きをする。噴門括約筋(食道と胃の境界)、幽門括約筋(胃と十二指腸の境界)、回盲括約筋(回腸と盲腸の境界)、内肛門括約筋(肛門の出口)などがある。これらの括約筋は平滑筋であるが、外肛門括約筋は例外的に横紋筋である。

 

NursingEye

嘔吐(vomiting) は、消化管の内容物を速やかに排除するための生体防御反射で、嘔吐反射(vomiting reflex)の中枢は延髄にある。食中毒、腐敗食物、ガスや飲食物による胃の過伸展、潰瘍や炎症などにより起きる。胃は横隔膜と腹筋の間にあり、嘔吐反射で横隔膜(diaphragm)が下がり、腹筋が収縮し、噴門括約筋が弛緩して胃の内容物が放出される。蠕動とは逆の動きなので逆蠕動(antiperistalsis)の一種である。

 

[次回]

咀嚼と嚥下|消化吸収

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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