開放式気管内吸引の手順&コツ|吸引の看護、コレだけ!(3)

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この記事では、気管切開で人工を使用中の患者さんに対する開放式気管内吸引の手順&コツを解説します!

 

気管内吸引の適応って? 気管内吸引の適応って?

気管内吸引が必要なのは、以下のような状態のときです。

多量の分泌物で人工鼻が詰まり、呼吸困難を引き起こすこともあるため、適切なタイミングで吸引を実施しましょう。

気管内吸引が必要な状態 体位ドレナージ・気道加湿などの排痰援助を 行っても、患者自身で排痰できない 呼吸数の増加または減弱・湿性咳嗽・低酸素状態・ 循環動態の変化などの症状がある 胸部触診で、 ラトリング (分泌物がガスの移動に 伴って振動すること) が感じられる 低調性連続性呼吸音 (Rhonchi) が聴取される (=太い気管支に分泌物が詰まっている) 挿管チューブ内に、 視覚的に分泌物が確認できる 大量の水分が気道にある場合 (溺水など) ・人工呼吸器の気道内圧の上昇、 換気量低下などが見られる

吸引の実施によって、以下のように、病状に影響する場合や合併症を引き起こす場合もあります。
患者さんの状態をアセスメントし、今吸引が必要かどうかを判断して実施しましょう。

 

合併症の例:

  • 心拍数の上昇・減少、血圧上昇・低下、不整脈の増加、SpO2低下
  • ●気管出血、気道攣縮、肺胞虚脱による無気肺
  • ●頭蓋内圧上昇、灌流の低下(中枢神経障害を有する患者)
  • ●不衛生な手技による気道感染

 

執筆:中嶋ひとみ
(新東京病院 看護部、集中ケア認定看護師)

 

開放式気管内吸引の手順一覧

開放式気管内吸引の手順を、一覧表でチェック!

吸引を実施する前には、事前にバイタルサインの測定を行い、吸引前後の状態変化に注意しましょう。

開放式気管内吸引の手順 1) 口腔内・カフ上の順で分泌物を除去する 2) カフ圧を調整する(20~25cmH2O) 3)吸引圧を設定し、カテーテルを接続する 4)利き手に滅菌手袋を着用し、無菌操作でカテーテルを取り出す 5)人工鼻を外し、カテーテルを挿入する 6)吸引する 7)人工鼻を再接続後、観察を行う

吸引中の患者さんは無呼吸状態になります。さらに、呼吸に必要な酸素まで吸引するので、低酸素血症や無気肺を生じるリスクもあります。

 

吸引中は患者さんの呼吸数・呼吸様式、顔色・SpO2の低下の程度、頻脈/徐脈になっていないか…などを確認しましょう。

 

1回の吸引では痰を引ききれず再度吸引が必要な場合は、患者さんの呼吸状態、循環動態、訴えなどを評価・確認してから実施してください。
 

ここをチェック!

患者さんによって、吸引前に酸素化を行い血中酸素飽和濃度(SpO₂)を上げておくことも、低酸素血症のリスク軽減に有効です。
また、加湿が不十分な場合は分泌物が硬くなり、チューブ閉塞の原因となることに注意が必要です。

 

 

必要物品・患者、看護師の準備

必要物品 ・個人防護具(マスク、ゴーグル、ビニールエプロン、未滅菌(両手分)/滅菌手袋(利き手分)) ・吸引セット ・吸引カテーテル  ・通用水(水道水)  ・清浄綿 ・手指消毒用アルコール ・聴診器 ・循環モニター(HR、BP、SpO2を表示できるもの)

※アルコール禁忌の場合は、医師に確認のうえクロルヘキシジングルコン酸塩含浸綿などに変更する

 

まずは必要物品を準備し、個人防護具を着用します。
※このタイミングでは、両手に未滅菌手袋を装着し、滅菌手袋は置いておきます。

 

吸引は苦痛を伴う処置です。患者さんの意識の有無にかかわらず、「これからチューブを挿入して痰を取ります」などの声をかけ、しっかりと同意を得るかかわりをすることが大切です。

吸引中は発声が困難になるため、苦しいときは手を挙げてもらうなど、合図を決めておくのも良いでしょう。

 

患者さんの体位は口腔内から気道がまっすぐになる、気道確保の姿勢に整えましょう。

 

ここをチェック!

閉鎖式吸引カテーテルの選択は患者さんによって異なりますカルテで前回実施時に使用した物品などを確認のうえ、準備してくださいね。

開放式吸引カテーテルの種類と選択 気管チューブの内径1/2以下の外径のカテーテルを使用する	 気管チューブ(mm)	吸引カテーテル(Fr) 6.0~7.0	8~10 7.0~8.0	10~12 8.0~9.0	12~14

 

 

開放式気管内吸引の実施手順&コツ

開放式気管内吸引の手順&コツを見ていきましょう!

 

1) 口腔内・カフ上部の分泌物を除去する

垂れ込み防止のため、事前に吸引を行う 口腔内吸引 カフ上部吸引 ※ ※吸引ポートがあれば、シリンジでカフ上部の分泌物を除去する

物品や環境の準備ができたら、口腔内・カフ上部の分泌物を除去します。

 

分泌物が多い患者さんは、口腔内・カフ上部にも分泌物の貯留がよくみられます。分泌物は気管支の奥深く(末梢)に垂れ込みやすいため、窒息しないように、カフ圧の調整の前にしっかりと吸引することが大切です。

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2) カフ圧を調整する(20~25cmH2O)

20~25cmH2O やや高めの30cmH2Oに設定することで少し空気が 漏れても適切なカフ圧を保てる

吸引前にカフ圧を20~25cmH2Oに調整します。カフ圧を調整する目的は、口腔・カフ上部吸引と同様に分泌物の垂れ込みを防止するためです。


カフ圧の調整の際、三方活栓を外すと空気が漏れてカフ圧が低下することがあります。

 

空気漏れを見越してやや高めの30cmH2O程度にしておくと、ちょうどよい圧を保つことができますよ。

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3) 吸引圧を設定し、カテーテルを装着する

カフ圧の調整ができたら、吸引圧を吸引圧を20kPa(150mmHg)以下に設定し、吸引カテーテルを装着。吸引圧は 20kPa (150mmHg) に設定。通水を確認する

カフ圧の調整ができたら、吸引圧を20kPa(150mmHg)以下に設定し、吸引カテーテルを装着します。

 

吸引カテーテルの装着前には、吸引管に陰圧をかけた状態で通水を行い、正常に圧がかかるかを確認してください。通水できない場合は、吸引セットのチューブの接続や、配管などに異常がないかを確認します。

 

吸引圧がかかることが確認できたら、吸引カテーテルの外袋の接続部分のみを開けて、吸引管と接続させましょう。


このとき、カテーテルが不潔にならないよう、袋に入れたままにしてください。
 

ここをチェック!

「分泌物が引けないから…」と吸引圧を高く設定するのは絶対NG! 気管壁の損傷・出血、低酸素血症、肺胞破裂…などのリスクがあり、20kPa(150mmHg)を超えないように推奨されています(気管吸引ガイドライン2023)。


 もしもうまく引けないときは、あらためて加湿や体位ドレナージを実施してから、時間を置いて吸引を再トライしてみましょう。

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4) 滅菌手袋を着用し、無菌操作でカテーテルを取り出す

滅菌手袋を着用し、無菌操作でカテーテルを取り出す

接続ができたら、滅菌手袋を利き手側(吸引カテーテルを操作する側)に装着し、カテーテルが不潔にならないように袋から取り出します。

 

吸引圧をかけると袋に吸い付いてしまうので、注意してください。

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5) 人工鼻を外し、吸引カテーテルを挿入する

人工鼻を外し、吸引カテーテルを挿入する。圧をかけないまま、ゆっくり静かに12~15cmほど挿入する

機材の準備ができたら、患者さんに声をかけてから、人工鼻を外して圧をかけずに吸引カテーテルを挿入します。

 

圧をかけないまま、ゆっくり静かに12~15cmほど挿入しましょう。それ以上深く挿入すると、粘膜損傷のリスクがあるので、注意してください。
挿入の長さの目安	気管切開でのカテーテルの挿入は12~15cm

ここがポイント

自発呼吸のある患者さんは、吸気のタイミングでカテーテルを挿入することで、患者さんの苦痛を和らげることができます。

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6)吸引する

コントロールバルブを押して、吸引圧をかけながら、吸引カテーテルを黒マーカーの適正位置まで引き抜きます。引き足りなかったり引きすぎたりすると、洗浄水や空気が入ってしまうため、注意してください。    このとき、挿管チューブも一緒に抜かないように接続部はしっかりと持ちましょう。    挿管チューブに対して斜めに引き抜くと接続が外れやすいため、できるだけまっすぐに引き抜くのがポイントです。

吸引圧をかけ、カテーテルを回転しながら引き抜いて吸引します。吸引時間は10~15秒以内で行います。患者さんの苦痛を最小限にし、肺胞虚脱・低酸素の予防のため、可能な限り短い時間で吸引しましょう。

 

明らかに痰が貯留している場合は、すぐにカテーテルを引き抜かずにその場でカテーテルを留め、しっかり取り除くことも必要となります。

しかしその際は必ず、患者さんの呼吸状態や循環動態などバイタルサインの変化に注意しながら行いましょう。
 

ここをチェック!

吸引カテーテルを回転させるときは、指先をこすり合わせてカテーテルの先を回転させるように意識しましょう。

回転させることで一箇所に圧が集中せず、粘膜剥離を予防することができます。

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7)人工鼻を再接続後、観察を行う

吸引後の観察項目 痰の量、性状 ・呼吸音 ・呼吸回数・呼吸パターン SpO2モニター波形 ・・・など

吸引を終えたら、患者さんに終了の声をかけ、痰の量・性状(粘度、色、出血など)、バイタルサイン、モニター波形、呼吸・循環の状態…などを観察しましょう。

 

吸引は血圧低下や徐脈、心停止を引き起こすこともあります。吸引前と比較してバイタルサインの異常や、呼吸・循環に異常が見られた時は、速やかに医師に報告をしてください。


痰が残っていて再度吸引が必要な場合は、呼吸・循環が十分に回復していることを確認し、吸引を実施してくださいね。

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おわりに

気管切開をしている患者さんは、呼吸だけでなく循環も不安定なことも多くあります。
実施するときは、常に患者さんの状態を観察・評価し、患者さんを気づかうことを忘れずに行いましょう。

 

編集:看護roo!編集部 小園知恵(看護師)

 

執筆

新東京病院 CCU病棟、集中ケア認定看護師。日本クリティカルケア看護学会、日本循環器看護学会、日本集中治療医学会所属。看護関連書籍の執筆をはじめ、急性期看護ケア、せん妄ケア、集中治療後症候群(PICS)予防に特に注力している。

 

参考文献

  • Blakeman, T. C., Scott, J. B., Yoder, M. A., Capellari, E., & Strickland, S. L. (2022). AARC clinical practice guidelines: Artificial airway suctioning.(pp. 258-271). Respiratory Care, 67(2) . 
  • 井上智子(2019).第3章診療に伴う技術G吸引.阿曽洋子・井上智子・伊部亜希編. 基礎看護技術 (8), (pp. 399-401). 医学書院.
  • 気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕(成人で人工気道を有する患者のための).(pp. 34-35). (2024-10-17アクセス)
  • 本庄恵子・三浦英恵・仁昌寺貴子・田中孝美(2020).CHAPTER3口腔鼻腔吸引.本庄恵子・吉田みつこ監修. 写真でわかる臨床看護技術②アドバンス 呼吸・循環、創傷ケアに関する看護技術を中心に! (新訂版).(pp. 53-63). インターメディカ.
  • 道又元裕・露木菜緒(2018).吸引.医療情報科学研究所編 . 臨床看護技術. (pp. 188-201). メディックメディア.
  • 道又元裕(2012).正しく・うまく・安全に気管吸引・排痰法.(pp. 34-35). 南江堂.

 

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