「痛みを我慢しないで」と言ってる緩和ケア医が痛みを我慢した話

廣橋 猛廣橋猛@二刀流の緩和ケア医

緩和医療専門医

 

ナースコールを押してきて「痛いんです」と訴えてくる患者さん。
皆さん、何度も経験されていることでしょう。

 

患者さんはさまざまな痛みを抱えています。
手術や怪我による創部痛、内臓の炎症やがんによる痛み、ウイルス感染による頭痛や咽頭痛…本当にさまざまです。

 

そして、その痛みは病気の診断や治療と密接に結びついています。
痛みの訴えがなければ、適切な治療はできません。

 

私は病院と在宅医療の二刀流で緩和ケアをしている医師です。
痛みを抱えているがん患者さんを多く診療しています。患者さんにはいつも「痛みは我慢しないで」と伝えてきました。

 

そんな私が、昨年に甲状腺がんを罹患し、手術を受けるという体験をしました。
命を脅かす病になるという衝撃は大きかったですが、入院中には病棟の看護師さんはじめ、多くの方のお世話になりました。
ここで、その入院中に体験した私の痛みの話をさせてください。

 

緩和ケア医が自身のがん治療で痛みを経験したら…

甲状腺の全摘、そして周囲のリンパ節を郭清する手術を受けた後の話です。
創部やドレーンが入っている部位の痛みが強くて目が覚めました。帰室後4時間くらい経過していたころでしょうか。

 

翌朝まで内服はできませんでしたので、ちょうどそのタイミングで部屋に来てくれた担当の看護師さんと相談し、ロピオン®の点滴をしてもらいました。ロピオン®は内服のできない骨転移痛の方など、緩和ケアでもよく使用する薬剤です。しばらくすると効いてきたので、緩和医の自分にとっても馴染みある薬が効いてくれて、嬉しくなりました。

 

しかし、数時間もすると、また痛くなってきたのです。すでに消灯時間は過ぎていました。ナースコールを押そうか迷ったのですが、まだ正直そこまで強い痛みでもないし、このまま眠れるのではないかと思って我慢してみたのですが、さらに痛みは強くなってしまい、眠れそうにありません。

 

ちょうどそのとき、夜勤の看護師さんが見回りに来てくれました。渡りに船ということで、またロピオン®をお願いしました。我慢していたという素振りを見せず、「せっかくだから」みたいなノリで…。

 

それからは、朝まで痛みが悪化することなく休むことができました。

 

 

さらに話は続きます。

 

翌朝から内服ができるようになったので、痛いときにはロキソプロフェンを飲むことになりました。朝食後には前夜のロピオン®の効果が切れていたので、さっそく飲みました。

 

しばらくは効いていたのですが、当然のように効果はまた切れてきます。
時間は午後4時。ちょうど日勤の看護師さんが申し送りをしている時間。「まだそこまで痛くないし、もう少ししたら夜勤さんがラウンドしてくるだろう」と、待つことにしました。

 

気を紛らそうと、テレビやスマホを見るなどしてみました。それでも少しずつ痛みは強くなってきます。そして午後5時30分、ようやく夜勤の看護師さんが来てくれたので、また「ついでにもらっておこうかな」というノリで、ロキソプロフェンをリクエストしました。

 

喉(創部)が痛いと食事も食べられなさそうだったので、薬が効いてくるのを待ってから食べました。痛いと食べること、眠ることもできないのです。

 

ここまで書けば、皆さん突っ込んでくれるのではないでしょうか。
そう。いつも患者さんに「痛みは我慢しないで」と言っている私が、患者になった途端、痛みを我慢してしまっていたのです。

 

痛みを和らげるのは何のため?

「これくらいなら痛み止めを使わないでよい」
そう考えて我慢してしまう人、日本人では少なくないと思います。

 

アメリカで勤務された経験のある医師に聞いたところ、あちらの方は痛みをほとんど我慢せず、すぐに対処を求めてくることが多いそうです。鎮痛薬の使用量が多いことも知られています。逆に依存の問題もあるのですが、少なくとも痛みに対する考え方は、国民性の違いがあるのかもしれません。
日本人には、我慢することを美徳とするところがあるのでしょう。

 

入院中、私は医療者として、気を遣いすぎていたのかもしれません。
「これくらいでナースコールをするのは悪い」「先生や看護師さんたちのお手を煩わせてはダメだ」そんな考えでした。
ただ、痛みを我慢することで、結果的に夜が眠れない、食事が食べられない、そういった悪影響が出てしまったのです。

 

皆さんは、「痛みを和らげる目的」を考えたことがあるでしょうか?
もちろん痛みなく、楽になってもらうことが目的ではあります。でも、もっと大切なのは痛みのせいで、生活に支障が出ないようにすることです。

 

痛みが楽になれば、動けるようになる。
痛みが楽になれば、好きなものを食べられる。
痛みが楽になれば、やりたいことができる。
痛みが楽になれば、ぐっすり眠れるようになる。

 

そういったより良い生活のために、痛みを和らげるのです。痛みのせいで、生活に支障が出ることを私たちは防がなければなりません。

 

ただ、私たち医療者は、患者さんに痛み止めを使うタイミングについて、細かく説明できていないのではないでしょうか。

 

痛みは我慢せず、痛み出したらすぐ対処することが大切です。

 

私は患者さんに痛み止め、特に頓用(レスキュー薬)の使い方を指導するとき、痛みを炎に例えて説明しています。火事が起こったらすぐ水をかけるのが常識ですが、なぜか痛みのときにはすぐに薬を使わないのです。

 

図1のように、火の手が燃え広がってから痛み止めを使うのでは手遅れです。図2のように、ボヤのうちに対処すればよいのです。そう対処することで、火の手は燃え広がらずに済むのです。

 

 

 

痛みについても同じです。これから痛みが起こりそうだったら、先に痛み止めを飲んでおいてもよいでしょう。そうすれば、痛みを我慢することも、痛みにより生活に支障が出ることもないのです。

 

術後、反省した私は、看護師さんと相談して、良いタイミングですぐロキソプロフェンを飲めるよう、1錠だけ手持ちさせてもらうことにしました。そして、眠る前には必ず飲んで、夜はぐっすり眠れるようになりました。

 

ぜひ、患者さんたちがより良い生活を送れるよう、痛みのコントロールについて工夫してみてください。

 

「つらさをわかってくれる看護師」になるために

図3を見てください。私たち医療者は、患者さんが痛みを訴えてきたときに、初めて対処を始めます。
しかし、患者さんは、私たち医療者に訴えてくるまでの間に「痛みを我慢している時間」があることに思いを巡らせてみてください。

 

 

「これくらいの痛みなら様子を見よう」と思っている患者さんもいるでしょうし、私のようにいろいろ気遣ってしまっている方もいるでしょう。
さまざまな事情で、患者さんは「痛い」と訴えてくるまで時間がかかります。この「我慢している時間」があることを意識できたら、私たち医療者には何ができるでしょうか。

 

まず、とにかく迅速に対処をしなければならないことに気づけるでしょう。
そして、我慢する時間を短くできるように働きかけること…たとえば、患者さんが言ってくる前に、患者さんの痛みを察することができれば、きっと患者さんはあなたのことを「自分のつらさを分かってくれる人」と認めてくれるに違いありません。

 

緩和ケアはつらさを和らげる医療・ケアですが、緩和ケアの心得がある医療者は「患者さんのつらさを察することができる人」なのだと私は思っています。

 

患者さんは、今日も痛みを我慢しているのです。
さあ、あなたの出番です。

 

執筆

永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長廣橋 猛

2005年東海大学医学部卒。三井記念病院内科などで研修後、09年緩和ケア医を志し、亀田総合病院疼痛・緩和ケア科、三井記念病院緩和ケア科に勤務。14年2月から現職。また、病院勤務と並行して、医療法人社団博腎会野中医院にて訪問診療を行う二刀流の緩和ケア医。日本緩和医療学会では理事として、緩和ケアの広報、普及啓発、専門医教育などの活動を行っている。「がんばらないで生きる がんになった緩和ケア医が伝える「40歳からの健康の考え方」(KADOKAWA)」など著書複数。

 

編集:林 美紀(看護roo!編集部)

 

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